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二章
帝都に吹き荒れる火の嵐
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『ミライ、グレイ、グレシア!今からリアスが暴れます!注意がこちらに向いてる間に、ミラはバルドフェルド、グレイはイルミナ、グレシアはアルナのところへ走りなさい!敵の狙いはここで我々を殺すことではない!』
クレの号令とともに、俺はライトニングスピアを詠唱し展開して小屋を破壊した。
そしてミラの捉えられてる小屋にもライトニングスピアを放ち、アルナの捉えられてる小屋には中級の炎魔法のブレイズファイアを唱える。
ブレイズファイアは一点集中ではなく、全体的に敵を燃やす魔法だ。
そんなものを小屋に放てば一酸化炭素中毒なんてすぐになるだろうけど関係ない。
甘えんなアルナ!
それと同時にイルミナの小屋もドアが粉砕し、監視の意識を一瞬で刈り取った。
それだけじゃ終わらない。
すぐさま身体強化で隣の小屋を壊して、イルシア先輩を救い出す。
それと同時にミラも隣の小屋を壊してミルム先輩を救出し、風の魔法で俺に飛ばしてくる。
俺は叫び声を上げる彼女をキャッチして、そのままイルシア先輩に渡す。
あまりの事態にイルシア先輩は声が出ないようだ。
「イルシア先輩、ミルム先輩をしっかり抱えててください」
グレイとグレシアは、精霊共鳴により自分で治癒魔法が使えるため致命傷でもない限り平気だ。
剣を持つ騎士体当たりをしてすぐ様イルミナとアルナのところに走る。
アルナが俺の方をかなり睨んでるけど知ったことじゃない。
「くそっ!どうなってんだ!合図もなしにここまで同時に行動を起こせるのかよ!」
「さぁね。悪いけど無駄な話をしてる暇はないんだ。ショックボルト」
手加減したが、それでもこの目の前の兵士が目覚める頃にはこいつは豚箱だ。
ミラ達も他の兵士を気絶させているが、全員を捉える余裕はない。
ここで時間をかければかけるほど、ターニャ家の評判は落ちていっているだろうからだ。
「あとはほっとけ!」
「え、でもリアスくん」
「敵の狙いは俺達をここに留まらせることだ。んなもんにいちいち構ってられるか。すぐ帝都に行くぞ、馬車に乗れ」
俺は馬車を出して、全員乗り込ませて走り出す。
辺境からどれだけの時間がかかるか分からないが、二時間以内には着けるだろう。
最悪の場合の手もあるしな。
元々は俺のものだし、どう使おうと勝手だろう。
そんなことよりも急ごう。
間に合わないと大変なことになる。
*
宮殿へと侵入した刺青の男とその部下は、警備の騎士達を、人間離れした魔法で次々と倒していく。
そして地下へと続く道にまで辿り着き、無事侵入に成功する。
そのすぐ後は、一本道となっていた。
「この先が地下牢だ。これから相手取る奴らは精鋭。心してかかれ」
「了解」
地下牢は目前。
この地下牢には現在、魔物一万体を一瞬で蹴散らした人間と互角に戦える者がいる。
そんな重要な場所は、皇帝の周り以上に強い者が配置されているのは当たり前だった。
「侵入者か。そろそろ来ると思って待ちくたびれたよ」
宮殿地下牢看守長、フラメニック・トラマニス。
その桃色に煌く長い髪は、この暗がり中でもはっきりと視認できる。
「フラメニック・トラマニス!」
「淑女を呼び捨てとは、あまりいい育ち方をしてないようだねぇ!」
その瞬間その場に風が吹き荒れる。
魔法が使われたわけじゃない。
フラメニックが、目にもたまらぬ速さで移動した。
ただそれだけだ。
「速い!」
刺青の部下の男がフラメニックと刺青の男の間に入り、攻撃を防ぐ。
フラメニックの武器は棍棒であり、剣で受け止めた彼は、腕が痺れている。
「へぇ、そんな細腕なのに剣で受け止めるなんてやるわ」
言葉ではそう言いつつも、意識を刺青の男に割いている辺りは、彼に対して思うところもないことを窺える。
「任せるぞ」
「かしこまりました」
「あたしをほっぽいて、一体どこに行こうってのよ!」
今まさに必死に耐えている男の腹を蹴り飛ばし、刺青の男に棍棒を振り下ろした。
しかし棍棒は彼には届かない。
吹き飛ばされた男が即座に棍棒を吹き飛ばし、そのまま走り去っていく刺青の男。
まるで止めることを疑ってなかったかの様に速度を落とさない彼に、棍棒を落としてバランスを崩したフラメニックが追いつけるはずもなかった。
「チッ!」
「美人が台無しですよ」
「ムシャクシャさせんな!」
フラメニックは棍棒を拾い上げ、倒れている男を殴り飛ばす。
放物線の軌道で吹き飛んでいく彼が、自由落下で地面へと到達した時身体がグシャリと音を上げて、腕が変な方向に曲がる。
しかしそれでも止まる気配はない。
すぐに立ち上がり、曲がった腕を無理やり元に戻した。
「棍棒だと言うのに、まるで剣を振るっているような動き。化け物ですね」
「こっちからしたらお前さんの方が化け物だよ!ねぇ、ヒャルハッハ王国隠密部隊<浅知恵の蜘蛛>副総長、ルヤ・ムラサ!」
ルヤと呼ばれた男はぴくりと眉を動かす。
ヒャルハッハ王国の人間だと把握されるのは予想していたが、当たりをつけられてしまうとまでは思っていなかったのだ。
浅知恵の蜘蛛はヒャルハッハ王国が古くから抱える影の軍隊であり、仕事内容は暗殺や宣戦布告前の国落としなど様々だ。
その中の二番手の男が、このルヤである。
「王国の情報網を甘く見てましたね。中々に食わせ者がいるようだ」
「それはうちの宰相を褒めてやんな」
アデルは先日の魔物大量発生で捕まった影と呼ばれる者達がいつまで経っても口を割らず、まるで何かを待っているかのような行動をしていたため、ヒャルハッハ王国を徹底的に調べ上げた。
極め付けはゾグニ殺害事件。
そこでのやり口から、アデルが今まで調べてきた事柄と照らし合わせたことで、見えて来るものがあった。
「宰相アデルですか。堕ちた帝国だと言うのに、優秀な人材を手に入れたようだ」
「あんたが思ってるほど、うちの国は腐っちゃいないよ!それにまだ若い最高の芽もあるしね」
「ですね。浅知恵の蜘蛛もここまで計画を狂わされた挙げ句、隠密部隊として把握されるなんて記録はないですよ」
王国にはかつて、隠密部隊として活躍し、百年前ほどに解散した部隊が存在した記録があった。
しかしアデルは帝国では名前までは判明できなかったため、ヒャルハッハ王国に潜ませたスパイから、隠密部隊の記録について調べるように命じ、見事に浅知恵の蜘蛛に辿り着くことができたのだ。
「しかし聞いていたよりもタフだ。一体どうなってんだい?」
「応える義務はありませんよ。あなたを抑えていることが任務ですからね。あなたさえいなければ、ここの監獄如きどうにでもなりますから」
「はっはっは!!それはどうかな?余りにもあたし達を舐めすぎてないかい?」
「それは一体?」
しかしぐうを言わせる隙を作るほどフラメニックは甘くはなく、すぐに言葉を紡ぐのをやめてルヤへの攻撃を再開する。
「野蛮な女性だ」
「おあいにく様、それが仕事なもんでね!」
棍棒と剣のぶつかり合う音は、剣同士のぶつかり合う音とは違い、鈍い音が何度も地下に響く。
もっともそれを聞く者も、観戦する者誰一人いない。
あるのは自分の敵のたった二つのシンプルな構図。
だからこそお互いは何も考えずに打ち合うことができる。
そして軍パイが上がるのは、より闘いを経験した者となる。
「ファイアーボール!」
「魔法なんて効くわけないよ!ふんっ!」
フラメニックはルヤが放った魔法をあっさりと棍棒で消し去り、そのまま跳び蹴りを放つ。
しかし彼もそれは予測済み。
跳び蹴りの威力を殺すために後ろに飛んだ。
ルヤにもほとんどダメージがない。
「闘い慣れてるねぇ」
「副総長と言うのは伊達でなれるものではございません」
「こっちだって民の為に戦ってわぼけ!あんたらを逃せば、民達が苦しむ。そんなのは許されないわ」
「じゃあ良いんですかね?こんなに自分達に付き合っていて」
「なんだと?」
そう、こうして単身二人で乗り込むことができたのは、精霊を殺したことによる力だけではない。
帝都で強力な名声のある騎士を暴れさせることで、注意を宮殿からそちらに向けているからである。
そしてそんな強力な騎士が民間人を襲って、死者が出ないわけがなかった。
「外では今、帝国民たちが信じていた貴族の側近騎士に襲われているのです」
「街の警備の奴らを舐めるなよ。それくらい処理できるさ」
「あなたは強い。それは認めましょう。それに聡明だ。あなたは民を守れてはいないと言う事実に気付いているはずです」
「どう言う意味だ!」
「気づかないのですか?本来であれば、自分は貴女には敵いません」
互角の闘いを演じて見せた男が何を言っているかとフラメニックは疑問に思う。
しかし考えてみれば段々自分の攻撃に彼が対応してきている事実に気づく。
「そう言った慢心が、貴女の敗北に繋がるんですよ!」
「ふんっ!あまいわ!」
なんの重みもない、まるで新兵の騎士の太刀筋で見てるような攻撃。
フラメニックにとっては、なんでもなかった。
そのはずだった。
しかしフラメニックはその攻撃に対処が追いつかなかった。
フラメニックと契約している精霊が、咄嗟に風魔法で彼女を吹き飛ばさなければ、致命傷になっていたことだろう。
「ぐっ!本来なら避けれる速度だったと言うのにこれは」
「帝国は力押しをするだけの人間ばかりで、策を巡らせない。あぁ、至極簡単に引っかかってくれる。腕っ節だけど野蛮人はこうも容易く弱体化するのです。我々の組織、良い名前でしょう?浅知恵の蜘蛛。貴方のような考えの浅はかな人間は、容易く我々の巣に引っかかってしまうのですよ!」
ルヤは戦闘開始直後からからを鈍らせる毒液を気化させていた。
彼はもちろん毒に耐性を付けてはいるが、今回は彼らの言うところの精霊共鳴により、風魔法で気化した毒を散らしていたため、全く毒の影響かにはない。
更にここは地下で、風魔法を使うことで、気化した毒も一点集中で受けていたため、毒の回りも早かった。
「小癪な手を使う卑怯者め」
「自分から言わせてもらえば、使えるモノを使わずに負けるのは愚かでしかない。さて、素人の剣すら躱すのが精一杯の貴女に、今は何も恐怖を感じませんね」
彼女自身にも譲れないモノがある。
それは今までこの地下牢の囚人の脱獄をタダの一人も許したことがない絶対の自信と誇りだ。
だから彼女も、こんなハンデ程度では諦めない。
「所詮は雑魚の浅知恵だね!本物を見せてやるよ!」
「はぁ、現実を直視することの出来ない無力さを痛感すると良いですよ」
そして二人を置き去りにして、仲間達の救出に向かう刺青の男の前にも立ちふさがる者がいる。
目の前から襲い来る殺気を感じ取り、咄嗟に後ろに飛び退く。
「おいおい、どうしてたかが地下牢にあんたみてぇのがいるんだよ」
「ふんっ!そんなの息子達が不甲斐ねぇからだよ!なぁ、浅知恵の蜘蛛の総長、スピカ・ドラグシル!」
「英雄パーピル!」
地下牢の最終防衛ラインにして、帝国最強の英雄パーピル・フォン・ベルヌーイだった。
かつて英雄と呼ばれた男は、リアス達の戦闘力と遜色ない実力者であり、ヒャルハッハ王国との戦争の功績もあって国境に配置されていることの多い人物だった。
彼がいるから宣戦布告をしないまであるヒャルハッハ王国に対して、抑止力となる男が地下牢の防衛をしていることが、スピカには信じられなかった。
「最悪だよ。実力者がいるとは思っていたが、まさか英雄を配置するなんて。今の皇帝はどうやら賢いらしい」
「エルーザ様は偉大な方だ。お前らの情報もすぐ集めてしまう宰相すら、自分で見つけになったのだからな!」
「そうか。でもいいのか?帝都では大変な事になってると思うぞ?」
「構わん。息子達はそれくらいなんとかするだろう。俺はお前を止めることに集中させてもらう」
「ハッハッハ!その頼みの息子達は、今頃辺境だ。残念だったな!」
「あまり、あいつらを舐めるなよ?お前らの計画はたかが15歳の三人に潰されたことを忘れるな」
お互いあとは殺し合いで語ろうと、口を閉じ剣を向ける。
そして地下でくり広げられる二つの戦闘が始まった。
*
地下で戦闘が勃発しているころ、帝都中心部にある街では、ギルス他ターニャ家の騎士達により、半壊状態にまで陥っていた。
「あひゃひゃひゃ!ボスのために!ボスのためにぃ!」
「ぎ、ギルスだ!ゾグニ様の騎士がどうしてこんなことを!」
「まさか、ターニャ家はここまで腐っていたのか!」
民間人を次々と殺していくギルス。
その所業は最早騎士とはかけ離れていた。
そしてそれはその主人であるゾグニ、ターニャ家の評価を下げるには十分過ぎる。
少なくとも民達からのターニャ家の信頼度はがた落ちだ。
浅知恵の蜘蛛の人間達の思惑通りに事が進んでしまっていた。
ここまで来ればターニャ家の評判はどう頑張っても取り戻せない。
何故なら死者という最も重い犠牲を出してしまっているためだ。
どう取りつくろっても、遺族達には言い訳にしか聞こえないのだ。
「いやはははあ!もうゾグニ様は居ない!ゾグニ様の居ない帝国など、ただの残りカスだ!全部、全部ぶっ壊してやる!」
ゾグニの側近騎士になるために、汚いことを何でもこなしてきたギルス。
そしてやっと側近になることが出来た矢先に襲撃の末に主人の死。
心が壊れてしまうのも無理はなかった。
「動くなターニャ家の側近騎士ギルス!」
ギルスを取り囲むように、屯所から騎士達が派遣されてきた。
20人ほどで取り囲んでおり、ギルスの実力ではこの包囲網を抜けることができない。
「たったこれだけで俺を止めようってのかぁ?無理だやめとけぇ」
「貴様、我々を愚弄するか。全員捕縛だ。かかれ!」
「ははっ!てめぇら!あれ使うぞ」
ギルスを含めた暴れている騎士達は、懐から注射器を取り出し首に突き刺す。
すると身体が少しだけ肥大化していく。
筋肉が増強される強力なドーピング剤のようなものだった。
最もこれはスピカが持たせた実験道具であり、副作用がある可能性もある。
しかしそれを知っていてもこの3人は使ったのだ。
それからは蹂躙だった。
騎士達はまた1人また1人と、地面に染みを作っていく。
「馬鹿な・・・どうしてこんなことが・・・」
そう呟くのは屯所の騎士達の隊長である男だった。
次々と死んでいく部下達の姿をただ呆然とみていた。
屯所に勤めて30年。
今まで味わったことのない出来事に、彼はどんどん壊れていく。
そして騎士が誰一人立っていなくなった状況で、彼は思考をやめた。
「おいどうしたお前ら。勤務中にサボりとは関心しないな。ははっ!今日は俺の奢りだ。早く出てこい。隠れても無駄だぞ」
しかしその声も虚しく、返ってくる声は何も無い。
次の瞬間には、ギルスが剣を振り下ろし彼は真っ二つになり、右と左に身体が倒れ込んでしまう。
「いいねぇ。雑魚共を蹂躙するのは楽しいぜぇ!ひゃっふぃ!」
次に狙いを決めるのは、放課後で偶々帝都の市街地に遊びに来ていたアルザーノ魔術学園の生徒達だ。
今は騎士達にギルスを任せて避難誘導をしていた。
しかし騎士が負けたことにより、自分達にターゲットが向くことは理解していたので、戦闘準備は万端だった。
ここに居る生徒は全員平民の生徒だ。
貴族の生徒は我先にと逃げてしまっていた。
「次はてめぇらだ!しねぇぇ!」
「くそっ!全員下級魔法で少しでも長く進行を止めろ!」
しかし所詮は学生の身の魔法。
騎士達ですら手も足も出なかった、強化されたギルスには焼け石に水だった。
貴族の生徒もいれば変わって居たかも知れないが、それを今言ってもどうしようもない話だった。
そして目の前にまでたどり着いたギルスは、剣を横に凪ぐ。
生徒達は目を瞑り、剣が届くのを待った。
しかしいつまで起っても届かない。
何か大きな音は聞こえたが、それだけだと思ったからだ。
目を開けると目の前には馬車があり、その馬車に剣が突き刺さって抜けなくなっていた。
「いってぇ!おいリアスてめぇ!いきなりどういう領分だ!てめぇこんなことすんならオレも室内に入れろよ!」
「はぁ!?俺に怒るってお前良い度胸してんな!お前が捕まるヘマしなきゃ今頃帝都で余裕を持って事態を収拾出来たんだぞゴラァ!」
「それとこれとは話がちげぇだろうが!くそっ!おい、ミライ!出てきて、お前の婚約者に何とか言ってくれよ」
馬車の中からぞろぞろ出てくる面々。
それは、学園の生徒達にとってはわりと有名人である。
何故なら第一皇子や聖女達に目の敵にされている、ターニャ家公爵の息子と娘がつるんでいる生徒達だからだ。
「リアスくん、頭打った!さすがに馬車を投げるのはどうかと思う!」
「わ、悪い・・・」
「ほれみろ!」
「グレイ!あんたはそんな偉そうな態度出来ないでしょう?誰のために、わたし達捕まったと思ってるのよもう!」
「悪いグレシア・・・」
二人が説教をしている間に、馬車からイルシアが出てきて生徒達に称賛の言葉を述べた。
「君たちの勇気ある行動が、民間人の被害を少しだけ食い止められた。感謝する。って言っても俺の元の家の騎士がしでかしたことだからな。俺はお前らに謝らないといけない。すまなかった」
イルシアは生徒とその後ろにいる民間人に大きく頭を下げる。
ここには平民しかいなく、この帝国で貴族が平民に頭を下げるなんてことを初めて見たから全員呆然としていた。
イルシアは苦笑いしながら、腰の剣を高らかに上に掲げる。
「俺達はターニャ家の裏の事情を暴き、こいつらがヒャルハッハ王国と手を組んだことを知った!我々はその功績を称えられ、皇帝陛下から、ターニャ家とは別に公爵の地位を与えられた。そして今、帝都のこの事態を収拾するよう、陛下に命じられ馳せ参じた!民の諸君。俺は絶対にお前達を裏切らない。だから信じてこの場から動かないで欲しい。守る対象が増えると、闘いにくくなってしまうからだ!」
彼の言うことは、ほとんど事実無根だ。
恐らく騎士達は手を組んではいるが、完全に人格を壊された上で脅されている。
つまりあれも被害者ではあるから、裏切り者という必要は無い。
しかし敢えて言った。
自分達の評価を落とさないための作戦を、辺境から帝都にたどり着く前に話し合っていたのだ。
そして出した結果がこれだった。
リアスとミラとイルミナが、イルシアの前に立つ。
そしてイルシアはミルムを抱えて、バルドフェルドを後ろに控えさせ、聖人聖女であるグレイとグレシアが民間人の治療を始め、その彼らを守るようにアルナが腕を組んでどや顔をしていた。
『まだ仕事は残ってますからね。三人とも、魔力はなるべく使いきらずに速攻で倒してくださいね』
「「「おう!」」」
クレセントの叱咤と共に、三人がそれぞれドーピングした三人へと向かって行った。
クレの号令とともに、俺はライトニングスピアを詠唱し展開して小屋を破壊した。
そしてミラの捉えられてる小屋にもライトニングスピアを放ち、アルナの捉えられてる小屋には中級の炎魔法のブレイズファイアを唱える。
ブレイズファイアは一点集中ではなく、全体的に敵を燃やす魔法だ。
そんなものを小屋に放てば一酸化炭素中毒なんてすぐになるだろうけど関係ない。
甘えんなアルナ!
それと同時にイルミナの小屋もドアが粉砕し、監視の意識を一瞬で刈り取った。
それだけじゃ終わらない。
すぐさま身体強化で隣の小屋を壊して、イルシア先輩を救い出す。
それと同時にミラも隣の小屋を壊してミルム先輩を救出し、風の魔法で俺に飛ばしてくる。
俺は叫び声を上げる彼女をキャッチして、そのままイルシア先輩に渡す。
あまりの事態にイルシア先輩は声が出ないようだ。
「イルシア先輩、ミルム先輩をしっかり抱えててください」
グレイとグレシアは、精霊共鳴により自分で治癒魔法が使えるため致命傷でもない限り平気だ。
剣を持つ騎士体当たりをしてすぐ様イルミナとアルナのところに走る。
アルナが俺の方をかなり睨んでるけど知ったことじゃない。
「くそっ!どうなってんだ!合図もなしにここまで同時に行動を起こせるのかよ!」
「さぁね。悪いけど無駄な話をしてる暇はないんだ。ショックボルト」
手加減したが、それでもこの目の前の兵士が目覚める頃にはこいつは豚箱だ。
ミラ達も他の兵士を気絶させているが、全員を捉える余裕はない。
ここで時間をかければかけるほど、ターニャ家の評判は落ちていっているだろうからだ。
「あとはほっとけ!」
「え、でもリアスくん」
「敵の狙いは俺達をここに留まらせることだ。んなもんにいちいち構ってられるか。すぐ帝都に行くぞ、馬車に乗れ」
俺は馬車を出して、全員乗り込ませて走り出す。
辺境からどれだけの時間がかかるか分からないが、二時間以内には着けるだろう。
最悪の場合の手もあるしな。
元々は俺のものだし、どう使おうと勝手だろう。
そんなことよりも急ごう。
間に合わないと大変なことになる。
*
宮殿へと侵入した刺青の男とその部下は、警備の騎士達を、人間離れした魔法で次々と倒していく。
そして地下へと続く道にまで辿り着き、無事侵入に成功する。
そのすぐ後は、一本道となっていた。
「この先が地下牢だ。これから相手取る奴らは精鋭。心してかかれ」
「了解」
地下牢は目前。
この地下牢には現在、魔物一万体を一瞬で蹴散らした人間と互角に戦える者がいる。
そんな重要な場所は、皇帝の周り以上に強い者が配置されているのは当たり前だった。
「侵入者か。そろそろ来ると思って待ちくたびれたよ」
宮殿地下牢看守長、フラメニック・トラマニス。
その桃色に煌く長い髪は、この暗がり中でもはっきりと視認できる。
「フラメニック・トラマニス!」
「淑女を呼び捨てとは、あまりいい育ち方をしてないようだねぇ!」
その瞬間その場に風が吹き荒れる。
魔法が使われたわけじゃない。
フラメニックが、目にもたまらぬ速さで移動した。
ただそれだけだ。
「速い!」
刺青の部下の男がフラメニックと刺青の男の間に入り、攻撃を防ぐ。
フラメニックの武器は棍棒であり、剣で受け止めた彼は、腕が痺れている。
「へぇ、そんな細腕なのに剣で受け止めるなんてやるわ」
言葉ではそう言いつつも、意識を刺青の男に割いている辺りは、彼に対して思うところもないことを窺える。
「任せるぞ」
「かしこまりました」
「あたしをほっぽいて、一体どこに行こうってのよ!」
今まさに必死に耐えている男の腹を蹴り飛ばし、刺青の男に棍棒を振り下ろした。
しかし棍棒は彼には届かない。
吹き飛ばされた男が即座に棍棒を吹き飛ばし、そのまま走り去っていく刺青の男。
まるで止めることを疑ってなかったかの様に速度を落とさない彼に、棍棒を落としてバランスを崩したフラメニックが追いつけるはずもなかった。
「チッ!」
「美人が台無しですよ」
「ムシャクシャさせんな!」
フラメニックは棍棒を拾い上げ、倒れている男を殴り飛ばす。
放物線の軌道で吹き飛んでいく彼が、自由落下で地面へと到達した時身体がグシャリと音を上げて、腕が変な方向に曲がる。
しかしそれでも止まる気配はない。
すぐに立ち上がり、曲がった腕を無理やり元に戻した。
「棍棒だと言うのに、まるで剣を振るっているような動き。化け物ですね」
「こっちからしたらお前さんの方が化け物だよ!ねぇ、ヒャルハッハ王国隠密部隊<浅知恵の蜘蛛>副総長、ルヤ・ムラサ!」
ルヤと呼ばれた男はぴくりと眉を動かす。
ヒャルハッハ王国の人間だと把握されるのは予想していたが、当たりをつけられてしまうとまでは思っていなかったのだ。
浅知恵の蜘蛛はヒャルハッハ王国が古くから抱える影の軍隊であり、仕事内容は暗殺や宣戦布告前の国落としなど様々だ。
その中の二番手の男が、このルヤである。
「王国の情報網を甘く見てましたね。中々に食わせ者がいるようだ」
「それはうちの宰相を褒めてやんな」
アデルは先日の魔物大量発生で捕まった影と呼ばれる者達がいつまで経っても口を割らず、まるで何かを待っているかのような行動をしていたため、ヒャルハッハ王国を徹底的に調べ上げた。
極め付けはゾグニ殺害事件。
そこでのやり口から、アデルが今まで調べてきた事柄と照らし合わせたことで、見えて来るものがあった。
「宰相アデルですか。堕ちた帝国だと言うのに、優秀な人材を手に入れたようだ」
「あんたが思ってるほど、うちの国は腐っちゃいないよ!それにまだ若い最高の芽もあるしね」
「ですね。浅知恵の蜘蛛もここまで計画を狂わされた挙げ句、隠密部隊として把握されるなんて記録はないですよ」
王国にはかつて、隠密部隊として活躍し、百年前ほどに解散した部隊が存在した記録があった。
しかしアデルは帝国では名前までは判明できなかったため、ヒャルハッハ王国に潜ませたスパイから、隠密部隊の記録について調べるように命じ、見事に浅知恵の蜘蛛に辿り着くことができたのだ。
「しかし聞いていたよりもタフだ。一体どうなってんだい?」
「応える義務はありませんよ。あなたを抑えていることが任務ですからね。あなたさえいなければ、ここの監獄如きどうにでもなりますから」
「はっはっは!!それはどうかな?余りにもあたし達を舐めすぎてないかい?」
「それは一体?」
しかしぐうを言わせる隙を作るほどフラメニックは甘くはなく、すぐに言葉を紡ぐのをやめてルヤへの攻撃を再開する。
「野蛮な女性だ」
「おあいにく様、それが仕事なもんでね!」
棍棒と剣のぶつかり合う音は、剣同士のぶつかり合う音とは違い、鈍い音が何度も地下に響く。
もっともそれを聞く者も、観戦する者誰一人いない。
あるのは自分の敵のたった二つのシンプルな構図。
だからこそお互いは何も考えずに打ち合うことができる。
そして軍パイが上がるのは、より闘いを経験した者となる。
「ファイアーボール!」
「魔法なんて効くわけないよ!ふんっ!」
フラメニックはルヤが放った魔法をあっさりと棍棒で消し去り、そのまま跳び蹴りを放つ。
しかし彼もそれは予測済み。
跳び蹴りの威力を殺すために後ろに飛んだ。
ルヤにもほとんどダメージがない。
「闘い慣れてるねぇ」
「副総長と言うのは伊達でなれるものではございません」
「こっちだって民の為に戦ってわぼけ!あんたらを逃せば、民達が苦しむ。そんなのは許されないわ」
「じゃあ良いんですかね?こんなに自分達に付き合っていて」
「なんだと?」
そう、こうして単身二人で乗り込むことができたのは、精霊を殺したことによる力だけではない。
帝都で強力な名声のある騎士を暴れさせることで、注意を宮殿からそちらに向けているからである。
そしてそんな強力な騎士が民間人を襲って、死者が出ないわけがなかった。
「外では今、帝国民たちが信じていた貴族の側近騎士に襲われているのです」
「街の警備の奴らを舐めるなよ。それくらい処理できるさ」
「あなたは強い。それは認めましょう。それに聡明だ。あなたは民を守れてはいないと言う事実に気付いているはずです」
「どう言う意味だ!」
「気づかないのですか?本来であれば、自分は貴女には敵いません」
互角の闘いを演じて見せた男が何を言っているかとフラメニックは疑問に思う。
しかし考えてみれば段々自分の攻撃に彼が対応してきている事実に気づく。
「そう言った慢心が、貴女の敗北に繋がるんですよ!」
「ふんっ!あまいわ!」
なんの重みもない、まるで新兵の騎士の太刀筋で見てるような攻撃。
フラメニックにとっては、なんでもなかった。
そのはずだった。
しかしフラメニックはその攻撃に対処が追いつかなかった。
フラメニックと契約している精霊が、咄嗟に風魔法で彼女を吹き飛ばさなければ、致命傷になっていたことだろう。
「ぐっ!本来なら避けれる速度だったと言うのにこれは」
「帝国は力押しをするだけの人間ばかりで、策を巡らせない。あぁ、至極簡単に引っかかってくれる。腕っ節だけど野蛮人はこうも容易く弱体化するのです。我々の組織、良い名前でしょう?浅知恵の蜘蛛。貴方のような考えの浅はかな人間は、容易く我々の巣に引っかかってしまうのですよ!」
ルヤは戦闘開始直後からからを鈍らせる毒液を気化させていた。
彼はもちろん毒に耐性を付けてはいるが、今回は彼らの言うところの精霊共鳴により、風魔法で気化した毒を散らしていたため、全く毒の影響かにはない。
更にここは地下で、風魔法を使うことで、気化した毒も一点集中で受けていたため、毒の回りも早かった。
「小癪な手を使う卑怯者め」
「自分から言わせてもらえば、使えるモノを使わずに負けるのは愚かでしかない。さて、素人の剣すら躱すのが精一杯の貴女に、今は何も恐怖を感じませんね」
彼女自身にも譲れないモノがある。
それは今までこの地下牢の囚人の脱獄をタダの一人も許したことがない絶対の自信と誇りだ。
だから彼女も、こんなハンデ程度では諦めない。
「所詮は雑魚の浅知恵だね!本物を見せてやるよ!」
「はぁ、現実を直視することの出来ない無力さを痛感すると良いですよ」
そして二人を置き去りにして、仲間達の救出に向かう刺青の男の前にも立ちふさがる者がいる。
目の前から襲い来る殺気を感じ取り、咄嗟に後ろに飛び退く。
「おいおい、どうしてたかが地下牢にあんたみてぇのがいるんだよ」
「ふんっ!そんなの息子達が不甲斐ねぇからだよ!なぁ、浅知恵の蜘蛛の総長、スピカ・ドラグシル!」
「英雄パーピル!」
地下牢の最終防衛ラインにして、帝国最強の英雄パーピル・フォン・ベルヌーイだった。
かつて英雄と呼ばれた男は、リアス達の戦闘力と遜色ない実力者であり、ヒャルハッハ王国との戦争の功績もあって国境に配置されていることの多い人物だった。
彼がいるから宣戦布告をしないまであるヒャルハッハ王国に対して、抑止力となる男が地下牢の防衛をしていることが、スピカには信じられなかった。
「最悪だよ。実力者がいるとは思っていたが、まさか英雄を配置するなんて。今の皇帝はどうやら賢いらしい」
「エルーザ様は偉大な方だ。お前らの情報もすぐ集めてしまう宰相すら、自分で見つけになったのだからな!」
「そうか。でもいいのか?帝都では大変な事になってると思うぞ?」
「構わん。息子達はそれくらいなんとかするだろう。俺はお前を止めることに集中させてもらう」
「ハッハッハ!その頼みの息子達は、今頃辺境だ。残念だったな!」
「あまり、あいつらを舐めるなよ?お前らの計画はたかが15歳の三人に潰されたことを忘れるな」
お互いあとは殺し合いで語ろうと、口を閉じ剣を向ける。
そして地下でくり広げられる二つの戦闘が始まった。
*
地下で戦闘が勃発しているころ、帝都中心部にある街では、ギルス他ターニャ家の騎士達により、半壊状態にまで陥っていた。
「あひゃひゃひゃ!ボスのために!ボスのためにぃ!」
「ぎ、ギルスだ!ゾグニ様の騎士がどうしてこんなことを!」
「まさか、ターニャ家はここまで腐っていたのか!」
民間人を次々と殺していくギルス。
その所業は最早騎士とはかけ離れていた。
そしてそれはその主人であるゾグニ、ターニャ家の評価を下げるには十分過ぎる。
少なくとも民達からのターニャ家の信頼度はがた落ちだ。
浅知恵の蜘蛛の人間達の思惑通りに事が進んでしまっていた。
ここまで来ればターニャ家の評判はどう頑張っても取り戻せない。
何故なら死者という最も重い犠牲を出してしまっているためだ。
どう取りつくろっても、遺族達には言い訳にしか聞こえないのだ。
「いやはははあ!もうゾグニ様は居ない!ゾグニ様の居ない帝国など、ただの残りカスだ!全部、全部ぶっ壊してやる!」
ゾグニの側近騎士になるために、汚いことを何でもこなしてきたギルス。
そしてやっと側近になることが出来た矢先に襲撃の末に主人の死。
心が壊れてしまうのも無理はなかった。
「動くなターニャ家の側近騎士ギルス!」
ギルスを取り囲むように、屯所から騎士達が派遣されてきた。
20人ほどで取り囲んでおり、ギルスの実力ではこの包囲網を抜けることができない。
「たったこれだけで俺を止めようってのかぁ?無理だやめとけぇ」
「貴様、我々を愚弄するか。全員捕縛だ。かかれ!」
「ははっ!てめぇら!あれ使うぞ」
ギルスを含めた暴れている騎士達は、懐から注射器を取り出し首に突き刺す。
すると身体が少しだけ肥大化していく。
筋肉が増強される強力なドーピング剤のようなものだった。
最もこれはスピカが持たせた実験道具であり、副作用がある可能性もある。
しかしそれを知っていてもこの3人は使ったのだ。
それからは蹂躙だった。
騎士達はまた1人また1人と、地面に染みを作っていく。
「馬鹿な・・・どうしてこんなことが・・・」
そう呟くのは屯所の騎士達の隊長である男だった。
次々と死んでいく部下達の姿をただ呆然とみていた。
屯所に勤めて30年。
今まで味わったことのない出来事に、彼はどんどん壊れていく。
そして騎士が誰一人立っていなくなった状況で、彼は思考をやめた。
「おいどうしたお前ら。勤務中にサボりとは関心しないな。ははっ!今日は俺の奢りだ。早く出てこい。隠れても無駄だぞ」
しかしその声も虚しく、返ってくる声は何も無い。
次の瞬間には、ギルスが剣を振り下ろし彼は真っ二つになり、右と左に身体が倒れ込んでしまう。
「いいねぇ。雑魚共を蹂躙するのは楽しいぜぇ!ひゃっふぃ!」
次に狙いを決めるのは、放課後で偶々帝都の市街地に遊びに来ていたアルザーノ魔術学園の生徒達だ。
今は騎士達にギルスを任せて避難誘導をしていた。
しかし騎士が負けたことにより、自分達にターゲットが向くことは理解していたので、戦闘準備は万端だった。
ここに居る生徒は全員平民の生徒だ。
貴族の生徒は我先にと逃げてしまっていた。
「次はてめぇらだ!しねぇぇ!」
「くそっ!全員下級魔法で少しでも長く進行を止めろ!」
しかし所詮は学生の身の魔法。
騎士達ですら手も足も出なかった、強化されたギルスには焼け石に水だった。
貴族の生徒もいれば変わって居たかも知れないが、それを今言ってもどうしようもない話だった。
そして目の前にまでたどり着いたギルスは、剣を横に凪ぐ。
生徒達は目を瞑り、剣が届くのを待った。
しかしいつまで起っても届かない。
何か大きな音は聞こえたが、それだけだと思ったからだ。
目を開けると目の前には馬車があり、その馬車に剣が突き刺さって抜けなくなっていた。
「いってぇ!おいリアスてめぇ!いきなりどういう領分だ!てめぇこんなことすんならオレも室内に入れろよ!」
「はぁ!?俺に怒るってお前良い度胸してんな!お前が捕まるヘマしなきゃ今頃帝都で余裕を持って事態を収拾出来たんだぞゴラァ!」
「それとこれとは話がちげぇだろうが!くそっ!おい、ミライ!出てきて、お前の婚約者に何とか言ってくれよ」
馬車の中からぞろぞろ出てくる面々。
それは、学園の生徒達にとってはわりと有名人である。
何故なら第一皇子や聖女達に目の敵にされている、ターニャ家公爵の息子と娘がつるんでいる生徒達だからだ。
「リアスくん、頭打った!さすがに馬車を投げるのはどうかと思う!」
「わ、悪い・・・」
「ほれみろ!」
「グレイ!あんたはそんな偉そうな態度出来ないでしょう?誰のために、わたし達捕まったと思ってるのよもう!」
「悪いグレシア・・・」
二人が説教をしている間に、馬車からイルシアが出てきて生徒達に称賛の言葉を述べた。
「君たちの勇気ある行動が、民間人の被害を少しだけ食い止められた。感謝する。って言っても俺の元の家の騎士がしでかしたことだからな。俺はお前らに謝らないといけない。すまなかった」
イルシアは生徒とその後ろにいる民間人に大きく頭を下げる。
ここには平民しかいなく、この帝国で貴族が平民に頭を下げるなんてことを初めて見たから全員呆然としていた。
イルシアは苦笑いしながら、腰の剣を高らかに上に掲げる。
「俺達はターニャ家の裏の事情を暴き、こいつらがヒャルハッハ王国と手を組んだことを知った!我々はその功績を称えられ、皇帝陛下から、ターニャ家とは別に公爵の地位を与えられた。そして今、帝都のこの事態を収拾するよう、陛下に命じられ馳せ参じた!民の諸君。俺は絶対にお前達を裏切らない。だから信じてこの場から動かないで欲しい。守る対象が増えると、闘いにくくなってしまうからだ!」
彼の言うことは、ほとんど事実無根だ。
恐らく騎士達は手を組んではいるが、完全に人格を壊された上で脅されている。
つまりあれも被害者ではあるから、裏切り者という必要は無い。
しかし敢えて言った。
自分達の評価を落とさないための作戦を、辺境から帝都にたどり着く前に話し合っていたのだ。
そして出した結果がこれだった。
リアスとミラとイルミナが、イルシアの前に立つ。
そしてイルシアはミルムを抱えて、バルドフェルドを後ろに控えさせ、聖人聖女であるグレイとグレシアが民間人の治療を始め、その彼らを守るようにアルナが腕を組んでどや顔をしていた。
『まだ仕事は残ってますからね。三人とも、魔力はなるべく使いきらずに速攻で倒してくださいね』
「「「おう!」」」
クレセントの叱咤と共に、三人がそれぞれドーピングした三人へと向かって行った。
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