乙女ゲーのガヤポジションに転生したからには、慎ましく平穏に暮らしたい

茶坊ピエロ

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四章

休みの日と予定について

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 暑い・・・暑過ぎる。
 急に季節が変わったかのように夏になった。
 この世界特有の季節変動だ。
 リリィが目を覚ましてから一週間が経った。
 イルシア先輩は公爵当主になったため忙しいからいないけれど、いつメンで俺の寮部屋に集まっている。
 ちなみに制服だ。
 別に今日は休みだから。
 それにしてもセミみたいな魔物の鳴き声が鳴り響いて、暑さに拍車がかかる。

「はぁー、なんで今日こんなに暑いん?」

「リアスくんは氷の魔法と風魔法組み合わせられるんだからいいじゃん!ボクにも風送ってよ」

「いや・・・」

 汗で少し蒸れて湿ってる姿はいいと思うんだ。
 しかも今日のミラの服装は俺がデザインして作った夏用パーカーで、下着が透けて見える。
 俺が作った柄付きだから前側からは下着が見えない上にミラは体操座りしてるから、他の奴らに下着姿を見せないと言う意味でも問題はない!
 俺しか後ろにいないしな。
 だからこの楽しみを終えないためにも俺は絶対に送らない。

「リアス様、邪な気持ちを持っていませんか?」

「な、な、な、なってねーよ!」

 イルミナのどストレートが俺の心のど真ん中に命中する。
 女性って観察眼すごいよな。

「リアスくーん?」

 ジト目の向け方も可愛いんですよ。
 いやー俺の婚約者は可愛いんですよ!
 しかしこの追及は俺にあまりにも不利。
 話題を変える。

「それよりもさリリィ。レアンドロについて知ってる情報大したことねぇじゃん」

 ここにはいつものメンツの他にリリィとグランベルもいる。
 てか呼んだ。
 結局この前レアンドロについての話は聞かずじまいだったからなぁ。
 だからさっき、リリィに話してもらったんだ。

「仕方ないじゃない。たまたまヒャルハッハ王国に聖女として訪問したら居たのよ!彼の転生特典が転生者と見分けのつくって能力だったから、直でわたしのとこに来たってわけ」

「わけってなんだよ!つまりレアンドロの情報は転生者って事以外知らないって事だろ!」

「女癖が悪い神話級精霊の契約者ってくらいはわかるわよ!むしろなんであんた達知らないわけ!?それでも貴族?」

「男爵だからそういう情報降りてこねぇんだよ!」

「はぁ!?聖女だけど平民のわたしが知ってるのよ!」

「そりゃ聖女は陛下と同じ権限を持つからだろうが!」

「それを言ったらどの国も神話級の精霊持ちは王や帝と同じ権限を持ってるわよ!それに権限があるからって情報を教えられる義務は無いのよ!つまりわたしには情報を回さないといけないと思ってる人間がいるのよ!」

「そりゃお前、俺と親父が話してるところを盗み聞きしてたからだろ?」

 思わぬところからの追撃にリリィは驚いた顔でグランベルを見る。
 あぁ、なるほど。

「ほほぉ、そういやお前は剣聖家族に保護された形だったもんなぁ。そうだよなぁ剣聖の家に居たらそりゃ情報回ってくるよなぁ!虎の威を借る女狐が!」

「違うわ!寧ろ情報は武器よ!どんな手を使っても手に入れるくらいがちょうどいいのよ!」

 俺とリリィの喧嘩がヒートアップしてきたところで、ミラが爆弾発言を飛ばす。

「ねぇ、この二人毎日喧嘩してない?」

「喧嘩するほど仲が良いとはよく言ったものですね」

「「良くないっ!」」

 こいつと仲が良いとかはありえんだろ。
 同郷だという事でどうしてもぶつかり合う。
 同族嫌悪に近いな。

「まぁまぁ坊ちゃん、ほれ紅茶でも飲んで落ち着けって」

「サンキューメルセデス」

「皆さんもどうぞどうぞ」

 メルセデスはさすがだな。
 まるで母親だ。
 今生での実母は唯一俺に優しかった。

「このお茶美味しい!ねぇ貴方!是非うちの専属にならないかしら?」

「お前、メルセデスを引き抜こうとしてんじゃねぇ」

「男爵家なんかより良いところよ」

「てめぇ!メルセデスは俺達の専属のがいいよな!?」

「出た出た。そうやって自分の立場を利用して、良い人材を独占しようとする貴族」

「うるせぇ!てめぇんとこにも使用人はたくさんいるだろうが!」

「ジャスティン家は脳筋の家系な所為で美味しい料理や飲み物が出てこないのよ!」

「そりゃあ贅沢な悩みだ!こっちは料理すら出してもらえなかったぞこの野郎!」

 使用人達はグレコとアルジオの言いなりだったからな。
 そりゃもう最悪だ。
 今はメルセデスのおかげで大丈夫だけどな。

「ご、ごめんなさい・・・」

「あ、わりぃわりぃ」

「なんでアルナが謝るのよ?アルナも同じ待遇だったんじゃないの?」

「いや、ワタクシも含めて親子で兄貴を虐げていたんですわ。まぁそれで、その・・・」

「まぁ過ぎたことだしな。それに身内感の話だから、俺以外がどうこう言うのも違うし気にしてねぇから大丈夫だ」

「はぁ、リアスくんはもう少しデリカシーを覚えた方が良いよ」

 それはミラの言うとおりだな。
 ちょっと配慮が足りなかった。
 もう少し気を付けよう。

「それにしてもレアンドロについてわかんねぇんじゃ、お前ら呼んだ意味ないんだよなぁ」

「しょうがないじゃない!」

「まぁそれはそうだけどさ。ところでお前ら夏休みは何する予定だ?」

 一度は領地に戻るのは決定事項だ。
 グランベルに魔法を教えてくれってスカイベル様から言われてるのもあるけど、なにせアルゴノート領のほとんどの事業は、俺の指導の下に行ってる。
 指導って偉そうなこと言うけど、前世の知識を元にして色々なエキスパートの人達にそれを再現してもらってるだけだけども。
 一応その責任は持たないといけない。
 恐らくジノアにまた連れ回されるだろうから滞在時間はそれなりに短くなるだろうけどな。

「オレは・・・オレもリアスんところの領地に行かせてくれ!」

「はぁ?グレイ、お前里帰りしないのかよ・・・ってお前は英雄の息子だから男爵って言っても帝都付近にあるのか」

「そういうことだ。オレももっと強くなりたいんだよ。オレさ、結局クロに補助をしてもらわなきゃ聖魔法も身体強化すらまだ出来てないんだよ。一人で使える魔法は、精々収納魔法くらいだ」

 そう、グレイとグレシアはまだちゃんと魔法を使うことが出来ていない。
 理由は簡単だ。
 経験が少ない、それに限る。
 実際俺だって収納魔法以外は、最初はまともに起動すらしなかったしな。

「それなら私も付いていきたいわ!一人だけ置いてきぼりって嫌だもの!」

「グレイはともかくグレシアはイルシア先輩の手伝いをしなくていいのかよ」

「あぁ、それなら俺がいくから大丈夫だぞ」

 バルドフェルド先輩が手を上げる。
 その顔色は恐ろしく真っ青だ。
 毎日イルミナの扱きを受ければそうなるわな。
 
「イルシアのサポートは俺がするから大丈夫だ。グレシア嬢はリアスに付いていって大丈夫だぞ」

「バルドフェルド様ははたしかに剣ありきであれば、生身のわたしと互角の実力くらいは出せますが、まだまだグレイよりも肉体的には完成されてはいません。よろしいのですか?」

「ひ、ひぃ!」

 一体どんな指導をしてるんだ?
 ていうかこの短期間でイルミナと互角って、どんだけ強くなってんだよバルドフェルド先輩。
 ってことはグレイもそれなりなのか?

「たしかに決闘の時、グレイくんの剣術は完成されてないモノだと思うけど、瞬殺できる雰囲気はなかったわね」

「いやオレはまだまださ」

 バルドフェルド先輩は結構へこたれてるけど、グレイはそうでもないんだな。
 覚悟の違いか?
 こいつも聖人だし、最悪教国に目を付けられる可能性も高い。
 というかもう知られてるのはたしかだよな。

「グレイが異常なんだ。常人にあれは無理だ・・・」

「イルミナ、一体どんな指導をしてるんだ?」

「とりあえず毎日、筋肉トレーニング100回3セットを行い、一時間ほど寮の周りを全力疾走して疲れ切ったところでわたし対グレイ様とバルドフェルド様とで模擬戦を行います」

「待て待て待て・・・」

 なんでそんなハードなスケジュールなの?
 全力疾走を一時間って言うことはイルミナの場合、速度を落としたらケツを蹴ってでも速度を上げさせるだろ。
 フルマラソンよりキツくないかそれ?
 寧ろグレイはどうして普通の顔してんだよ。

「それは常人には厳しい内容だぞ」

「その通りです。しかし彼らは幼い間に体力を付ける努力をしておりませんので、実力を付けようとするなら仕方のないことです。現にグランベルやリリィ様は我々と互角の実力を有しております。リアス様だって体力を付ける努力をした上で、貴族としての仕事もこなしていたでしょう?それに比べてお二人はどうですか?」

 それは俺には前世の知識があったからであって、同じ歳の時は家でゴロゴロ・・・してはいなかったな。
 前世では毒親だったからそれなりに頑張ってたはずだ。
 けどなぁ。
 こいつらには酷だろうに。
 いやそんなこといったら、ミラとイルミナにも同じ事言えるけど。

「オレは小さいときから、親父の指導よりもお茶会など貴族子息としての事を優先していた。それが間違っていたとは言わないけど、恵まれた環境にいながら何もしていなかった自分が恥ずかしいぜ」

「俺は戦闘訓練なんてもの自体あまりしてない。親もそんな感じだったし・・・」

「ね?すぐに強さを手に入れたいなら、それなりのことをしなければ無理に決まっています」

 うーん、イルミナの言うことはもっともだけど。

「でも才能って言うのは、それだけで努力しても追いつけない場合もあるんだぞ?」

「それはもちろん才能のある人間が同じ努力をすれば、才能の無い人間が同じ努力をしたところで追いつけはしません。しかし努力のしない天才には勝てる可能性があるのですよ」

「それはそうだけど・・・」

『イルミナの言うことは最もです。努力した分だけ防衛面は上がるんですし、彼らは教養も十分ではあるですから好きにやらせた方が良い方向に進むと思いますよ』

 無理をさせすぎて故障でもしたらどうすんだよ。
 
「はぁ、でもクールダウンも必要だろ。バルドフェルド先輩は無理しないで休んでくれよ。あ、イルシア先輩のフォローもちゃんとお願いします」

「そうですね。鈍らない程度に筋肉トレーニングだけは毎日お願いします」

「あ、ありがてぇ・・・」

 泣いてる・・・ 
 やっぱり指導内容は変えた方がいいんじゃね?

「じゃあグレイとグレシアとグランベルは俺達に付いてくるって事ってことなー」

「ねぇ------」

「あとは一応ジノアにも声をかけとかないとな」

「ねぇ!」

「ジノア、決闘の日以来一度も会ってないんだよなぁ」

「ねぇ!!」

「なんだようっせぇなぁ」

「わたしも付いていってあげるわよ!」

「あ、結構です」

 俺は片手を上げて拒否を示すと、すぐに首を絞めてきた。
 やべっ、こいつ動き速い。

「ギブギブギブっ!」

「じゃあわたしも貴方の領地に連れて行きなさい!」

「やだね!なんでお前なんかを------げふぅぅ!」

「これはリアスくんが悪いと思う。ていうかリリィ、ちょっとリアスくんとスキンシップ取り過ぎ。思わず韋駄天を撃ちそうになるよ・・・ふふふ」

「お、おい!リリィ、前見ろ前!」

「何よ・・・ちょっと落ち着きなさいミライ。それ生身で喰らったら余波で焼け死んじゃうから・・・」

 じりじりと電撃を纏ってるミラは、リリィだけじゃ無く俺ごと韋駄天で吹き飛ばす気か。
 
「待てミラっ!」

「韋駄天っ!」

 撃ちたくなるじゃなくて撃ってるじゃねぇか!
 くっそ!
 その日俺達は寮長に怒られることになるのだが、それはまた別の話。



 薄暗い森の中で、複数の影が走っている。
 そこは幻惑の森、そして走っているのは鬼神の少年とカムイの男性。
 カムイの男性の腕にはクピドの女性が肩から血を流して抱えられていた。

「くっ、なんなんでござるかあいつ!」

「そんなの某が聞きたい。クピドの、大丈夫か」

「やられたわ。チーリンがいなかったら、恐らく殺られてたわね」

「チーリンの奴一人を残してしまったけど大丈夫でござろうか?」

「まずいわね。どうにかしてフェンリルにこのことを伝えたいけれど・・・」

 彼らが敵対している人間は、彼らの想像以上に強く屈強だった。
 更に加えて、魔法の鋭さも折り紙付きで、Sランクの魔物である彼ら四人相手でも劣勢に追い込むほどだった。

「やはり、拙者助太刀して参る!」

「待て、クピドはどうする気だ!」

「カムイ殿、頼んだ!」

「その必要はないっすよ!」

 そう上から声がし、チーリンの少年が彼らの下へ降りてきた。
 三人とも驚いた顔をしたあと、すぐに気を引き締める。

「本当にチーリンか!?」

「御免っ!」

「おっと、危ないっす!なにすんすか!」

 鬼神の一太刀を受けとめたチーリンが抗議の目を向けて怒ってきた。
 それと同時に三人の気も緩んだ。
 この防御力はチーリン本人であり、洗脳系の魔法も効かないチーリンが戻って来たと言うことは、相手を倒してきたか逃げることが出来たと言うことだからだった。

「すまぬ。お主が本物かどうかを確かめる必要があった」

「まぁ魔力を乗せて無かったから良いっすけどね。奴は、急に苦しんだあと爆発しましたよ。一体あれはなんなんっすか?」

「さぁ、某にもわからん。ただわかることは、奴が人間で某達を狙ってきたと言うことだな」

「くっ、人間めっ!進化したアタシ達にも対応してくるなんて!」

「仲間がかなり死んだな・・・中には幼子もいた・・・」

「それは仕方ないわ。彼らは意思を持たない獣だもの・・・」

 傷を自身の羽根を固めることで止血しながら、クピドはカムイの腕から飛び降りる。
 フェンリルも歩いてこちらにやってきた。

「向こう側も生きるのに必死だから仕方あるまい」

「姉御!あれは違うでござるよ!あれは、生きるためなんかじゃない。実験台にしていたんでござる!」

 そう、彼らは森に迷い込んだ子供を助けて村に返そうとしただけだった。
 しかしその村は焼け野原と化していた。
 そして村の生存者を捜していたところで、おおよそ人間の所業ではないモノを目にする。
 村の住人と思われる人間達はすべて串刺しにされて繋げられていたのだ。
 たった一人の人間に。

「人間の子を連れて帰ってきたハヌマンの奴から聞いたわ。どうやら恐ろしく強い奴だったようだね」

「でもそいつは自爆したよ。どうやら限界以上の力を使ってるみたいっすね。あとうっすらとだけど精霊の気配を感じたっす」

「精霊でござるか!?しかし精霊は人間と契約している事もあるでござろう。何を不思議なことを」

「いやそうじゃないんっす。彼からは人間と精霊の気配の両方を感じたんすよ」

「それは・・・まさか!」

 フェンリルはかつて進化する前の魔物であるサーペントウルフの時に、ある人間に出会った。
 それは精霊を潰して、自分の能力を強化した人間。
 そして何か薬品を体内へと投入して強化した人間のふたり。
 そのふたりが強化の仕方こそ違えど共通点があった。
 半精霊に近い状態になったこと。
 
「話を聞いた感じだと、それと似たような状態になった人間をわたしは見たことがあるわ」

「本当か姉御!?」

「えぇ、しかし彼らはそれほど強くはなかったわ」

 半精霊に近い状態になった彼らだったが、そのすぐあとにフェンリルに進化した彼女は、彼ら二人を一蹴して氷付けにした。
 彼らは強化こそされていたが、それはSランクの魔物に勝てるほどでは無かったはずなのだ。
 その答えは簡単だった。

「二人いたのだけれど、そのうちの一人は何かを飲んでから動きが変わったのよ。つまりその飲み物に、何かしらの強化する成分があって、それが強化されたって事じゃないかしら?」

「ふむ・・・だとしたら奴らはまだまだそれを持っている可能性もあるな。やはりこちらから攻めるべきか」

「そうね。クピドの怪我が治ったら、襲撃をしましょう。ハヌマンが想定よりも早く目覚めてくれて良かったわ」

 魔物達は全員それだけの力がある。
 そして人間の脅威が上がっているとなれば、その力を行使しないわけには行かない。
 今まさに、リアス達が夏休みを迎える前になりながら、色々な思惑が交差して、アルゴノート領に災厄が降りかかろうとしていた。
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