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三章

ガヤの契約精霊の力

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 リリィは始まってからの行動は早かった。
 ライトニングスピアを6連展開。
 そこから発射するも、シールドに阻まれてしまう。
 しかしこれは囮りで、近接戦闘に舞い込むための伏線。

「油断したわね!貴女は剣術が苦手なのは知ってるのよ!」

『たしかにミライは剣術は苦手ですね』

「それは自覚あるよ。でもさ------」

『ミライ様相手に強気ですよねー』

 リリィの剣を捌きながら闘うその様は、まるで未来を見通してるかのような動きだった。
 電磁パルスによって、彼女の動きをミライは手に取るようにわかってしまうのだ。
 そう、ミライは近接格闘は苦手だが戦闘は寧ろ得意まであった。

「嘘!?剣術は苦手なはずじゃ!?」

「終わり?じゃあ次はこっちだよ。ショックボルト」

 ミライの攻撃は下級魔法ショックボルト。
 しかしリリィの身体に直撃するも、彼女は微動だにしない。

「残念だったね!わたしには雷の魔法は効かないのよ」

 再びリリィの攻勢が始まるも、結果はミライが無傷で終わる。

「はぁはぁ・・」

 ミライはリリィの剣を寸前、ギリギリで避けている。
 これは剣術において一番体力が削ぎ落とされる行為であり、リリィは早くも息切れを起こしていた。
 
「魔法と組み合わせても、何一つ当たらないとか、貴女の眼はどうなってんのよ!」

「さぁね」

「答えなさいよ!」

「へぇ!じゃあその答えら土魔法サンドキャニオンと言う形で回答しよう」

 土が唸りをあげ、次々にリリィとへと迫っていく。
 リリィも必死になって対抗するも、どんどん距離が引き離されていく。

「くーっ!回答になってないのよ!それにしてもやっぱラスボス!一筋縄じゃ行かないわね」

「あんたがしたゲームがなんだか知らないけど------」

 そういうと次の瞬間、凄まじい轟音と共に稲妻と旋風が巻き起こる。

「ボクはあんたに負けない!」

「な、なにこれ!?」

 ここからでもピリピリと感じる殺気が無意識にリリィを後ずさる。
 ミライの髪は旋風により浮かび上がって、周りの空気は稲妻の影響で震え上がる。
 
『聖女だから気付いてると思いますが、この風は私の魔法ですよ。旋空風磨せんくうふうま

「そしてこの雷撃は雷神の魔法!天雷てんらい!」

 旋空風磨と天雷は風神と雷神、クレセントとミライの父が、かつて幻獣の森で何度も対峙し地面にクレーターを残した魔法である。
 特に旋空風磨は風魔法の中でも強力だ。
 威力に関して最も強い雷の神話級精霊の固有魔法オリジナルと拮抗し合い、地面を抉るその魔法は強力だ。
 真空波や無数使用者にすら到底認知できない魔法が全体を覆い、魔法の核を任意で爆発させることで覆われる魔法が爆散し、風魔法の威力とは思えない魔法が放出される。
 
「風神!?なんで風神までいるのよ!?禁恋では見なかったわよ!?」

 禁恋とは、リリィが前世でプレイした禁断の恋~どんな障害も乗り越えて必ず愛して見せる~の略称であり、リアスがプレイした花そそとは違って雷神のミライは登場するが、クレセントは登場しなかった。

『僕も忘れられては困ります。二人ほどじゃなくても、僕も上級精霊なんですから!熱地獄ヘルテンプル

 熱地獄ヘルテンプルは対象にした相手の周りの気温を、20度上げる魔法。
 ナスタリウムもまた上級精霊と認識される精霊であり、特徴的な魔法が使える。
 グレコに使役されていた際は、自由意志を奪われ、リアス自身目立つことを嫌っていた為に使うことはあまりなかった。
 そしてこの魔法は一見地形を変えたりするような派手さはないが、他の魔法よりもはるかに強力である。
 自身の周りの気温が20度上がると言うことは、集中力が完全に削ぎ落ちることを意味している。
 そして季節は初夏で気温も25度ほどあった。
 それが45度まで膨れ上がると言うことは、どれだけの気温であるかは、想像しやすいだろう。

「なにこれあっつ!うわーもうっ!」

「ちゃんと受け止めないと落ちちゃうよ?ボクはあんたを落としたくないんだ」

「セイントシールド!!」

 迫りくる旋空風磨と天雷にセイントシールドを貼るリリィ。
 セイントシールドはリリィが前世の知識を利用した魔法で、土魔法とシールドの組み合わせだった。
 土を盾のような形にして混ぜたことにより、強度を増やして物理的なシールドにもなる。
 天雷すら防いだことから強度がどれほどかはわかるだろう。

「たしかにすごいシールドだよそれ。リアスくんだって防がれたこともないのにさ!でもボクだってそれを対策せずに魔法を放ったわけじゃない!」

 天雷は雷撃であり一点集中の魔法。
 本来であればシールドが貫通してもおかしくない魔法であり、セイントシールドがどれだけの強度を持つのかがよくわかる。
 だというのに、リリィは焦りの色を隠せない。
 セイントシールドにヒビが入り始めた上、本来ならシールドとぶつかって霧散するはずの天雷が、今もシールドと干渉して拮抗しているからだ。
 それもそのはず。
 ミライが天雷に込めた魔力は、リアスが落とされる前の天雷の倍。
 単純に威力が倍増するわけではないが、それでも威力が極端に上がっていることに変わりはなかった。

「嘘でしょ!?さっきは防いだのにどうして!?」

『貴女に驚いてる暇はありませんよ。こちらも防がないと行けないんですからね!?』

 旋空風磨がリリィの上空にまで到達していたからだ。
 そしてリリィは、究極の選択を迫られている。
 目の前の天雷のシールドを解かなければ、上からくる旋空風磨を防ぐことができない。
 何故ならすでに両手で魔法を使用しているため魔法を展開することができないからだ。
 リリィの本能が、そしてパートナーの聖獣、キリングハイツの本能が、精霊共鳴レゾナントを通してこう告げている。
 防がなければ終わると。
 すぐさまセイントシールドを解除する。
 天雷が彼女の腕を抉った。

「くぅっ!並行展開!セイントシールド」

 しかしそこには精密さがなかった。
 ナスタリウムの熱地獄ヘルテンプルにより、集中力が損なわれてしまったのだ。

「しまっ------」

 セイントシールドを掻い潜り、リリィの魔法体を傷つける。
 右肘から先は天雷を喰らったこともあり、聖魔法を使っても修復できないまで追い込まれた。
 しかしリリィは休ませてもらうことはできない。

『まだ終わらない!火炎放射ファイアブレス

「そう、終わらせない!韋駄天!いくらあんたでもシールドを貼らなきゃ防げないでしょ」

「忘れたのかしら?その魔法は------」

「天雷は効いた。さっきも天雷に対してはシールドを貼ったから、雷の魔法が効かないわけじゃない」

 リリィが1度目の会合で、韋駄天を防いだのには理由があった。
 それはこの世界の人間だったら到底わからない。

「貴女は風を使って空気の膜か何かを作った。それで電気を打ち消したんでしょ?」

『あぁ、なるほど。そういうことでしたか』

 風神と雷神の魔法が拮抗し合うことからもわかるように、本来は電気は空気に通りにくい。
 そしてリリィは風魔法で空気を操り凝縮する圧縮魔法を使い、低コストで韋駄天を防いだのだ。
 何故、天雷は防がなかったのか。
 それは防がなかったのではなく、防げなかったのだ。
 空気は完全に電気を通さないわけではない。
 通りにくいだけで、貫通してしまうのだ。
 更に加え、ナスタリウムの火炎放射ファイアブレスもあり、風魔法で空気の膜を作っても確実に防げる保証がなかったため、セイントシールドを展開したのが真相だった。

「この暑さで精密な魔法なんか使えないでしょ?終わりだよ!」

 そういうとミライは韋駄天を発射させ、さらに追随するように火炎放射ファイアブレスをナスタリウムが放った。

「あぁ、そうだったわね。貴女は転生者だったわね」

 それはリリィの勘違いではあるが、事実として転生者の知識から導き出した答えではあった。
 迫りくる二つの魔法がゆっくりとリリィに近寄ってきている。
 リリィは自身が思っていた以上にリアスの信頼が高かったことで、先ほどの煽りを後悔していた。
 この状況でリアスの悪口を言おうものなら、激昂して冷静さを欠くと思ったからだ。

「ふふっ、馬鹿みたい」

 蓋を開けてみればミライはたしかに激昂したが、静かに激昂させてしまった。
 頭に血が上ってない怒りほど怖いものはない。
 淡々と相手を追い詰めに来るからだ。

(リリィ!)

 自分の相棒の声が脳内で響くも、リリィの頭の中は学園内の出来事が流れていたため、返答をしない。
 リアスがミライをミライがリアスを好いてることは、リリィでもわかった。
 二人は学園内ですら膝枕をするような関係だ。
 そんな二人の仲を裂こうものなら、おそらく報復は凄まじいとわかる。
 本来であれば、聖女が報復を恐れることはないが、彼らの行動は聖女の肩書など関係なしに迫る勢いだったから覚えていた。
 リリィのクラスの子爵や男爵の有望株は、アルバートが愚行とも取れる行為に靡かなかった。
 リリィですら内心であれはないと思ったほどなのだが、波風を立てないこととリリィの目的のためには、アルバートの行動を肯定した。
 今回の婚約破棄の決闘だって、自身がアルバートと婚約しなければ大変なことになるからに他ならないと言うのに。
 
「わたしの行動を嘲笑うかのように、邪魔してくれちゃって!」

 リリィはポケットの中にあるものを思い出す。
 ガランに渡されたその薬は、聖魔力を一時的に上げるドーピング剤と聞いていた。
 この状態で聖魔力が上がれば、かつて聖魔力を使った魔法、聖魔法を生み出した人間と同じように強力な魔法を使える。
 リリィはその薬を手をかける。
 これを使えば打開だから可能性があると。

「いいえ!わたしは聖女!自分に恥じない闘いを------」

 彼女の気質は紛れもなく聖獣に認めれる清い心を持っていた。
 リリィは聖女として最後まであきらめない選択をする。
 たとえ負けることでこの国にになるようなことになろうとも、不正はしないと。
 しかしリリィのその想いは実現しない。
 彼女は後ろからプスーッと言う音を最後に、意識を落としてしまう。
 そしてそこに韋駄天と火炎放射ファイアブレスが直撃後、辺り一面が爆風に包まれた。

「嘘っ!?」

『何か仕掛けてくると踏んでたんですが、あっさりとやられてしまいました』

 ミライとナスタリウムは、防がれることを前提とした魔法を放ったので、次の攻撃については考えてなかった。
 ミライはリアスに対してのリリィの物言いに腹を立てていたから、落とす気もなかったのに拍子抜けな顔をしている。
 しかしすぐに顔を引き締めた。
 ミライがを見たからだ。

『呆けるないでください!来ます!』

 クレセントの声と共に警戒を強める二人。
 飛んできてのは小さな火の玉だった。

『ミライ様!あれは時限炎弾タイムドファイアです!』

 上級魔法時限炎弾タイムドファイアは、最初は小さな球体だが、時間差で急激に大きくなりジャイアントベアをも包み込むサイズの炎となる魔法。

「速さとの勝負!ライトニングスピア!」

 時限炎弾タイムドファイアはシールドを砕く可能性のある大爆発を起こすため、大きくなる前に他の魔法で打ち消すのがセオリーだった。
 しかし今回はそれが仇になる。
 ナスタリウムがタイムドファイアと認識し、消してしまったことにより忘れていたのだ。
 彼女には並列魔法という、分散させる魔法があることに。
 気がつけばミライとナスタリウムは爆発に巻き込まれてしまった。

『ミライ!ナスタリウム!』

 急いでクレセントは風魔法で爆風を吹き飛ばす。
 ミライとナスタリウムの無事な姿を見てそっと一息を吐く。
 ミライが咄嗟にフルシールドを展開し、その内側にナスタリウムがフルシールドを張りことなきを得たのだ。
 しかし爆風を吹き飛ばしたことによって見えたのはミライ達だけではなかった。

「ァァァア!!」

 そこには目が血走り、神話級の精霊であるミライ達にも負けない、いやそれ以上の魔力を纏わせているリリィがいた。
 そこに正気はあるはずもなく、ただ叫ぶだけの人の姿をした獣がそこにいた。
 ミライは電磁パルスによって彼女の首に何かが飛んできたのを把握していた。
 そして投げてきたであろう場所には、事もあろうにガランの存在までもが見えた。

「あいつ!」

 ガランは終始決闘場を見下ろしていた。
 それは決闘前のニヤついていた目とは裏腹に、酷く無機質な瞳だ。

「せいぜい踊りなさい若者よ」

 ガランはそう小さく呟いた。
 その言葉を聞いたものはいない。
 しかしガランのことをしっかり見つめている者もいる。
 そして決闘会場は地面から雷と風が混じり合う竜巻が発生した。



 ミライとリリィの攻防が始まった直後、ちゃっかりと抜け出していた者がいた。
 グレイだ。
 そしてそのグレイは今、敵陣営の王であるアルバートと対峙しており、剣を交わせている。

「グレイ!」

「正気かアルバート!本気でグレシアがジノアと浮気してると、そう思ってるのか!」

 グレイとアルバートの実力側から見れば互角のように見える。
 しかしアルバートは、権威にしか目がなく剣術の研鑽を怠っていた。
 この決闘を行う者達の中で、1番と言って良いほど闘いならもしていない。
 方やグレイは、リアスやイルシアと言った人外レベルの実力者に揉まれているため、アルバートの動きは止まって見えるほどだった。
 その為手加減しながらも、幼馴染みの情として最後に懺悔を吐かせていた。

「あの写真が何よりの証拠だろう!」

「そうか。そう思うだろうな!」

 しかし写真は明確な証拠にはならないことを知っているグレイからすればなんということはなかった。

「何が言いたい!」

「お前は権力しか頭にないだろうからわからないだろうが、お前をフォローしていたのはグレシアだぞ!」

「そんなこと、皇太子の婚約者としては当然だ!」

「てめぇはまだ皇太子でもなんでもねぇだろうが!」

 アルバートは自分が皇太子だと言うことを疑ってはいないが、正式に皇太子に就任したわけではなかった。
 そしてこの様な問題を起こした上、どちらが勝っても婚約破棄は決定している為、皇太子の座は遠のいたことにすら気付かない。

「貴様!皇太子の私に対して無礼だぞ!」

「知るかよ!」

 剣を振るってくるアルバートの剣を、力任せに吹き飛ばす。
 同じ環境で育ったのに何が変わったのかと、アルバートは困惑するも、学園入学前からグレイとアルバートの実力差はこれだけあった。

「何故お前は俺に逆らう!昔はあんなに従順だったじゃないか!」

「従順でもねぇだろ!ただの幼馴染みだ!それ以上でもねぇよ!」

 剣も吹き飛ばされ、首に剣を突きつけられながらも必死に悪態つくアルバート。
 グレイが剣を突き刺すだけで決闘は終わり、アルバート陣営の敗北が決まる。
 だからアルバートは必死に時間をかけようとしている。
 しかしそんな言葉で取り繕えるほど決闘は甘くない。

「お前は悪女のあいつに騙されているんだ!女の癖に俺に意見をするなんて!」

「女だ男だ言ってるうちは、お前は皇帝にはなねねぇよ」

 グレシアは常にアルバートに尽くして来たのに、それを女だから生意気の一言で片付ける彼に対して、グレイは心底軽蔑し剣を振り下ろす。
 しかし剣が届く前に激しい爆発音と共に二人は音の下方向に目をやった。

「なんだ?」

「う、うぉぉぉ!」

 アルバートはこの隙を見逃さず、グレイに掴みかかる。
 しかし声を発してしまえば、起死回生も無駄に終わる。
 結果としてグレイに羽交い締めにされるアルバートが完成した。

「あれはミライか?」

 グレイの問いの答えはしばらくしたらアナウンスの声と共に知ることになる。
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