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三章
精神的要の欠落
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決闘のフィールドは街だ。
つまり障害物だらけ。
決闘が始まって気づいたが、このフィールドではあらゆる索敵魔法が使用できない。
「ミラ、どうだ?」
「電磁パルスは使えるよ。どうやら索敵魔法だけが封じられてるみたいだね」
ミラの電磁パルスは類等で言えば雷魔法だが、索敵魔法に分類されてもおかしくないのにな。
別に俺が前世の知識を使って作ったわけじゃないから、この世界に始めから存在してる。
おそらく使える人間がいないからか、攻撃魔法と認識されたのか。
どちらかわからんけど、索敵魔法が使えないのは痛いな。
いや、そりゃそうか。
索敵魔法が使えたら標的を王に絞れちまうもんな。
「作戦を手短に考えよう。まずは王であるグレシアには、イルミナを付ける」
「かしこまりました」
「わたしは王だから、討たれた瞬間終わりだものね。貴方とグレイとミライはどうするのかしら?」
「個人的には俺がグランベルを受け持ち、ミラがリリィを受け持ってほしいんだよな」
「いいよ、任せて!あの間女はボクが鉄鎚を降すよ!」
『彼女は何かあると思います。私はミライについて行っても?』
「あぁ、任せたクレ」
「お、オレはどうする!」
グレイは剣術の授業ではグランベルの次に強かった。
だとすると、パルバティやガーデルと鉢合わせてもなんとかなるはずだ。
「おそらくアルバートは護衛にリリィを置くはずだ。ミラについていってアルバートを狙い撃て」
「元からそう言う話だったもんな。わかったぜ」
「俺はグランベルを探す。他の二人は出来る限りは対処するが基本的にスルーするから、四人とも気を付けてくれ。あ、それと・・・」
そして俺は収納魔法を使ってあるモノを取り出す。
俺がジノアと特産品作成巡りをしていた中で、便利だなーって出来のものが一つあった。
それがこれ。
電気のみを発する魔法石から作り出した通信アイテムのイヤリングだ。
欠点があるから、試作品の段階で完成次第その領地に届ける約束をしていた。
耳に穴を上げずにセットできるし、全員にこれを渡した。
「これ、魔力を通すと身につけてる全員に声が通るからな。誰かと遭遇したらこれで連絡してくれ」
「「了解」」
「よし、じゃあ行くぞ」
作戦が決まったところで俺達は散らばる。
固まっててもいいことはない。
一見これは王をとれば勝利にも見えるが、別に王を取らなくても他四人を倒せれば、それで試合は終わる。
つまり一発で終わらないためにも、散らばる作戦は悪くない。
それにしても索敵魔法が効かないのは本当に不便だ。
とりあえず浮遊して、上空から様子を見よう。
そこそこ高いビルから辺りを見回すと、パルバティとガーデルの姿が見える。
あんな堂々と歩いて談笑しながら探すって、こいつらアホか。
「後回しでいいなあいつらは。でも一応、こちらリアス。スタート地点から十時の方向にパルバティとガーデルを発見~。剣を投げつけたあと離脱するから、そっち側警戒しといてー」
『ミライ了解だよ』
『イルミナ了解』
『オ、オレも把握したぜ』
『ペアが言えばいいんだから返事しない』
グレイのやつガチガチだな。
まぁ決闘なんてそれが普通の態度なんだよな。
俺は持ってる剣を投球フォームに倣って二人に向けて投げつける。
まぁ流石に当たらないだろうけどな。
結構距離あるし。
とりあえず剣邪魔くさかったし、当たればいいかな程度での行動だったが、事態は思いもよらぬ方向に転がった。
「な、なんだ!?」
「ガーデル様、剣が飛んできます!」
「え、えぇ!?パルバティどうにかしろ!」
「む、無理です!」
えぇ・・・
パニックを起こしながら、何故か剣に向かっていくパルバティ。
そして自らその剣に身を投げ出し、魔力体の心臓部分の核に直撃する。
するとパルバティが激しい光と共にどこかに消えてしまった。
『パルバティ選手脱落です。アルバート殿下のメンバーは残り四人となりました』
シャルル先生が現在の状況を俺達に知らせてくれるのか。
正確には俺達じゃなく会場の人たちにだけど。
「パ、パルバティィィイ!!!おのれぇぇえ!誰だ剣を投擲してきた奴は!許さんぞ!」
「はぁ、思ってるよりこいつらは実践慣れしてないのかもな」
俺はどうせだからガーデルもついでに倒そう。
そう思って地上に降り立った瞬間、背後からものすごい殺気が俺を襲った。
突然のことで振り返るのが遅れる。
「リアス・フォン・アルゴノートぉぉ!」
「グランベル!ちっ!」
グランベルの実力と振り返るのが遅れた所為もあって、剣撃こそ避けれてるが反撃の機会が生まれない。 風魔法:エアシューズで一旦空中に留まる。
持続時間が少ないから仕切り直しにしか使えないけどな。
「くそっ、降りてこい!」
「リアスだ。グランベルと交戦開始」
『了解。ボクとグレイもリリィと交戦開始したよ』
『アルバートは一緒じゃないみたいだ。そっちにいるかもしれないから注意してくれ』
リリィと!?
アルバートがいる可能性があるなら、俺は3対1での闘いを強いられるのか。
グレシアとイルミナを呼ぶか?
いや、王を呼ぶのは早計か。
そう考えてるうちにエアシューズの効力が切れると俺は自由落下していく。
下には今か今かと待ち構えているグランベル。
「りょーかいっ!」
「ふんっ!」
風魔法:真空波と奴の剣が打ちあう。
ありゃ、さすがに剣聖の息子の剣。
くそかてぇ!
けどこの隙が命取りだ!
俺はグランベルの顔面を鷲づかみにする。
「がっ!」
「もらいだ。魔力体は素手でも壊れるって知ってたか?」
「ちっ!」
忌々しそうに言うが、口元が笑っているのを俺は見逃さない。
「貴方が素手で闘うことは、ガラン様から予め伝えられてるんですよ!はぁっ!」
後ろのやつすっかり忘れてたよ。
ガーデルのこと実はあまり知らないんだよな。
でも一つわかる。
こいつを残しておけばグランベルと闘いやすいってことは。
「よっと」
しかし避けた瞬間に腕を迷わず切り落としに来るグランベルに、思わず顔面を掴んでいた手を離してしまった。
「な、なんだと!?死角からの攻撃を避けた!?」
「・・・」
味方のグランベルですら呆れてる。
いや、俺も呆れたよ。
死角からの攻撃を避けた!?じゃねぇよ。
そうやって宣言されたら普通に気づくはバカ。
「ガーデル。邪魔だからグレシアを探せ」
「な、何を言う!!二人でこいつを倒した方が楽だろう!」
「足手まといだ。気づかないか?お前を残すことで、こいつはゲームメイクしようとしてる。ていうかお前が思ったよりもバカだと思ってなかった」
額に手を当てて呆れた顔をするグランベル。
だろうな。
こいつがやったことは二つ。
大きな隙を作ったのに無駄にしたことと、俺が素手で闘うことを周知していることをバラしたこと。
「な、舐めた真似を!グランベル、私を援護しろ!」
「はぁ・・・お前らってホントバカだよな!」
そう言いながら俺に剣を振りかざしてくる。
結局共闘か?
こっちとしては、ガーデルが馬鹿なことをしする方が助かる。
けどさすがに真正面からの攻撃は、避けるぞ?
しかしこいつの狙いは俺ではなかった。
避けた瞬間にグランベルは止まることなくガーデルに向かって剣を振り下ろした。
致命傷・・・つまり------
「な・・・」
「お前の親は、お前の育て方を間違えたと思うよ」
ガーデルはその場で霧散し退場した。
やられた。
ガーデルがいれば俺の実力を隠す余裕が出来て、この学園での立ち位置がそこまで変わらなかったのに。
まぁなんだかんだ教師と仲良くしてるのもあって、グランベルの母親のセミール先生にも評価されちまってるが。
『あ、え、ガーデル様脱落です。残りアルバート殿下のメンバーは三人となりました』
シャルル先生困惑してるよ。
前代未聞だろこれ。
「さて仕切り直しと行こう」
「仲間を倒すなんて正気か?」
「邪魔だったからな。俺の楽しみは母上の攻撃を避けれる貴様だ」
こいつのイメージがなんか少し変わった気がする。
この前セミール先生を諫めてたのは、自分の評価を下げて取り巻きから外されないようにか?
アルバートが王になったら、媚びを売っとけば騎士団でも良いポジションに就くことが出来るからな。
なるほど、まともに闘いたくないな。
戦闘狂だ。
それも手段を選ばないタイプの。
「この前のセミール先生の時とは大違いだな」
「あれはアルバートの機嫌を損ねると後の出世に響きそうだったからな」
様付けもやめてる。
俺の前だから、それともアルバートに見切りを付けたかは知らないが。
「だがまぁ、こんなことをやらかしてエルーザ陛下が、アルバートを皇太子に選ぶ可能性は低くなった。だからここでは好きに闘わせてもらう」
「アルバート以外皇太子候補はガランくらいだがどうなんだ?」
「おいおい、ここでしらばっくれるなよ。ジノア様が皇太子候補になろうとしてんだろ?グレシアがあんな尻軽な訳じゃ無いし、ジノアも一緒に貶めようとしてるところからそれくらいわかるぜ」
グランベルは取り巻きの頭脳でもあるのか?
というか、他が馬鹿すぎるだけか?
シナリオではこいつもグレシアに婚約破棄を突きつけていたが、ちょっとでも考えればそれがどういったことを生むかわかりそうなもんなのに。
どっちにしても、こいつはまともな思考ができる分面倒だな。
「まぁ、話はこれくらいにして殺り合おうぜ?」
ガーデルが持っていた剣を拾い上げる。
こいつ二刀流か。
二刀流は一本より二本の方が強いと思われがちだが、剣はそれなりに重いし片方は利き腕じゃないからどうしても扱いが雑になる。
だったら盾を使った方がまだいい。
逆に言えばそれでも二本で持つって事は、扱いに慣れてるって事だ。
「行くぜオラァ!」
「ちっ、スローウィンド!」
スローウィンドをバックターンで避けて、横から俺に斬りかかるグランベル。
人間相手でそれなりの手練れだとスローウィンドはあまりヒットしない。
「エアシューズ!」
「また空飛ぶ気か!だがこっちだってそう易々と逃げられて溜まるかよ」
こいつマジかよ。
壁を使って上手いこと俺のことを追って来やがった。
だったら自由落下じゃなく下に逃げれば良いだけだ。
「逃げてたらなにも出来ねぇぞ!」
「あぁ、その通りだ。ハイドロバングル!」
「水魔法!?ちっ!」
水魔法のハイドロバングルは、水を推進力を付けて発射させたモノ。
つまり剣で防げたとしても、勢いは止まらず分散するだけだからグランベルは避けた。
そしてそれが俺の狙い。
「ライトニングスピア!」
「トリプルかよ!」
ライトニングスピアは雷魔法で、剣で受ければ感電してしまう。
そして一度避けたことによってバランスを崩したグランベルは、これを防ぐ要素がない。
「土魔法:腕の壁」
腕の形をした壁が至るところから生えてきた。
土魔法:腕の壁は、地面から腕を生やす中級魔法。
中級魔法を使えるのかよ。
ってことはこいつは------
「魔剣士・・・」
思わず声が出た。
剣術ばかりに目が行っていたが、こいつは魔法を使える剣士。
魔剣士だったな。
ゲームでは一周目のグレシア戦で魔法を使って共闘してたのに、どうして忘れてたんだ。
「驚くのははええぞ!」
「驚いてねぇよ!」
土の壁を寧ろ利用して距離を取ってやる。
剣がメインってことは、攻撃系の魔法のキレはそこまでってことだ。
チクチクと遠距離から攻撃して落とす。
「トルネード、更にライトニングスピア!」
複合魔法は使わない。
これを大衆に見せる訳にはいかないしな。
だから純粋なライトニングスピアとトルネードだ。
トルネードで土の壁を壊したあとにそのままライトニングスピアが当たるはずだ。
「驚くのは早いって言っただろうが!」
「上!?」
トルネードが土壁にたどり着くと同時に上から声がするから咄嗟に上を向くが、何も無い。
見えるのは、音声装置。
俺が作った録音機だ。
しまった、誘導か!
「ガーデルみたいな馬鹿な真似俺はしない!」
「距離をせっかく取ったのに詰められるか!」
出来れば接近戦はしたくなかったけど、しょうがないだろこれは。
グレシアの国外追放が罹ってるんだ。
俺の保身なんて後回しだ。
至近距離で剣を振り回すグランベルに対して、俺は剣戟を避けながら腹に蹴りを入れ込む。
早いから魔力体が傷ついた。
「やっぱ本来のスタイルは肉弾戦か!いいねいいね!男はそうでねぇと!」
「この戦闘狂が!決闘を楽しんでんじゃねぇよ!」
右から振り下ろす剣の棟を手でたたき落とし、そのまま左から振り上げてくる剣を足で止める。
そしてこの距離ならライトニングスピアは避けられまい。
「終わりだ!ライトニングス------」
『リアスくん!すごい勢いでリリィがそっちにいった!気を付けて』
リリィ!?
後方からドンドンドンっと激しい爆発音がしてくる。
後ろから来るか!
ライトニングスピアをそのまま放ち、グランベルを退場させてからリリィを迎え撃てば問題ない。
「その一瞬の判断が命取りになるって知ってるか!」
「あぁ、知ってるとも!」
ライトニングスピアをグランベルに撃ち放つが、グランベルは予め拾ったの剣を前に飛ばしていた。
ほんの一瞬でここまで先読みするのかこいつは。
おかげで剣とライトニングスピアが乱反射して、グランベルには直撃しない。
ここでこいつはここぞとばかりに攻めるペースを速めてきた。
くそっ!こいつの対処に追われてたら後ろからのリリィの攻撃に対処しきれない。
速い!
「お前がグループのリーダーみたいなもんだろ?」
「なんのことだか?」
「俺達の狙いはグレシアやお前の婚約者じぇねぇ。最初から------」
「貴方だったのよリアスくん?」
俺の胸から剣が飛びだしてくる。
避けきれなかった。
しかもこれは魔力体の核部分だろ。
最悪だ。
「精神的な要のお前が落ちれば、知らないうちに瓦解する」
「貴方が一人になったときは、わたし達やりやすかったよ。ありがとっ!」
剣を抜くや否や、俺を蹴り飛ばす。
もうあと数秒もしなうちに俺は退場だろう。
だが、一矢報いるためにグランベルだけでも
「ライトニング------」
「やらせると思うか?」
グランベルによって俺の魔力体の首と胴は完全に離れた。
これが死ぬって感覚か。
気分は最悪だ。
死ぬ前の前世を思い出す。
グランベルのやりきった感の笑みとリリィの不適な笑みを最期に、俺は通信機をオンにして全員に伝えなきゃいけない。
「悪いみんな。やられちまった」
そして俺の身体は待合室みたいな場所に飛ばされる。
ガーデルやパルバディはいないんだ。
ってことは待合室はお互いの陣営で分けられてるのか。
そう思いながらも、自分のやるせなさに俺は涙を流した。
つまり障害物だらけ。
決闘が始まって気づいたが、このフィールドではあらゆる索敵魔法が使用できない。
「ミラ、どうだ?」
「電磁パルスは使えるよ。どうやら索敵魔法だけが封じられてるみたいだね」
ミラの電磁パルスは類等で言えば雷魔法だが、索敵魔法に分類されてもおかしくないのにな。
別に俺が前世の知識を使って作ったわけじゃないから、この世界に始めから存在してる。
おそらく使える人間がいないからか、攻撃魔法と認識されたのか。
どちらかわからんけど、索敵魔法が使えないのは痛いな。
いや、そりゃそうか。
索敵魔法が使えたら標的を王に絞れちまうもんな。
「作戦を手短に考えよう。まずは王であるグレシアには、イルミナを付ける」
「かしこまりました」
「わたしは王だから、討たれた瞬間終わりだものね。貴方とグレイとミライはどうするのかしら?」
「個人的には俺がグランベルを受け持ち、ミラがリリィを受け持ってほしいんだよな」
「いいよ、任せて!あの間女はボクが鉄鎚を降すよ!」
『彼女は何かあると思います。私はミライについて行っても?』
「あぁ、任せたクレ」
「お、オレはどうする!」
グレイは剣術の授業ではグランベルの次に強かった。
だとすると、パルバティやガーデルと鉢合わせてもなんとかなるはずだ。
「おそらくアルバートは護衛にリリィを置くはずだ。ミラについていってアルバートを狙い撃て」
「元からそう言う話だったもんな。わかったぜ」
「俺はグランベルを探す。他の二人は出来る限りは対処するが基本的にスルーするから、四人とも気を付けてくれ。あ、それと・・・」
そして俺は収納魔法を使ってあるモノを取り出す。
俺がジノアと特産品作成巡りをしていた中で、便利だなーって出来のものが一つあった。
それがこれ。
電気のみを発する魔法石から作り出した通信アイテムのイヤリングだ。
欠点があるから、試作品の段階で完成次第その領地に届ける約束をしていた。
耳に穴を上げずにセットできるし、全員にこれを渡した。
「これ、魔力を通すと身につけてる全員に声が通るからな。誰かと遭遇したらこれで連絡してくれ」
「「了解」」
「よし、じゃあ行くぞ」
作戦が決まったところで俺達は散らばる。
固まっててもいいことはない。
一見これは王をとれば勝利にも見えるが、別に王を取らなくても他四人を倒せれば、それで試合は終わる。
つまり一発で終わらないためにも、散らばる作戦は悪くない。
それにしても索敵魔法が効かないのは本当に不便だ。
とりあえず浮遊して、上空から様子を見よう。
そこそこ高いビルから辺りを見回すと、パルバティとガーデルの姿が見える。
あんな堂々と歩いて談笑しながら探すって、こいつらアホか。
「後回しでいいなあいつらは。でも一応、こちらリアス。スタート地点から十時の方向にパルバティとガーデルを発見~。剣を投げつけたあと離脱するから、そっち側警戒しといてー」
『ミライ了解だよ』
『イルミナ了解』
『オ、オレも把握したぜ』
『ペアが言えばいいんだから返事しない』
グレイのやつガチガチだな。
まぁ決闘なんてそれが普通の態度なんだよな。
俺は持ってる剣を投球フォームに倣って二人に向けて投げつける。
まぁ流石に当たらないだろうけどな。
結構距離あるし。
とりあえず剣邪魔くさかったし、当たればいいかな程度での行動だったが、事態は思いもよらぬ方向に転がった。
「な、なんだ!?」
「ガーデル様、剣が飛んできます!」
「え、えぇ!?パルバティどうにかしろ!」
「む、無理です!」
えぇ・・・
パニックを起こしながら、何故か剣に向かっていくパルバティ。
そして自らその剣に身を投げ出し、魔力体の心臓部分の核に直撃する。
するとパルバティが激しい光と共にどこかに消えてしまった。
『パルバティ選手脱落です。アルバート殿下のメンバーは残り四人となりました』
シャルル先生が現在の状況を俺達に知らせてくれるのか。
正確には俺達じゃなく会場の人たちにだけど。
「パ、パルバティィィイ!!!おのれぇぇえ!誰だ剣を投擲してきた奴は!許さんぞ!」
「はぁ、思ってるよりこいつらは実践慣れしてないのかもな」
俺はどうせだからガーデルもついでに倒そう。
そう思って地上に降り立った瞬間、背後からものすごい殺気が俺を襲った。
突然のことで振り返るのが遅れる。
「リアス・フォン・アルゴノートぉぉ!」
「グランベル!ちっ!」
グランベルの実力と振り返るのが遅れた所為もあって、剣撃こそ避けれてるが反撃の機会が生まれない。 風魔法:エアシューズで一旦空中に留まる。
持続時間が少ないから仕切り直しにしか使えないけどな。
「くそっ、降りてこい!」
「リアスだ。グランベルと交戦開始」
『了解。ボクとグレイもリリィと交戦開始したよ』
『アルバートは一緒じゃないみたいだ。そっちにいるかもしれないから注意してくれ』
リリィと!?
アルバートがいる可能性があるなら、俺は3対1での闘いを強いられるのか。
グレシアとイルミナを呼ぶか?
いや、王を呼ぶのは早計か。
そう考えてるうちにエアシューズの効力が切れると俺は自由落下していく。
下には今か今かと待ち構えているグランベル。
「りょーかいっ!」
「ふんっ!」
風魔法:真空波と奴の剣が打ちあう。
ありゃ、さすがに剣聖の息子の剣。
くそかてぇ!
けどこの隙が命取りだ!
俺はグランベルの顔面を鷲づかみにする。
「がっ!」
「もらいだ。魔力体は素手でも壊れるって知ってたか?」
「ちっ!」
忌々しそうに言うが、口元が笑っているのを俺は見逃さない。
「貴方が素手で闘うことは、ガラン様から予め伝えられてるんですよ!はぁっ!」
後ろのやつすっかり忘れてたよ。
ガーデルのこと実はあまり知らないんだよな。
でも一つわかる。
こいつを残しておけばグランベルと闘いやすいってことは。
「よっと」
しかし避けた瞬間に腕を迷わず切り落としに来るグランベルに、思わず顔面を掴んでいた手を離してしまった。
「な、なんだと!?死角からの攻撃を避けた!?」
「・・・」
味方のグランベルですら呆れてる。
いや、俺も呆れたよ。
死角からの攻撃を避けた!?じゃねぇよ。
そうやって宣言されたら普通に気づくはバカ。
「ガーデル。邪魔だからグレシアを探せ」
「な、何を言う!!二人でこいつを倒した方が楽だろう!」
「足手まといだ。気づかないか?お前を残すことで、こいつはゲームメイクしようとしてる。ていうかお前が思ったよりもバカだと思ってなかった」
額に手を当てて呆れた顔をするグランベル。
だろうな。
こいつがやったことは二つ。
大きな隙を作ったのに無駄にしたことと、俺が素手で闘うことを周知していることをバラしたこと。
「な、舐めた真似を!グランベル、私を援護しろ!」
「はぁ・・・お前らってホントバカだよな!」
そう言いながら俺に剣を振りかざしてくる。
結局共闘か?
こっちとしては、ガーデルが馬鹿なことをしする方が助かる。
けどさすがに真正面からの攻撃は、避けるぞ?
しかしこいつの狙いは俺ではなかった。
避けた瞬間にグランベルは止まることなくガーデルに向かって剣を振り下ろした。
致命傷・・・つまり------
「な・・・」
「お前の親は、お前の育て方を間違えたと思うよ」
ガーデルはその場で霧散し退場した。
やられた。
ガーデルがいれば俺の実力を隠す余裕が出来て、この学園での立ち位置がそこまで変わらなかったのに。
まぁなんだかんだ教師と仲良くしてるのもあって、グランベルの母親のセミール先生にも評価されちまってるが。
『あ、え、ガーデル様脱落です。残りアルバート殿下のメンバーは三人となりました』
シャルル先生困惑してるよ。
前代未聞だろこれ。
「さて仕切り直しと行こう」
「仲間を倒すなんて正気か?」
「邪魔だったからな。俺の楽しみは母上の攻撃を避けれる貴様だ」
こいつのイメージがなんか少し変わった気がする。
この前セミール先生を諫めてたのは、自分の評価を下げて取り巻きから外されないようにか?
アルバートが王になったら、媚びを売っとけば騎士団でも良いポジションに就くことが出来るからな。
なるほど、まともに闘いたくないな。
戦闘狂だ。
それも手段を選ばないタイプの。
「この前のセミール先生の時とは大違いだな」
「あれはアルバートの機嫌を損ねると後の出世に響きそうだったからな」
様付けもやめてる。
俺の前だから、それともアルバートに見切りを付けたかは知らないが。
「だがまぁ、こんなことをやらかしてエルーザ陛下が、アルバートを皇太子に選ぶ可能性は低くなった。だからここでは好きに闘わせてもらう」
「アルバート以外皇太子候補はガランくらいだがどうなんだ?」
「おいおい、ここでしらばっくれるなよ。ジノア様が皇太子候補になろうとしてんだろ?グレシアがあんな尻軽な訳じゃ無いし、ジノアも一緒に貶めようとしてるところからそれくらいわかるぜ」
グランベルは取り巻きの頭脳でもあるのか?
というか、他が馬鹿すぎるだけか?
シナリオではこいつもグレシアに婚約破棄を突きつけていたが、ちょっとでも考えればそれがどういったことを生むかわかりそうなもんなのに。
どっちにしても、こいつはまともな思考ができる分面倒だな。
「まぁ、話はこれくらいにして殺り合おうぜ?」
ガーデルが持っていた剣を拾い上げる。
こいつ二刀流か。
二刀流は一本より二本の方が強いと思われがちだが、剣はそれなりに重いし片方は利き腕じゃないからどうしても扱いが雑になる。
だったら盾を使った方がまだいい。
逆に言えばそれでも二本で持つって事は、扱いに慣れてるって事だ。
「行くぜオラァ!」
「ちっ、スローウィンド!」
スローウィンドをバックターンで避けて、横から俺に斬りかかるグランベル。
人間相手でそれなりの手練れだとスローウィンドはあまりヒットしない。
「エアシューズ!」
「また空飛ぶ気か!だがこっちだってそう易々と逃げられて溜まるかよ」
こいつマジかよ。
壁を使って上手いこと俺のことを追って来やがった。
だったら自由落下じゃなく下に逃げれば良いだけだ。
「逃げてたらなにも出来ねぇぞ!」
「あぁ、その通りだ。ハイドロバングル!」
「水魔法!?ちっ!」
水魔法のハイドロバングルは、水を推進力を付けて発射させたモノ。
つまり剣で防げたとしても、勢いは止まらず分散するだけだからグランベルは避けた。
そしてそれが俺の狙い。
「ライトニングスピア!」
「トリプルかよ!」
ライトニングスピアは雷魔法で、剣で受ければ感電してしまう。
そして一度避けたことによってバランスを崩したグランベルは、これを防ぐ要素がない。
「土魔法:腕の壁」
腕の形をした壁が至るところから生えてきた。
土魔法:腕の壁は、地面から腕を生やす中級魔法。
中級魔法を使えるのかよ。
ってことはこいつは------
「魔剣士・・・」
思わず声が出た。
剣術ばかりに目が行っていたが、こいつは魔法を使える剣士。
魔剣士だったな。
ゲームでは一周目のグレシア戦で魔法を使って共闘してたのに、どうして忘れてたんだ。
「驚くのははええぞ!」
「驚いてねぇよ!」
土の壁を寧ろ利用して距離を取ってやる。
剣がメインってことは、攻撃系の魔法のキレはそこまでってことだ。
チクチクと遠距離から攻撃して落とす。
「トルネード、更にライトニングスピア!」
複合魔法は使わない。
これを大衆に見せる訳にはいかないしな。
だから純粋なライトニングスピアとトルネードだ。
トルネードで土の壁を壊したあとにそのままライトニングスピアが当たるはずだ。
「驚くのは早いって言っただろうが!」
「上!?」
トルネードが土壁にたどり着くと同時に上から声がするから咄嗟に上を向くが、何も無い。
見えるのは、音声装置。
俺が作った録音機だ。
しまった、誘導か!
「ガーデルみたいな馬鹿な真似俺はしない!」
「距離をせっかく取ったのに詰められるか!」
出来れば接近戦はしたくなかったけど、しょうがないだろこれは。
グレシアの国外追放が罹ってるんだ。
俺の保身なんて後回しだ。
至近距離で剣を振り回すグランベルに対して、俺は剣戟を避けながら腹に蹴りを入れ込む。
早いから魔力体が傷ついた。
「やっぱ本来のスタイルは肉弾戦か!いいねいいね!男はそうでねぇと!」
「この戦闘狂が!決闘を楽しんでんじゃねぇよ!」
右から振り下ろす剣の棟を手でたたき落とし、そのまま左から振り上げてくる剣を足で止める。
そしてこの距離ならライトニングスピアは避けられまい。
「終わりだ!ライトニングス------」
『リアスくん!すごい勢いでリリィがそっちにいった!気を付けて』
リリィ!?
後方からドンドンドンっと激しい爆発音がしてくる。
後ろから来るか!
ライトニングスピアをそのまま放ち、グランベルを退場させてからリリィを迎え撃てば問題ない。
「その一瞬の判断が命取りになるって知ってるか!」
「あぁ、知ってるとも!」
ライトニングスピアをグランベルに撃ち放つが、グランベルは予め拾ったの剣を前に飛ばしていた。
ほんの一瞬でここまで先読みするのかこいつは。
おかげで剣とライトニングスピアが乱反射して、グランベルには直撃しない。
ここでこいつはここぞとばかりに攻めるペースを速めてきた。
くそっ!こいつの対処に追われてたら後ろからのリリィの攻撃に対処しきれない。
速い!
「お前がグループのリーダーみたいなもんだろ?」
「なんのことだか?」
「俺達の狙いはグレシアやお前の婚約者じぇねぇ。最初から------」
「貴方だったのよリアスくん?」
俺の胸から剣が飛びだしてくる。
避けきれなかった。
しかもこれは魔力体の核部分だろ。
最悪だ。
「精神的な要のお前が落ちれば、知らないうちに瓦解する」
「貴方が一人になったときは、わたし達やりやすかったよ。ありがとっ!」
剣を抜くや否や、俺を蹴り飛ばす。
もうあと数秒もしなうちに俺は退場だろう。
だが、一矢報いるためにグランベルだけでも
「ライトニング------」
「やらせると思うか?」
グランベルによって俺の魔力体の首と胴は完全に離れた。
これが死ぬって感覚か。
気分は最悪だ。
死ぬ前の前世を思い出す。
グランベルのやりきった感の笑みとリリィの不適な笑みを最期に、俺は通信機をオンにして全員に伝えなきゃいけない。
「悪いみんな。やられちまった」
そして俺の身体は待合室みたいな場所に飛ばされる。
ガーデルやパルバディはいないんだ。
ってことは待合室はお互いの陣営で分けられてるのか。
そう思いながらも、自分のやるせなさに俺は涙を流した。
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