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三章
ダメダメ学園長と教皇の介入
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決闘とは神に誓いを立てて行う神聖なモノでもある。
なんでも教会が決闘制度に一枚噛んでると噂で、決闘に対してそぐわない行為を行うと神に仇なすモノとされ、信徒から外されてしまう。
帝国民のほとんどが信徒であり、信徒から外されるということは人権を外されるにも等しい状態になることを示していた。
決闘前にはお互い対等なモノを賭ける必要があった。
それが嫌なんだろうなあいつは。
その歪んだ顔が見れただけでも十分だが、そこに水を差す人間が現れる。
「良いではありませんか兄上。これで面倒ごとを一気に片付けることができますよ」
「ガラン・・・そうだな。ふっ!後悔しろグレシア!よりにもよって我が弟に手を出す尻軽女が!」
ブーメランって言葉がふさわしい。
ていうかグレシアは無実だし、こいつはリリィと浮気してた事実があるし、どっちがだよって感じ。
しかしガランまで来るとは。
「決闘では対等のモノを賭けることができます。どうでしょう?兄上の婚約者として不貞してる以上国外追放が妥当だと考えますが」
「それはあまりにも横暴では!?」
イルシア先輩が抗議するが、そんなことなんのそのと無視するアルバートとガラン。
先輩が何を言っても、妹のことだからと片付けてしまえるからこれ以上叫いてもしょうがないと、イルシア先輩も黙った。
手から血が出るほど握りしめて。
「それでいいだろう。グレシア覚悟しろ!」
「グレシア嬢もなにか賭けると良い。決闘は対等なモノを賭ける事が出来ますからね!」
この学園の決闘ではお互いに対等と思われるモノを賭ける。
グレシアは冤罪で国外追放させられることにして対等な材料を請求することができる。
「私は何も賭けませんよ」
「なんだと?」
「私の真実は間違いありません。だとしたら、貴方たちが賭けたモノでは釣り合いませんから」
ガランはアルバートに耳打ちし忌々しそうにこちらを睨みつけてくる。
「神聖な決闘である以上、何も賭けないと言うわけにはいかない!なにか賭けろ」
何も賭けないことは、負けた場合により一層不名誉な物となる。
ガランはそれを伝えたのだろう。
「そうですね。では強いて言うならば、婚約白紙を条件と致しましょうか」
「なにっ!?」
「今までは貴方を立てて、貴方の行いを飲み込んで我慢してましたが、その仕打ちが公の場での婚約破棄宣言と国外追放を賭けた決闘。流石に呆れてしまいます」
「貴様!」
「わたしは貴方のために、そして皇妃になる為の教育をこの学園に入るまで、血の滲む思いでやってきたのです。しかしこのような愚行や、入学式でのパーティの件。貴方は帝には相応しくない」
かなり強気に出るなグレシア。
恨み言を吐いてたゲーム内のグレシアとは別人だと言うことがよくわかる。
あいつは顔を真っ赤にして、今にも怒り出したいのを我慢してるんだろうな。
「言うじゃないか尻軽女!」
「えぇ、そこの聖女様と浮気していた貴方には言われたくないですけどね」
「酷いよグレシア!わたしはアルくんと仲良くしてるだけなのに!」
「そうだ尻軽女!彼女はお前と違って美しい心と清い身体をしている!」
グレシアも清い身体をしてると思うけどな。
リリィの発言は、弁明になっていないと思う。
「言いたいことはそれだけですか?それだけなら、早く決闘を始めましょう」
「ふんっ!決闘の内容は決めてある!王取り戦だ!」
あたりの生徒が騒めく。
当然だろう。
俺だって驚いた。
決闘には三つのルールがある。
当事者同士で行う単純な一騎討ち。
しかしこれは同性の場合では行われない。
その場合二つ目以降のルールとなる。
二つ目が、5人1組での1対1の勝ち抜き戦。
これは一つ目が行えない場合のため、同性同士の決闘になる。
そしてもう一つが王取り戦と言うルール。
これは過去一度しか行われたことがないルールだ。
王取り戦も5人1組のスタンスは変わらない。
違うのは1対1の闘いではなく、5人が同時に行うチーム戦であり、性別に制限もない。
この決闘では役職が存在し、王が1人と臣下が4人だ。
王は決闘の当事者同士となり、臣下は好きな4人を当事者達が指名できる。
王が討たれるか臣下4人が全滅した時点で敗北だ。
決闘場には10人が同時に魔力体で転送され、魔力体が破壊されると待機室で決闘が終わるまで待つことになる。
この決闘の肝は男女が関係なくなること。
つまり決闘相手が異性だとしても、自らの手で相手に手を下すことができること。
アルバートはグレシアを自らの手で潰したい、或いはリリィを参加させたい。
思惑は色々とあるだろうけど、確実な奴らの都合だろう。
「王取り戦ですか。こちらは男性の代理人は3人しか当てがないので、貴方にとっては不利な内容になりますよ?」
「は!?ガラン!」
「構いませんよ」
ガランの入れ知恵か。
だけどわからないな。
なんでガランはわざわざ不利になるようなことを提案している?
これまでの手腕から勝ち抜き戦で代理の人数の情報を先に仕入れてるはずだ。
普通に考えたら人数の優位さで勝る勝ち抜き戦を選ぶ。
それにも関わらず王取り戦を選んだと言うことは、王取り戦に自信があるか或いは------
『どこで漏れたか知らないですが、おそらくリアスやミライ、イルミナの実力は彼らに知られてると見て良いです』
「なるほどな」
「ちょ、ちょっと待て!」
そう声を張ってこっちに走ってくる老人と初老の男性。
なんとか学園長と俺達の担任の副学園長のシャルル先生だ。
俺達のクラスはアルバートという問題児がいて苦労をかける。
ていうか生徒同士で決闘を行おうとしてたら、そりゃ焦ってこっち来るよな。
「リアス、この騒ぎは・・・」
「はぁ、タイミング最悪ですよ。もう決闘は成立したところです」
「やはりか。プラムくんが恐らく決闘になるという可能性を示唆して急いで駆け付けたんだが・・・」
プラムはプラムなりにグレシアの心配をしてくれたのか。
わざわざありがたい話だ。
肝心のプラムはっと・・・お、いたいた。
アルナも一緒か。
不安そうにこっちを見てるから少しだけ手を振ってやるか。
二人とも手を振り替えしてくれた。
「リアスのいうとおり少し来るのが遅いです」
「そうだなアルスナー。俺はこいつに手袋を投げつけ、こいつはそれを拾った。決闘を承諾したということで間違いないな?」
「それはそうです・・・ね。はぁ、わかりました。では決闘は執り行------」
「副学園長!これはいけませんぞ!生徒同士、しかも皇族と公爵令嬢が決闘だなんて儂は認めん!」
この学園長は入学式の答辞のときにも胡散臭いと思ったが、もしかして世間知らずなのか?
万が一決闘が受諾されなかった場合、別の問題が浮上するだろう。
これがアルバートが手袋を投げる前や、グレシアが拾う前なら話は違った。
しかし決闘はもう成立してしまったのだ。
ここで決闘を執り行わない場合、アルバートとグレシアは教会から勘当されてしまう。
つまり信徒では無くなるのだ。
決闘の賭けの内容よりも、重たい枷を負わせようとしている。
「学園長のやり方は平等と言いながら、自分が責任を負いたくないってことか。平等を詠う学園長が聞いて呆れるな」
「リアス様の言うとおりですね。わたし的にはがっかりです」
「入学式の時から胡散臭いと思ってたけど、やっぱりそう言う人なんだね。つまり平等って詠うのは貴族と平民の問題の責任を負いたくないってだけの方便なんだね。悪くないと思う。ボクも見習いたいよ」
皮肉めいて笑いながらいうミラの目は、笑ってはいなかった。
軽蔑の目を向ける。
生徒の人権よりも自分の体裁を優先したという事実は変わらない。
無知は罪というが、知らぬ存ぜぬでは通らないこともある。
「シャルル先生、この人のいうことは聞かなくて良いですよね?」
「貴様!儂は学園長だぞ!例え決闘を執り行うとしても、絶対に学園の施設は使わせんからな!」
あぁ、こいつは単純に考える頭の無い無能か、もしくはお飾りか。
一応、決闘は学園の制度だ。
学園外での決闘は最早殺し合いとなる。
そうなった場合、学園施設を封鎖した学園長に責任が行き、結果として決闘を穢したあげく、生徒に命懸けの闘いを強いた男として、責任問題は俺でも計り知れない。
「学園長が保守的な人間ということは、事前に調査済みです兄上。教皇!」
ガランが呼ぶと、いかにも司祭という姿をした男性が歩いてくる。
教皇、マカロフ・イシュタル。
ゲームでもよくみたヴィジュアルだ。
学生の決闘のためにわざわざ教皇を呼んだのか。
いや、聖女が関わってるなれば不思議でもないか。
クレの殺気が痛すぎる。
毛を逆立ちにして、明らかに敵意を向けている。
そりゃそうか。
精霊契約の儀の諸悪の根源の可能性のある輩だもんな。
俺は小声でクレに耳打ちする。
「落ち着けクレ」
『わかっています・・・』
「リグルド学園長?決闘を認めないとはどういうことですかね?」
学園長の名前リグルドっていうのか。
名前なんだっけなんだっけって、思ってたけどやっと思い出せてすっきりした。
「こ、これは教皇様・・・」
すぐに片膝を突いて頭を垂れる学園長。
さすがに俺達も学園長に倣って頭を垂れた。
教皇と今揉めても良いこと無いしな。
だからその痛い殺気を止めてくれクレ。
どうして教皇もこの殺気に気づかないんだよ!
「そんなことは良いのです。聞いています。決闘を認めないとはどういうことですかね?」
「そ、それは生徒同士が決闘を行うのはあまりよろしくないかとお思いまして・・・・」
「たったそれだけで、神聖な決闘を邪魔したその意味がわかって言っておりますか?」
「そ、そのような事はございません」
さすがにこの場にいる全員が唖然としてしまった。
萎縮していた所為なのかしら無いが、言葉のキャッチボールが出来ていないのか、それとも単純に嘘を吐けない性格なのか。
リグルド学園長は、邪魔した意味がわかっているかの問いに、わかっていないと応えたのだ。
クスクス笑い出す者までいる始末。
「そうですか、わかっていないのですか」
「あ、いえ、その。これは言葉の綾と言いますか・・・」
「良い。貴様は今日をもって、神の信徒では無くなった!マリンエッジよ、そのことを教国の国王様に伝え大々的に公表しろ」
「畏まりました」
教国、正式名称をフェアリートゥース教国。
全世界の教会機関のトップだ。
花そそでは、主人公のために必要な施設の利用や、武器の強化などあらゆるシステムの設定に、教国から援助されているとあった。
教皇も、精霊ガチャでの契約シーンに何度も登場しており、花そそでは密接した関係だ。
逆に言えば、信徒で無くなった以上、そのあらゆるシステムが利用出来なくなると考えるとつらいモノがある。
更に加えて人権も無いに等しくなるとなれば、人生エクストラハードモードに突入と言っても過言では無いだろうな。
「そ、そんな・・・」
「け、決闘を行う両者とも模擬修練場へ。ここからはだらしない学園長に代わり取り仕切る。もちろん王取り戦と言うことで、当事者以外も四人まで同行することを認める!」
アルバートは勝ち誇った顔で、こちらにニヤリと笑みを向け模擬修練場へ歩き出す。
それに追随してリリィ、パルバディ、ガーデル、グランベルも続く。
俺達は事の一部始終をシャルル先生に伝えた。
さすがに取り仕切る人間が、状況を把握してないのは色々と問題だろう。
「済まない。私がもう少し早く駆け付けていれば・・・」
「先生は悪くないですよ。ちょうど良いですし、彼らにでかい顔させないくらいボコしてやりましょう」
「そうは言うが、決闘のメンバーって他は誰を選ぶんだ?リアスとミライとイルミナ、あとはアルナか?」
「グレイに決まってるじゃない」
「は!?俺!?」
「お前は英雄の息子だろ。何を惚けたこと言ってるんだよ」
なんでアルナだと思ったんだ?
実力的にはグレイよりもアルナのが良いかもしれないが、グレイは別の意味で必要だ。
ある意味俺達三人よりも重要と言える。
例えこの決闘に勝利したとしても、後ろ指を指される可能性が高い。
いくら教皇の立ち合いと言っても、この学園にずっと教皇がいるわけではない。
いずれ決闘に不正を行ったのなんだの、必ずケチを付ける輩は出るはずだ。
英雄の息子がグレシアの手助けをしたとなれば、ケチを付ける人間も少なくなるはずだからな。
「でもリアス、グランベルは強敵で、リリィは聖女で実力は未知数よ?」
「そうだよね。ていうか、このルールはリアスくんが彼ら四人を一方的に倒せないように仕組まれたようにも思える」
グレシアの言うとおり、あの中でグランベルとリリィは油断ならない。
グランベルは剣聖の息子と言うだけあり、剣術の実力は授業でも見ていたがかなりのモノだ。
そしてリリィもまた、剣術はグランベルと互角に打ち合える。
しかし彼女は剣術の授業で、魔法を見せていない。
つまり魔法ありの決闘ではどれだけの力を秘めているか、想像もできないのだ。
「問題はリアス様の実力がどこから洩れたって話ですね・・・」
「み、みんなー!」
ジノアが走ってこっちに来る。
後ろからめっちゃだらしない騎士が追随してる。
それにしても来るのが早いな。
来るとは思ったが、決闘が終わったあとくらいにひょっこり現れると思って居た。
「ジノア、早いな」
「じ、ジノア皇子!?こ、これはこれは、学園に何用で?」
野次馬達も模擬修練場へ足を運んでいったため、この場には俺達しかいない。
事情を知らないシャルル先生はすぐに深々と頭を下げた。
「あ、今はそういうの良いから」
「ジノア様~どうやら間に合わなかったっすねー」
「間に合わなかった?事情を知ってるのかジノア?」
ジノアはこのことを知っていてトラブルを止めに来たってことか?
ていうかこの騎士、皇族の前なのにクソやる気ねぇな。
俺もジノアから良いと言われたとはいえ、皇族にタメ口使ってるから人のことは言えないが。
「そうだよ。ホウエルが朝急いで僕に知らせてくれたんだ。アルバート兄上がグレシアと僕の写真を持って、上機嫌に出ていったと。この感じだと・・・」
ホウエル?
たしかガランの側近騎士じゃ無かったか?
どうして側近が、ガランの意思とは別に動いてるんだ?
ていうか、思ったがガランの奴護衛連れてたか?
まぁ今はそんなこと考えてる余裕もないが。
「あぁ、グレシアは婚約破棄を突きつけられた上に、決闘を申し込まれた。そして俺達が負けた場合、グレシアは国外追放だ」
「なんてことを・・・」
「俺はお前達のことを信じてる。なんだかんだとリアスは俺を救ってくれた。妹も、グレシアも救ってくれ」
「俺一人じゃ無理ですが、俺達5人ならなんとかなるでしょう。な?」
「もちろん、ボクはグレシアのことを虐める奴らには容赦しないよ!」
「わたし達が、この手で彼らを倒します」
「お、俺が代理人で良いのかな。なぁ!なぁあああ!」
「うるせぇグレイ!」
「いってぇ、てめぇ!俺はてめぇらとくぐった修羅場がちげぇんだよ!」
「同い年だろうが!こういう意気込みでマイナステンションにされると士気が下がるんだよ!グレシアは幼馴染みだろ。お前が一番率先してなんとかするって言わないでどうすんだ」
グレイはグレシアのことを大切にしてる。
何よりもこいつが味方であることが、グレシアにとっても安心に繋がるだろうに締まらないことしやがる。
「グレイ、貴方のこと信じてるからね。ちゃんとアルバート様を倒してきなさいよ!」
「おいおい・・・俺にそんな期待しないでくれよ」
「切り替えろ!最悪俺達はリリィ1人の対応に追われる可能性もあるんだ。そうなったらお前はアルバートを倒した方が勝率が高くなる。だからそうなったらお前便りだからな。頼むぞ」
「わ、わかったよ・・・」
不安な返事をするなよ。
とりあえず俺達は模擬修練場へ向かう。
どうやら会場はもう設定されていたようで、フィールドが展開されていた。
帝都の街に似た場所のようだ。
アルバート達は既に魔力体になっている。
魔力体な以上命は取れない。
そして決闘のルール上、魔力体が破壊されるとフィールドから強制退出され、待機所に行く使用になっている。
「こっちは準備出来ているぞ!早くお前達も準備をしろ!精々準備の間に首を洗っていろ!」
「4人とも、頼んだわよ」
「あぁ、行くぞ」
「うん!」
「はい」
「お、おう・・・」
俺達も魔力体になり、模擬修練場のフィールドに降り立った。
その瞬間フィールドは覆われ、観戦出来るように周りに椅子やら何やらが展開された。
まるで前世での野球場だな。
ゲームでは決闘が行われるシーンはなかったから、決闘でこうなるのは初めて見た。
想像していた形とは違うが、婚約破棄イベントだ。
今は何も考えずに目の前の闘いに集中しよう。
シャルル先生の声が変声期のようなモノから聞こえてきた。
『あー、あー、それでは今からアルバート殿下とグレシア公女の決闘を開始致します。ルールは王取り戦。お互いの提示した賭けの内容はアルバート殿下はグレシア様の国外追放、グレシア様は、アルバート殿下との婚約を白紙に戻すことです。どちらも了承しましたら、宣言の方をお願い致します』
「もちろんだ。覚悟しろグレシア」
「はい、了承致しました」
2人の声が契約魔法へと変換される。
これでお互い負けた場合は、契約魔法が作用し何を叫こうとも実行しないといけなくなった。
『契約魔法が交わされました。それでは王取り戦開始致します!』
シャルル先生の宣言と共に、決闘が開始された。
なんでも教会が決闘制度に一枚噛んでると噂で、決闘に対してそぐわない行為を行うと神に仇なすモノとされ、信徒から外されてしまう。
帝国民のほとんどが信徒であり、信徒から外されるということは人権を外されるにも等しい状態になることを示していた。
決闘前にはお互い対等なモノを賭ける必要があった。
それが嫌なんだろうなあいつは。
その歪んだ顔が見れただけでも十分だが、そこに水を差す人間が現れる。
「良いではありませんか兄上。これで面倒ごとを一気に片付けることができますよ」
「ガラン・・・そうだな。ふっ!後悔しろグレシア!よりにもよって我が弟に手を出す尻軽女が!」
ブーメランって言葉がふさわしい。
ていうかグレシアは無実だし、こいつはリリィと浮気してた事実があるし、どっちがだよって感じ。
しかしガランまで来るとは。
「決闘では対等のモノを賭けることができます。どうでしょう?兄上の婚約者として不貞してる以上国外追放が妥当だと考えますが」
「それはあまりにも横暴では!?」
イルシア先輩が抗議するが、そんなことなんのそのと無視するアルバートとガラン。
先輩が何を言っても、妹のことだからと片付けてしまえるからこれ以上叫いてもしょうがないと、イルシア先輩も黙った。
手から血が出るほど握りしめて。
「それでいいだろう。グレシア覚悟しろ!」
「グレシア嬢もなにか賭けると良い。決闘は対等なモノを賭ける事が出来ますからね!」
この学園の決闘ではお互いに対等と思われるモノを賭ける。
グレシアは冤罪で国外追放させられることにして対等な材料を請求することができる。
「私は何も賭けませんよ」
「なんだと?」
「私の真実は間違いありません。だとしたら、貴方たちが賭けたモノでは釣り合いませんから」
ガランはアルバートに耳打ちし忌々しそうにこちらを睨みつけてくる。
「神聖な決闘である以上、何も賭けないと言うわけにはいかない!なにか賭けろ」
何も賭けないことは、負けた場合により一層不名誉な物となる。
ガランはそれを伝えたのだろう。
「そうですね。では強いて言うならば、婚約白紙を条件と致しましょうか」
「なにっ!?」
「今までは貴方を立てて、貴方の行いを飲み込んで我慢してましたが、その仕打ちが公の場での婚約破棄宣言と国外追放を賭けた決闘。流石に呆れてしまいます」
「貴様!」
「わたしは貴方のために、そして皇妃になる為の教育をこの学園に入るまで、血の滲む思いでやってきたのです。しかしこのような愚行や、入学式でのパーティの件。貴方は帝には相応しくない」
かなり強気に出るなグレシア。
恨み言を吐いてたゲーム内のグレシアとは別人だと言うことがよくわかる。
あいつは顔を真っ赤にして、今にも怒り出したいのを我慢してるんだろうな。
「言うじゃないか尻軽女!」
「えぇ、そこの聖女様と浮気していた貴方には言われたくないですけどね」
「酷いよグレシア!わたしはアルくんと仲良くしてるだけなのに!」
「そうだ尻軽女!彼女はお前と違って美しい心と清い身体をしている!」
グレシアも清い身体をしてると思うけどな。
リリィの発言は、弁明になっていないと思う。
「言いたいことはそれだけですか?それだけなら、早く決闘を始めましょう」
「ふんっ!決闘の内容は決めてある!王取り戦だ!」
あたりの生徒が騒めく。
当然だろう。
俺だって驚いた。
決闘には三つのルールがある。
当事者同士で行う単純な一騎討ち。
しかしこれは同性の場合では行われない。
その場合二つ目以降のルールとなる。
二つ目が、5人1組での1対1の勝ち抜き戦。
これは一つ目が行えない場合のため、同性同士の決闘になる。
そしてもう一つが王取り戦と言うルール。
これは過去一度しか行われたことがないルールだ。
王取り戦も5人1組のスタンスは変わらない。
違うのは1対1の闘いではなく、5人が同時に行うチーム戦であり、性別に制限もない。
この決闘では役職が存在し、王が1人と臣下が4人だ。
王は決闘の当事者同士となり、臣下は好きな4人を当事者達が指名できる。
王が討たれるか臣下4人が全滅した時点で敗北だ。
決闘場には10人が同時に魔力体で転送され、魔力体が破壊されると待機室で決闘が終わるまで待つことになる。
この決闘の肝は男女が関係なくなること。
つまり決闘相手が異性だとしても、自らの手で相手に手を下すことができること。
アルバートはグレシアを自らの手で潰したい、或いはリリィを参加させたい。
思惑は色々とあるだろうけど、確実な奴らの都合だろう。
「王取り戦ですか。こちらは男性の代理人は3人しか当てがないので、貴方にとっては不利な内容になりますよ?」
「は!?ガラン!」
「構いませんよ」
ガランの入れ知恵か。
だけどわからないな。
なんでガランはわざわざ不利になるようなことを提案している?
これまでの手腕から勝ち抜き戦で代理の人数の情報を先に仕入れてるはずだ。
普通に考えたら人数の優位さで勝る勝ち抜き戦を選ぶ。
それにも関わらず王取り戦を選んだと言うことは、王取り戦に自信があるか或いは------
『どこで漏れたか知らないですが、おそらくリアスやミライ、イルミナの実力は彼らに知られてると見て良いです』
「なるほどな」
「ちょ、ちょっと待て!」
そう声を張ってこっちに走ってくる老人と初老の男性。
なんとか学園長と俺達の担任の副学園長のシャルル先生だ。
俺達のクラスはアルバートという問題児がいて苦労をかける。
ていうか生徒同士で決闘を行おうとしてたら、そりゃ焦ってこっち来るよな。
「リアス、この騒ぎは・・・」
「はぁ、タイミング最悪ですよ。もう決闘は成立したところです」
「やはりか。プラムくんが恐らく決闘になるという可能性を示唆して急いで駆け付けたんだが・・・」
プラムはプラムなりにグレシアの心配をしてくれたのか。
わざわざありがたい話だ。
肝心のプラムはっと・・・お、いたいた。
アルナも一緒か。
不安そうにこっちを見てるから少しだけ手を振ってやるか。
二人とも手を振り替えしてくれた。
「リアスのいうとおり少し来るのが遅いです」
「そうだなアルスナー。俺はこいつに手袋を投げつけ、こいつはそれを拾った。決闘を承諾したということで間違いないな?」
「それはそうです・・・ね。はぁ、わかりました。では決闘は執り行------」
「副学園長!これはいけませんぞ!生徒同士、しかも皇族と公爵令嬢が決闘だなんて儂は認めん!」
この学園長は入学式の答辞のときにも胡散臭いと思ったが、もしかして世間知らずなのか?
万が一決闘が受諾されなかった場合、別の問題が浮上するだろう。
これがアルバートが手袋を投げる前や、グレシアが拾う前なら話は違った。
しかし決闘はもう成立してしまったのだ。
ここで決闘を執り行わない場合、アルバートとグレシアは教会から勘当されてしまう。
つまり信徒では無くなるのだ。
決闘の賭けの内容よりも、重たい枷を負わせようとしている。
「学園長のやり方は平等と言いながら、自分が責任を負いたくないってことか。平等を詠う学園長が聞いて呆れるな」
「リアス様の言うとおりですね。わたし的にはがっかりです」
「入学式の時から胡散臭いと思ってたけど、やっぱりそう言う人なんだね。つまり平等って詠うのは貴族と平民の問題の責任を負いたくないってだけの方便なんだね。悪くないと思う。ボクも見習いたいよ」
皮肉めいて笑いながらいうミラの目は、笑ってはいなかった。
軽蔑の目を向ける。
生徒の人権よりも自分の体裁を優先したという事実は変わらない。
無知は罪というが、知らぬ存ぜぬでは通らないこともある。
「シャルル先生、この人のいうことは聞かなくて良いですよね?」
「貴様!儂は学園長だぞ!例え決闘を執り行うとしても、絶対に学園の施設は使わせんからな!」
あぁ、こいつは単純に考える頭の無い無能か、もしくはお飾りか。
一応、決闘は学園の制度だ。
学園外での決闘は最早殺し合いとなる。
そうなった場合、学園施設を封鎖した学園長に責任が行き、結果として決闘を穢したあげく、生徒に命懸けの闘いを強いた男として、責任問題は俺でも計り知れない。
「学園長が保守的な人間ということは、事前に調査済みです兄上。教皇!」
ガランが呼ぶと、いかにも司祭という姿をした男性が歩いてくる。
教皇、マカロフ・イシュタル。
ゲームでもよくみたヴィジュアルだ。
学生の決闘のためにわざわざ教皇を呼んだのか。
いや、聖女が関わってるなれば不思議でもないか。
クレの殺気が痛すぎる。
毛を逆立ちにして、明らかに敵意を向けている。
そりゃそうか。
精霊契約の儀の諸悪の根源の可能性のある輩だもんな。
俺は小声でクレに耳打ちする。
「落ち着けクレ」
『わかっています・・・』
「リグルド学園長?決闘を認めないとはどういうことですかね?」
学園長の名前リグルドっていうのか。
名前なんだっけなんだっけって、思ってたけどやっと思い出せてすっきりした。
「こ、これは教皇様・・・」
すぐに片膝を突いて頭を垂れる学園長。
さすがに俺達も学園長に倣って頭を垂れた。
教皇と今揉めても良いこと無いしな。
だからその痛い殺気を止めてくれクレ。
どうして教皇もこの殺気に気づかないんだよ!
「そんなことは良いのです。聞いています。決闘を認めないとはどういうことですかね?」
「そ、それは生徒同士が決闘を行うのはあまりよろしくないかとお思いまして・・・・」
「たったそれだけで、神聖な決闘を邪魔したその意味がわかって言っておりますか?」
「そ、そのような事はございません」
さすがにこの場にいる全員が唖然としてしまった。
萎縮していた所為なのかしら無いが、言葉のキャッチボールが出来ていないのか、それとも単純に嘘を吐けない性格なのか。
リグルド学園長は、邪魔した意味がわかっているかの問いに、わかっていないと応えたのだ。
クスクス笑い出す者までいる始末。
「そうですか、わかっていないのですか」
「あ、いえ、その。これは言葉の綾と言いますか・・・」
「良い。貴様は今日をもって、神の信徒では無くなった!マリンエッジよ、そのことを教国の国王様に伝え大々的に公表しろ」
「畏まりました」
教国、正式名称をフェアリートゥース教国。
全世界の教会機関のトップだ。
花そそでは、主人公のために必要な施設の利用や、武器の強化などあらゆるシステムの設定に、教国から援助されているとあった。
教皇も、精霊ガチャでの契約シーンに何度も登場しており、花そそでは密接した関係だ。
逆に言えば、信徒で無くなった以上、そのあらゆるシステムが利用出来なくなると考えるとつらいモノがある。
更に加えて人権も無いに等しくなるとなれば、人生エクストラハードモードに突入と言っても過言では無いだろうな。
「そ、そんな・・・」
「け、決闘を行う両者とも模擬修練場へ。ここからはだらしない学園長に代わり取り仕切る。もちろん王取り戦と言うことで、当事者以外も四人まで同行することを認める!」
アルバートは勝ち誇った顔で、こちらにニヤリと笑みを向け模擬修練場へ歩き出す。
それに追随してリリィ、パルバディ、ガーデル、グランベルも続く。
俺達は事の一部始終をシャルル先生に伝えた。
さすがに取り仕切る人間が、状況を把握してないのは色々と問題だろう。
「済まない。私がもう少し早く駆け付けていれば・・・」
「先生は悪くないですよ。ちょうど良いですし、彼らにでかい顔させないくらいボコしてやりましょう」
「そうは言うが、決闘のメンバーって他は誰を選ぶんだ?リアスとミライとイルミナ、あとはアルナか?」
「グレイに決まってるじゃない」
「は!?俺!?」
「お前は英雄の息子だろ。何を惚けたこと言ってるんだよ」
なんでアルナだと思ったんだ?
実力的にはグレイよりもアルナのが良いかもしれないが、グレイは別の意味で必要だ。
ある意味俺達三人よりも重要と言える。
例えこの決闘に勝利したとしても、後ろ指を指される可能性が高い。
いくら教皇の立ち合いと言っても、この学園にずっと教皇がいるわけではない。
いずれ決闘に不正を行ったのなんだの、必ずケチを付ける輩は出るはずだ。
英雄の息子がグレシアの手助けをしたとなれば、ケチを付ける人間も少なくなるはずだからな。
「でもリアス、グランベルは強敵で、リリィは聖女で実力は未知数よ?」
「そうだよね。ていうか、このルールはリアスくんが彼ら四人を一方的に倒せないように仕組まれたようにも思える」
グレシアの言うとおり、あの中でグランベルとリリィは油断ならない。
グランベルは剣聖の息子と言うだけあり、剣術の実力は授業でも見ていたがかなりのモノだ。
そしてリリィもまた、剣術はグランベルと互角に打ち合える。
しかし彼女は剣術の授業で、魔法を見せていない。
つまり魔法ありの決闘ではどれだけの力を秘めているか、想像もできないのだ。
「問題はリアス様の実力がどこから洩れたって話ですね・・・」
「み、みんなー!」
ジノアが走ってこっちに来る。
後ろからめっちゃだらしない騎士が追随してる。
それにしても来るのが早いな。
来るとは思ったが、決闘が終わったあとくらいにひょっこり現れると思って居た。
「ジノア、早いな」
「じ、ジノア皇子!?こ、これはこれは、学園に何用で?」
野次馬達も模擬修練場へ足を運んでいったため、この場には俺達しかいない。
事情を知らないシャルル先生はすぐに深々と頭を下げた。
「あ、今はそういうの良いから」
「ジノア様~どうやら間に合わなかったっすねー」
「間に合わなかった?事情を知ってるのかジノア?」
ジノアはこのことを知っていてトラブルを止めに来たってことか?
ていうかこの騎士、皇族の前なのにクソやる気ねぇな。
俺もジノアから良いと言われたとはいえ、皇族にタメ口使ってるから人のことは言えないが。
「そうだよ。ホウエルが朝急いで僕に知らせてくれたんだ。アルバート兄上がグレシアと僕の写真を持って、上機嫌に出ていったと。この感じだと・・・」
ホウエル?
たしかガランの側近騎士じゃ無かったか?
どうして側近が、ガランの意思とは別に動いてるんだ?
ていうか、思ったがガランの奴護衛連れてたか?
まぁ今はそんなこと考えてる余裕もないが。
「あぁ、グレシアは婚約破棄を突きつけられた上に、決闘を申し込まれた。そして俺達が負けた場合、グレシアは国外追放だ」
「なんてことを・・・」
「俺はお前達のことを信じてる。なんだかんだとリアスは俺を救ってくれた。妹も、グレシアも救ってくれ」
「俺一人じゃ無理ですが、俺達5人ならなんとかなるでしょう。な?」
「もちろん、ボクはグレシアのことを虐める奴らには容赦しないよ!」
「わたし達が、この手で彼らを倒します」
「お、俺が代理人で良いのかな。なぁ!なぁあああ!」
「うるせぇグレイ!」
「いってぇ、てめぇ!俺はてめぇらとくぐった修羅場がちげぇんだよ!」
「同い年だろうが!こういう意気込みでマイナステンションにされると士気が下がるんだよ!グレシアは幼馴染みだろ。お前が一番率先してなんとかするって言わないでどうすんだ」
グレイはグレシアのことを大切にしてる。
何よりもこいつが味方であることが、グレシアにとっても安心に繋がるだろうに締まらないことしやがる。
「グレイ、貴方のこと信じてるからね。ちゃんとアルバート様を倒してきなさいよ!」
「おいおい・・・俺にそんな期待しないでくれよ」
「切り替えろ!最悪俺達はリリィ1人の対応に追われる可能性もあるんだ。そうなったらお前はアルバートを倒した方が勝率が高くなる。だからそうなったらお前便りだからな。頼むぞ」
「わ、わかったよ・・・」
不安な返事をするなよ。
とりあえず俺達は模擬修練場へ向かう。
どうやら会場はもう設定されていたようで、フィールドが展開されていた。
帝都の街に似た場所のようだ。
アルバート達は既に魔力体になっている。
魔力体な以上命は取れない。
そして決闘のルール上、魔力体が破壊されるとフィールドから強制退出され、待機所に行く使用になっている。
「こっちは準備出来ているぞ!早くお前達も準備をしろ!精々準備の間に首を洗っていろ!」
「4人とも、頼んだわよ」
「あぁ、行くぞ」
「うん!」
「はい」
「お、おう・・・」
俺達も魔力体になり、模擬修練場のフィールドに降り立った。
その瞬間フィールドは覆われ、観戦出来るように周りに椅子やら何やらが展開された。
まるで前世での野球場だな。
ゲームでは決闘が行われるシーンはなかったから、決闘でこうなるのは初めて見た。
想像していた形とは違うが、婚約破棄イベントだ。
今は何も考えずに目の前の闘いに集中しよう。
シャルル先生の声が変声期のようなモノから聞こえてきた。
『あー、あー、それでは今からアルバート殿下とグレシア公女の決闘を開始致します。ルールは王取り戦。お互いの提示した賭けの内容はアルバート殿下はグレシア様の国外追放、グレシア様は、アルバート殿下との婚約を白紙に戻すことです。どちらも了承しましたら、宣言の方をお願い致します』
「もちろんだ。覚悟しろグレシア」
「はい、了承致しました」
2人の声が契約魔法へと変換される。
これでお互い負けた場合は、契約魔法が作用し何を叫こうとも実行しないといけなくなった。
『契約魔法が交わされました。それでは王取り戦開始致します!』
シャルル先生の宣言と共に、決闘が開始された。
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