神世界と素因封印

茶坊ピエロ

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47.悪には因果応報が

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 今回のアメリカの作戦は主に二つ。一つはブレード持ちをおびき寄せ奪取すること。もう一つはウェストサンド学園に所属している、真壁和澄の殺害とミナ・ヒューゲルの捕縛だ。<解析アナライズ>の魔眼所持者である彼女の捕縛は装備品の整備に使えるからわかるが、真壁和澄という男の殺害が任務の理由がネイサンにはわからなかった。
 祐樹の小隊がその任に就いたので彼は考えるのをやめて、ブレードの奪取を主点においていた。


「しっかしつよかったなー。他の奴らは何人生き残ってるかね」


 大将が想像していたよりも強かったので自分以外が大将に勝てるとは思っていなかった。挑発で冷静さを失わせ、ギリギリまで魔眼を使わなかったことにより得た勝利だった。魔眼持ちではなかったようだが、魔眼持ってたら彼自身、敗北していたおそれがあった。
 合流地点につくとネイサンのよく知る友、アンジュ=スレシュという女が座っていた。四等区を襲撃する小隊の隊長だ。


「おーいアン・・ジュ?」


 彼女の腹に大きな穴が空いていた。これは致命傷だ。この光景を作った人物がいる。悲しんでいる暇はない。アンジュもブレード持ちであり、そんな人間とはなるべく交戦は避けたかった。しかし当たりを見渡すが誰もいない。思わずネイサンはしゃがみこんだ。敵から隠れようとしたのだ。


「おいおい。その死体を見て当たりをきょろきょろしてしゃがみ込むって、やましいことがあるって認めたようなものだぜ」


 声がした方におもわず顔を向ける。煙管を加えた男が足を組んで座っており、隣りには緑の髪をした女性が手を前で交差させて立っていた。クウラとライコットだ。


「やはりまだまだ子供ですね。ところでその鎌、ゴードンの物だと思うのですが、それはどちらで?」


 ライコットは、ネイサンがゴードンから奪った鎌を指差して質問する。しかし彼はそれどころではなかった。クウラが目の前にいることが問題だった。
 斑鳩が対峙したら退けと言った人物が4人いた。皇帝レイク、アンデル、マーフィー、そしてクウラだった。


(運がない。あれはたしか中将だったか。大将を差し置いて、斑鳩さんに警戒される人物だったな。しかもアンジュすら無傷で倒している。できるだけ相対したくない)


 それに彼が座っているのは襲撃任務で街への破壊活動を共に行っていた者達だった。更に後ろには顔見知りも含めた、小隊メンバーのほとんど死体が後ろに乗っけられていた。ネイサンは戦闘狂ではない。故にこんなところで近代兵器やブレード持ち相手に無傷で倒しているクウラと無謀な闘いはしたくなかった。


「君、聞いているんですが?」


「おねーさん、これは僕を身を呈して守ってくれたおにーさんが持っていたものです。なのでお返しします」


 交戦は免れないと判断し、でまかせを言うネイサン。彼の口からのでまかせにしかめっ面をするライコット。


「残念だが坊主よ。言い訳するには、すでに遅い。お前、ゴードンを殺したな?」


 ライコットは目を閉じ、クウラはネイサンを睨み付ける。交戦は避けられないと内心舌打ちし、小馬鹿にするような態度に戻る。


「さすがに無理があったね。そうだよおじさん。僕はゴードン大将を殺したよ。子供相手に油断大敵だよね。呆気なく死んだよ」


「そうか。あれほど任務には責任を持って挑めと教えたのにな」


 ネイサンは鉤爪を装備しブレードを起動。クウラへの警戒心を上げる。そしてそれが彼の致命的ミスになる。


「あんたにも同じ殺し方をしてあげるよぉ。あの世あっちで将同士楽しくねぇ!」


 そして二つの球体を生み出す。ゴードンを殺した水の球体とフッ素の球体を混ぜ合わせ放った。しかしその球体は凍りつき落下する。


「なんだ、その程度でゴードンを倒したのか。たしかにそれはゴードンの油断のしすぎだな」


「なにっ!?これは氷属性のブレードかな?」


「お前さんじゃあるまいし教えねーよ」


 しかしネイサンは疑問に思う。彼は武器らしい武器を持っていなかった。だからなにか見逃していることがあるのじゃないかと。
 だが気づいたときには遅かった。ネイサンの口の中が鉄の味で広がった。腹部を見るとでかい氷の塊が飛び出していた。


「がはっ!なんだよこれぇ」


「それは貴方が先生ばかりを気にして私を気にもとめなかったからですよ」


 後ろから女性の声が聞こえた。それはネイサンがクウラに注意がいってるときに移動していたライコットだった。彼は無意識に彼女を視界から外していて気づけなかった。


「一応はゴードンは兄弟子ですし、貴方を許す通りもありません」


「あぁ坊主。言い忘れてたけどな。ここにある死体を量産させたのはライコットだ」


 青い顔をして、そんな馬鹿げた話あるかと悪態吐くネイサン。少なくともライコットという女性はクウラより弱いはずだと思っていた。
 アメリカ軍のほとんどの人間は少将は数が多いので把握していなかった。彼もまたその一人であった。


「私はゴードンほど甘くはありませんよ。襲撃者には殺害許可が下りています。貴方が子供だろうと関係ありません」


 ライコットは淡々と告げる。しかしネイサンの耳には入らない。氷が腹部を貫通していることにより魔眼を使用しても傷が癒えないからだ。氷を引き抜こうとするネイサンだったが、ライコットが彼の二の腕と脇腹を凍らせて力を入れられないようにした。


「なんてことするんだよ。やめろっ!はなせぇ!」


「貴方は少なくとも一度切られたはずです。それだけ服に血液がついているにもかかわらず無傷だ。他の襲撃者達も全員魔眼使いでした。貴方達はアメリカ軍の魔眼部隊で、魔眼でその傷を治したのじゃないですか?」


 ネイサンは絶句する。たしかにここの全員と相手取った時点でそのことは把握されても当然だ。しかしただ無傷なだけで自分の魔眼まで把握されてしまうとは思っていなかった。


「そこまでもう把握されていたんだ」


「えぇ。ですが報告しようにも彼女の悪あがきでしょうか?通信器具が全部機能停止してしまい、中尉との連絡が取れなくなりました」


 そういってアンジュを指さす。アンジュの魔眼は<通信妨害ジャミング>で一時間の間一定の場所に薄いドームを造り、内部はあらゆる電波を発生することができなくなるものだった。


「アンジュは僕達魔眼部隊が、上陸していることを漏らさないために・・・」


「そうですね。彼女の行動はさすがと言わざるおえませんね。おかげで報告が遅れてしまいます。しかし私の部下を司令部へと送りました。次期に事態収拾のための増援も配置されるでしょう」


 彼女はきっと一人でも多く撤退して欲しかったのだろう。しかしこのままでは全滅は時間の問題だった。ネイサンは最後の力を振り絞って大声をあげる。


「アハハハハ。みんなちゃんと逃げてよ。施錠アンロック

 ――――カチャリ。

 ネイサンは斑鳩に予め施錠についての話を聞いていた。施錠すれば意識は失われて、暴れる獣と化す。だから絶体絶命になったら使用してほしいと。
 黒い風が包み込み、ライコットは飛び退いた。さらにその間に氷が砕けて、まだ意識が残っていたネイサンは魔眼を使用し治療する。しかし治療し終えたところで意識を失った。


「これは・・・ブレードの暴走ですか?」


「いやライコット。緊張感が桁外れだ。これはまずいかもしれないな」


 そして黒い風が止み、頭部に顔の上半分を覆うような烏のような仮面を付けていたネイサンが現れる。


「なんですかこれは!武器の形状も変わっていますし」


「少なくともヤバイってことはたしかだ。医療班を連れて退くぞライコット」


「しかしまだ避難が」


「バカ野郎。あれは未知数の敵だ。救える命も棒に振る気か!」


 そういって走り出すクウラの後を、ライコットも苦虫を噛んだような顔をして駆け出した。
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