乙女ゲーのガヤポジションに転生したからには、慎ましく平穏に暮らしたい

茶坊ピエロ

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四章

激闘、魔物の強襲

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 拳が痛い。
 でもここで負ければ、それから多くの人間が血を流す。
 Sランクの魔物とはそれほどまでの脅威なんだ。

「なるほど、魔力を乗せているか!」

「おいおい。そんなこと聞くってことはまさか、それが素手だけの攻撃とか言わないよな?」

「ふんっ!答える義理は某にはない!」

 こいつがやってるのは、俺が拳を振るうとこに同じく拳を振るうっているだけ。
 手加減されてることがよくわかる闘い方なこってぇ。
 かなり甘いことを考えていた。
 Sランクの魔物の存在自体は、俺だって把握はしていたさ。
 俺達が束になれば、難なく倒すことができるとそう思っていた。
 けどこんなのが後3体もいて、後方にももう3体いるとか、ふざけんなって言いたい。

「リアス様!はぁぁぁ!」

「メスの相手はごめん被りたいな」

 イルミナの蹴りを軽く左腕で受けた後、右の拳でイルミナを吹き飛ばした。
 リリィとグランベルは鬼神と、クレとミラはチャイナ服の少年と相対してくれた。
 全員自分が誰を相手取る方がいいかわかってる。

「大丈夫かイルミナ!」

「えぇ・・しかし想像以上のパワーです」

「褒めてもらって光栄だ!」

 イルミナに急接近してきた男は、拳を握りしめていた。
 俺は咄嗟に彼とイルミナの間に入り込んだが、あまりの速度に俺は防御を上手くすることができなかった。
 握り締められた拳が、俺の腹部へと直撃する。

「がっはっ!」

 腑が掻き乱された気分だ。
 流石にあれだけの握力なだけはある。
 身体強化の魔法を使ってなきゃ、これで終わってたな。

「おっ、さすが耐えるか!そうこなくちゃなぁ!」

「最初から俺を狙ってやがったなこんちくしょう!」

「メスを庇うのはオスの本能だからなぁ!」

 こいつ、腕を組んで笑ってる癖に隙がねぇ。
 一見隙だらけに見えるその体制だが、足を使えば簡単に蹴り飛ばすことも可能だ。
 ならその土俵では絶対に戦わない!

「カウンター狙いなら、ライトニングスピア!」

 近接戦闘を主体とする奴は総じて、ライトニングスピアと言った殺傷能力の高い魔法に弱い。
 しかしこの魔物、カムイは違った。
 ライトニングスピアを撃ち落としてしまった。

「ふんっ!この程度で我が腕を貫けると思ったとは心外だな」

「くっ!」

「リアス様、援護お願いします!」

 そう言うとイルミナは男に向かって飛び蹴りを繰り出す。
 頭を狙うその一撃は簡単に阻まれるが、この隙は見逃さない。
 俺も即座に男へと近づき、今度はゼロ距離でライトニングスピアを放つ。
 しかし腕へと到達したライトニングスピアは、突き刺さることはなく弾き飛ばされてしまった。

「なっ!?」

「おいおい、さっき実演してみせただろ?魔力を纏ってない某が撃ち落とせるってことは、火力が足りてないってよぉ?まぁそれでも眼球みたいな柔らかい部位を狙えば話は違ったが、狙ってこなかったのは単純な力不足か?」

「はぁぁぁ!」

 イルミナはハイヒールを男の目を目掛けて回し蹴る。
 しかし男もそれを読んでいたかのように塞いだ後、俺たち二人を思い切り蹴り飛ばした。

「リアス様、相手は魔物です。リアス様が優しいのはわかりますが、ここは非情に徹していただかなければ!」

「悪いイルミナ。そうだな。相手は人間に近いけど、それでもSランクの、人間の脅威だ!」

 俺は自らの頬を叩く。
 意思疎通が出来て、見た目も人間と変わらない。
 だからどうしても甘い考えが浮かんで頭を狙えなかった。

「メスの方がやる気じゃねぇか!某の番にしてやってもいいぞ?」

「ご遠慮しときます。これでもモテますので!」

「そうかい!おるぉぁあ!!」

 男の回し蹴りで、踵がイルミナに直撃するけどそれは予想通りと言わぬがごとくの笑み。
 そしてその隙は見逃さない!
 ライトニングスピアに下級魔法アクアアーマーと言う、身体に拘束噴出させるような水を纏わせる魔法を混ぜ合わせた複合魔法、ウォータースティール!
 こと一個体に対しての殺傷能力はライジングトルネードも凌ぐ複合魔法だ!

「おぉ、これは強力そうだ」

「終わりだ、Sランク!」

「どうかな?お前たちが一体で闘ってないようにこっちも一体じゃないんでな」

 すると次の瞬間、どこからともなく飛んできた矢が俺の魔法を打ち消した。
 狙撃!?

「くっ、きゃぁ!」

「くそっ!イルミナ!」

 男に吹き飛ばされたイルミナに駆け寄る。
 俺の索敵魔法を掻い潜るほどの速度、または空間短縮魔法のどちらかが使われた!
 後者ならまだ対策があるが、前者の場合純粋な身体能力と予測で避けなきゃならない。
 しかもあの男の攻撃を避けながらなんて、考えたくもない案件だ。

「さて、そろそろ準備運動も終わりにすっかな!」

 ここでこいつも本気を出してくんのか。
 いよいよやべぇな。
 目にも止まらぬ速さとはこのことだ。

「はっ!はっ!はっ!はっ!ほぅ・・・」

「ハァ、真空波!」

 勘ですべて避けたが、こんなの偶然だ。
 偶々同じ様な動きをしたから、それに合わせて魔法を放つ事が出来た。
 内心をどう思うと、余裕を見せなきゃいけなかったのにそれができない。
 けど、この隙ができればイルミナが点穴を突いてくれるはず!

「はぁぁぁ!」

「ちょっと驚いたが、所詮人間レベルなんて某は反応が出来る」

 この情態で反応できんのかよ!
 まずい、このままじゃイルミナが捕まる。
 けどこの距離じゃ間に合わねぇ・・・

「しまった!」

『そうはさせないブヒ!』

 シュバリンナイス!
 中級魔法ウォーターブレスだ。
 水を噴射するだけの魔法だが、この状況で絶妙なサポート。
 水の推進力でイルミナを掴もうとした腕を無理矢理上に打ち上げた。
 これで点穴を突けば終わる!

「こりゃ驚いた!」

「終わりです!」

「はっ、メスの狙いは某の芯だろう?気づいてるさ」

 ガキンって音のあと、イルミナの指は変な方向に曲がってしまった。
 嘘だろ・・・
 魔物だって言うのに、その知恵まであるのか!?
 恐らく点穴部分に、鉄か何かを仕込んでいたんだろう。
 それもイルミナが身体強化をしているにもかかわらず指を折るほどの頑強な。

「いった!」

「イルミナ、下がれ!」

「すみません」

「させねぇぞ!」

 イルミナを掴もうとしてるがそうはいかない。
 俺はシュバリンに倣って、ウォーターブレスを放ち腕を弾き飛ばす。

「二度も同じ手を喰らうのは愚かと言わざるを得ない!」

「ばぁか!狙い通りだよ」

 その瞬間俺の手に矢が突き刺さる。
 この情態で狙撃が来るか。
 いってぇ、くそったれ!

「最初から狙いはお前だ!」

「なら、ライジングトルネード!」

「んお!?」

 傷は与えられないかも知れないが、普通にトルネードを放つよりは距離を離せんだろ。
 俺は突き刺さる矢を抜いて、服の袖を引きちぎって巻き付けた。
 イルミナもスカートをちぎって、指を固定している。

「やっべぇな」

「えぇ、これだけ強い上に智恵まであるとは・・・最悪は覚悟しないといけません」

「他のみんなも苦戦してるみたいだし、厳しい戦いになりそうだな」

 カムイの男が戻ってきたらまた闘いが再開する。
 俺は左手が、イルミナは右手の指が使えない。
 かなり厳しいがやるしかねぇな。



 リアス達がカムイとの交戦で苦戦してる一方、ミラとクレ、ナスタはチーリンと相対していた。
 
「一番相手したくないのがセットで挑むとか最悪っすね」

「みためが人間に近いからって手加減しないよ!韋駄天!」

 いつもならそのまま韋駄天を放つミラだったが、前の闘いからも感じた雷魔法は転生者など電気の構造についてある程度知っていると防がれやすいこともあって、工夫が施されていた。
 韋駄天はチーリンの目の前で止まってしまったが、その工夫が功を為した。
 雷の雨を降らす韋駄天だが、ある条件によりそのすべてが連鎖反応を起こし雷の磁場を巻き起こす。

「これは・・・」

 チーリンは固有能力、境界斥力フォライズンという能力が発動してる。
 進化したことでSランクの魔物はスキルを手にするのだが、この能力は運動を止めてしまう能力。
 魔力量が上回ることが出来れば、突破も可能性があるがミラとチーリンの魔力は互角に近かったため突破は適わなかった。
 しかし雷の運動が一つ止まったことで、ミラの韋駄天は連鎖反応を起こす。
 雷が一つ、どんな形でも機能停止すると、他の雷が連鎖反応で雷の磁場を引き起こし始めた。

『やりますね!』

「完全にサポートの魔法になるけど、おじさんとナスタリウムならこれを上手く利用出来るよね?リアスくんの契約精霊として恥のない攻撃を頑張って!」

『『了解!』』

 クレセントは電気の磁場を更に粗ぶらせるためにトルネードの魔法を放つ。
 その規模はリアスが使うような魔法では無い。
 風属性最高峰の魔法を使えるクレセントの魔法は、トルネードとは名ばかりの大嵐だった。
 地場が竜巻に乗せて浮き上がる。

『喰らうがいいですっ!フレア!』

 フレアは、まるで太陽の様な炎の球体を作る魔法。
 そしてこれだけ地場が発生してる場所にこんな物をぶっ込んだらどうなるか。
 誘爆が確実に起ころうとしている。

『とりゃああ!』

「これはヤバいっすねー」

 爆発に次ぐ爆発が巻き起こり、更にその炎を巻き上げてトルネードが燃え始める。
 複合魔法ではないが、裏をついた魔法の組み合わせ技だ。
 チーリンを爆発と竜巻が包み込む。
 しかし神話級の精霊二人と、上級精霊の魔法の合わせ技でも、チーリンに傷ひとつ付けることは出来なかった。

「あぁ、この前のあいつくらいヤバかったす」

「うそっ!?あれを防いだの?」

『末恐ろしい、Sランクの魔物ですね』

『へ?へ?どうしましょうお二人とも・・・』

 これが三人の全力と言わないでも、出せる限り力いっぱいの攻撃を放って無傷なのは予想外だった。
 しかしここにいる二人の精霊は神話級の精霊だ。
 そしてミライはリアスがいるときに至っては、この程度で崩れることは無い。

「だったら、天雷いくよ!」

『ですね。突破出来ないなら更に出力を上げれば良いだけの話。この世界に砕けない魔法がないことはリアスが教えてくれましたから!旋風風磨』

 風神雷神の固有魔法オリジナル
 大地を割った魔法が組み合わさる。
 その威力はチーリンといえどもただでは済まない威力となっていた。

「うわっ・・・これはヤバいっす。本気でヤバいっす!」

 チーリンは即座に逃走を選択した。
 自身のスキル境界斥力フォライズンは運動を止める強力なスキルではあるが、そんなスキルがあっても実力主義の魔物達の中で、彼がリーダー的存在になっていないのはスキルをかつてフェンリル、鬼神、カムイに突破されたからである。
 だから決して万能じゃ無いことをよく理解してる。

「逃がさない!」

「だったらこれを喰らうっす!ライトニングスピア!!」

『魔物が魔法を使うですって!?』

 チーリンは魔物達の中で唯一魔力を魔法に変換出来る魔物でもあった。
 この咄嗟の行動は、二人に取っては虚を突かれた形。
 シールドを展開するのが遅れてしまう。
 しかしここにはもう一人もいる。

『シールド!』

「ナスタリウムありがとう!」

「くぅっ!3対1は卑怯っす!」

「それが闘いってもんだよ!」

 天雷と旋風風磨が、チーリンを襲うが次の瞬間魔法が霧散した。
 そして後ろからのっそりと狼の様な姿をした魔物が現れる。

「え、どうして!?」

『なるほど。相手はかなり強力のようですね』

「全く世話の焼けるよ。それに懐かしい顔も見える」

「姉御ぉ~」

 フェンリルから放たれる威圧に、ミライは後ろにおののく。
 本能があれと相対してはいけないと、ひしひしと感じているのだ。

「久しぶりだね、クレセント」

『えぇ、まさか貴女がまだ生きてるとは思いませんでしたよスノー』

「え、おじさん達知り合い!?」

 まさかの展開に、全身の震えが治まり二人を交互に見るミライ。
 クレセントとフェンリルの再会はこの闘いの戦局を大きく分けることになる。



 鬼神の猛攻は、魔物との実戦経験が一番少ないペアであるリリィとグランベルには応えていた。
 現にグランベルは二刀流という、他とは違う強みを片方失ってしまっている。
 最も闘いにくいと言う意味でも、彼は魔物の中で随一だからだ。

「ほぅ、やるでござるな」

「くそっ!髪と目の色が変わってから、急に剣を当てられなくなりやがった」

「相対出来ないのは厄介でしょうけどね!こっちだって剣だけじゃないのよ!」

 並列魔法を展開するリリィ。
 六つのライトニングスピアが別々の方向から鬼神を襲うも、そのすべてを避けてしまった。
 彼の魔物としての覚醒した能力は、通行止めアクセルロスト
 今は青い髪型の赤い目で、この時の能力は自身の感情を落ち着かせることによって、高度な予測能力と動体視力を誇る。
 
「全部避けた!?」

「リリィ、しっかり狙えよ!」

「グランベルこそ!」

 そうやって悪態を吐きあうも、彼ら二人は幼馴染みでコンビネーションに至っては、リアス、イルミナコンビを超えている。
 その証拠に、リアスは決闘の時に落とされてしまった。
 あの時のコンビネーションは事前に打ち合わせをしていたわけじゃ無かったことからも、二人がどれほど息が合っているかは明白だった。
 にも関わらず攻撃が全く当たらない。

「くっそぉ!」

「その心の乱れが好き付くんだよぉ、でござる!」

 次の瞬間黄色い髪型に青い目と、綺麗な白人の様な見た目に変わる鬼神だったが、速度が尋常では無かった。
 この姿は感情が高揚している状態で、先ほどよりも回避能力が落ちるが腕力が異常に強化されている。
 そして速度も同じだった。
 ラン&ガンを繰り返し行い、剣の打ちあいが押収する。

「くそっ、身体強化の魔法を使ってもそれを凌駕する速度とか反則だろ!」

「闘いに反則もなにもないでござるよ」

 それでも防いだあとに攻撃しようと思えば二人とも出来る。
 しかししない。
 そこが大きな隙だというのにだ。
 
「落ち着きなさい!攻勢に出れるのは青髪の時のみよ!」

「あぁ、赤髪になられたらこっちは防御しか出来ねぇからな」

 これは事実であり半分は挑発でもある。
 赤髪状態は彼らに取っては非常にまずい。
 剣を撃ち合うことが不可能なくらいの威力だからだ。
 だが同時に大きな隙も生まれる。
 威力が高い分攻撃の余韻があるし、更には赤髪から戻った後に、一瞬だけ動きが鈍っているのを二人は見逃してはいない。
 しかし赤い状態は会合一番の馬車への一閃と、グランベルの剣を一つ奪って折った時のみ。
 その時間もかなり短いため、そこに勝機を見出すのはあまり利口が良いとは言えないし、赤紙は当たったら本当にまずい一撃を繰り出してくる。
 
「なんか通行止めアクセルロストのアラートモードでも狙ってるでござるか?」

 首を傾げる鬼神に対して全く煽りが通用しない言うことを示しており、より一層警戒を強める二人。
 しかしそもそも赤髪、アラートモードを狙いにすること自体が痴がましいことを知ることになる。
 ここからアラートモードにはいる鬼神。

「今なら引き返せるでござるよ?別に拙者達はお前達の命を奪おうとまではしておらぬゆ------」

「先に馬車を切り裂いた奴が言う言葉を信じろってのか!そりゃ無理な話だ!」

 グランベルと鬼神の武器が鍔迫り合い火花が生まれる。
 それでもやはりピクリとも動かない鬼神に、苛立ちを覚えながらも後ろに下がった。
 しかしこれも大きな隙の一つ。
 リリィの攻撃を入れる隙を作ったのだ。
 しかしリリィはと言うと、後ろに下がったグランベルを咄嗟に掴んで大きく距離をとった。
 次の瞬間、二人に大きな突風が襲いくる。
 その突風とは、鬼神が剣を振るった風圧。
 風圧だけで突風を巻き起こしたのだ。

「おいリリィ、なんで!」

「不味いよ。赤髪になった瞬間、彼の最大火力が変わったんだけど、とんでもなかったわ!」

「なるほど。一度は警告したでござるし、死んでも恨むでござるなよ?」

 鬼神の方を見ると刀を仕舞い込んでいる。
 グランベルはその行動の意味がわからなかったが、日本から転生してきたリリィにはその行動の意味を正しく理解した。

「我が声に大地に眠る汝の聖なる力よ応えたまえ。我が名はリリィ。全てを包み込み全てを癒しに変えるこの力を彼の者に届けた前」

(リリィ様!?それは!?)

「おい待てリリィ!それを今ここで放つと、リアス達も巻き込むぞ!」

 しかしリリィは迷うことなく詠唱を続ける。
 この魔法はイグニッション・レイ。
 聖魔法の中でもトップクラスの攻撃魔法で、かつての魔王であり転生者でもあった赤桐も使い、リアスとミライが全力の複合魔法で何とか打ち消した魔法。

「汝、我が声に応えたまえ!しのごのいってらんないのよ!イグニッション・レイ」

怒撥天どはつてん-凪幽咫なゆた-」

 その瞬間、イグニッション・レイを放たれた鬼神が刀を抜き、イグニッション・レイごと森を切り裂いた。
 そして切り裂かれた直後、突風と爆音が辺りに鳴り響いた。
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