乙女ゲーのガヤポジションに転生したからには、慎ましく平穏に暮らしたい

茶坊ピエロ

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三章

ジノアの過去③

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 ジノアが意識を手放してから少し経った頃。
 湯浴みをしていると聞いてから、しばらく時間が経っているのに、いつまで経っても自分を呼びに来ないジノアに、アルアは何かあったのではないかと小走りで廊下を走っていた。
 そして倒れているセバスを発見する。

「セバス!?どうしたのセバス!?」

「ん?こ、これはこれはアルア様。はっ!私は一体・・・」

「セバス、あなたが倒れてたからびっくりしたのよ。ジノア様は?」

「は、え。記憶が混濁していました何とも。ジノア様!どこですか!」

 しかしその声に応える人間はいない。
 当然ジノアはいないからだ。
 アルアはすぐさま立ち上がり、ジノアの宿泊予定の部屋へ走る。
 それに追随しセバスも走らせる。
 部屋の警備をしている人物が気絶していたので、心配で扉を開けた時にアルアは絶句した。
 部屋では裸のジノアと、アルアと不仲で有名な伯爵令嬢のエヴァ・フォン・ジャガーヒルデが居たからだ。
 しかもエヴァの身体を見ると事後であることがわかる。

「アルア!」

「ジノア様・・一体ここで何をなされ------」

「あぁ、ジノア様なんてことを」

 アルアはショックを隠せない。
 しかし彼女すぐに我に返る。
 ジノアがこの家で別の女性とそういった不貞行為をすることの意味がわからないからだ。
 アルアを部屋に誘う提案をしたジノアが、わざわざ部屋に別の女性がいるのに呼ぶだろうか?
 それにジノアはやましい事がある時はすぐ言い訳をするが、無い場合は絶対に言い訳しない。
 それは3歳の時から婚姻を結んでいて、絆が深いアルアにはわかった。
 彼女としては弁明の一つも聞いて安心したかったが、この状況で弁明すれば言い訳と捉えられると思ったからかジノアは黙ってると思ったので、逆に安心した。
 だとすればこれが露見して得する人物を考える。

「アルターニア様・・・貴女の婚約者に無理やりここに連れ込まれて------」

 アルアは無視した。
 エヴァはそれがショックを受けている様にに見えたのだろう。
 続け様に何をされたかを事細かく話し始めた。

(貴女の言い訳が逆に私を冷静にしてくれるのに、気づいたらっしゃらないのは滑稽ね)

 そして次にジノアを見る。
 その細い目には涙目を浮かべて、じっとアルアを見るジノアの姿が見えた。
 その姿を見てアルアはジノアが完全に白だと確信した。

(この騒動で得するのはガラン様ね。だとすれば他にも色々根回ししているはず)

 ガランは横暴ではあるが、手腕は本物だ。
 ここに来て行動を起こしたと言うことは、他にもジノアに関する罪状をでっち上げてるのだろうと確信した。
 しかしここでタイミング悪く、アルアの父パルファムが騒ぎを聞きつけて部屋の現場を見てしまった。

「ジノア様!これは一体どう言うことですか!」

「パルファム公爵、これは!」

 ジノアは言い訳しようとしたが、やましい事がないのに言い訳するのは彼の気持ちが許さなかった。
 しかしアルアと違って、それ見抜けるほどパルファムとジノアの絆は深くはなく、現場の状況をそのまま受け入れてしまった。

「ジノア様!あなたは公爵邸で不貞を行うような外道だったのですか!」

「違う!この現場を見て信じてくれと言っても信じられないと思うが、僕は何もしていない!睡眠薬を盛られてさっきまで意識を失っていたんだ」

 流石に状況が状況であり、事実を述べるしかないジノアは必死にパルファムに説明する。
 だが、この状況で信じられる人間がどれだけいるだろうか。
 答えはアルア以外の側近であるセバスですら、疑いの目を向けてると言えばわかるだろう。
 ここにあるのは、裸の男女が二人。
 ただそれだけだ。

「何が違うんだ!アルア、こっちに来なさい!」

「お父様!」

「貴方は聡明な方だと思っていたのに残念だ!」

 パルファムとしては不貞を行った者に、自分の領民や娘を任せることはできない。
 ましてや、それが婚約者であるアルアの実家で行ったとなればどうしようもないだろう。

「ご、誤解です公爵」

「逆の立場ならどうだ!アルアが横で裸の男と寝ていて、明らかに事後のような光景を目にしたらどうだ!」

「そ、それは・・・」

 ジノアは逆の立場なら、何を言われても頭に入ってこなかっただろうと思った。
 事実、心の弱いジノアには同じ光景を見せられたら精神的に耐えれるかわからない。
 自殺にも発展してしまうだろう。

「今日はもう帰ってください。申し訳ないが、こんな状況で皇子とは言え貴方を泊めるほど、神経は図太くは無い」

「は、はい・・・」

「ジノア様!なんてことを!」

 続いてガランが、笑みを浮かべて歩いてくる。
 ジノアはやはり首謀者はこいつかと、ガランを睨み付けた。

「おいおい。やめろよ。俺は何もしてないぞ?」

「このっ!」

「おいおい、不貞をするような汚い野郎が、俺に気安く話しかけんなよ。あぁ、でも残念だなぁ。お前は廃嫡にはならないで済むよなぁ。不貞した弟が皇族なんてみっともねぇなぁ」

 ガランはこれだけじゃといった。
 自分を廃嫡に差し当たっては皇位継承権の、皇太子がアルバートに確実にするためにはこれだけじゃ終わらないことがわかる。
 ジノアはふと、朝の令嬢が襲われた事件を思い出す。

「お前まさか!」

 ドアを思いきり開ける者が現れた。
 宮殿使いの騎士、並びに兵士達だ。
 そして皇族であるジノアに剣を突きつける。

「ジノア様。貴方を貴族令嬢連続強姦事件の犯人として拘束します」

「馬鹿な!一体何を持ってそんなことを!」

 そう言うと隊長と思われる人物が一枚の紙を、胸ポケットから取り出してくる。
 それは皇帝のみが押せる印が入った礼状を掲げられた。

「これは陛下からのご命令です。セバス様、そこを退いていただけない場合、不敬罪並びに国家反逆罪で拘束致します」

 その有無を言わせない雰囲気に、セバスは少しだけたじろぐ。
 しかしそれでもセバスの人生経験は80年に至る。
 すぐに剣を抜いた。

「まてセバス!」

「しかしジノア様」

「母上がその礼状を出したと言うことは、証拠も挙がってるんだろう?」

 皇帝ともあろう人間が、何の根拠も無しにこんな礼状は書かない。
 身に覚えが無いことだとしても、不特定多数の証言があればそれが立派な証拠となる。
 最早逃げようがなかった。
 だとすればせめて、自分の矜恃くらいは突き通そうと両手を前に出すジノア。

「ほら、早く連れてってよ。僕は女性を無下に扱った、強姦を行った罪人なんだろ?」

 ジノアの目だけの凄みで、後ずさる騎士達。
 それだけ皇族としての風格を見せていたからだ。
 やましいことを何も無い。
 つまり無罪を証明することだって可能なはずだ。
 そう胸に秘めて、堂々とジノアは連れて行かれた。
 その後ろからゲスな笑みを浮かべながら追従するガラン。
 騎士であるセバス泣きじゃくり、ホウエルは無表情ながらも主を見つめている。
 アルアはそんな連れて行かれるジノアの背中を馬車に乗るまでずっと見ていた。



 天井から雨水が浸り、ポタポタと流れ落ちる。
 ここは宮殿にある罪人が落ちる地下牢。
 皇族だというのに、ジノアはそんな地下牢に押し込められた。
 ジノアは、雨水の音を聞きながら先ほどあった裁判を思い出す。

「ははっ・・・僕がシャルネ邸を出たときの考えが、如何に甘かったか思い知ったよ」

 裁判は一方的な物だった。
 被害者は伯爵令嬢が四人、公爵令嬢と侯爵令嬢が三人も被害に遭っていた。
 そして全員が全員こう言ったのだ。
 犯人はジノアだと。
 さすがに全員の証言が一致していることと、襲われた直後の姿をそれぞれの当主達が発見しており令嬢達が嘘を吐いているはずもない。
 更に中にはドブさらいと呼ばれる貴族もいたため、貴族至上主義と相反する家の人間達が口裏を合わせる訳も無いと判断し、裁判官からはジノアは有罪判決を出されてしまった。
 そしてそれはエルーザも同じだった。
 
「ジノア、残念だ。余はお前に期待していたと言うのに、婚約者がいながらこんなことを」

「・・・ふふっ」

「どうしたジノア?」

「誰も僕を信じてくれない!僕は女性と遊んでる暇なんてなかったのに!セバスだって僕は夜は規則正しい生活をしていたと証言したでしょう!」

「そうだな。出来ればジノアには、自ら罪を認めて欲しかった」

 エルーザはゴードンから一枚の紙を受け取った。
 そしてそれを見ると、ジノアがエフィマン家の令嬢とまぐわっている写真があった。
 アルゴノート領で開発されたカメラで撮影されたものだった。

「こ、これは・・・」

「カメラというもので、背景の一部を切りとり髪に念写出来る魔具だ。これでも嘘偽りないと言えるか?」

 さすがにそこまでは考えていなかったジノア。
 そもそもそんなモノが存在しているなんて、思いもよらずジノアは言葉が出なかった。
 リアスが前世の知識を使って開発した便利グッズの一つが、ジノアの人生をどん底に落とすきっかけとなったのだ。
 文明の域をかなり飛び越えた魔具に対抗出来る手段などあるはずもなく、ジノアは膝から崩れ落ちた。
 
「言葉が出ないか。悪いが、アルターニア嬢との婚約は破棄し、お前は廃嫡とする。反省の意も込めて、地下牢に半年はいてもらう。悪く思うなよ。騎士達、連れて行け」

 ジノアは呆然としてその後のことは覚えていない。
 気がついたら牢屋に入れらていたのだ。

「なんだよカメラって・・・背景が切り取れるって、そんなのありかよ」

 証拠写真を撮ったのは、犯人の一派だと言うことはわかる。
 しかしそれを証明する方法も、何も無い。
 ジノアは無罪を証明するどころか、有罪になる証拠を覆すことすら出来ない自分が歯がゆかった。
 
「ちくしょう・・・」

 アルアとの婚約は白紙となって、皇族としては廃嫡となり、最早アルバートかガランが次期皇帝だ。
 愛する人も、唯一信じていた母という家族の信頼もすべてを失った。
 犯人は今もなお、何食わぬ顔で生きている。
 そのことを考えると、犯人を恨まずには入れなかった。
 しかしそれ以上に、嵌められた自分が悪いと思う自分もいた。

「僕・・・生きてる意味ってあるのかな?」

 ジノアは本気で自分の命を絶とうと考えた。
 アルアを思い出したとき、胸が痛くなったのだ。
 シャルネ公爵の一人娘のアルアは、これから自分が無罪を証明出来るまでに別の縁談を断るわけにはいかないからだ。
 つまりアルアが別の男と結婚する。
 それを考えた瞬間、ジノアは怨恨や憎悪以上に絶望という気持ちに苛まれる。
 
「アル・・・ア・・会いたい」

 彼の足下の地面に水が浸ってくる。
 気がつけばポタポタと涙が止まらなかった。
 
「何を失っても構わない。でもアルアを・・・アルアだけは・・・」

 天井に手を伸ばすジノア。
 しかしそこには何も無い。
 むなしさだけだ。

「ジノア様・・・」

「セバス・・・」

 かつての執事であり、騎士であるセバスが牢屋へと面会をしに来てくれた。
 近くには、看守であるフラメニックがセバスを見張っている。
 セバスが暴れた場合に止められる人物が看守長である彼女くらいしかいないためである。

「さっさとしな。面会時間は5分だよ」

「わかっている。ジノア様」

 セバスが牢屋に近づいてくるので、ジノアも近づいていく。

「申し訳ございませんジノア様」

「なんでセバスが謝るんだ?僕が女癖が悪い所為で、君も職を失ったんだろう?」

「えぇ。ですがまだ終わっていませんよ」

 終わっていない?
 何を言っているのだろうかこの男はと思ったジノアは、怪訝そう顔で怒鳴りつける。

「終わってない!?終わったんだよ僕は!アリもしない罪状で、偽りの証拠で僕は罪人だ!皇族だからこうして牢屋に入れられるだけで済んでるが、普通の貴族身分なら処刑されても文句を言えないんだよ!」

 いっそ殺してくれと、涙ながらに呟いた。
 アルアと自分以外の男性が仲睦まじい光景をみるくらいなら、死んだ方がマシだとジノアは叫ぶ。
 セバスはそれを黙って頷き、牢屋に手を入れて肩をさする。

「わかっております。貴方がすべて失ってしまったことは。だけど、また逆転の芽は残っておりますでしょう?」

「逆転?」

「そうです。貴方が言うことが本当なら、無実だという事実があります」

「無実という事実・・・」

 たしかにジノアは強姦をしたという事実はない。
 少なくとも、証拠として出された写真の自分の顔ははっきり目を開けていた。
 寝ぼけて襲ったと言うレベルの写真では無いのだ。
 
「写真でも貴方は自分の意思でやっていたような顔をしていました。つまり、嘘でも吐いていない限りは、あれは別人だってわかります」

 セバスが言ったことは、まさにジノアが今思いついた事実と同じだった。
 先ほどまで、死んだような目に少しだけ光が灯った。
 今更アルアとの婚約を戻すことは適わない。
 しかし犯人達に報いを受けさせることはまだ不可能じゃない。
 そして犯人がアルアに手を出さないとも限らない。
 これ以上被害を出さないためにも、立ち上がらないといけないのだ。
 皇族として。

「セバス。ありがとう。目が覚めたよ」

「私は貴方の執事ですからね」

「そうだね。釈放されたらどうにか皇位を取り戻し、犯人に報いを受けさせる。絶対に許さない」

「貴方自身も大事にして下さいね。これを」

 セバスはジノアにしおりのようなモノを渡す。

「おい、余計なモノは渡すな」

「わかっている。だが、これくらい良いだろう。ジノア様にも心の安息の場所が必要だ」

 しおりには四つ葉のクローバーが貼り付けられていた。
 丁寧に保存の魔法が付与されている。

「セバス、これは?」

「私からの気持ちです。受け取って下さい」

 四つ葉のクローバーと言えば幸福の象徴。
 セバスはジノアに復讐の中でも幸福になって欲しいと言う意味で送ったのだろうとジノアは思った。
 そんな幼い頃から着いてきてくれたセバスに感謝する。

「ありがとうセバス。元気が出たよ」

「それは何よりです。貴方にはそのような姿が似合います」

 ジノアは絶望に染まった心が、幼い頃から着いてくれる腹心のおかげで、元の明るい心に戻っていた。
 そして月日は過ぎて行く。



 ジノアから聞いた嵌められた話は、想像してるより酷いモノだった。
 こんなの12歳で経験するようなことじゃない。

「って言うことがあったんだ。僕は半年の服役を終えて、こうして出てくることが出来たんだ・・・ってみんな顔が怖いよ」

「いや、胸くそ悪いと思ってな」

「ガラン、許せないよ。ボク、今から言って殴ってこようか?頭パーになるくらいボコしてあげる」

「いえ、わたしにおまかせください。腕と足を飛ばして、一生一人で生きられない身体にしましょう。世話係はアルバートですね」

「お、落ち着いてミライ、イルミナ」

「二人ともこえぇよ」

 二人が怒るのはもっともだ。
 グレイとグレシアが二人を宥めてるけど、本心では怒ってるに決まってる。
 それにしても、自分で解決しようとしてたんだな。 

「じゃあ結局俺達を頼ったってことは------」

「恥ずかしい限りだよ。僕の力だけじゃ皇位に戻ることすら出来ない」

「悪かったな。俺の作ったカメラの所為で」

「大丈夫だよ。この前出されたビデオカメラは、幻惑魔法が効かなかったみたいだけど、どうやらカメラは幻惑魔法が解けないみたいでね」

 え、マジか。
 でもまぁビデオカメラも副産物なトコロあるからなぁ。
 けど、少なくとも幻惑魔法で撮られた可能性があることがわかったなら、それは証拠にはなり得ないってなるよな普通。

「でもまぁ悪いと思ってるなら、僕の皇位を取り戻すために後ろ盾になってよね。と言うか母上が僕に皇位を戻すときに、君達の後ろ盾を獲得してこいって言われたんだよね」

「お前・・・そりゃ卑怯だぞ」

 それじゃあ俺は、こいつの申し出を断れないじゃねぇかよ。

「卑怯じゃないですよー」

「はいはい。しょうがねぇな。後ろ盾、なってやるよ」

 さすがに俺が断れば、皇位を取り戻せないとなれば仕方ない。
 実際俺の所為で、半年モノ時間を無駄にさせてしまったのだから。

「ありがとうございますー!」

 嬉しそうな顔をするジノアは、どこかしてやったりと言う顔をしていた。
 俺の袖をちょいちょいと引っ張るミラ。

「どうしたミラ?」

「いや、リアスくん。言いにくいんだけどさ・・・」

「なんだ?」

「多分ジノア様、皇位取り戻してそうな気がするんだけど」

「どうしてそう思うんだ?」

「だって、皇位を戻すときにってことは、もう戻ってるんじゃ無いの?」

 はっ!言われてみれば。
 しまった、俺としたことがこいつの過去を知って少しだけ気が緩んでた。
 
「おい、ジノア!」

「聞こえなーい!」

 耳を押さえながらスキップしていくジノアを見て、まぁこれも乗りかかった船だと思って考えることをやめた。
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