神世界と素因封印

茶坊ピエロ

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5.愛の力は偉大

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 俺の予想は的中した。あいつの能力<爆弾作成ボマークリエイト>の条件は触れることのみ。つまり触れたものしか爆弾にできない。

 <未来視フューチャーアイ>を使用した時、ミナの身体がバラバラになるのが視えた。つまりミナ自身を爆弾に変えていなかったんだ。鞄をみてもミナを爆弾に変えたのならそもそも残っても肉片くらいだ。
 触れたのはミナの肩。当然制服を着ている。つまり祐樹はミナの制服を爆弾に変えたのだ。


「おいおい・・・さっき殴った硬いのは服じゃなく別の装備か何かか。しかもそれを俺に投げつけてくるってことは、俺の能力の弱点をこの短い間に見切ったってことか」


「お前の能力の弱点かどうかは知らんがな。お前の能力の"触れる"の範囲が、俺までまわっていないということは予想はしていた」


「あはっ!お前ヨシュアより頭はキレるよ。御察しの通り俺の能力は、触れたものしか爆弾に変えれないし、生物も爆弾には変えることができないさ」


 なるほど。少し俺を過大評価した祐樹は、予想すらしていなかった生物も爆弾に変えることができない情報を話してきた。こいつは隠しごとが下手だし、戦闘始まってもその性格が大して変わってないことから本当のことだろう。


「だがこのことがわかったところでお前が劣勢なことには変わりはないな。だが一筋縄でいかないのもまた事実。悪いが2対1だ!チャーリー、協力して和澄を仕留めるぞ」


「共闘をお前から持ち出すとは珍しいな。いいだろう。ミナ・ヒューゲルも確かに脅威だが、あれがいる限り確実に殺すことができない。お前はここで確実に仕留める、真壁和澄」


 そういうとチャーリーの背中に大鎌が現れた。いやこの場合みえるようになったが正しいか。祐樹とチャーリーの眼にも模様が現れた。つまりチャーリーの能力は不可視。眼の模様だけを消していたことから幻影をみせる類の可能性もある。ともあれ祐樹を相手しながら戦闘能力未知なやつを裁くのは厳しいーー
 そこへ、この劣勢を優勢に変える救いの声が聞こえてきた。
 

「残念ながら3対2だ。待たせたなぁカズ!」


「そうね。がんばったわ和澄くん。悪いけどそこの二人。あなた達を器物破損、未申請の武器使用及び殺人未遂の現行犯で、逮捕します」


 ヨシュア兄さんだ。あとあの銀髪の女の人は・・カナンさんか。
 助かった!ヨシュア兄さんの強さは知ってるし、カナンさんの実力も警備隊の中じゃ突出してるって聞く。この二人が来てくれたならこの場を脱出できる。


「兄さん、カナンさん、気をつけて!その二人は両方魔眼所持者で、鎌を持ってる方は能力不明で、予測だと視界妨げる類のもの。槍の方はブレードだ。ブレードが扱えるのは闇属性で、生物以外の触れたものを爆弾に変える能力持ちだ!」


「ほう、爆弾に変える能力か。その能力がブレードも爆弾に変えれるとしたら、闇属性というのはかなり厄介だな」


「えぇ。しかも鎌持ちはほとんど情報無しときてるわ。いくら武器がブレードではないといっても、不可視で隠してる可能性もある。警戒は必要ね」


 状況把握能力はさすがだ。普段の兄さんはカナンさんにデレデレで寝坊助で頼りないが、戦闘においては兄さん以上に信頼できる人はそうはいない。
 カナンさんも一度しか会ったことはないが、あんなに溺愛してる兄さんが、危険な戦場で心配する顔を全くしていないことから、相当信頼できる。
 

「くそ!思ったよりも早くきたな。しかもヨシュアだけじゃなく白銀もいるのかよ!和澄も含めてここを襲撃するのが、ブレード持ち1人とか荷が重すぎだ」


「これは情報部の怠慢だな。いくらなんでもブレード持ちが3人とは。だがまぁ道理だな。それだけミナ・ヒューゲルは帝国にとって大切な人材ということか」


 二人は悪態をはいている。俺がブレード持ちなのはどうやら敵さんには把握されていなかったようだ。まぁブレードを公に使用するのは、これが2回目だから当然といえば当然だが。
 白銀とはカナンさんだろうが、カナンさんはおそらく偶然だろう。普段は帝都の警備兵をしているカナンさんが、軍事基地付近にあるこの学園に来るには、騒ぎを聞きつけてから来たのであればあまりにも早すぎる。


「これは潮時だな。本来の我々の任務はこの学園に侵入し、時が来たら暴動を起こすことのみ。少なくともこれ以上軍事力を上げさせないために、ミナ・ヒューゲルだけは始末したかったが・・・祐樹」


「あぁ。さすがにヨシュアと白銀と和澄の3人を相手にしたら、命がいくつあっても足りないしな」


 ここから逃げる気か!この状況、動くことすら厳しいだろうにまだ奥の手があるのか?
 そう思ったら<未来視>が自動で発動する。
 ―――――――な!?
 

「ミナ!危ない!」


 俺は咄嗟にミナに覆いかぶさる。その直後校舎全てが爆発し、その衝撃でミナと俺のいた場所の床が崩れ落ちる。
 俺自身にも危険が迫ったことから自動発動してこの未来を見た。これ以外にミナを助けるすべが思いつかなかった。


「マジかよ!これにも気づくのか。だがいくらブレード持ちとはいえ、その深そうな穴に落下して、瓦礫に生き埋めにならないなんて不可能だな!せいぜいあの世で仲良くな、和澄、ミナ!」


 そう言われるが俺に言い返す余裕などない。
 俺とミナは床が崩れてできた穴に自由落下していく。崩れてできた穴は底が見えない。さらには上から崩れてきた校舎が降ってくる。正直この状況は非常にまずい。


「ごめんカズくん・・・わたしも気づいていたら・・・」


 泣きそうな声でミナが謝ってくる。
 前言撤回!こんな状況俺からしたらなんでもなかった!
 俺は笑いながら応える。


「俺は<未来視>があったから気づいて動けたんだ。こんなのヨシュア兄さんだって動けやしない!」


 だがミナの顔はまだ悲しげな顔をしている。
 流石にこの状況だ。誰が見たって絶望的だ。いくら電磁浮遊で浮かんだところで、上の瓦礫に潰されて死ぬ運命しか見えない。


「こんなの絶望する状況でもなんでもないぜ。ミナは俺を頼ってくれたろ?この程度のこと俺の普段ぶち当たってる難題に比べたらなんでもない!ミナは今夜の晩御飯についてでも考えててくれ。今日はうちに来て叔母さんの料理食べんだろ?」


 そうだ。こんなのミナに想い伝えることに比べたらなんのこともない。


「ふふっ。まだこの状況も乗り切ってないのに気が早いんだから。でもそうだよね。カズくんならこの状況も切り抜けてくれると信じてる!」


 元気でた!俺はミナを抱えて落下したまま左腕を上げる。


「とまりやがれぇぇえええ」


 俺は、落下してくる瓦礫を穴ごとすべて凍らした。
 理由は知らないが、俺のブレードは雷と氷の二属性を操れる特別仕様だ。祐樹の攻撃の時につくりだした氷も、俺がブレードでつくりだしたものだ。
  俺は身体全体に電撃を纏わせて電磁浮遊によりゆっくり下に降りた。
 そして2分くらい降りた所でやっと地面が見えてきた。そしてやっと地面に足をつけられるようになった。抱えてたミナを離すと俺は、倒れそうになった。さっき瓦礫を凍らせたのと、落下までの電磁浮遊でエネルギーを使いはたしてしまった。
 倒れそうになった俺の身体を、ミナが支えてくれる。


「おつかれさま。さすがカズくんだ!少し休む?」


 ミナは微笑みながらそう言った。あぁ、ミナはやっぱり笑顔が似合う。


「問題ないよ、と言いたいけどガス欠だ。少し休まないと動けそうにない。だけどここは、いつ瓦礫が降ってくるかわからないから移動しよう。悪いけど肩貸してくれるか?」

 
「そのくらいお安い御用だよ!」


 氷で固定したとはいえ、瓦礫が確実に降ってこないとも限らないしな。
 俺はミナに身体を支えられながら、俺たちは奥に進んでいったーーー
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