75 / 106
四章
叫く雷撃!何者も時間に適わない
しおりを挟む
張り巡らせる雷撃の魔力がミライの周りを埋め尽くし、近寄れば感電してしまいかねない。
しかし事実は異なりこの雷の魔力は、あくまで魔力のため感電することはない。
雷の魔力が色濃く出てしまいそう見えるだけ。
しかし<狂戦士の襟巻き>を装備した今のリアスにそれを知る術はない。
知能がないにも等しいのだ。
速度こそ速いが、雷撃を避けながらの移動でキレがなかった。
「ライトニングスピア!」
リアスに指を向けてミライはそう言ったことで、ミライの指を注視したリアスだったが、一向にライトニングスピアが放たれる様子がない。
リアスは不発と思い攻勢に出ようとしたが、次の瞬間全身に電流が駆け抜ける。
ライトニングスピアが後方からリアスの肩を穿つ。
<狂戦士の襟巻き>の効果により肉体の回復力も強化されているため、すぐに傷は塞がるがそれでもダメージはある。
「ガァ!?」
「普段のキミなら、多分避けれたよ!ライトニングスピア!」
またしても射出されないライトニングスピアを警戒して今度は動きを止めたリアスだったが、それもミライの狙い通りだった。
<狂戦士の襟巻き>をつけたリアスの精神はまったく別物であるが、身体まではそうはいかない。
無意識に身体に刷り込まれた癖や行動はどうしても出てしまうのだ。
そして小さい頃からその癖を知ってるミライは的確にこの戦場を支配する。
ライトニングスピアを今度は起動しない。
「流石リアスくん。でも身体は正直だー」
止まったところで天雷を首元を狙う。
もちろん<狂戦士の襟巻き>を狙っての行動だった。
天雷の速度はいくら強化されているリアスと言えど防げない。
本来、雷神の魔法天雷はそういうものなのだ。
今までの敵が極端に雷対策をしていただけで、そう簡単に対応出来ないのが雷の強さ。
全属性で最も強力な魔法属性の一つ。
「シャラァア!」
「さすがに良い意味でもリアスくんの肉体だ」
リアスは咄嗟に後方に風の魔法で前進して攻撃をすれすれで避ける。
魔力に当たる覚悟をして突っ込んだが、そこにはダメージと言うものが発生してなかったため気にすることを辞めた。
そしてその勢いのままミライに拳を向けて突撃してくる。
「ボクのこの張り巡らされた魔力は、伊達でもなんでもないよ!」
頭に流れてくる使い方。
ミライは今まさに細君支柱の力を自在に使えていた。
それは先ほどからリアスに対して魔法を当てることができたことからも明らかだった。
「ウォーターヴェール!」
張り巡らされた魔力から魔法が生成されているのだ。
逆に言えば、自分の指先から魔法を放つ必要がない。
その状態で魔法を構築して放てば良いだけの話だったから。
だからミライの目の前にまさに迫るというところで、水圧で吹き飛ばされていくリアス。
雷の魔力が色濃く出ていたとしてもそれはミライのれっきとした魔力であり、水属性の魔法も放つことは可能だった。
そして効率が悪いだけで、ほぼすべての魔法が使えるのが神話級の精霊を父に持ち、風神を師に持つミライの実力だ。
「なニぃ!?」
「驚くのも無理ないよね」
ただのウォーターヴェールだったらリアスも吹き飛ばされなかっただろう。
しかし雷の魔力が色濃く表れるミライの魔力から作り出したウォーターヴェールは、水に雷が含まれており身体が痺れて痙攣したのだ。
複合魔法とは違い、魔力の属性が二つある魔法。
「これは雷属性が混じる双生魔法!」
まるで魔法が感電しているようだ。
すべてにおいて雷属性が混じるこの魔法は、初見殺しと言っても良いだろう。
何故なら殺傷能力が比較的に低い水属性の魔法が、感電すると死に至る可能性のある人間にとっては強力な魔法となっているからだ。
さすがにリアスを殺そうとはミライは思って居ない。
助けるつもりで加減はしている。
しかし強力な回復力がある以上、足止めは足止めにならない。
だからこその工夫だった。
「乾ク・・・貴様ノ血がオレノ渇きヲ満たしテクレるぅうううう!」
その巻き舌で発しているような叫びがこの場にいる全員の耳をキリキリとさせ痛めつける。
<狂戦士の襟巻き>は呪いに近い制作方法で作られた物だ。
リアスの精神が汚染されていると言うよりも、肉体の主導権が脳ではなくこの装備に移行されているような状態だ。
そしてクレセントの予想通り知性を身につけていた。
今までこの襟巻きを装備したリアスは、ただ人を殺すだけの平気に近かったが今は違う。
リアスは前方に手を向ける。
「え?まさか・・・」
魔力が指先から感じられる。
まるで魔法でも放とうとしてるかのような。
『ミライ!避けなさい!!』
「ライとにンぐスピあ」
それはかなりぎこちない発音だったが、たしかにライトニングスピアと言ったのだ。
そして魔法は起動される。
しかしそれはライトニングスピアとは名ばかりの・・・天雷だった。
「天雷!?」
さすがのミライも予想外だったため、少しだけ遅れてしまう。
<狂戦士の襟巻き>にはリアスの前世の知識からデメリットがあったのだ。
それは魔法が使えないこと。
知性が極端に落ちるためだ。
しかし今の襟巻きの知性には、魔法を放つ程度の知性はあった。
そしてリアスの肉体は魔力調節に関しては、神話級の精霊のクレセントやミライをも凌ぐ。
更に<狂戦士の襟巻き>により強化された魔力はただでさえ高い魔力を持つリアスだから膨大なモノだ。
魔法を放った瞬間リアスの内包している魔力の半分が消えた。
つまり天雷と遜色はないが、それだけの魔力を込めたライトニングスピアだった。
それはミライの天雷なんか目じゃないほどの威力となっている。
「シールド!」
クレセントは避けろと言っていたがシールドを貼るミライ。
天雷だってシールドを貫くことがあると言うのに、それ以上の魔法がシールドを貫かないと確実に言える人間はいない。
『ミライッ!』
悲痛の叫びを上げるクレセントは、ミライを庇おうと動き出すが速度で追いつくことは適わない。
ミライはライトニングスピアに貫かれて、確実に命を落とすことだろう。
しかしミライの目は驚きこそしたものの、笑っていた。
「リアスくんの魔力が強力なのは知ってるよ!だからさ」
シールドはミライに対して直角気持ち斜めに展開されていて、ほんの少しだけそらすことに成功していた。
そしてそれだけじゃ終わらない。
ライトニングスピアの進む方向にどんどんシールドを展開していく。
カーブを描くのように展開していきやがて、リアスに直接返すことに成功した。
シールドはそれなりに強力な防御魔法であり、反らすだけに注視を置けばいくら今のリアスの魔法でも砕くことは難しい。
しかしほんの少しだけ反らすにはシールドはかなりいる。
これだけシールドを展開すればいくら固定の魔力しか食われない魔法でもガス欠を起こす。
「リアスくんはボクを相手にしただけで不利なんだよ!」
しかしミライは契約精霊でもあった。
つまり、魔力が無くなればリアスから補充される。
実質リアスとの戦闘中は魔法を無制限に打つことが出来、更に魔力も減らすことで戦力も削ぐことが出来る。
そしてこのライトニングスピアを打ち消すためには、シールドではなく同じくらいのライトニングスピアを放たなければいけないわけだ。
しかし半分ほど魔力を使ったこの魔法は雷の混じったシールドで反らされたためほとんど威力が落ちていない。
つまりもう半分で魔法を返さなければいけないのだが、ミライに魔力を使われていたためいくら魔力の回復速度が速くても間に合わなかった。
ライトニングスピアを辛うじて放ち威力こそ殺せたが、リアスは吹き飛んでいく。
『す、すごい・・・』
「あんた、もう少し信じてやりなよ。あんたの親友の娘だろ?」
『くっ、あんな奴親友じゃ・・・』
クレセントは雷神、インテグラルのことは疎ましいと思って居た。
しかしインテグラルの死を知ったとき、とてつもない虚無感に囚われ何もすることができなかった。
スノーの言うとおり、クレセントはインテグラルを疎ましくも好ましいと感じていたのだろう。
そしてその忘れ形見であるミライを全力で守ろうと決めていた。
リアスとミライに結契を結ばせたのも、ミライを守るためだった。
その想いは昇華され、リアスがミライをミライがリアスを全力で守る関係へと変化している。
「まぁいいさね。今ので彼から感じる強大な魔力は観測出来るくらいにまで減少している」
『ここからは近接戦闘になりますか』
「彼はカムイの仇敵で、話を聞いた感じじゃ寧ろ肉弾戦のが得意だろう。援護する準備をしておきな」
『言われなくても』
結果的に魔力は空っぽになったリアス。
いくら魔力回復速度が速くても、ここまで減れば魔力はこの闘い中魔法を使い続ける限り戻らない。
それはミライが魔法を続けることで魔力は消費されるからだ。
そしてそれを本能で感じ取ったリアスもとい襟巻きの自我は、すぐに肉弾戦へと切り替える。
「カワキヲぉぉ!」
「わかってる。君は元々肉体に付く血を見て高揚するみたいだからね」
それは初めてリアスが襟巻きを装備したときにみた光景からも明らかだった。
魔法が使えると言うことはかなりの脅威だ。
だからこそ魔力を減らすことが出来たことは僥倖だった。
そして半ば知性を身につけてしまったことで、失われてしまっているモノもある。
「襟巻き、君は知性を身につけたから強力になった。そう思ってるみたいだけど・・・」
「ッ!?」
知性を身につけたと言うことは、判断能力が生まれたと言うこと。
そして100%の判断能力と言うモノはない。
だからフェイントというモノが役に経つ。
本能で動いていた時にはミライは絶対にしない行動。
ミライも前へと踏み出すことで、虚をついた。
この情態で本能のまま、ぶつかり合えばミライは確実に吹っ飛ばされてしまい肉塊へと変わっただろう。
しかし知性半ば持ったため、何かあると躊躇してしまった。
止まっても処理出来ると思ってしまった。
そこが彼の命取りとなる。
「君は、殺そうとしていた相手に負けるんだよ」
「さすがですミライ様!」
上から空高く跳躍してきたイルミナが、リアスの元へ向かって来る。
ミライは索敵も怠っておらず、イルミナが来ることを把握していた。
ボロボロだったはずのイルミナは、服はボロボロだったが肉体に目立った損傷はない。
襟巻きはここでイルミナが来る展開を予測出来なかった。
しかしリアスはイルミナと何度も対峙しているためか、反応出来てしまった。
イルミナの右足とリアスの左手がぶつかり合う。
「サセないっ!」
「反応出来てしまうとは。ですけど、わたしも囮・・・だとは思いませんでしたか?」
後ろからそっと襟巻きを掴む影がある。
それは先ほどまで鬼神に怯えていたリリィだった。
「もぉぉ!わたし怖いんだからさっさと正気に戻りなさいよぉ!」
しかしリリィはビビってることもあり、イルミナほど速くは動けない。
襟巻きを外されないために、開いている右手で襟巻きを掴もうとするリアスだったがそれは峰打ちで彼の右腕を弾く者がいなければ出来た話だ。
「わりぃな。まさかここまで上手くいくとは思わなかったけどよ」
グランベルがリアスの右腕を弾いた。
先ほど二人が消えたとミライが思ったのは、イルミナが二人を抱えて離脱したから。
しかし離脱したのは逃走するためではなく、反撃の機会を待つため。
イルミナはリリィの聖魔法で傷を治療してもらい万全を備えた。
そしてこのチャンスで飛び出した。
本来はイルミナ一人で完遂するはずの計画だったが、保険に二人にもこういう行動を取るようにイルミナが指示を出していた。
もし自分が防がれるなら高確率で左腕を出すと思って居たイルミナは右腕を一瞬だけでも押さえるためにグランベルを配置した。
リリィはビビっているため上手くいかない可能性もあったからの配慮であり、それは功を成す。
「最後の最後で、君の成長は自分の首を絞めたようだ。首を絞めるのが君の専売特許なのにね」
これはすべて知性があったからこそ招いたことだった。
クレセントは知性があると言うことを脅威に思って居たが、それは中途半端な知性の場合はそう上手くいかない。
努力という時間に才能だけじゃ適わないようにリアスとミライの絆には、知性が生まれて間もない時間は高性能の肉体を持ってしても適わなかったのだ。
「もう君とは二度と会いたくないよ」
「グォラアアアあああああああああああああああ!」
そしてリアスから襟巻きは剥がされる。
その瞬間リアスの中から、襟巻きの自我はなくなった。
倒れ込むリアスをグランベルが支え、ミライは細君支柱を解き、イルミナが肩を貸した。
「ふぅ、ナイスイルミナ。それにリリィとグランベルも」
「恐縮です」
ミライとイルミナがハイタッチをして、二人に微笑むミライ。
二人は苦笑いしながら応える。
「もうこんなことごめんだぜ?」
「はぁ、怖かった~!ってまだSランクの魔物達も相手しないといけないんだった!」
しかし当のカムイや鬼神、チーリン達は口を開けたままこちらを見ている。
スノーとクレセントは、ホッと息を吐く。
「やりおった!」
『まったくあの三人は・・・一歩間違えれば死んでいたのですよ』
イルミナはともかく、リリィとグランベルはリアスと知り合ってから日が浅い。
見捨てる選択肢をしてもおかしくはなかったのだ。
だけど彼等は怯えながらも助けた。
(一度は敵対はしましたが、彼等も根はいいのかもしれません)
リリィとグランベルは、前世の日本の記憶を元に動いていた。
陥れる気があったし悪気もあった2人だったが、自身の行動を省みることができる人間だった。
リアス達に味方はまだまだ少ない。
クレセントは彼女達がリアス達の味方になってくれることを願って、彼等を見つめる。
「鬼神の、カムイの。もういいだろ?彼等は人間とは違う。闘いは終わりよ」
スノーのその言葉により、鬼神は刀を鞘に納め、カムイはリアスをそっと抱き上げた。
彼等も敵対する気はなかったのだ。
「悪かったなメス」
「謝り方が獣ですね。まぁいいです。貴方とはまだ対峙したく無い」
敵同士ですぐ仲をとりなすとはならなかったが、一先ず戦いが集結した瞬間だった。
しかし事実は異なりこの雷の魔力は、あくまで魔力のため感電することはない。
雷の魔力が色濃く出てしまいそう見えるだけ。
しかし<狂戦士の襟巻き>を装備した今のリアスにそれを知る術はない。
知能がないにも等しいのだ。
速度こそ速いが、雷撃を避けながらの移動でキレがなかった。
「ライトニングスピア!」
リアスに指を向けてミライはそう言ったことで、ミライの指を注視したリアスだったが、一向にライトニングスピアが放たれる様子がない。
リアスは不発と思い攻勢に出ようとしたが、次の瞬間全身に電流が駆け抜ける。
ライトニングスピアが後方からリアスの肩を穿つ。
<狂戦士の襟巻き>の効果により肉体の回復力も強化されているため、すぐに傷は塞がるがそれでもダメージはある。
「ガァ!?」
「普段のキミなら、多分避けれたよ!ライトニングスピア!」
またしても射出されないライトニングスピアを警戒して今度は動きを止めたリアスだったが、それもミライの狙い通りだった。
<狂戦士の襟巻き>をつけたリアスの精神はまったく別物であるが、身体まではそうはいかない。
無意識に身体に刷り込まれた癖や行動はどうしても出てしまうのだ。
そして小さい頃からその癖を知ってるミライは的確にこの戦場を支配する。
ライトニングスピアを今度は起動しない。
「流石リアスくん。でも身体は正直だー」
止まったところで天雷を首元を狙う。
もちろん<狂戦士の襟巻き>を狙っての行動だった。
天雷の速度はいくら強化されているリアスと言えど防げない。
本来、雷神の魔法天雷はそういうものなのだ。
今までの敵が極端に雷対策をしていただけで、そう簡単に対応出来ないのが雷の強さ。
全属性で最も強力な魔法属性の一つ。
「シャラァア!」
「さすがに良い意味でもリアスくんの肉体だ」
リアスは咄嗟に後方に風の魔法で前進して攻撃をすれすれで避ける。
魔力に当たる覚悟をして突っ込んだが、そこにはダメージと言うものが発生してなかったため気にすることを辞めた。
そしてその勢いのままミライに拳を向けて突撃してくる。
「ボクのこの張り巡らされた魔力は、伊達でもなんでもないよ!」
頭に流れてくる使い方。
ミライは今まさに細君支柱の力を自在に使えていた。
それは先ほどからリアスに対して魔法を当てることができたことからも明らかだった。
「ウォーターヴェール!」
張り巡らされた魔力から魔法が生成されているのだ。
逆に言えば、自分の指先から魔法を放つ必要がない。
その状態で魔法を構築して放てば良いだけの話だったから。
だからミライの目の前にまさに迫るというところで、水圧で吹き飛ばされていくリアス。
雷の魔力が色濃く出ていたとしてもそれはミライのれっきとした魔力であり、水属性の魔法も放つことは可能だった。
そして効率が悪いだけで、ほぼすべての魔法が使えるのが神話級の精霊を父に持ち、風神を師に持つミライの実力だ。
「なニぃ!?」
「驚くのも無理ないよね」
ただのウォーターヴェールだったらリアスも吹き飛ばされなかっただろう。
しかし雷の魔力が色濃く表れるミライの魔力から作り出したウォーターヴェールは、水に雷が含まれており身体が痺れて痙攣したのだ。
複合魔法とは違い、魔力の属性が二つある魔法。
「これは雷属性が混じる双生魔法!」
まるで魔法が感電しているようだ。
すべてにおいて雷属性が混じるこの魔法は、初見殺しと言っても良いだろう。
何故なら殺傷能力が比較的に低い水属性の魔法が、感電すると死に至る可能性のある人間にとっては強力な魔法となっているからだ。
さすがにリアスを殺そうとはミライは思って居ない。
助けるつもりで加減はしている。
しかし強力な回復力がある以上、足止めは足止めにならない。
だからこその工夫だった。
「乾ク・・・貴様ノ血がオレノ渇きヲ満たしテクレるぅうううう!」
その巻き舌で発しているような叫びがこの場にいる全員の耳をキリキリとさせ痛めつける。
<狂戦士の襟巻き>は呪いに近い制作方法で作られた物だ。
リアスの精神が汚染されていると言うよりも、肉体の主導権が脳ではなくこの装備に移行されているような状態だ。
そしてクレセントの予想通り知性を身につけていた。
今までこの襟巻きを装備したリアスは、ただ人を殺すだけの平気に近かったが今は違う。
リアスは前方に手を向ける。
「え?まさか・・・」
魔力が指先から感じられる。
まるで魔法でも放とうとしてるかのような。
『ミライ!避けなさい!!』
「ライとにンぐスピあ」
それはかなりぎこちない発音だったが、たしかにライトニングスピアと言ったのだ。
そして魔法は起動される。
しかしそれはライトニングスピアとは名ばかりの・・・天雷だった。
「天雷!?」
さすがのミライも予想外だったため、少しだけ遅れてしまう。
<狂戦士の襟巻き>にはリアスの前世の知識からデメリットがあったのだ。
それは魔法が使えないこと。
知性が極端に落ちるためだ。
しかし今の襟巻きの知性には、魔法を放つ程度の知性はあった。
そしてリアスの肉体は魔力調節に関しては、神話級の精霊のクレセントやミライをも凌ぐ。
更に<狂戦士の襟巻き>により強化された魔力はただでさえ高い魔力を持つリアスだから膨大なモノだ。
魔法を放った瞬間リアスの内包している魔力の半分が消えた。
つまり天雷と遜色はないが、それだけの魔力を込めたライトニングスピアだった。
それはミライの天雷なんか目じゃないほどの威力となっている。
「シールド!」
クレセントは避けろと言っていたがシールドを貼るミライ。
天雷だってシールドを貫くことがあると言うのに、それ以上の魔法がシールドを貫かないと確実に言える人間はいない。
『ミライッ!』
悲痛の叫びを上げるクレセントは、ミライを庇おうと動き出すが速度で追いつくことは適わない。
ミライはライトニングスピアに貫かれて、確実に命を落とすことだろう。
しかしミライの目は驚きこそしたものの、笑っていた。
「リアスくんの魔力が強力なのは知ってるよ!だからさ」
シールドはミライに対して直角気持ち斜めに展開されていて、ほんの少しだけそらすことに成功していた。
そしてそれだけじゃ終わらない。
ライトニングスピアの進む方向にどんどんシールドを展開していく。
カーブを描くのように展開していきやがて、リアスに直接返すことに成功した。
シールドはそれなりに強力な防御魔法であり、反らすだけに注視を置けばいくら今のリアスの魔法でも砕くことは難しい。
しかしほんの少しだけ反らすにはシールドはかなりいる。
これだけシールドを展開すればいくら固定の魔力しか食われない魔法でもガス欠を起こす。
「リアスくんはボクを相手にしただけで不利なんだよ!」
しかしミライは契約精霊でもあった。
つまり、魔力が無くなればリアスから補充される。
実質リアスとの戦闘中は魔法を無制限に打つことが出来、更に魔力も減らすことで戦力も削ぐことが出来る。
そしてこのライトニングスピアを打ち消すためには、シールドではなく同じくらいのライトニングスピアを放たなければいけないわけだ。
しかし半分ほど魔力を使ったこの魔法は雷の混じったシールドで反らされたためほとんど威力が落ちていない。
つまりもう半分で魔法を返さなければいけないのだが、ミライに魔力を使われていたためいくら魔力の回復速度が速くても間に合わなかった。
ライトニングスピアを辛うじて放ち威力こそ殺せたが、リアスは吹き飛んでいく。
『す、すごい・・・』
「あんた、もう少し信じてやりなよ。あんたの親友の娘だろ?」
『くっ、あんな奴親友じゃ・・・』
クレセントは雷神、インテグラルのことは疎ましいと思って居た。
しかしインテグラルの死を知ったとき、とてつもない虚無感に囚われ何もすることができなかった。
スノーの言うとおり、クレセントはインテグラルを疎ましくも好ましいと感じていたのだろう。
そしてその忘れ形見であるミライを全力で守ろうと決めていた。
リアスとミライに結契を結ばせたのも、ミライを守るためだった。
その想いは昇華され、リアスがミライをミライがリアスを全力で守る関係へと変化している。
「まぁいいさね。今ので彼から感じる強大な魔力は観測出来るくらいにまで減少している」
『ここからは近接戦闘になりますか』
「彼はカムイの仇敵で、話を聞いた感じじゃ寧ろ肉弾戦のが得意だろう。援護する準備をしておきな」
『言われなくても』
結果的に魔力は空っぽになったリアス。
いくら魔力回復速度が速くても、ここまで減れば魔力はこの闘い中魔法を使い続ける限り戻らない。
それはミライが魔法を続けることで魔力は消費されるからだ。
そしてそれを本能で感じ取ったリアスもとい襟巻きの自我は、すぐに肉弾戦へと切り替える。
「カワキヲぉぉ!」
「わかってる。君は元々肉体に付く血を見て高揚するみたいだからね」
それは初めてリアスが襟巻きを装備したときにみた光景からも明らかだった。
魔法が使えると言うことはかなりの脅威だ。
だからこそ魔力を減らすことが出来たことは僥倖だった。
そして半ば知性を身につけてしまったことで、失われてしまっているモノもある。
「襟巻き、君は知性を身につけたから強力になった。そう思ってるみたいだけど・・・」
「ッ!?」
知性を身につけたと言うことは、判断能力が生まれたと言うこと。
そして100%の判断能力と言うモノはない。
だからフェイントというモノが役に経つ。
本能で動いていた時にはミライは絶対にしない行動。
ミライも前へと踏み出すことで、虚をついた。
この情態で本能のまま、ぶつかり合えばミライは確実に吹っ飛ばされてしまい肉塊へと変わっただろう。
しかし知性半ば持ったため、何かあると躊躇してしまった。
止まっても処理出来ると思ってしまった。
そこが彼の命取りとなる。
「君は、殺そうとしていた相手に負けるんだよ」
「さすがですミライ様!」
上から空高く跳躍してきたイルミナが、リアスの元へ向かって来る。
ミライは索敵も怠っておらず、イルミナが来ることを把握していた。
ボロボロだったはずのイルミナは、服はボロボロだったが肉体に目立った損傷はない。
襟巻きはここでイルミナが来る展開を予測出来なかった。
しかしリアスはイルミナと何度も対峙しているためか、反応出来てしまった。
イルミナの右足とリアスの左手がぶつかり合う。
「サセないっ!」
「反応出来てしまうとは。ですけど、わたしも囮・・・だとは思いませんでしたか?」
後ろからそっと襟巻きを掴む影がある。
それは先ほどまで鬼神に怯えていたリリィだった。
「もぉぉ!わたし怖いんだからさっさと正気に戻りなさいよぉ!」
しかしリリィはビビってることもあり、イルミナほど速くは動けない。
襟巻きを外されないために、開いている右手で襟巻きを掴もうとするリアスだったがそれは峰打ちで彼の右腕を弾く者がいなければ出来た話だ。
「わりぃな。まさかここまで上手くいくとは思わなかったけどよ」
グランベルがリアスの右腕を弾いた。
先ほど二人が消えたとミライが思ったのは、イルミナが二人を抱えて離脱したから。
しかし離脱したのは逃走するためではなく、反撃の機会を待つため。
イルミナはリリィの聖魔法で傷を治療してもらい万全を備えた。
そしてこのチャンスで飛び出した。
本来はイルミナ一人で完遂するはずの計画だったが、保険に二人にもこういう行動を取るようにイルミナが指示を出していた。
もし自分が防がれるなら高確率で左腕を出すと思って居たイルミナは右腕を一瞬だけでも押さえるためにグランベルを配置した。
リリィはビビっているため上手くいかない可能性もあったからの配慮であり、それは功を成す。
「最後の最後で、君の成長は自分の首を絞めたようだ。首を絞めるのが君の専売特許なのにね」
これはすべて知性があったからこそ招いたことだった。
クレセントは知性があると言うことを脅威に思って居たが、それは中途半端な知性の場合はそう上手くいかない。
努力という時間に才能だけじゃ適わないようにリアスとミライの絆には、知性が生まれて間もない時間は高性能の肉体を持ってしても適わなかったのだ。
「もう君とは二度と会いたくないよ」
「グォラアアアあああああああああああああああ!」
そしてリアスから襟巻きは剥がされる。
その瞬間リアスの中から、襟巻きの自我はなくなった。
倒れ込むリアスをグランベルが支え、ミライは細君支柱を解き、イルミナが肩を貸した。
「ふぅ、ナイスイルミナ。それにリリィとグランベルも」
「恐縮です」
ミライとイルミナがハイタッチをして、二人に微笑むミライ。
二人は苦笑いしながら応える。
「もうこんなことごめんだぜ?」
「はぁ、怖かった~!ってまだSランクの魔物達も相手しないといけないんだった!」
しかし当のカムイや鬼神、チーリン達は口を開けたままこちらを見ている。
スノーとクレセントは、ホッと息を吐く。
「やりおった!」
『まったくあの三人は・・・一歩間違えれば死んでいたのですよ』
イルミナはともかく、リリィとグランベルはリアスと知り合ってから日が浅い。
見捨てる選択肢をしてもおかしくはなかったのだ。
だけど彼等は怯えながらも助けた。
(一度は敵対はしましたが、彼等も根はいいのかもしれません)
リリィとグランベルは、前世の日本の記憶を元に動いていた。
陥れる気があったし悪気もあった2人だったが、自身の行動を省みることができる人間だった。
リアス達に味方はまだまだ少ない。
クレセントは彼女達がリアス達の味方になってくれることを願って、彼等を見つめる。
「鬼神の、カムイの。もういいだろ?彼等は人間とは違う。闘いは終わりよ」
スノーのその言葉により、鬼神は刀を鞘に納め、カムイはリアスをそっと抱き上げた。
彼等も敵対する気はなかったのだ。
「悪かったなメス」
「謝り方が獣ですね。まぁいいです。貴方とはまだ対峙したく無い」
敵同士ですぐ仲をとりなすとはならなかったが、一先ず戦いが集結した瞬間だった。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす
こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!
誰もシナリオを知らない、乙女ゲームの世界
Greis
ファンタジー
【注意!!】
途中からがっつりファンタジーバトルだらけ、主人公最強描写がとても多くなります。
内容が肌に合わない方、面白くないなと思い始めた方はブラウザバック推奨です。
※主人公の転生先は、元はシナリオ外の存在、いわゆるモブと分類される人物です。
ベイルトン辺境伯家の三男坊として生まれたのが、ウォルター・ベイルトン。つまりは、転生した俺だ。
生まれ変わった先の世界は、オタクであった俺には大興奮の剣と魔法のファンタジー。
色々とハンデを背負いつつも、早々に二度目の死を迎えないために必死に強くなって、何とか生きてこられた。
そして、十五歳になった時に騎士学院に入学し、二度目の灰色の青春を謳歌していた。
騎士学院に馴染み、十七歳を迎えた二年目の春。
魔法学院との合同訓練の場で二人の転生者の少女と出会った事で、この世界がただの剣と魔法のファンタジーではない事を、徐々に理解していくのだった。
※小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。
小説家になろうに投稿しているものに関しては、改稿されたものになりますので、予めご了承ください。
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる