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番外編

ガヤの専属シェフとクリスマスパーティ

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 俺はメルセデス。
 姓は坊ちゃんの配慮の元、専属の料理人として雇ってもらった。
 今日はリアス坊ちゃんの指導の下、村中でパーティを催している。
 リアス坊ちゃんが学園に入学する前の最後の催しだ。
 村の木々には装飾が付けられ、一番大きな木には星の形をしたオブジェがてっぺんに付けられている。

「メルセデス、おつかれー」

「お、坊ちゃんか。いやー大変でしたよ。コカトリスなんて扱った事無かったっすからね」

「アハハ!Aランクの魔物なんて一般人からしたら、装備や国に献上する以外使おうとは思わないだろうなぁ。ビックボアの肉だって村のみんなじゃ高級食材って言ってたくらいだし」

「そりゃDランクの魔物ですからね。俺達からしたらDランクもAランクも大差ありませんけどね。どっちも脅威です」

「そりゃ違いない」

 リアスの坊ちゃんは幼少期はそりゃもう親に虐げられて生きてきた。
 俺も恥ずかしながら坊ちゃんが幼少期の頃は、領主様の言うとおりのことをしてしまっていた。
 坊ちゃんには、リアス・フォン・アルゴノート意外にもう一つの人間の一生の記憶があるらしい。
 その知識を使って坊ちゃんは見事に状況を脱した。
 そして今は家族とも和解し、こうして領民の活気のためにとパーティを開いている。
 本来平民にとっては、宴という名目の飲み会はあってもこういう料理を皿に取る立食パーティと言うものには縁がない。
 領民のみんなも坊ちゃんには感謝していた。

「これが坊ちゃんの言う、くりすますパーティって奴なのか?」

「クリスマスパーティな。そうだ。前世では年越しより少し前にはこうして近所の人間が集まってクリスマスケーキや料理をほおばったりした。もちろん恋人と二人きりで小さなディナーとかしてる奴もいたな。聖なる夜だしな。まぁ俺には全く縁がなかったが・・・」

「へぇ。でも今はミライの嬢ちゃんがいるじゃねぇか。どうしてこんな立食パーティを催したんだ?」

「ん?それはなぁ」

 今は婚約者を持つリアス坊ちゃんなら、二人きりで聖なる夜とやらを楽しんだだろう。
 もし俺が坊ちゃんと同じ立場ならそうする。

「ミラとは普段から二人きりになったりしてるしな。こうしてみんなで騒ぐのも悪くないだろ?」

「ふふっ、かっこつけちゃってリアスくん。クリスマスパーティを自慢げにボクに話してくれたときは目を輝かせてたのにさ」

「ミラ・・・」

「嬢ちゃん」

 ミライ・フォン・アルゴノート様。
 リアス坊ちゃんの婚約者だ。
 二人は仲睦まじい関係なのは、領民達も知ってるほどだった。
 貴族には愛よりも、政略的な意味合いの婚約が多いが、坊ちゃん達の場合は別だよな。
 
「この前、領地に雪が積もった時にクリスマスについて思い出したんだよね。リアスくんが、クリスマスパーティやろう!とか言ってからクリスマスについて語り出したときは思わず笑っちゃったよ」

「ミラ・・・恥ずかしいからやめてくれ」

「いいじゃん。みんな楽しそうでさ。メルセデスの料理も美味しいよ」

「クラムチャウダーですね。そいつは俺の自信作だ。喜んでいただけたなら俺の料理冥利にも尽きるって奴ですぁ」

 クラムチャウダーはあさりをいれたシチューみたいなもんだけど、ただアサリを入れただけじゃシチューにあさりを入れただけの味になっちまう。
 だからワインを入れて蒸し焼きにして、煮汁をベースにシチューを作ったんだ。
 言うのは簡単だが、手間暇かけて作ってる。
 まず海が近くないアルゴノート領ではあさりを手に入れるのも一苦労だしな。

「たしかに前世を思い出すぜ。こいつは美味い」

「へへっ」

 坊ちゃんに評価されると俺も鼻が高い。
 あの日俺の人生は、坊ちゃんに変えられたと言っても過言じゃないぜ。

「リアス様~!」

「あ、マーサじゃん」

 マーサ・フォン・アルゴノートは俺の幼馴染みで孤児院のシスターだ。
 俺より五つ歳上で姉みたいな存在だ。
 金髪で碧眼で、いつも髪の毛のてっぺんにくせ毛が立ってるのがチャームポイントか。
 普段は帽子を被ってるから見えるわけじゃないが、今は私服だからよく見える。

「マーサさん、楽しんでますか?」

「えぇ、すごいです。立食パーティなんて初めて参加したけど楽しいです」

「俺の料理も食ってくれたか?」

「あぁ、このクラムチャウダーって奴ね。あたしはシチューの方が好きかなー」

「なぬっ!?」

「まぁ貝類だから好みは分かれるよな。魚介類を口にする機会も多くはないから仕方ないんだが」

「くぅ、手間かけたのにぃ」

「俺は好きだぞ。サンキューなメルセデス」

 年下に励まされる俺は情けないだろう。
 だが、俺は単純だからめげることなく立ち直る。

「おう!まぁ坊ちゃんのために作ったわけだし、満足してくれてるならいいや」

「ごめんなさいね。それにしてもこの木に色々な装飾を付けると言う発想は素晴らしいですね」

「だろー?異国の地ではこういう風に冬を祝う行事があるんだ」

「不思議です。昨年までは冬というものは、作物を蓄えて春に備えるというものでしかありませんでしたから」

「ふふっ、温室の効果はデカいだろ?」

「えぇ、おかげで家畜も冬眠せずに済んでいますし、野菜も季節関係なく育つことでこうしたパーティも開けて助かってます」

 坊ちゃんが前世の知識で考案した温室は、ガラス張りに貼られた家だ。
 魔法の付与により、室温を調節出来て季節に関係なく色々な作物が育つようになった。
 日光の紫外線量も調節出来るみたいだしかなりすごいな。
 最も旬とかは色々とあるが、それでも俺達は数年前まで飢餓で命の危機まであったんだから大分変わったもんだ。
 数年前はパーティどころか、こうして笑って馬鹿やれてたかもわからない。
 あ、村長達が酔っ払って喧嘩してる。
 アジャイルとグレゴリータの奴らも肩組んで馬鹿騒ぎだな。
 立食パーティなのに品がない。
 まぁ俺的には楽しい方が良いが、他の方達はどう思ってるかわからないし注意するべきか?
 
「酒入ってハメ外してんなぁ」

「いいじゃんかメルセデス。クリスマスってのはそのくらいがちょうどいいぜ?まぁ最低限モラルから外れるようなことしたら注意するけど、軽い殴りあいくらいは許容範囲だな」

 どうやら杞憂のようだ。
 最悪怪我をしても大丈夫だしな。

「まぁ、坊ちゃんにはクレセントって言う神話級の精霊がいるんですからいいですけど」

「怪我なら簡単に直せるからな。このくらいの馬鹿騒ぎ良いだろう」

 ってイルミナが二人にげんこつをくらわして止めてる。
 この領地にイルミナに適う奴はいないからなぁ、色んな意味で。
 俺もそうだしな。

「イルミナー、ほどほどにしとけよー!」

「えぇ、このバカ共にはちゃんと鉄槌を下しましたよ!」

 イルミナはたまに良い笑顔でピースをするんだ。
 普段とのギャップがすごいが、あれはあれでかわいい。

「それにしても、みんなが楽しんでるならパーティやった甲斐があったな」

「ホント、リアス様には感謝しかないですよ」

「やめろって、褒めたってなんもでねぇぞ」

「リアスくん照れてる」

「リアスさまー!」

 坊ちゃんの腰に飛びついてくる少女は俺の妹のリリアーナ。
 リアス坊ちゃんが領地改革をするまでは健康ではあったが、飢えで苦しんでいた。
 それが坊ちゃんの手腕で1年のうちに飢えは解消され、子供達には学びの場も作ってくれて優秀な人材は道具の設計にも手をかけているんだ。
 リリアーナは主に女児向けの玩具や遊具に、化粧品等々色々な物を提案してる。
 まぁ実現したのは玩具くらいだが、それでも今まで平民にはそういう提案自体が出来ない立場だったんだ。
 それに生まれで虐げるという、この国だけじゃなく世界的な風習もすべて物色しちまった。
 この領地でそんなことすればたちまち懲罰牢行きだ。
 最も子供は情状酌量の余地があるためチャンスはくれる。

「おぉリリアーナ。楽しんでるか?」

「うんっ!リアス様のおかげでね!」

「あ、リリアーナズりぃぞ!俺もリアス様に飛びつきてぇ!」

「リアス様ぁ!」

「おいおい、お前ら全員に飛びつかれたら支えきれねぇぞ?」

 そう言いつつ領の子供達全員にまで飛びつかれて、坊ちゃんは埋もれてしまった。
 子供達は笑いながら、坊ちゃんも注意しながらも笑っている。
 数年前までは想像も出来なかった。
 子供達は正直だから、貴族に対しては当たりが強いんだ。
 それを親が無理矢理注意する。
 それがこの国の常識

「本当にすごいなリアス様は」

「メルセデス今更ー?リアスくんはすごいんだから」

「そうですね。俺も、いや俺だけじゃない。領民達はリアス様に救われましたよ」

「リアスくんはお人好しだからさ。でもそれがリアスくんの良いところだよね」

「あぁ」

 リアス坊ちゃんは、外からも食いっぱぐれた平民達を領地に入れることで、まだ未開拓の領地にも手を出して元が村だとは思えないほどの規模のでかい街になった。
 アスファルトとか、コンクリートの家とか、ここが帝都って言われても疑問には思わないぜ。
 思いにふけっていると、空から氷の結晶が降り注ぎ始める。
 そう、雪だ。

「おっ、雪か」

「雪だねー!明日は積もるかなー」

「どうだろうな。でも知ってるか?クリスマスに雪が降るとホワイトクリスマスって言うんだ」

 ここで前世の知識だから知るわけないだろうと言うのは簡単だが、誰もそれは言わない。
 そんなの無粋だからだ。

「ホワイトクリスマス・・・素敵な響きですね」

「ロマンチックって感じか?俺には似合わねぇ言葉だが」

「そんなことないだろ?まぁクリスマスは恋人と過ごす奴が多い世の中だが、領民は俺にとって家族みたいなもんだ。聖なる夜に家族で過ごすって言うのも悪くないもんだな」

 俺達は空を見つめて雪が降り注ぐのを見る。
 そこには色々な思いがあったが、この聖なる夜空の下には笑顔が似合うことはたしかだな。

「来年も、学園の冬期休暇にはクリスマスパーティやりましょう!」

「良いこというなメルセデス!」

「ふふっ、ボクの事もちゃんとエスコートしてよリアスくん」

「もちろんさ!」

 その夜、俺達の笑顔が絶えることはなかった。
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