乙女ゲーのガヤポジションに転生したからには、慎ましく平穏に暮らしたい

茶坊ピエロ

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三章

転生者達のそれぞれの思い

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 グレイは物陰に隠れながらの移動を繰り返していた。
 
「やべぇな。グランベルもリリィも俺じゃ倒せない。そうなるとアルバートを狙う必要があるけど、あいつは一体どこにいるんだ?」

 グレイは狙いをアルバート一人に絞り、グランベルやリリィとは絶対に出くわさないよう、建物を伝いながら移動していた。
 グレイは気づいていないが、今までの認識された人間や認識する人間が堂々と正面を移動するのがおかしなことで、本来は建物の中に隠れていたりと、王取り傘では探す時間の方が長いのだ。
 事実過去に行われた決闘でも、スタートの1時間は拮抗したことが多いのが普通で。
 始まって僅か10分で参加者の1/3が退場するなど前代未聞だった。
 ガーデルとパルバティはアホな極みだったが、リアス、ミライ、グランベル、リリィの四人はその行動に見合う実力がたしかにあった。

「グレイくんみーっけ♪」

「リリィ・・・」

 グレイは現在生き残っている参加者の中で、最も当たってはいけない人間と鉢合わせてしまう。

「そう身構えないでよ。貴方を相手する気も余裕もないみたいだから」

 リリィが笑いながら上を向く。
 次の瞬間、上空から雷が降ってくる。

「あちゃー、あの顔は立ち直っちゃったか。早いなぁ。雷神の設定では性格はかなりネガティヴ寄りだったのに。やっぱここは現実ってことかー」

「設定?現実?まさかあいつは・・・」

「韋駄天!」

 ミライの声と共に更に落雷が降り注ぎ、リリィの周りは砂煙に包まれた。
 グレイはこれを好機と判断し、早々に離脱する。
 リリィもグレイの存在に気づいたため、奇襲で意識をこちらに割いたのだ。

「ライトニングスピア!」

 六つに展開されるライトニングスピアが、色々な方向からミライへと迫り来る。
 砂煙で見えないが、リリィが落とされていない証拠だった。

「フルシールド」

 ライトニングスピアをすべてシールドで防ぎきったところで、ミライが地面へと着地する。

「さっきまで動揺してたのに、早すぎでしょ立ち直るの」

「ボクにはリアスくん以外にも大切な友達や家族がいるからね。それにリアスくんは死んだわけじゃない。ここでくよくよしてたって何も変わらない」

「そう。でも安心して。わたしはあんたに負けられないの。アルバートには皇太子のまま、わたしの婚約者になってもらわないと困るのよ」

「それはあんたの言うところのシナリオが狂うってことなのかな?」

 リリィはミライが転生者だと判断し、自身が転生者であることを隠さない。
 聖女リリィは、リアスと同じ日本で死んでしまった転生者。
 女子高生だ。
 彼女はとあるゲーム”禁断の恋~どんな障害も乗り越えて必ず愛して見せる~”の知識が、この世界の登場人物と一致し、その前提知識を使って今日まで生きてきた。
 しかしリアス同様、シナリオ通り進んだことはほとんどない。
 それはこの世界は現実の世界だという事もあるが、登場人物の性格がリアスがプレイしていた”花咲く季節☆愛を君に注ぐ”の登場キャラと彼女がプレイしていたゲームでのキャラクターが同じだったことにも関係があることだろう。
 
「その通りよ。じゃなきゃ、あんな浮気男に媚びを売るわけないじゃない」

「ふーん。そっか。でもボクはそんなことどうでもいいよ。どんな理由であれあんたはグレシアの婚約者を寝取った事に変わりない。あんたは貶めようとする相手を間違えたってことだね」

 ミライの身体の周りに電撃がまとわりはじめる。
 リリィもミライを警戒しているため、後ずさる。
 リリィのプレイしていたゲームにはミライが存在し、ラスボスとして登場するのだ。
 だからこそ警戒し、ミライを追い詰めてから万全で闘いを挑んだ。
 そしてこの状況は、リリィが求めていた状況では無かった。
 
「もう話はおわり?」

「どうだろうね。でもボクはあんたを倒すから」

「リアスを落としたのは、貴女達のためでもあるのよ?」

「ボクらのため?なんで?」

「本来わたし達は最初に狙うのは、グレイくんって言われてたのよ。ガラン様にね。でもわたしとグランベルはそれに従わず、この決闘に最も勝率の高い方法をとった。ガラン様がそう言ったからにはきっと何か仕掛けているんでしょうね」

 何かを仕掛けていると言うことに疑問を持ち、話を聞こうとしたミライだったが、次のリリィの言葉にミライはそんなこと忘れてしまうくらい激昂してしまう。

「あんな見たこともないモブキャラなんかより、グレイくんが落ちる方が貴方としても困るでしょ?英雄でシナリオ通りの男じゃない彼は、言い玉の輿になりそうだもの。たしかにリアスくんはあなた達のリーダー的存在で、精神的支えになってそうだけど、あんなぱっとしないモブが死んでもいいじゃないの。将来安泰のか------」

「黙れ!」

 リアスがモブと言われるまではミライも許せた。
 それは本人が自分をガヤと言って、自虐を言うからだ。
 だけど、死んでも別にいいじゃない。

「リアスくんに対して使うそれは不愉快だ。前言撤回するよ。君は落とさない。泣いて謝って懇願するまで生かし続けてあげる」

「そんな私怨でグレシアを危険に晒す気?」

 雰囲気の変わるミライに、グレシアは言葉選びを間違えたと自分の殴りつけたくなる。
 慎重に行動していたのに、ここに来て本音が出てしまったのだ。

「大丈夫決闘はきっとグレイがアルバートを倒して終わるから」

「今は、グランベルが戻ってアルバート様の護衛をしてるわよ。まず無理ね」

「そっちも問題ないかな。イルミナがグランベルを狙ってるからね」

 何を言っても動じないミライに、さっきまでの彼女と目の前の彼女は同一人物かと疑いたくなった。
 リリィは初めてこの決闘で冷や汗を流す。
 彼女がプレイしていたゲームでのラスボスの雷神は、発売していたゲームでの屈指のラスボスだったため警戒を最大限に跳ね上げたのだ。

「リアスくんを軽んじた罪は償え」

 ミライとリリィとの闘いは、この決闘の中でもの凄い激しいモノとなる。
 しかしそのような事ですら笑みを浮かべる人物がいる。
 この決闘の裏では色々な思惑が交差していた。



 まさか俺が一番最初に落とされるとは。
 グランベルとリリィにはしてやられた。
 
「待機室に飛ばされたと思ったけど、ここどこだ?」

 どうみてもここは待機部屋じゃない。
 牢屋に近い。
 けど鉄格子があるわけでもないが、ベットや椅子があるわけでもない。
 まぁ薄暗いから奥の方に鉄格子があるかもしれないけど。
 辺りを見回すとガーデルとパルバティもいない。

「あー、誰か聞こえるか?」

 通信機も機能してないぽいし、まるでどこかに閉じ込められた?
 しかしここは決して狭いわけではない。
 歩いてみたが、行き止まりがあるようには思えない。
 索敵魔法を使ってみたけど、決闘場同様索敵魔法を作用させることのできない何かがかけられてるようだ。

「真っ暗で何も見えないからな。とりあえずホーリーライト」

 光の下級魔法ホーリーライトであたりを照らす。
 するとそこには白骨死体や、ミイラ化した死体が至る所に転がっていた。

「げっ、なんだよこれ。気味悪いな」

 仏さんたちには申し訳ないけど、俺はこの死体の山を踏みつけて進んでいく。
 ほんと行き止まりないな。
 しばらく歩くと、白骨化もミイラ化もしてない肉体を見つけた。
 というか死体ですらないな。
 俺がさっき落としたパルバティの姿だから。
 意識はあるようだけど、何かを睨みつけている?

「どういうことだ!何故貴様が私に手を出す!」

「そんなこと知れているだろう?グレシア様を貶めた罪は自ら償わなければいけないと思わないか?」

 パルバティと対峙してるのは、俺もみたことのある人間。
 ジノアがこの前まで連れていた騎士のニコラだ。
 これは様子を見守る方がいいのか?

「ファイアボール!」

「甘い!甘い!!」

 パルバティのファイアボールは精霊契約の儀で契約した精霊が使った魔法。
 つまり威力は最低基準だ。
 ちゃんと魔法が発動できてると聞こえはいいが、その程度しか火力が出せないことにもなる。
 メルセデスみたいに精霊が進んで協力していると、なんとなく感覚で精霊側が契約者がどのくらいの規模で魔法が使いたいかがわかるって言ってたな。

「もうつまらんな。貴様らは聖女にうつつを抜かし、愚皇子に加担した。この罪、騎士としてこの私が断罪してやる」

「ファイアボール、ファイアボール、ファイアボール!!」

 どれだけ撃ってもニコラにはかすらない。
 そしてニコラはどんどんパルバティに近づいていく。
 パルバティは平民を見下すクズだ。
 ここが見捨てた所で良心は痛まない。
 痛まないけど・・・

「死ね!」

「うわぁぁぁあ!」

「寝覚が悪いんだよ」

 俺はパルバティとニコラの横に入り、ニコラの剣を吹き飛ばして、拳を鳩尾に叩き込む。
 ニコラの騎士甲冑は凹み、吹き飛んでいった。

「おい、大丈夫か?」

「き、貴様何故・・・」

「なんで助けた、か?」

「あぁ・・・」

「たとえ死んでも仕方ないような奴でも、お前は見知った顔だ。目の前で死なれるのは気分が良くないだろ?」

 俺はパルバティに手を差し出す。
 パルバティもそれは驚いた顔をして、その手を取って立ち上がった。

「礼は言わないぞ」

「結構だ。それにニコラはどうやら力を隠してたか、それとも何かしらのドーピングをしてるのか知らないが、まだ気絶すらしてないみたいだ」

 立ち上がるニコラ。
 その目は虚な眼をしていて、どこか近寄り難い雰囲気を醸し出している。
 あれはニコラであって------

「ニコラ!貴様、アルバート様にかけられた恩情を仇で返すつもりか!」

「グレシア様を虐げるものは、何人たりとも許さない。私のグレシア様を、貴様らに汚されてたまるか!」

「正気とは思えないな」

 いや、ある意味ニコラの本質なのかも知れない。
 こういうのメンヘラ?ヤンデレ?
 まぁ俺が女性なら間違いなくこんな男はごめんだ。
 ニコラのやつ、何か懐から取り出したぞ?
 注射器・・・
 俺はあれと良く似たものを自ら首に注入してる奴らを見たことがある。
 ゾグニの側近騎士達だ。
 あいつらは注射すると、みるみるうちに魔物化した。
 こいつの取り出した注射器の中身も似たような効果か?

「魔物になる薬か?」

「ゾグニ共のカス騎士と一緒にするな!これはヒャルハッハ王国の奴らから奪ったモノを、協力者が改良したモノだ!」

「協力者?」

「貴様らには関係ない!!」

 首に針を刺し、プシューっという音と共に、薬物なるものがニコラの身体に注入されていく。
 しかし身体になんの変化もない。
 一体?
 次に取り出して見せたのは精霊だ。
 妖精型の、可愛らしい見た目をした精霊。

『た、助けて!』

「自由意志の奪われていない精霊?」

『こ、こいつはぼくを食べようと・・・』

 そんなバカなと思った次の瞬間、ニコラはその精霊を貪り始めた。
 嘘だろ?
 精霊を食ってる?
 口が精霊の血で、真っ赤に染まっている。
 ここにきて、奴の身体に変化は起きた。
 髪は白く染まり目は赤く、そして肌が褐色へと変貌を遂げた。
 そして見た目だけじゃない。
 放たれる殺気は、クレに勝るとも劣らないほどの痛みを肌にピリピリと感じさせる。
 まさに強者のそれだ。

「な、なんだあれ・・・」

「魔物化した人間------魔人ってところか?」

 俺はパルバティをみる。
 ここで俺が全力で闘えば、間違いなくこいつにみられる。
 しかし敵は未知数。
 自分が平穏に暮らしたいからって彼を危険に晒す行為に俺は胸を張って平穏に暮らせるだろうか?
 いや、きっと罪悪感でいっぱいになって、平穏とはほど遠い生活になるだろう。
 ここの平穏は来ないだろうから。

「パルバディ」

「なんだ」

「今から見せるモノは他言無用だ」

「誰に向かって指図する!」

 誰に向かって指図する・・・か。
 その偉そうな態度はムカつくが死んで欲しいと思うほどでも無い。

「わからないか?あの騎士を放置したのはお前達だ。それを俺が尻拭いしてやるって言ってるんだ」

「何故我々が悪いことになる!」

「今まで自分勝手をしてきただろうが!お前は自分の行動に責任を持ってなさ過ぎる!」

 こいつがアデルさんと姓が違うのは、こいつが昔に平民を虐げたことにより飢餓が蔓延したことにあると聞いた。
 それは巡り巡って、アルゴノート領にも被害をもたらした。
 だからこいつは責任を感じてもらわないといけないんだ。
 もし責任を感じていたら、アルバートの行動を止めていたはずだからな。

「そんなの上に立つモノとして・・・」

「ははっ、上に立つモノか。親にすら認めてもらえていないのに、上に立てると思ってるのか?グレシアとジノアの浮気写真。あれは冤罪だ。冤罪で公爵令嬢を国外追放に持っていこうとしたお前らが、上に立てると思うか?」

「誰にだってミスはある」

「上に立つモノはそのミス一つで責任を持って命を差し出すくらいの覚悟が無いとダメなんだよ!」

 パルバディは親には叱られることがあっても、同世代の人間がこうやって叱られることは多くなかったのだろう。
 精々グレシアくらいか?

「うるさいうるさい!今は目の前の事に集中するべきだろうが!」

「奴は魔人になろうと身体が変化している。万が一ここで奴を殺して魔力が爆発でもすれば、俺達もタタじゃ済まない」

 だからこうして俺はこいつと会話が出来ている。
 この短い時間の間でどうにかこいつを改心出来れば良いが、そんな一筋縄では行かない。

「一つ聞くが、飢餓を引き起こしたお前は一体どう責任を取るつもりだ?」

「そんなのもう責任を取っている!父に姓を外されたからな」

「違うな。その程度のことで責任が取れているはずも無い。取れていたら期待されるはずだ。期待されていないから、アデルさんには何も言われないんだ。このような愚行をしてるお前に対してな」

「愚行をしているつもりはない!」

「じゃあ一生そうやって生きてればいいな。さっきお前を助けたのは、俺が寝覚めが悪いってだけでお前を救いたかったわけじゃ無い」

「なんだと!」

「民も同じ気持ちさ。もしお前の命一つでこの国が助かるというなら、アデルさんを含めてみんなお前を喜んで差し出すだろう。それがお前がしでかしたことだ。国は人無くして成り立たないと言うことを、わかっていない証拠だ。民は貴族ために存在するんじゃ無い。貴族が民のために存在し、その見返りとして称えられているだけだ」

 根本的に誰もわかっていないんだ。
 貴族が悪い平民が悪いとかじゃ無い。
 お互いが手を取りあえる関係が理想なんだ。
 
「違う!貴族は------」

「もしお前がここで鑑みる事が出来なければ、一生お前はそのままだ。よく考えろ。愚帝と呼ばれた男と息子を育て間違えたが、民に信頼を得ている女性の差を」

 前者はエルーザ陛下の父で、後者はエルーザ陛下本人だ。
 たしかにあの人は息子の育て方を間違えたとは思う。
 それに証拠があるとは言えジノアの言い分も聞かない。
 親として最低だ。
 だが皇帝としてあの人は確実に民のために行動をしている。

「それは・・・」

「話は終わりだ。あっちもどうやら完全に魔人となったようだ」

「リアス・フォン・アルゴノートぉおおおおおお!」

 とんでもない魔力と殺気だな。
 これがジノアの蹴りで気絶させられた程度の騎士か?
 ふざけんなよ。

「私は・・・」

「とっとと下がれ!巻き込まれるぞ!」

 奴の剣に炎が纏われた。
 魔人は付与魔法を、直接付与できんのかよ!
 俺もライトニングスピアを放ち、俺とニコラとの闘いが始まった。
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