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17.時は遡る
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――――――時は遡り、祐樹が黒ローブを着た者に助けられたとき。
「気配もなにもなかった。お前何者だ?」
「・・・・・」
「答える気はなしか」
ヨシュアの質問に黒ローブは沈黙を貫く。
見た感じだと男か女かわからない。
カナンは祐樹を捉えるのに失敗したが、なお攻撃を続ける。
しかしどの攻撃も黒いローブには当たらずに空を切る。
「なんで当たらないのよ!まさか光の速さを見切っているとか言わないでよね?」
もしカナンが言ったとおり、黒ローブが光の速度を和澄のように<未来視>を使わずに見切っているとしたらそれは、もう人間じゃないと言ってもいい。
黒ローブはカナンの攻撃をただ黙って避けていたが、カナンの突きを片手で掴み、横からヨシュアが斬りかかろうとしていたところに投げつけた。
「これは相当ね。まずいわ」
背中に汗が出てくるカナン。ブレードをもつ二人の人間の攻撃を、人を一人抱えた状態で遇らう人間なんて警備兵であるカナンは一度も戦闘をしたことがない。
「そうだな、かなりキツイ。最初からあの男が戦闘に加わっていたら、おそらく俺たちは一人も捕縛することができなかった。帝都から軍の人たちがこちらに向かってくれていればいいんだけど」
ヨシュアはそう言いつつも、援軍が来る前にあの黒ローブには逃走されると思っていた。それ自体もまだマシだと考えている。
下手に追撃をかければ逆にやられてしまう未来までありえたのだ。
少なくとも先ほどカナンが捕縛した人間を連れて逃走すれば情報源にはなる。幸い生徒達の避難はほとんど完了していたので、その方法を模索する。
「いいぞ。さすが斑鳩さん!そのアマ仕留めてくだせい!」
捕縛されたチャーリーが叫ぶ。少なくとも祐樹を助けたことから、黒ローブがアメリカの尖兵、スパイだということは、ヨシュアもわかっていた。
そしてチャーリーの一言で、その人物が誰なのかヨシュアはわかってしまった。ヨシュアは捕虜を連れて逃走する案から、カナンと二人だけで逃走する案に移行する。おそらくこの問題は持ち帰らなければいけないからだ。2人だけなら逃走に重きを置けば確実に逃走できる。
黒ローブの男は手を前にかざしチャーリーを指差した。
すると指からレーザー、熱光線の類が発射されてチャーリーの喉を貫いた。
「ガハッ・・・どーし・」
チャーリーは絶望した顔のまま死んだ。おそらくチャーリーはあの男を慕っていたのだろう。
逃走するとカナンに目配せし中指で頭を叩く。万が一追い詰められた場合の合図に、頭を右の中指で叩くということをヨシュアとカナンは決めていた。
それぞれ空間移動と光速移動で別方向へ離脱した。
黒ローブの男は追いかけることもなく空の彼方へ飛んで行った。
◇◆◇◆◇
―――時は戻り現代
「っといったことが2人が校舎の地下に落ちてからの出来事だ」
兄さんは俺とミナが崩落に巻き込まれてからの事の顛末を語ってくれた。
それにしても―――
「そっかチャーリーくんは亡くなったんだ。騙してたとはいえ1年も一緒だったクラスメイトが死んじゃうのは少し悲しいねカズく・・どうしたの?」
俺はすごい顔をしていたのだろう。ミナが心配してくれる。俺はチャーリーが死んだことなんて頭になかった。チャーリーを殺した者の呼ばれ方が問題だ。
みれば叔母
さんも普段見せない恐ろしい顔つきをしていた。しかしミナが心配そうにしてる顔を見て、表情を和らげて微笑みながら言う。
「ごめんねミナちゃん。斑鳩って名前は日本人でも珍しいのよ」
斑鳩はいくら日本でも早々つける名前ではないだろう。だからこそ俺たちが疑われた理由もわかった。
「ごめんミナ。斑鳩ってのは母さんの弟の名前と同じなんだ」
「謝らないでよ。つまりその斑鳩さんが祐樹くん達の手助けをしてたから、近しい関係であるカズくんと香澄さんに疑いがかけられたってこと?」
ミナが言ってることは実質正しい。
けれど少しばかり疑われている理由が違うと思う。
「その推察は正しくはない。事はそんな簡単な理由でないぞヒューゲル。理由は和澄の父母の部隊が行方不明になったことにある」
ルナトはミナの言葉を否定する。
やはり国家反逆罪の理由は違うか。たしかに近しい関係ならヨシュア兄さんだって同じだ。
しかし疑いは俺と叔母さんだけだった。
理由は簡単だ。俺と叔母さんが斑鳩さんを父さん達の部隊に推薦したからだ。
そして父さん達の部隊は北太平洋沿岸で消息が絶たれた。部隊員全員は未だ行方不明。
そこでの斑鳩さんの生存の可能性だ。その斑鳩って呼ばれた男が俺の知る斑鳩さんだった場合に生まれる二つの可能性。
一つは部隊全員がアメリカのスパイの可能性の場合。その可能性は限りなく少ない。まずメリットがない。情報を母国に持ち帰るために消息を絶つなら1人だけでいいからだ。
となるともう一つの可能性。斑鳩さんが部隊員全員を殺している場合だ。薬か何かで全員を眠らせて、船を沈ませるだけで全員溺死する。こちらの線が濃厚だろう。隊長であった父さんも息子と妹が推薦した義弟を疑いはしないだろうしね。
つまるところ斑鳩さんが入隊するきっかけを作った俺と叔母さんの疑われた理由だろう。
叔母さんがぼそりとつぶやく。
「斑鳩のやつ・・・もし生きてたのなら一発思い切りぶん殴らないとねぇ!」
あ、叔父さんの背筋がピンっとなった。頬も腫らしてこれじゃ帝国元帥の威厳が全くない。
トラウマになってしまっているじゃないか。
そう思いながら俺はミナに斑鳩について説明した。
「気配もなにもなかった。お前何者だ?」
「・・・・・」
「答える気はなしか」
ヨシュアの質問に黒ローブは沈黙を貫く。
見た感じだと男か女かわからない。
カナンは祐樹を捉えるのに失敗したが、なお攻撃を続ける。
しかしどの攻撃も黒いローブには当たらずに空を切る。
「なんで当たらないのよ!まさか光の速さを見切っているとか言わないでよね?」
もしカナンが言ったとおり、黒ローブが光の速度を和澄のように<未来視>を使わずに見切っているとしたらそれは、もう人間じゃないと言ってもいい。
黒ローブはカナンの攻撃をただ黙って避けていたが、カナンの突きを片手で掴み、横からヨシュアが斬りかかろうとしていたところに投げつけた。
「これは相当ね。まずいわ」
背中に汗が出てくるカナン。ブレードをもつ二人の人間の攻撃を、人を一人抱えた状態で遇らう人間なんて警備兵であるカナンは一度も戦闘をしたことがない。
「そうだな、かなりキツイ。最初からあの男が戦闘に加わっていたら、おそらく俺たちは一人も捕縛することができなかった。帝都から軍の人たちがこちらに向かってくれていればいいんだけど」
ヨシュアはそう言いつつも、援軍が来る前にあの黒ローブには逃走されると思っていた。それ自体もまだマシだと考えている。
下手に追撃をかければ逆にやられてしまう未来までありえたのだ。
少なくとも先ほどカナンが捕縛した人間を連れて逃走すれば情報源にはなる。幸い生徒達の避難はほとんど完了していたので、その方法を模索する。
「いいぞ。さすが斑鳩さん!そのアマ仕留めてくだせい!」
捕縛されたチャーリーが叫ぶ。少なくとも祐樹を助けたことから、黒ローブがアメリカの尖兵、スパイだということは、ヨシュアもわかっていた。
そしてチャーリーの一言で、その人物が誰なのかヨシュアはわかってしまった。ヨシュアは捕虜を連れて逃走する案から、カナンと二人だけで逃走する案に移行する。おそらくこの問題は持ち帰らなければいけないからだ。2人だけなら逃走に重きを置けば確実に逃走できる。
黒ローブの男は手を前にかざしチャーリーを指差した。
すると指からレーザー、熱光線の類が発射されてチャーリーの喉を貫いた。
「ガハッ・・・どーし・」
チャーリーは絶望した顔のまま死んだ。おそらくチャーリーはあの男を慕っていたのだろう。
逃走するとカナンに目配せし中指で頭を叩く。万が一追い詰められた場合の合図に、頭を右の中指で叩くということをヨシュアとカナンは決めていた。
それぞれ空間移動と光速移動で別方向へ離脱した。
黒ローブの男は追いかけることもなく空の彼方へ飛んで行った。
◇◆◇◆◇
―――時は戻り現代
「っといったことが2人が校舎の地下に落ちてからの出来事だ」
兄さんは俺とミナが崩落に巻き込まれてからの事の顛末を語ってくれた。
それにしても―――
「そっかチャーリーくんは亡くなったんだ。騙してたとはいえ1年も一緒だったクラスメイトが死んじゃうのは少し悲しいねカズく・・どうしたの?」
俺はすごい顔をしていたのだろう。ミナが心配してくれる。俺はチャーリーが死んだことなんて頭になかった。チャーリーを殺した者の呼ばれ方が問題だ。
みれば叔母
さんも普段見せない恐ろしい顔つきをしていた。しかしミナが心配そうにしてる顔を見て、表情を和らげて微笑みながら言う。
「ごめんねミナちゃん。斑鳩って名前は日本人でも珍しいのよ」
斑鳩はいくら日本でも早々つける名前ではないだろう。だからこそ俺たちが疑われた理由もわかった。
「ごめんミナ。斑鳩ってのは母さんの弟の名前と同じなんだ」
「謝らないでよ。つまりその斑鳩さんが祐樹くん達の手助けをしてたから、近しい関係であるカズくんと香澄さんに疑いがかけられたってこと?」
ミナが言ってることは実質正しい。
けれど少しばかり疑われている理由が違うと思う。
「その推察は正しくはない。事はそんな簡単な理由でないぞヒューゲル。理由は和澄の父母の部隊が行方不明になったことにある」
ルナトはミナの言葉を否定する。
やはり国家反逆罪の理由は違うか。たしかに近しい関係ならヨシュア兄さんだって同じだ。
しかし疑いは俺と叔母さんだけだった。
理由は簡単だ。俺と叔母さんが斑鳩さんを父さん達の部隊に推薦したからだ。
そして父さん達の部隊は北太平洋沿岸で消息が絶たれた。部隊員全員は未だ行方不明。
そこでの斑鳩さんの生存の可能性だ。その斑鳩って呼ばれた男が俺の知る斑鳩さんだった場合に生まれる二つの可能性。
一つは部隊全員がアメリカのスパイの可能性の場合。その可能性は限りなく少ない。まずメリットがない。情報を母国に持ち帰るために消息を絶つなら1人だけでいいからだ。
となるともう一つの可能性。斑鳩さんが部隊員全員を殺している場合だ。薬か何かで全員を眠らせて、船を沈ませるだけで全員溺死する。こちらの線が濃厚だろう。隊長であった父さんも息子と妹が推薦した義弟を疑いはしないだろうしね。
つまるところ斑鳩さんが入隊するきっかけを作った俺と叔母さんの疑われた理由だろう。
叔母さんがぼそりとつぶやく。
「斑鳩のやつ・・・もし生きてたのなら一発思い切りぶん殴らないとねぇ!」
あ、叔父さんの背筋がピンっとなった。頬も腫らしてこれじゃ帝国元帥の威厳が全くない。
トラウマになってしまっているじゃないか。
そう思いながら俺はミナに斑鳩について説明した。
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