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二章

暗躍する巨大な

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 俺達がターニャ邸にお邪魔してから一週間が経つ。
 びっくりするほど何も無い。
 
「ですから帝国の歴史は今から500年前に遡りまして------」

 二学年の授業を俺は後ろから聞いている。
 イルシア先輩とミルム先輩に何か起きたときに備えた護衛だ。
 俺は一週間授業には出ていない。

「あー、じゃあそこの君。帝国が建国したきっかけについて応えられるかね?」

 俺の方を指さす教師。
 昨日から後ろで授業を聞く俺に対して我慢が出来なかったのか、俺まで指さしてくるようになった。
 護衛とはいえ、学生服を来てる新入生だからな。

「帝国はかつての王国の派生国です。200年ほど前、王国から独立した国がこのライザー帝国。初代皇帝は、当時の王の圧政から民を救うために独立し、見事戦争に勝利致しました」

「よろしい」

 ライザー帝国が昔ヒャルハッハ王国だったのは驚いた。
 こういう裏情報って言うのは、ゲームでは明かされないからな。

「おい、なんであいつこの教室にいるんだよ」

「男爵のくせに生意気ね」

「一言後で言ってこようかしら?」

『言いたい放題ですねー。イルシアが狙われれば彼らもタタじゃ済まないのに』

 このクラスは伯爵以上はもちろん、子爵と男爵達の当たりも強い。
 何故ならこのクラスに子爵と男爵の次期当主がいないためだ。
 魔物大量発生スタンピードに参加した人間は基本的に俺達に友好的だからな。
 授業が終わりイルシア先輩とミルム先輩達がこちらに近づいてくる。

「悪いな、居心地悪いだろこの空間」

「構いませんよ。先輩達こそ休まる空間がないでしょう」

「私達はいいのですよ。もっと自分のことを考えてもらって」

「犯人を捕まえた後で考えましょう」

 さすがに一週間動きが無いのはおかしい。
 イルシア先輩がターニャ家当主代理という立場上、ゾグニを殺してまで漏らさなかった情報が知れてると普通は思う。
 こうなると、恨みの犯行という線も出てくるな。

「授業も終わりだ。帰ろう。放課後青春を楽しめないのは、残念だが」

「まぁもう少し辛抱ですよ。さすがに長期間狙いを歩かせるような相手なら、こんなに苦労はしてないでしょうから」

 下手したら一日でも放置すれば、情報が外部に漏れるかも知れない。
 もし、恨みの犯行でゾグニをあれだけ惨たらしく殺したんだ。
 
「リアスくーん。おつかれー」

「ミラ!」

 ミラが飛びついてくるので、俺は頬にキスをして抱える。
 なんだかんだ、これが護衛としてずっと身構えている俺の何よりの報酬だ。
 後ろからグレシアとイルミナが走ってくる。

「ミライ、いきなり走ったと思ったら。リアスが居たのね」

「転ばれます。お気をつけくださいね」
 
「今日も何も無かったね。油断させるにしても一週間がピークだと思うけど」

「そうですね。情報というのは、時間が経つにすれて洩れてしまうものですし」

「ここまで来るとゾグニ個人に対しての恨みの犯行も考えられるよな」

「だとしたら先輩達が狙われる可能性も薄くなってくるんだけど、そう簡単にも行かないよね」

 あくまで予想の範囲であり、違ったら危険だ。
 しかしこれ以上待っても攻めて来ない可能性のが高いんだよな。
 常に俺達を監視していた場合、ゾグニが掴んだ情報を俺達が持っていないことを知っている敵が、わざわざ危険を冒してまで公爵家を殺しに来るとは思えない。

「八方塞がりだよな」

「本当に悪いなお前らに迷惑をかけて」

「いえ、こっちは恩を売ってるんですから、いずれ返してもらいますよ」

「そうか。これだけのことをしてもらっている。それくらい当然の対価だ。護衛料を受け取らなかったしなお前らは」

 正直金をもらっても、今はどうしようもない。
 寧ろ支払い税が増えて面倒だ。
 
「それは良いんですよ。ていうかグレイとアルナはどうした?」

「そう言えばバルドフェルドも今日は休みだな」

「あ、グレイとアルナも休みだよ。アルナは朝具合が悪かったしね」

 三人が偶然休むなんてあるか?
 常に気を張ってるから考えすぎかも知れない。
 でも考えずに居られなかった。

「アルナは具合が悪かったかも知れないが、もしそれが作為的に行われたとしたらどうだ?」

「それって・・・」

「まずいかもしれない。寮へ急ごう」

 俺達は早歩きで寮の敷地までいく。
 アルナの部屋の位置はわからないが、索敵魔法を飛ばす。

「グレイの部屋とバルドフェルド先輩の部屋に・・・反応がない」

「え?」

「アルナの部屋はどこだ?」

「五階の階段の手前の部屋だよ」

 やはりアルナの反応もない。
 どうして失念していた。
 相手が人質を取ってくると言うことに。

「・・・後手に回ってるな」

「相手は下劣な上に、巧妙みたいだね。見てよ」

 気がつけば俺達を囲んでいる集団がいる。
 なるほど。
 こいつらは常に俺達を見張って交友があり、且つ捉えやすい三人を捕まえたって訳だ。
 こんなのシナリオでなかったなんて言い訳だよな。
 もうとっくに花そそで起きた内容と大きく異なっているんだ。

「気づいていると思うが、人質を殺されたくなければ我々と共に来て貰おう」

「ちっ、後手後手だな。俺達が素直に言うことを聞くとでも?」

「我々の生体反応が消えれば、人質は死ぬぞ?それでもお前らは暴れるのか?」

 所詮俺はゲームの世界に入り込んだ、タダのガヤって訳だ。 
 どんなに魔物を簡単に倒せても、こう言った人間の知恵には到底・・・。
 俺は非情な選択肢をとる人間の浅ましさと言うモノを理解してはいなかった。

「別に殺す必要はないじゃん!ボクは------」

「ミラ!人質をとる様な奴らが、作戦なんかばらさない。どこかで別の奴がこの様子を見てる可能性もある」

 人質であるグレイ達を殺される前に、救い出すことができるほど状況はあまりよろしくない。

『問題はグレイとバルドフェルドでしょうね。アルナは恐らく大丈夫でしょうから』

 そうだな。
 アルナはあんなのでも俺の妹で、この六年引っ付いてきたからある程度は大丈夫だ。
 具合が悪いらしいけどあいつは甘え上手だからな。
 捕まったのには理由があるだろう。
 あるいは何もないか。
 何もないなうん。

「むぅ!」

「我慢してくれてありがとうミラ」

 どうする?
 考えろ。
 この状況を切り抜ける良い策はないか。
 少なくとも、人質は生きているはずだ。
 俺とミラとイルミナはあいつらにとって猛獣にも等しい。
 つまり自らその枷を外す様な真似はしないだろう。

『思考をやめないでください。ここは一度捕らえられましょう。必ずチャンスは来ます。下手に逆らえば三人の命は危険に晒されますからね』

 捕まればチャンスは来るかもしれないが危険が増える。
 それに俺だけじゃなくて、ここにいるみんなが危険に晒される。

『メルセデスが料理を持ち込んだ時に、イルシアの部屋に二人がいなければ、何かしら行動してくれるはずです』

 たしかにメルセデスは基本的に部屋にしかいない。
 帝国貴族は基本的に使用人に当たりが強いことからも、メルセデスが人質にとられてる可能性は低い。
 
「賭け・・・か」

「リアスくん!」

 クレの言葉がわかる俺とミラは頷き両手をあげた。
 俺達が両手を上げたことにより、全員が手をあげる。
 イルシア先輩が小声で呟く。

「何か策があるんだろ?信じるぞ?」

 俺は黙って頷いた。
 そして手足を縛られ、俺達は馬車へと連れ込まれる。



 何時間馬車に乗っていたかわからない。
 しかしかなりの時間乗っていたことはたしかだ。
 馬車はガタガタと揺れるが、どこを走行してるかも定かじゃない。
 馬車の窓は外が見えない様になっているからだ。
 そして見張りがいる以上、下手なことは口走れない。
 何もできないのがもどかしいな。

「着いたぞ。降りろ」

「ここは・・・」

 何度か俺も訪れたことがある。
 ここはヒャルハッハ王国の国境だ。
 西の辺境地。
 
「入れ!貴様達の処遇は後で決めさせてもらう。喜べ。全員一部屋ずつ用意した」

 喜べか。
 お互いが様子が分からない以上、何かすれば手を出せない様にってことだな。

「ここなら敵を一網打尽にできるよな」

「おいっ!連れてこい」

 連れて来られたのはグレイ達だ。
 見た感じ乱暴を受けた様子がない。
 よくわかってる。
 ここで誰かに手を出せば、俺たちへの抑止力にはならない。
 
「すまねぇリアス」

「兄貴ぃ~」

「悪いイルシア」

 三人が謝る必要はない。
 俺が相手をあまりにも過小評価していたことが原因だ。

「俺も予測できたはずなのに、失念していた。責任はある。三人ともすまない」

 どのみちこうなっては俺達は何もできない。
 ここは大人しく捕まるしかない。
 グレイ達はそのまま、無造作に見張りの男に連れて行かれた。
 そして俺達もそれぞれ部屋に入れられる。

「下手なことはしないことだ。貴様らの一人でも妙な真似をすれば、その時は他の奴らの命もない」

 たしかにそう言われたら動くことに躊躇われる。

「くそっ、八方塞がりか」

 しかし妙だ。
 狙いがイルシア先輩なのは明白だ。
 しかし国境付近で捕縛後に待機させたり、俺達をわざわざ人質に合わせて近くに置いたりと。

「俺達の扱いがまるで------」

『杜撰ですね。もし彼らが計画的に我々を捉えようとしていたら杜撰な作戦です』
 
「クレもそう思うか」

 一応脱出手段は馬車で運ばれている時に考えた。
 グレイ達が同じ箇所に集まっていてよかった。
 おかげで危ない綱渡りは踏まずに済む。
 けど奴らの目的がわからない。

「ヒャルハッハの国境だから俺達が下手に暴れられないと、思ってるってことか?それに監視だってそうだ。俺が小声で内容がわからないだろうが、独り言を言っていても誰も入って来ない」

『たしかに変ですね。まるで何か別の意図があって連れてきている?』

「索敵魔法ではドアの前にいる。動く気配もない。つまりこいつらの目的はイルシア先輩を殺すことじゃないってことか」

『ありえます』

「しかし下手に動けないしどうしようもないな」

『数が数ですからね』

 そう、別にこいつらを排除することはどうってことないだろうが、それは人質がいなければの話。
 そんな不確定要素で慢心して、友人を殺されでもしてみろ?
 立ち直れないぞ俺は。
 敵の考えを予測して、思考を張り巡らせた。

「くっそ、俺が動けないことをわかってこんなことしてんだよなぁ敵さん達」

 学生って身分と、敵相手でも命を取る勇気がなかったことから、そう思われても仕方はないんだが。

「しかしなんで犯人は国境に俺たちを連れてきたんだろうな」

『それは恐らく犯人が王国人間だからではないでしょうか?そして我々を速やかに王国へと拉致出来る様にと考えたのでしょう』

 たしかに普通に考えたらそうだ。
 けどこの杜撰な管理と言い、まるで脱出してくれと言わんばかり。
 
『・・・敵はリアスを一時的に帝都から排除したかったんじゃないですか?もしそうなら全て合点が行きます』

「どういうことだ?」

『彼らはあなた達には少なくとも、もう逃げられていいと思っている。我々を捉えることが目的ではなく、ここに留めておくこと自体で目的を達してのかもしれません』

 おいおい、まさか敵のやってることって!
 俺もここまで言われたら読めてくる。
 そうだ。
 人を殺す方法はなにも、単純に物理的に殺すことだけじゃない。
 だとすればここに悠長にしているのはまずい。
 敵の狙いは俺達の、さしてはイルシア先輩の信用を落とすことか!
 三人だけ騎士が行方不明だと聞いたが、もし生き残ってるとしたら。
 そしてそれが帝都で何らかの行動を取れば、ターニャ家の信用はガタ落ちだ。
 貴族社会はそれこそ、自殺に追い込まれるレベルでの爪弾きに合う可能性も否めない。
 自殺すれば御の字。
 そうじゃなくてもターニャ家の情報には何の価値も無くなる。
 彼等にとってはそれが一番の目的だろう。

『もしこの予想が当たっているなら外にいる彼等は邪魔をしてこないでしょう』

「くそっ!こっから早く帝都に向かわねぇと、大変なことになるぞ!」

『もう帝都を出てから2時間は経っています』

 馬車で考えていた作戦も何もかもが無駄になった。
 
 俺はすぐに行動に移した。
 しかし状況は既に最悪に等しいと言うことに、俺はまだ気付いてはいなかった。



 リアス達が捕らえられ馬車が帝都から離れたところ、帝都内では眼帯の男が静かに宮殿を建物の屋上から見つめていた。
 部下の報告を待っているのだ。

「ボス、ターゲットは無事帝都から追い出すことに成功しました」

「クックック!アハハハ!奴らは夢にも思わないだろうな!殺害という方法だけが、ターゲットの口を塞ぐ方法だとは」

「でしょうね。彼らには精々暴れてもらいましょう」

 眼帯の男は、眼帯を外し刺青のある右目があらわになる。
 そんな刺青の男の狙いは、宮殿の地下牢にいる仲間達の救助だった。
 それには宮殿も含めた全ての帝国民は別のところに視線を向けなければならない。
 次々と帝都中央の建物から、爆発音と共に火の手が上がった。
 刺青の男にとって心地のいい爆発音だ。

「報告致します。星達は見事に踊ってくださっています!」

「いいねぇ。燃える炎はとても美しい」

 そしてこの行為は同時にターニャ家の失墜にも直結する。
 今、帝都で民間人相手に暴れているのは、完全に脅されて心を折られた、ターニャ家元当主ゾグニの側近ギルスと、その騎士達も混ざっているからだ。
 
「信用さえ無くなれば、奴らの情報も意味をなさない。そして奴らが信用を回復する頃には、既に帝国は無くなっているだろうからな」

「えぇ、親方様の計画に叶う人間など存在しませんからね」

「さて、じゃあ俺たちも暴れに行くとしようか」

 男達の手には精霊が握り締められている。
 精霊は涙目で離せ離せとジタバタ暴れている。
 しかし次には精霊は握り潰されてしまった。
 そして精霊は光の粒子となり、彼等の身体に吸収されていってしまう。

精霊共鳴レゾナント、実にいい力への昇華方法だよな」

「はい、このおかげで魔法が手足のように操れますから」

 グレイとグレシアの使う精霊共鳴レゾナントとは違い、精霊を自ら手にかけ体内に入れるこの方法は、力が1日限定となるが魔力は精霊並みになり、魔法も自分で使えるようになる。
 この方法を使うと魔力が無限にも等しくなるため、大人でもリアス並みの魔力制御を持つことができるようになる。
 それに使われる精霊の命は計り知れないが。

「俺たちは邪魔者を排除して、好きにことを運ぶことができる。規格外の化け物が居ないだけで、気持ちは楽だな」

 実際リアス達が帝都にいた場合、騒ぎはすぐに鎮火し、計画も水の泡になっていただろう。

「影を救出後、速やかに帝都から離脱する。恐らくあの爆発で化け物どもも気付いただろうからな」

「了解致しました。しかし時は既に遅いですね」

 ヒャルハッハ王国の辺境にリアスを追いやったのは、すぐに監視をしている部下達が即座に逃亡するため。
 もしそれで追いかけてくれば不法入国として、今のような事実無根の理由ではなく確実に信用を落とすことができる。
 そうでなくとも、辺境から帝都までは馬車で2時間以上かかる。
 リアス達が到着する頃には、なにもかも終わってしまっているのだ。

「奴らの信用は確実に地に落ちたも同然だ。だが油断するな。宮殿にも油断ならない奴らが多数いる。少数精鋭でしか侵入することができないとはいえ、出来れば数が欲しかったのが本音だ」

 リアス達を苦しめた影と呼ばれる奴らの実力は本物で、蜥蜴の尻尾切りを普段なら行う刺青の男達の組織も今回は奪還を計画した。
 危険以上に失うデメリットがデカすぎたからだ。
 
「わかっています。最悪死んでも彼等を逃すことを誓いましょう」

「そうだな。お前とあいつらの命価値はあまりにも違いすぎる」

 冷たいことを言うが、それは彼の部下も受け入れているため苦笑いで終わらせる。
 それが彼等がやり方であり、強い者の糧になるのが何よりの喜びであった。
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