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二章
帝国の最悪の闘い!
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リアス達が帝都で正体不明の相手と戦闘が始まっていた頃。
帝都の地下でも、王国最大の諜報組織の幹部と帝国の英雄と護り手の闘いが勃発している。
そして今、諜報組織の副総長と帝国の護り手の闘いも終盤に差し掛かる。
護り手であるフラメニックは、片膝を突き険しい顔をしている。
それに対して、諜報組織の副総長であるルヤは、冷めた目でフラメニックを見下ろしていた。
「はぁ、はぁ、くそ・・・思うように身体が動かないねぇ」
「ここまできたら、我々の末端の人間でも貴女を殺せますよ。殺気までの威勢はどこへやら」
「闘いが終わる前から何言ってんだい!」
最早棍棒を持つ力すらなくなり、素手で殴るフラメニックにため息が出てしまうルヤ。
一切傷を受けることが亡いほど綺麗な姿をしていたフラメニックは今はなく、至る所から剣の切り傷があり、女としての尊厳は最早無かった。
看守長もここまでになるといっそ哀れだとまで思った。
そんな状態で立ち上がるなんて、最早悪あがきなのは誰の目を見ても明らかだ。
ルヤの薬によって、どんどんからの動きが鈍くなっていき、ついに武器すら持てない状態まで陥ってしまった。
そして手首を掴まれ、最早何も出来ないぞと言うことを強調するように手首を握りつぶした。
「ぐああああああああ!」
「帝国の地獄と呼ばれるこの地下牢も、貴女無しでは終わりですね」
ライザー帝国の地下にある牢屋は、帝国の地獄と呼ばれ他国からも恐怖の象徴とされている。
理由は簡単で、タダの一人も脱獄を許したことはなく、例え皇族であろうとも地獄のような折檻が待っているからだ。
それをすべて管理するのが今まさに、腕を抑えてルヤのことを睨み付けているフラメニックであり、エルーザの父である先代皇帝を手にかけたエルーザの兄、ジェラル・フォン・ティタニアが投獄されたときも平等に摂関を行った。
そんなこともあり、帝国が開国した当時から難攻不落の地下牢とされている地下牢は、災厄の監獄と世界中へと認知された。
「なぁ・・・」
「どうしました?」
「お前達はたしかに策略家だと思うよ」
最早大した動きもしない。
フラメニックの動きは、ヒャルハッハ王国の子供にすら劣る動きをしていた。
最初こそ、圧倒的速さに反応が難しかったルヤだが、こうなってはフラメニックの勝利の目も薄い。
「大人しく降参すれば、楽にしてあげますよ」
「あたしゃ、まだあんたに負けるほど弱っちゃいないよ」
これ以上何があるというのだろうかとルヤは考える。
この状況を打破するには、聖魔法の治癒魔法で傷を治すしかない。
もし聖魔法を使えるのであれば、聖女認定されているか、神話級の精霊を所持しているかのどちらかである。
しかしどちらにせよ、判明していたら公表するはずだ。
何故なら帝国には現在神話級の精霊を持つ人間は居ないとされているからだった。
実は聖女が他に二人いたり、神話級の精霊二体と契約する人間が居たりと、隠して居ることは多々あるのだが、それを知る術も機会もルヤにはなかった。
「もう立つのもやっとでしょう。この先に誰がいるかがわからないので、そろそろ決着を付けましょうか。総長がどうにかなるとは思えませんが、先を急ぎます。さようなら」
精霊を取り込んで強化されている肉体を持つルヤを、今のフラメニックで止める術はなかった。
しかし、フラメニックの首に剣が当たるギリギリで、ルヤの身体にも異変が起きる。
「ぐっ、なんだこれ・・・」
「はぁ、甘ちゃんだね。実戦経験が多いみたいだけど、あたしみたいな固有魔法を使える奴と闘ったことはなかったのかね」
腕に痛みが走り、急に身体も重くなるルヤ。
痛みの余り剣を手放してしまった。
それは剣士として、あるまじき行為。
そしてその隙を見逃さないのがフラメニックである。
即座に棍棒で脇腹に一撃を噛ます。
「があああああ!」
「形勢逆転だね」
剣を蹴り上げ、キャッチしてしたり顔をする。
そしてすぐさま剣をへし折った。
「一体何をした・・・」
「わかんないかい?」
気がつけば全身が切り傷だらけになっており、右手首も潰れていた。
そしてその傷跡、腕の痛みの原因から自分に何が起こったのか、ルヤは容易にわかってしまう。
「貴女に付けた傷が自分に・・・なるほど、どうしてここが地獄の監獄と呼ばれるかわかった気がします。貴女は付けられた傷をすべて自分に返したってわけですか」
「わかったかい。これが固有魔法、監獄地獄さ。あたしのって言うと語弊があるね。ここの看守にのみ許可された付与魔法で、対象は看守以外だからさ」
「ははっ・・・たしかに難攻不落だ」
もしフラメニックの言うことが本当の場合、フラメニックは監獄から出ない限り無敵と言うことになる。
勝機はここに入った時点なかったのだ。
しかしここで引けばこの先に未だに戻ってこない総長であるスピカを見捨てることになる。
ルヤの副総長としての意地でここは引くことができなかった。
「あら、片腕と得物を失った剣士が一体どうしてまだ立ち上がるのかしら?」
「それに加えて内蔵もズタボロですよ」
「あぁ、棍棒で横腹を殴ったからねぇ」
最早満身創痍と言っても過言ではない。
それは元々自分の負った傷だからフラメニックはよく理解している。
それでも立ち上がる精神力に、感嘆の意を賞していた。
「殺しはしないよ。それはあたしの仕事じゃないからね」
「なるほど、だから棍棒ですか」
つまりそれは棍棒じゃなければ、もう終わってるってそう言っているのだ。
これだけの屈辱を味わって、止まるほどルヤも出来た性格はしていない。
諜報組織である以上、ある程度感情を抑えるのは鉄則だが、こうして隠密行動がバレたときはトコトン暴れるのが浅知恵の蜘蛛という組織。
「勝てないとわかっていてもあがきますよ。ライトニングスピア」
「いくら魔法なら手首が折れていようと発動出来ると言っても!」
普段から使い慣れていない魔法をメインにした闘いで、ルヤに勝機があるはずもなく、すべての魔法を撃ち落とされてしまう。
それでも諦めず何度も何度も、ライトニングスピアを放つ。
悪あがきも甚だしい。
「どれだけダメージを与えようとも、結局あんた自身に返ってくると言うのに」
「それはどうなんでしょうね。だったらわざわざ撃ち落とす必要もないのでは?」
「それじゃああんたが死んじまうじゃないかい」
「なるほど、ではどんどん続けるとしよう」
最早ルヤは自分が生き残ろうなんて気持ちはなかった。
死ぬ前に、フラメニックのプライドを壊すことを目的としていた。
フラメニックの言動から、彼女は受刑者に自ら手を下すことはポリシーに反するとルヤは判断した。
つまり自分を殺してしまうような傷を作れば、それでルヤの勝利となるのだ。
「やめときな!本当に死んじまうよ!」
「どのみち死刑なら変わりない!」
「くぅっ!」
ルヤの口の中は鉄の味で満たされていた。
内臓が破裂していて、すぐにでも治療しないといけないほどの重症だ。
「だったらあたしにも考えがあるよ!」
「ふっ」
ライトニングスピアを自らの腹に受けるフラメニック。
これで自身の人生も終わりだと、笑顔になる。
しかしそれは叶わない。
「傷だけが塞がっていく!?」
「あんたを殺す前に死ぬ人間がいるだろう?」
「なんだと!?」
「監獄地獄は、地下牢に居る人間すべてに適用される。つまりどういうことかわかるかい?」
地下牢に居る人間。
つまり、総長であるスピカにもダメージが行くのだ。
もし強敵と対峙していた場合、それだけで致命傷になりかねない。
「あ、あぁ・・・・」
「どうしたんだい?こうなることがわかって攻撃をしていたんだよね?因みにこの先に待ち受けているのは、帝国の英雄様だよ!」
英雄パーピルは、ヒャルハッハ王国との戦争を終結に導いた人間だ。
そんな人間と差しの勝負で闘うだけでも劣勢が予想されるのに、腹に穴なんて開けば勝機など無くなる。
最早後悔しても遅いのだ。
ルヤは精神的に殺そうとした相手に、逆に精神的に殺されそうになっている。
最早ルヤの勝ち目は完全に消失した。
「さぁ、選ばせてあげるよ。大人しく投獄されるか、それともまだあがくか」
「そ、それは・・・」
ルヤの腕を胸に当てるフラメニック。
いつでも打って構わない。
但し、打つ度に仲間が傷つくぞと、そう言った意味で胸に手を当てさせた。
そしてルヤもそれを理解している。
「撃てよ。降伏するって言わないって事は、撃ちたいんだろ。これなら狙いを間違えない。さぁ撃て!」
「自分は・・・俺は・・・アァァァアアアアアアアアアア!」
精神的にルヤはフラメニックに殺される。
それはスピカを大切に思う気持ちと、攻撃することすら許されない相手への絶望が来る自暴自棄だった。
ルヤは泡を吹いて、意識を手放した。
「気合いが足りないね」
しかしフラメニックは勝利の余韻に浸る暇はなかった。
ルヤは重症なのだ。
放っておけば、死んでしまう。
「全く世話が焼けるね」
すべて原因はフラメニックなのだが、有事なので仕方ない。
首根っこを引きずり、医療班の元へと向かって歩いていった。
医療施設に着くと、ボロボロになった場内の騎士達が運び込まれていた。
いくら地下牢に所属する医療班が優秀だからって、ここに連れ込むなよと思うフラメニック。
「看守長!お疲れ様です!」
「おうお疲れ。こいつの治療を頼みたいんだけど------げっ、ババァ。どうしているんだ」
ババァと呼ばれた女性は、真紅の赤髪の女性でありこの国のトップの人間。
皇帝エルーザである。
「はぁ、不敬罪でぶち込むわよ?」
急に膝を突いて態度を改めるフラメニック。
しかしそれは慕うためのモノではない。
彼女とエルーザは旧知の仲であり、彼女はエルーザを煽るときのみ膝を突く。
「コレハコレハシツレイシマシタヘイカ」
「はいはい、話が進まないから。戦果は?」
そしてそれに慣れてるエルーザも軽く受け流した。
「侵入者の一人は浅知恵の蜘蛛の副総長で間違いないよ。本人も言っていたし」
「ってことは、もう一人は総長のスピカで間違いなさそうだね」
「まぁパーピルの野郎がなんとかするだろうよ」
「なんとかしてもらわないと困るわ。わざわざ今の任務を放棄させてこちらに呼んだんだから」
エルーザとフラメニックとパーピル、そして宰相アデルは旧知の仲であり、幼い頃から付き合いがある。
幼馴染み同士で結び付きも強い四人は、それぞれのトップとして国をしょって立つ。
フラメニックは地下牢、パーピルは軍の参謀、アデルは国の経済のトップで、エルーザは皇帝である。
「アデルは今なにしてんだい?」
「帝都でも、問題が起きたからそっちを対応してもらってるよ」
「へぇ、こいつが言ってたことは本当だったんだね。それで、そっちの首尾は?」
「帝都中央部屯所の騎士隊は全滅したよ」
「なんだって!?」
フラメニックは誰かしらの犠牲があるとは思っていたが、全滅までは想像していなかった。
それ故に、罪の無い民間人達が傷つく畏れを考えて今にも飛び出しそうになる
しかしエルーザに手を掴まれて、止まってしまった。
フラメニックは地下牢のみで無敵になる。
逆に言えば地下牢から出ればそんなことはなくなる。
「おいエルーザ離せ!」
「大丈夫だ。その広場には、公にされない英雄が降り立ったそうだ」
「公にされない・・・なるほど、パーピルの息子達かい」
「報告ではとんでもない発言をしていたみたいだが、そこはまぁ気にしないでおこう」
公にされない英雄とは、リアス達のことである。
リアスの出した条件を考えて、公にすることが出来ないが、この四人の幼馴染み間では周知の事実である。
それこそリアスの発言は、隅から隅まで把握されている。
「なんかまた爆弾発言でもしたのかい?」
「リアス自身じゃないよ。恐らく彼の入れ知恵だと思うけど。イルシアに新しい公爵の地位をわたしが与えたってさ」
「あぁ、そりゃ災難さね」
「恐らくリアス自身に与える予定の公爵の爵位を、代わりにイルシアにやれって言いそうだからね。予め公爵の爵位を用意しないといけないし、それに復興作業もあるだろうから大変だよ」
「くくっ、一回会ってみたいねぇ、リアスとやらに」
フラメニックはリアスにかなり興味を示していた。
帝国最高戦力のパーピルと互角で歴戦の猛者にも劣らない実力者のゴードン相手にして、軽くあしらったという事実が、より一層興味を湧かせていた事。
それに加えて、中央部警備騎士隊を一掃した相手とも闘っている。
もしフラメニックとリアスが出会うことがあるのなら、その闘いには勝利したことになり、確実に騎士隊より強い事を示している。
「今度会う場は作ってやるから我慢しな」
「はいよ」
返事をすると共に轟音が地下に鳴り響いた。
まるで何かと何かがぶつかり合う音だ。
そして地上からとんでもない魔力がぶつかり合っていることが、地下からもわかった。
何故なら空気が震えているため、地下が自身でも起きたかのように揺れているからだ。
「こ、これは」
「恐らくリアスでしょう。派手にやっていますね」
「いや、どうしてそんな慌ててないんだい!?ここ揺れてるよ!?」
「リアスと会えばそういう常識は忘れるよ」
呆れたように首を振るエルーザ。
昔からエルーザは、信用した人間は必ず何かを成し遂げる。
逆に信用しない人間は基本的に、なにも成し遂げないどころか自己破滅まで陥っていた。
「そう言うなら信じるよ。それにしてもエルーザにそこまで言わすとは会うのが楽しみだねぇ」
「パーピルにも会わせたいんだよ。そういやパーピルはどうした?」
一人で戻って来たフラメニック。
エルーザはてっきり二人で一緒にもどってくると思っていたので、一人戻って来たフラメニックに驚いていた。
もっとも、フラメニックもパーピルも自分勝手に動くことがあるので、大して気にはしていなかったのだが。
「さてな。だけどそのうち戻って来るだろうよ。パーピルの野郎に少しお節介をしちまったが、あいつあとで怒らないかね」
「お節介?」
「敵にちょっかいをかけてダメージを与えてしまった」
「それはヤバいんじゃない?彼、戦闘狂だし絶対怒るよ」
「そこはエルーザが擁護してくれると助かる」
「絶対に嫌!自分でなんとかしなさい」
エルーザに泣きつくフラメニック。
そんな姿を初めて見る彼女達の部下や、家臣達は目を点にしてその様子を遠くからみていた。
帝都の地下でも、王国最大の諜報組織の幹部と帝国の英雄と護り手の闘いが勃発している。
そして今、諜報組織の副総長と帝国の護り手の闘いも終盤に差し掛かる。
護り手であるフラメニックは、片膝を突き険しい顔をしている。
それに対して、諜報組織の副総長であるルヤは、冷めた目でフラメニックを見下ろしていた。
「はぁ、はぁ、くそ・・・思うように身体が動かないねぇ」
「ここまできたら、我々の末端の人間でも貴女を殺せますよ。殺気までの威勢はどこへやら」
「闘いが終わる前から何言ってんだい!」
最早棍棒を持つ力すらなくなり、素手で殴るフラメニックにため息が出てしまうルヤ。
一切傷を受けることが亡いほど綺麗な姿をしていたフラメニックは今はなく、至る所から剣の切り傷があり、女としての尊厳は最早無かった。
看守長もここまでになるといっそ哀れだとまで思った。
そんな状態で立ち上がるなんて、最早悪あがきなのは誰の目を見ても明らかだ。
ルヤの薬によって、どんどんからの動きが鈍くなっていき、ついに武器すら持てない状態まで陥ってしまった。
そして手首を掴まれ、最早何も出来ないぞと言うことを強調するように手首を握りつぶした。
「ぐああああああああ!」
「帝国の地獄と呼ばれるこの地下牢も、貴女無しでは終わりですね」
ライザー帝国の地下にある牢屋は、帝国の地獄と呼ばれ他国からも恐怖の象徴とされている。
理由は簡単で、タダの一人も脱獄を許したことはなく、例え皇族であろうとも地獄のような折檻が待っているからだ。
それをすべて管理するのが今まさに、腕を抑えてルヤのことを睨み付けているフラメニックであり、エルーザの父である先代皇帝を手にかけたエルーザの兄、ジェラル・フォン・ティタニアが投獄されたときも平等に摂関を行った。
そんなこともあり、帝国が開国した当時から難攻不落の地下牢とされている地下牢は、災厄の監獄と世界中へと認知された。
「なぁ・・・」
「どうしました?」
「お前達はたしかに策略家だと思うよ」
最早大した動きもしない。
フラメニックの動きは、ヒャルハッハ王国の子供にすら劣る動きをしていた。
最初こそ、圧倒的速さに反応が難しかったルヤだが、こうなってはフラメニックの勝利の目も薄い。
「大人しく降参すれば、楽にしてあげますよ」
「あたしゃ、まだあんたに負けるほど弱っちゃいないよ」
これ以上何があるというのだろうかとルヤは考える。
この状況を打破するには、聖魔法の治癒魔法で傷を治すしかない。
もし聖魔法を使えるのであれば、聖女認定されているか、神話級の精霊を所持しているかのどちらかである。
しかしどちらにせよ、判明していたら公表するはずだ。
何故なら帝国には現在神話級の精霊を持つ人間は居ないとされているからだった。
実は聖女が他に二人いたり、神話級の精霊二体と契約する人間が居たりと、隠して居ることは多々あるのだが、それを知る術も機会もルヤにはなかった。
「もう立つのもやっとでしょう。この先に誰がいるかがわからないので、そろそろ決着を付けましょうか。総長がどうにかなるとは思えませんが、先を急ぎます。さようなら」
精霊を取り込んで強化されている肉体を持つルヤを、今のフラメニックで止める術はなかった。
しかし、フラメニックの首に剣が当たるギリギリで、ルヤの身体にも異変が起きる。
「ぐっ、なんだこれ・・・」
「はぁ、甘ちゃんだね。実戦経験が多いみたいだけど、あたしみたいな固有魔法を使える奴と闘ったことはなかったのかね」
腕に痛みが走り、急に身体も重くなるルヤ。
痛みの余り剣を手放してしまった。
それは剣士として、あるまじき行為。
そしてその隙を見逃さないのがフラメニックである。
即座に棍棒で脇腹に一撃を噛ます。
「があああああ!」
「形勢逆転だね」
剣を蹴り上げ、キャッチしてしたり顔をする。
そしてすぐさま剣をへし折った。
「一体何をした・・・」
「わかんないかい?」
気がつけば全身が切り傷だらけになっており、右手首も潰れていた。
そしてその傷跡、腕の痛みの原因から自分に何が起こったのか、ルヤは容易にわかってしまう。
「貴女に付けた傷が自分に・・・なるほど、どうしてここが地獄の監獄と呼ばれるかわかった気がします。貴女は付けられた傷をすべて自分に返したってわけですか」
「わかったかい。これが固有魔法、監獄地獄さ。あたしのって言うと語弊があるね。ここの看守にのみ許可された付与魔法で、対象は看守以外だからさ」
「ははっ・・・たしかに難攻不落だ」
もしフラメニックの言うことが本当の場合、フラメニックは監獄から出ない限り無敵と言うことになる。
勝機はここに入った時点なかったのだ。
しかしここで引けばこの先に未だに戻ってこない総長であるスピカを見捨てることになる。
ルヤの副総長としての意地でここは引くことができなかった。
「あら、片腕と得物を失った剣士が一体どうしてまだ立ち上がるのかしら?」
「それに加えて内蔵もズタボロですよ」
「あぁ、棍棒で横腹を殴ったからねぇ」
最早満身創痍と言っても過言ではない。
それは元々自分の負った傷だからフラメニックはよく理解している。
それでも立ち上がる精神力に、感嘆の意を賞していた。
「殺しはしないよ。それはあたしの仕事じゃないからね」
「なるほど、だから棍棒ですか」
つまりそれは棍棒じゃなければ、もう終わってるってそう言っているのだ。
これだけの屈辱を味わって、止まるほどルヤも出来た性格はしていない。
諜報組織である以上、ある程度感情を抑えるのは鉄則だが、こうして隠密行動がバレたときはトコトン暴れるのが浅知恵の蜘蛛という組織。
「勝てないとわかっていてもあがきますよ。ライトニングスピア」
「いくら魔法なら手首が折れていようと発動出来ると言っても!」
普段から使い慣れていない魔法をメインにした闘いで、ルヤに勝機があるはずもなく、すべての魔法を撃ち落とされてしまう。
それでも諦めず何度も何度も、ライトニングスピアを放つ。
悪あがきも甚だしい。
「どれだけダメージを与えようとも、結局あんた自身に返ってくると言うのに」
「それはどうなんでしょうね。だったらわざわざ撃ち落とす必要もないのでは?」
「それじゃああんたが死んじまうじゃないかい」
「なるほど、ではどんどん続けるとしよう」
最早ルヤは自分が生き残ろうなんて気持ちはなかった。
死ぬ前に、フラメニックのプライドを壊すことを目的としていた。
フラメニックの言動から、彼女は受刑者に自ら手を下すことはポリシーに反するとルヤは判断した。
つまり自分を殺してしまうような傷を作れば、それでルヤの勝利となるのだ。
「やめときな!本当に死んじまうよ!」
「どのみち死刑なら変わりない!」
「くぅっ!」
ルヤの口の中は鉄の味で満たされていた。
内臓が破裂していて、すぐにでも治療しないといけないほどの重症だ。
「だったらあたしにも考えがあるよ!」
「ふっ」
ライトニングスピアを自らの腹に受けるフラメニック。
これで自身の人生も終わりだと、笑顔になる。
しかしそれは叶わない。
「傷だけが塞がっていく!?」
「あんたを殺す前に死ぬ人間がいるだろう?」
「なんだと!?」
「監獄地獄は、地下牢に居る人間すべてに適用される。つまりどういうことかわかるかい?」
地下牢に居る人間。
つまり、総長であるスピカにもダメージが行くのだ。
もし強敵と対峙していた場合、それだけで致命傷になりかねない。
「あ、あぁ・・・・」
「どうしたんだい?こうなることがわかって攻撃をしていたんだよね?因みにこの先に待ち受けているのは、帝国の英雄様だよ!」
英雄パーピルは、ヒャルハッハ王国との戦争を終結に導いた人間だ。
そんな人間と差しの勝負で闘うだけでも劣勢が予想されるのに、腹に穴なんて開けば勝機など無くなる。
最早後悔しても遅いのだ。
ルヤは精神的に殺そうとした相手に、逆に精神的に殺されそうになっている。
最早ルヤの勝ち目は完全に消失した。
「さぁ、選ばせてあげるよ。大人しく投獄されるか、それともまだあがくか」
「そ、それは・・・」
ルヤの腕を胸に当てるフラメニック。
いつでも打って構わない。
但し、打つ度に仲間が傷つくぞと、そう言った意味で胸に手を当てさせた。
そしてルヤもそれを理解している。
「撃てよ。降伏するって言わないって事は、撃ちたいんだろ。これなら狙いを間違えない。さぁ撃て!」
「自分は・・・俺は・・・アァァァアアアアアアアアアア!」
精神的にルヤはフラメニックに殺される。
それはスピカを大切に思う気持ちと、攻撃することすら許されない相手への絶望が来る自暴自棄だった。
ルヤは泡を吹いて、意識を手放した。
「気合いが足りないね」
しかしフラメニックは勝利の余韻に浸る暇はなかった。
ルヤは重症なのだ。
放っておけば、死んでしまう。
「全く世話が焼けるね」
すべて原因はフラメニックなのだが、有事なので仕方ない。
首根っこを引きずり、医療班の元へと向かって歩いていった。
医療施設に着くと、ボロボロになった場内の騎士達が運び込まれていた。
いくら地下牢に所属する医療班が優秀だからって、ここに連れ込むなよと思うフラメニック。
「看守長!お疲れ様です!」
「おうお疲れ。こいつの治療を頼みたいんだけど------げっ、ババァ。どうしているんだ」
ババァと呼ばれた女性は、真紅の赤髪の女性でありこの国のトップの人間。
皇帝エルーザである。
「はぁ、不敬罪でぶち込むわよ?」
急に膝を突いて態度を改めるフラメニック。
しかしそれは慕うためのモノではない。
彼女とエルーザは旧知の仲であり、彼女はエルーザを煽るときのみ膝を突く。
「コレハコレハシツレイシマシタヘイカ」
「はいはい、話が進まないから。戦果は?」
そしてそれに慣れてるエルーザも軽く受け流した。
「侵入者の一人は浅知恵の蜘蛛の副総長で間違いないよ。本人も言っていたし」
「ってことは、もう一人は総長のスピカで間違いなさそうだね」
「まぁパーピルの野郎がなんとかするだろうよ」
「なんとかしてもらわないと困るわ。わざわざ今の任務を放棄させてこちらに呼んだんだから」
エルーザとフラメニックとパーピル、そして宰相アデルは旧知の仲であり、幼い頃から付き合いがある。
幼馴染み同士で結び付きも強い四人は、それぞれのトップとして国をしょって立つ。
フラメニックは地下牢、パーピルは軍の参謀、アデルは国の経済のトップで、エルーザは皇帝である。
「アデルは今なにしてんだい?」
「帝都でも、問題が起きたからそっちを対応してもらってるよ」
「へぇ、こいつが言ってたことは本当だったんだね。それで、そっちの首尾は?」
「帝都中央部屯所の騎士隊は全滅したよ」
「なんだって!?」
フラメニックは誰かしらの犠牲があるとは思っていたが、全滅までは想像していなかった。
それ故に、罪の無い民間人達が傷つく畏れを考えて今にも飛び出しそうになる
しかしエルーザに手を掴まれて、止まってしまった。
フラメニックは地下牢のみで無敵になる。
逆に言えば地下牢から出ればそんなことはなくなる。
「おいエルーザ離せ!」
「大丈夫だ。その広場には、公にされない英雄が降り立ったそうだ」
「公にされない・・・なるほど、パーピルの息子達かい」
「報告ではとんでもない発言をしていたみたいだが、そこはまぁ気にしないでおこう」
公にされない英雄とは、リアス達のことである。
リアスの出した条件を考えて、公にすることが出来ないが、この四人の幼馴染み間では周知の事実である。
それこそリアスの発言は、隅から隅まで把握されている。
「なんかまた爆弾発言でもしたのかい?」
「リアス自身じゃないよ。恐らく彼の入れ知恵だと思うけど。イルシアに新しい公爵の地位をわたしが与えたってさ」
「あぁ、そりゃ災難さね」
「恐らくリアス自身に与える予定の公爵の爵位を、代わりにイルシアにやれって言いそうだからね。予め公爵の爵位を用意しないといけないし、それに復興作業もあるだろうから大変だよ」
「くくっ、一回会ってみたいねぇ、リアスとやらに」
フラメニックはリアスにかなり興味を示していた。
帝国最高戦力のパーピルと互角で歴戦の猛者にも劣らない実力者のゴードン相手にして、軽くあしらったという事実が、より一層興味を湧かせていた事。
それに加えて、中央部警備騎士隊を一掃した相手とも闘っている。
もしフラメニックとリアスが出会うことがあるのなら、その闘いには勝利したことになり、確実に騎士隊より強い事を示している。
「今度会う場は作ってやるから我慢しな」
「はいよ」
返事をすると共に轟音が地下に鳴り響いた。
まるで何かと何かがぶつかり合う音だ。
そして地上からとんでもない魔力がぶつかり合っていることが、地下からもわかった。
何故なら空気が震えているため、地下が自身でも起きたかのように揺れているからだ。
「こ、これは」
「恐らくリアスでしょう。派手にやっていますね」
「いや、どうしてそんな慌ててないんだい!?ここ揺れてるよ!?」
「リアスと会えばそういう常識は忘れるよ」
呆れたように首を振るエルーザ。
昔からエルーザは、信用した人間は必ず何かを成し遂げる。
逆に信用しない人間は基本的に、なにも成し遂げないどころか自己破滅まで陥っていた。
「そう言うなら信じるよ。それにしてもエルーザにそこまで言わすとは会うのが楽しみだねぇ」
「パーピルにも会わせたいんだよ。そういやパーピルはどうした?」
一人で戻って来たフラメニック。
エルーザはてっきり二人で一緒にもどってくると思っていたので、一人戻って来たフラメニックに驚いていた。
もっとも、フラメニックもパーピルも自分勝手に動くことがあるので、大して気にはしていなかったのだが。
「さてな。だけどそのうち戻って来るだろうよ。パーピルの野郎に少しお節介をしちまったが、あいつあとで怒らないかね」
「お節介?」
「敵にちょっかいをかけてダメージを与えてしまった」
「それはヤバいんじゃない?彼、戦闘狂だし絶対怒るよ」
「そこはエルーザが擁護してくれると助かる」
「絶対に嫌!自分でなんとかしなさい」
エルーザに泣きつくフラメニック。
そんな姿を初めて見る彼女達の部下や、家臣達は目を点にしてその様子を遠くからみていた。
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