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四章

エピローグ

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 無限に再生する人間を相手にするのは、いくら強力な力を持つSランクの魔物ですら苦戦を強いられた。
 それがどれほど強力かは、目の前の惨状を見れば明らかだ。

「くそったれがっ!!どれだけ殺しても生き返りやがる!!」

「ふふっ!いっそ笑えてくるわね」

「笑ってる場合ではないでござろう!」

「それは俺も同感っす」

 四人は最早満身創痍だった。
 頭を潰しては蘇り、脳天を貫いては蘇り、魔力を注入して破裂させては蘇り、最終的に肉片もすべて燃やし尽くしても蘇った。
 つまり対応が出来ないのだ。
 更に加えて、人間は魔法も放ってくるハイブリッド仕様だ。
 
「この状況で笑わない方がおかしいわよ!」

 肩から出血しつつも、それでも矢をいるクピド。
 その矢は人間の両肩を貫く。
 しかし関係は無かった。
 すぐに矢を抜き傷を癒やす人間。
 
「バカね」

 その瞬間、矢を持つ人間が急に痙攣し始める。
 クピドが放った矢には神経毒が仕込んであった。
 つまり体内で神経毒が回り始めて悪さをし始めたのだ。

「クピド、これは?」

「再生するなら、その肉体のまま殺せないかと思ったのよ」

「毒でござるか。考えたでござるな」

「うまくいくっすかね・・・」

 チーリンの言葉の通り、次には痙攣が治まってしまった。
 神経毒は血液が固まる事による炎症作用が起こることで身体を蝕む。
 つまり肉体を破壊してしまった。
 そしてこの人間はそのまま肉体を再生したのだ。

「毒も無理か・・・」

「これどうやって倒せばいい?」

 魔法は大したことは無いものの、無限に再生すると言う最高の防御力を持つ相手に対して、こちらは疲労するのみ。
 このまま闘ってもじり貧だった。

「逃走も視野に入れないといけないわね」

「たしかに厳しいでござるしな。拙者達なら逃げに徹すれば簡単に撒けるはずでござる」

「俺もそれに一票っす」

「そうだな。幸い奴は動きも魔法のキレも大したことはない」

 満場一致で逃走を選択する魔物達。
 それは至極当然の結果でありながら、一抹の不安を孕んでいた。
 そしてそれは唐突に現れる。

「アァァァアアア!!」

 突如として彼の剣に刺さる人間達が叫び始めた。
 次の瞬間、後ろから串刺しになって繋がって居る人間達がまるで龍の様に動きながら空から現れたのだ。

「なんすかあれ・・・」

「見りゃわかるでしょ。人間よ」

「あれが人間すか!?」

 チーリンの言うとおりあれを人間と呼ぶ者は最早人間ではないだろう。
 何故なら彼らは生きているのに、無理矢理身体をねじ曲げられているのだ。
 もう、助かりはしないだろうが。

「この村は実験台にされたと見るべきか」

「外道でござるな。許されぬ行為でござる」

「そんなことどうでもいいわ!どうするのよ!」

 クピドがそう言ってる間に、最初にいた人間を龍の形を作った人間が肥大化した人間を飲み込んでいく。
 そしてドロドロとした液状となった。
 目の前に立っているのは、最初に対峙した人間一人だけとなる。

「これは自滅したと見て良いのか?」

「バカ言うなでござる!殺意や憎悪と言った負の感情がさっきよりも増大になったでござるよ!」

「いくら負の感情が増えようとも動けなければ・・・そんな甘くはないか・・・」

 液状がうねりを上げて形を形成した。
 まるで彼に張り付いているような姿だった。

「こんなの、アタシでもまずいってわかるわよ」

「逃げるでござるよ!」

 全員が踵を返す。
 背中を向けることは自殺行為ではあるが、このまま後ろを気にしながら闘っても逃げ切れなければ同じ事。
 そのため全力で逃走を選択し、四体は森へと走り出したのだ。
 しかしそれも束の間、逃亡する魔物と森の間に人間が移動する。

「速い・・・」

「闘うしかないでござるか!」

 逃走から戦闘へと即座に対応に移る鬼神。
 鬼神の髪色が金髪に変わり攻撃を繰り出す。
 赤髪よりパワーは無いもの速度は折り紙付きで、人間を何度も斬りつける。

「手応えが・・・ないでござる!」

「ドアホ!」

 一瞬だけ気を抜いてしまった鬼神は大きな隙ができてしまい首に向けて真空波の魔法が発射される。
 カムイが鬼神にラリアットを決める事で難を逃れるも、
 
「くっ!」

「一瞬でも気を抜いて良い相手ではないぞ!」

「カムイもっすよ!」

 カムイの正面に入り攻撃を防ぐチーリン。
 その攻撃はチーリンの防御力を突破するほどの火力はない。
 ただ異常に速く鋭い。
 境界斥力フォライズンを持つチーリンだからこそ防ぐことが出来た芸当だった。

「ハザードスピア!」

 闇属性の魔法の一つである毒魔法のハザードスピア。
 初級魔法とされ、威力も大したことは無い。
 しかし一度当たれば------

「ウゥ・・・?」

「やったっす!」

 動きが遅くなりそれでいて全身に毒が回れば死に至るほどの魔法だ。
 何故初級魔法かと言われれば、それはあまりにも簡単に覚えられるためだ。
 魔法の基準は威力や魔力消費量だけはない。

「今のうちに逃げるっすよ!奴は毒に苦しんで・・・え?」

「最悪ね。奴には毒も効かないのね」

 毒素と思われる紫部分を身体から切り離し、毒を抽出した。
 そして切り離された部位から、かすかに人の呻き声が聞こえてくる。

「切り離されたのは人間・・・か?」

「ざっとでござるが30人はいたでござる」

「つまり最低でもあと29回は毒が効かないってわけっすか」

「それだけじゃないわ。もしそれが本当なら、恐らくあと29回分の命もあるって事になるわよ」

「考えたくもないっ!」

 カムイは頭を抱えたくなるが、それを敵は許してくれたりはしない。

「俺が殿を務めるっす。全員、森へ全力で逃げるっすよ」

「おい、チーリン!わかってるでござるか?全員で相手して苦戦した相手でござるぞ!?」

「そんなのわかってるっす。でもこの中で一番時間が稼げるのは俺しかいないっすよね?」

 実際問題、全員誰かの手助けがなければ命を落としていた可能性もあった。
 だからこそ、最も防衛戦に長けているチーリンがこの場に残るのは合理的と言える。

「それにクピドの顔色も悪いみたいっすし」

「気づいてたのね。まだ完全に止血が終わってないの。出血量も増えてきて結構キツくなってきてるのよね」

「そういうことっすから、少なくともクピドを連れて逃げる者と守る者も必要っす。だからそれは二人に任せて、俺が一秒でも長く時間を稼ぐっす」

 それは自身の命を勘定に入れていなかった。
 つまりこの場で三体を逃がすために残ると言っているのだ。
 鬼神はそれが納得いかないのか、唸りを上げている。

「鬼神、気持ちはわかるがここはチーリンが適任だ。某達が残ったところで時間稼ぎすらできない可能性もある」

「くっ!約束するでござるチーリン!絶対死ぬな!」

「こんなところで死にたくないっすよ。ほら、さっさと行くっす」

「行くぞ鬼神の!」

 カムイがクピドを抱え、鬼神を連れて森へと駆け出していく。
 その様子をチーリンと人間は目にしていた。
 人間は先ほどから一歩も動いていない。

「見逃してくれるんすか?」

「ウゥ・・・」

「聞く耳を持たないすか」

 気づけばチーリンに向かって飛び出してくる人間。
 チーリンは受け身の態勢だ。
 境界斥力フォライズンの発動条件はない。
 常に発動しているため、別に受け身の態勢を取る必要はない。
 しかし受け身の姿勢を取らないと、相手に何かあると気取られてしまうため、敢えて受け身を取っているのだ。
 案の定攻撃を仕掛けて来る。
 しかし攻撃は彼に届かない。
 更に接近戦を選んでしまった人間は、境界斥力フォライズンの効力により動きが止まってしまった。

「隙アリっす!ハザードスピア」

 チーリンは殺傷能力のある魔法は敢えて使わない。
 有限とは言え再生力がある相手には悪手で、一瞬でも動きを止めてあわよくば脱出も可能となるからだ。
 そしてハザードスピアを心臓部めがけて直撃させたことで、想像もしないことが起こる。

「精霊・・・すか?」

 人間の体内から精霊の気配を感じたのだ。
 本来であればそんなことはありえない。
 何故なら人間と精霊の魔力は根本的に違うのだ。
 彼からは炎の強大な魔力を感じられる。

「精霊以外にあり得ないっすね。でも一体どうして」

「アガァアア」

 人間には大量の穴がある。
 それは目や口と言った、粘膜のある場所の他に毛穴もある。
 そのすべてから出血が始まった。

「一体なんすか!?」

「アガアガァアア」

 呻き声を上げて苦しみ始めたのだ。
 これを機と感じたチーリンは逃走を図るも、逃走させまいとその放たれる魔力の塊に驚愕を隠せない。
 それはチーリンの経験からして確実に境界斥力フォライズンを弾く攻撃だった。
 タダの魔力の塊を避けただけだというのに、地面に大きな穴が開いたのだ。

「マジっすか!?」

「ウゴァアア」

 呻き声には何処か苦しげに感じたが、今のチーリンに気にしてる余裕もなかった。
 動きが鈍っているのだ。
 逃走するのが吉だとだれでも思うことだった。

「なんかわかんないっすけど、絶好のチャンスは逃さないっすよ!」

「アァア・・・」

 その悲痛の声にも気に止めず、森へと駆け出していくチーリン。 
 最後の力を振り絞った人間は、全力でチーリンの前に出た。

「まだ油断できないっすね!」

「キィアアアアアアア!」

 次には肉体が完全に弾けて破裂してしまった。
 先ほど鬼神が魔力を注入して破裂したように。

「へ?いやさっきも再生したんすか、まだ警戒を緩めるわけには・・・」

 しかし先ほどとは違い、悪意や憎悪と言った負の感情は一切感じられない。
 あるのは、液状化してしまった人間の残骸だけだった。

「どういうことっすかこれ?」

 液体を触ってみるチーリン。 
 感触はぷにぷにとしていて、ジェルに近い感触がした。
 さすがに警戒心を解くチーリン。
 そして破裂した場所に何かが落ちてるのが見えたので近づいていく。

「これは、さっきの注射器っすか。ふむ」

 これは何かしらの薬を使ったであろう注射器だった。
 しかし半分が割れてしまっていて使い物にはならなかった。

「少しくらい薬の成分があるかもしれないっすから、持って行くっすか」

 飛び散る液体も持ち帰り、チーリンも鬼神達に続いて森へと駆け抜けていった。
 その姿がなくなり、村に静けさが戻ったときゆっくりと草を踏む足音がする。
 それは華奢な男性にも見えるし、女性にも見える中性的な姿をしている。

「やっぱりね。あの当主が言うことだからこんなことだと思っていたんだよ」

 飛び散る液体を手に取りそのまま再び地面に落とす人物はそう言うと、燃えていた村の中に姿を消していった。



 スノーが一部始終を魔物を代表して村での出来事を話した。

「ってことが合ってね」

『その子供が、その村の唯一の生き残りですか』

 全員がハヌマンに抱えられている子供に目を向ける。
 ハヌマンが怖かった所為で、未だに気を失っていた。
 さすがに起こすのは忍びなかったため、クレセントは話題を変える。

『それで薬物は今持っているのですか?』

「えぇ、もちろん。それがこの薬物の入ったものなんだけど」

「これっす」

 割れた注射器をミライに渡すチーリン。
 それを手に取り、クレセントが近づいた。

『これだけじゃ何とも言えないですね』

「やっぱりあんたでもわかんないか」

「いやでもこれ、この前ガラン・・・セバスがリリィに向かって投げた注射器にそっくりだなー」

 ミライの指摘は正しく、これはセバスが決闘の時にリリィに差した注射器と同じタイプの注射器だった。
 注射器の針の上にMと言うマークが書いてあるのが特徴的だ。

「え、わたしその時の記憶はあるけど、ガランがいた場所から結構あったし、あの乱戦でよく見えたわね」

「ふふーん!ドヤ!」

 どや顔を決めるミライにイラッとするリリィだったが、ここで話を遮るのも得策ではないため押し黙った。

「もしそれが本当なら、セバスがその村を焼いたって事じゃねぇの?」

「グランベル、それは早計だと思うな。長年一緒にいた僕がセバスの裏切りに気づかなかったから説得力ないかもしれないけど、セバスならそんな危険な綱渡りはしないと思う」

 ジノアは申し訳なさそうに意見する。
 最もこの中で立場が偉いのはジノアであるが、最も弱者の意見でもあるため少しだけ萎縮してしまう。

「そんな萎縮する事ないですよジノア様。ここに居る人間は貴方の事を信頼しております」

「ありがとうグレシア。セバスがこの中で最も警戒しているのは多分リアスにアルゴノート領のミライ、イルミナなんだよ。だとしたら、アルゴノート領近くの村を焼くのは得策じゃないと思う。だって人間に詳しくない魔物達でも拠点にしようと考えていたわけでしょ?」

「そうね」

「某達でもそれくらいはわかったからな」

「だったらさ、セバスもそうすると思わない?わざわざ敵に回すような愚策はしないと思うんだ。リアスの唯一の弱点である、出来るだけ殺さない精神も恐らく割れてるだろうし」

「「ッ!?」」

 魔物達は一斉に驚きを見せる。
 それはリアス本人は魔物達と和解しわけではなく、リアスの<狂戦士の襟巻き>を装備した姿しか見ていないからだ。
 
「なんでそんな驚くの?」

「それは殺し合いをしてたんだから当然です。それよりジノア様、話を」

「あぁ、そうだった」

 グレシアに話が脱線しそうになったところを戻してもらい続けるジノア。

「民間人相手にリアスは手を出せない。民間人を実験台にするよりも、人質にする方が効果的だと思うんだけど?」

「ごめんジノア。多分それは意味ないと思うよ」

「え?」

 ミライがジノアの言ったことを真っ向から否定したことに驚くジノア。
 一番リアスと近しいミライにはその弱点がわかっていると思って居たからだ。

「リアスくんは別に殺しをしないわけじゃ無くて、出来るだけ殺したくないだけなんだ。それはニホンの記憶の影響だと思うけど」

「あぁ、わかるわー。わたしもゴブリンの死体とか見たときすごい気持ち悪くなったもん。今でも無理だし」

「え?そうだったのか?わりぃ、いつも付き合わせちまって」

 ゴブリン対峙はグランベルの実家の領地でも当たり前の事業だったため、リリィを連れて殺し回ってたこともあった。
 まさかゴブリンの死骸すらも気持ち悪くなるとは思って居なかったのだ。

「それはいいのよ。でもどうしても日本の常識がねー。日本はある時代以降戦争とは無縁だったから、死体なんて早々見る機会もなかったのよ」

 戦争と無縁の時代に生まれたリアスとリリィの前世では、人の死体を見る機会が無い。
 故に血ですら、嫌悪感を抱くこともおかしくはないのだ。

「恐らくセバスが転生者だとしたら、リアスくんが人をなるべく殺さない理由も検討が付いてると思う」

「ってことは、僕が言った可能性は五分ってことか。うーん」

 人を殺さない理由が人情ではなくそう言った理由だとしたら、人質は自分の命よりも優先する事項じゃないことがわかる。
 しかしリアスが優しい人間だと言うことはジノアもよく知っているし、この領地に来て理解もした。
 貧困に見舞われていた領地とは思えない発展した村だった街を見れば明らかだ。 

「とりあえず領地にいる期間は長い訳だし、おいおい調べていけばいいんじゃねぇの?」

『そうですね。リアスが目を覚ましたら、その村に行ってみましょうか』

「え、そんな軽い感じなの?結構深刻な話だと思ったんだけど!?」

 隣接する領地で得体の知れない実験が行われていた事実をまるでどうでもいいかのように話す彼らに、スノーは驚きを隠せない。
 それはカムイやチーリン、クピドとキュークロプスも同じだった。
 ハヌマンは、鼻をほじっている。

「こっちには今回手札が多いしね。ボク達は今まで後手後手でもなんとか解決してきたし今回も大丈夫かなって」

「そんな適当な」

「ふふっ、それくらいがちょうどいいよ。リアスくんが目を覚ますまで、みんなもくつろいで!」

 ミライがそういうと、苦笑いをしながらも彼女の両親の面影を思い出し苦笑いをするスノーはゆっくりと身体を丸くして眠り始めた。
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