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二章

頼み事のできる間柄の人間

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 入学式から三日が経ち、一通り学園の説明も終わり今日が終わると来週から授業が始まる。
 入学して三日も経つと、クラスでのグループというモノが完成してきており、休み時間は俺とミラとイルミナ、アルナとグレシアとグレイの六人でいることが多くなった。
 たまに子爵と男爵の次期当主であるクラスメイト達六人も話しかけてくるが、彼らは幼馴染みらしく俺達とは別の箇所で集まって駄弁ることが多かった。
 まぁ俺達はクラスではなく、校舎の屋上で駄弁ってるんだが。
 本来立ち入り禁止だが、浮遊魔法が使えれば簡単に外から登ることができる。
 そしてここには俺達六人と、イルシア先輩とバルドフェルド先輩そしてミルム先輩がいる。
 ミルム先輩はイルシア先輩の婚約者だそうだ。
 平民出身だが、最近騎士爵を手に入れイルシア先輩との婚約の最低基準を手に入れたことにより、なんと入学式の翌日に婚約したらしい。

「おいリアス。あれから三日も経ったぞ!お前の言う合法的に隠し事をすることが出来る人物って誰だよ!」

「声がデカいわグレイ!いくらここが立ち入り禁止だからって、休み時間に巡回しに来ないとも限らないのよ!」

「だってよグレシア。授業が始まれば、俺とお前は聖魔法しか使えないんだ。バレるのも時間の問題だぞ」

 グレイ自身が聖人であることを隠して居たのは、グレシアのためらしい。
 今は亡きグレシアの母親とグレイの母親は友人らしく、何かあったときのために庇う様に隠しておけと言ってあったらしい。
 この国に何の精霊と契約しているか報告する義務もないしな。
 これが精霊の儀で契約した精霊ならわからないが、聖獣や神話級の精霊は精霊契約の儀では契約できないし、黙っていればバレるはずもない。
 因みにここにいる八人にはグレシアの父であるゾグニを失脚させる計画は周知済みだ。
 イルシア先輩はグレシアが聖女だと知ったとき、それはもう喜んでいた。
 シスコンめ。
 ミルム先輩が冷たい目で見ていたのを俺は忘れていない。

「とりあえずグレシア様、お茶を飲んで落ち着きましょう。メルセデスが持たせてくれたハーブティーです。落ち着きますよ」
 
「ありがとうイルミナ。うーん!メルセデスが入れたお茶は美味しいわね」

 メルセデスは俺達の自慢の料理長だからな。
 お茶だけじゃなく料理も最高だし。

「でもリアスくん。グレイの言うとおりそろそろ動いた方が良いと思うんだけど。あのバカ皇子、四六時中聖女リリィと一緒にいるし、グレシアのストレスも相当なモノだと思うんだよ」

「気づかってくれてありがとうミライ。私は大丈夫よ」

「今は大丈夫でも無理はしなくていいのよ」

「ミルムお義姉様・・・」

 精霊契約の儀は本来9歳までしか出来ない。
 そして精霊契約の儀を行わない理由は、グレコ達のように子供を虐げている以外だと、元から契約精霊が居るとき。
 グレシアとグレイが、メシアとクロと契約したのは8歳の頃で、精霊契約の儀に出席すると契約している精霊がバレてしまうため、グレイの母親が自分の契約している精霊をグレシアに持たせて、契約している精霊がいるから精霊契約の儀には出席しないとゾグニに言ったことでごまかしたらしい。
 それから入学するまでの7年間誰にもバレずに隠せていたグレシアが、ここにきてバレてしまう失態を犯したのか。
 それはあのバカ皇子アルバートの所為だった。
 彼へのストレスから、グレシアは気が緩みメシアの声を止めることを忘れてしまうほどで、本人自身が驚いていた。
 アルバートはグレシアのことを政略で無理矢理婚約させられた婚約者と認識しており、彼女を蔑ろにしているのだ。
 それでも入学するまでは、陛下や宰相さんがフォローしてお茶会などと言った楽しい場を作ったことで、気分転換を行っていた。
 しかし入学初日に、グレシアがアルバートに物申した出来事がよっぽど気にくわなかったのか、それとも自分の企画した催しに参加しなかった奴らと一緒に居るのが気にくわないのかは知らないが、ここ二日はそれは酷いモノだった。
 グレシアが話しかけても無視し、リリィを横に置いてお前は政略で寵愛などないと言わんばかりの態度だ。
 それはグレシアが婚約した5歳の頃から続いている。
 そりゃあ十年もそんな態度を取られたら、心も滅入るよな。

「入学式の夜会の件と言い、あのバカは敵を作りやすい性格だよな。そのアフターケアをしていたグレシアをどうしてそこまで蔑ろに出来るか不思議なもんだ」

「殿下はいつも私に、お前に向ける愛はないと言っていたわ」

「全く兄としてぶん殴りたくなるよな」

「殴っても良いだろあのバカ皇子。あんなのが未来の皇帝とか、この国大丈夫かって思うし」

「でも酷い話ですわ。いくら愛のない結婚がいやだからといって、婚約者を蔑ろにしていい理由にはなりませんわ」

 アルナの言うとおりだな。
 たしかに愛がない結婚は嫌かも知れない。
 でもそれって皇帝になりたいと言っているなら仕方ないよな。
 皇后が、なんのマナーもなってない人間がなったらどうなるか、あのバカは予想もしてないのだろう。
 政略のない結婚がしたいなら、早々に皇太子候補を辞退すれば良い。
 皇帝にもなりたい、でも愛のある結婚もしたい。
 そんなのワガママだ。
 今までそんなワガママを通しても大丈夫と、上手くやって来たと思ってるから、入学式の日みたいな非常識な行動が取れるんだ。
 まぁ今回はグレシアにアフターケアするほどの余裕がないから、先輩方のアルバートへの評価は下がっていく一方だけどな。
 同学年は逆にうなぎ登りの人気のようだが。
 
「とりあえずグレシアの溜まるストレスは、すぐに解決できるモノじゃない。明日、相談をふっかけに行く予定だ」

「それで誰なんだよ。合法的に隠し事が出来る人物って」

「ここに居る全員が知ってる人物だぞ」

 意外とすぐ想像できると思ったんだけど、誰も予想が付いていないようだ。

「勿体ぶってないで教えてよリアスくん」

「ミラが俺の口にキスをしてくれたら、教えてやらんことも無い」

 すると俺とミラの口がくっついた。
 舌を絡めない、柔らかいキスだ。
 しかし不意打ちは卑怯だ。

「はい・・・」

「あ、えっと」

 俺とミラは何とも言えない顔になる。
 お互い冗談だと認識はしていたが、実際にやったりやられたりすると恥ずかしい。
 しかもこの場に居る人間は親しい人物だから。

「おいおい、人前でイチャつくなよ」

「あら、イルシア様。わたしはこういうことしてもいいのよ?」

「おい、ミルム・・・」

「兄貴、女の子の勇気には応えるのが男ですわよ!」

 俺の頬もミラの頬も真っ赤のままなんだから追撃してくんなよ。

「簡単だろ。この国で一番偉い人間は、合法的隠し事ができる。この前子爵、男爵にしたようにさ」

 全員が驚いた顔を見せる。
 さすがにこれでわかっただろう。
 俺が頼もうとしてるのは、この帝国のヒエラルキートップである皇帝エルーザだ。
 陛下は俺に皇帝と同等の権利を与えると言ったほど、俺のことを買ってくれている。
 しかしその権利は卒業後で今はない。
 だったら頼みに行くしかないだろう。

「正気か?陛下がそんなこと引き受けて下さるわけないだろ」

「そんなことないぞグレイ。お前もあの場に居たなら、陛下が俺のことを高く買って下さってるのは知ってるだろ?」

「たしかにあのくそ親父は、陛下が介入してくることはないと思っているはずだ。虚を突くには最適の方法でもある」

「イルくんまで何言ってんだよ。もし陛下が出来ないって言ってきたらどうすんだよ!」

「それについては問題ないだろう。ここに居る全員で宮殿に行くんだ」

「それのどこが問題ないんだ!」

 おや、これはわかってないのはグレイだけのようだ。
 他のみんなは俺のことを冷たい目で見てるからな。
 逆の立場なら俺も冷たい目で見ていたから、文句はない。

「グレシアには、やっとグレイ以外に頼もしい友が出来たみたいで兄さんは嬉しいよ」

「グレイが困惑してる時にシスコントークはやめろよイルシア」

「俺はシスコンじゃねぇぞバルドフェルド!」

 いやあんたはシスコンだよ。
 花そそでのあんたは妹を虐げていたけどな。
 まぁそいつは今頃監獄でどうしてるのやら。

「グレイ、お前が陛下の立場で、俺達がゾグニを失脚のための証拠を掴んだ。それは公にはしたくない。だから箝口令を強いて、捕らえるときにもみ消して欲しいと頼んだらどうする?」

「そりゃあ私情でポンポン箝口令なんか出してたら切りないから断るが」

「ここには単独でAランクの魔物数体と対峙できる人間で契約精霊が神話級や上級精霊の三人と、聖人聖女、気候を操ることの出来る精霊と契約してる人物とその大事な友と婚約者と神話級の精霊の契約者の妹。これだけの相手に不況を買うとしてもか?」

 俺とミラとイルミナは言わずもがな、神話級の精霊のクレと強力な上級精霊ナスタにシュバリン、アンリエッタに、更に加えて聖獣が二匹。
 このメンツなら亡命すればどの国だって受け入れてくれるだろう。
 そしてグループで行けば、私情ではあるが、多数の意見という対義名目もできている。
 つまりこれを容易に私情だからと断ること自体が、国家転覆の危機に等しいんだ。

「お前、性格悪いな」

「褒め言葉だ。自分の手札を使って最大限に自分望む結果に持っていく。貴族らしくて良いだろ?」

「貴族至上主義が嫌いなリアスくんが貴族を語るとか・・・」

「今日の天気が晴れなのがおかしな話です」

「雨でも降らそうか?」

「お兄様、寧ろ雨を降らしてリアスを正気に戻して!」

「イルシアやってしまえ。彼を正気に戻すにはそれが一番だ」

「貴族って時に陛下すらも脅しますのね。怖いわ」

「ミルム様!?兄貴が特別腹黒いだけですからね!?いくら貴族が酷いからと言って、陛下を脅すような輩はいませんよ」

「酷い言われようだな。グレイだって無理難題ふっかけてきたんだからな?お互い様だろ」

「お前・・・」

『気にしないで下さい。リアスはこういう人です』

 クレまで酷いな。
 使えるモノは使う。
 それが例えこの国の皇帝だとしても。
 
「その胆力は俺も真似たいトコロだがな」

「イルシア先輩はこれからいやと言うほど胆力は強くなりますよ。その歳で公爵の当主となるんだから」

「お前は次期当主を妹に任しているから楽で良いな。でもまぁ仕方ない。可愛い妹のためだ。それに父のやり方は俺もどうかと思ってたしな」

「ボクが思うに一番苦労するのはミルム先輩だよ。公爵夫人は、社交界で他の貴族を牽制しながら経済を回すために色々と着飾らないといけないらしいし」

 意図してやってる令嬢は余り居ないと思うけどな。
 それでもそういう事実があるから無駄金だと言うのに、比較的まともであろう宰相さんも黙ってるんだろう。
 寧ろアデルさん以外のまともじゃない宰相なら、下手したら社交界は無駄とか言って懐に社交界の費用を持ち逃げしてるかもな。

「えぇぇ!?わ、わたしできるかしら?」

「ミルムは無理しなくて良いさ。俺はお前のことが好きだから婚約を申し込んだ。それだけだから」

「はーい、そこイチャイチャしない」

「リアスには言われたくない」

「リアスくんはさっきまでミライちゃんとイチャイチャしていたものね。わたし達が居ますのに!」

 二人とも息ぴったしだなおい。
 平民出身って事で貴族達に虐げられるとわかっているのに、それでもイルシア先輩と婚約を結んだだけある。
 それだけ二人は仲睦まじいって事だしな。

「あーあー、春があっていいな!俺なんて婚約者どころか、彼女すらいねぇよ!」

「奇遇ですわね。ワタクシもいないのです」

「アルナちゃん!じゃあ俺と婚約しよう!」

「え、嫌です」

 すごい。
 ここまで色気がない告白現場があるだろうか。
 まぁお互いに冗談だろうからそんなもんだろうが。

「そういう冗談を言うからバル兄は彼女ができねぇんだ!」

「お前だって彼女出来たことないだろう!」

「未来の嫁なら居るぜ!」

「なんだと!?」

「どういうことよグレイ!一体誰!?」

 グレシアがキンキンな声で声を荒げる。
 耳が痛くなるほどの高い声あげるほど驚いたのか?
 ははーん、これは。

「イルミナだ。こいつはオレが惚れた女だ」

「本気?イルミナと貴方が釣り合うわけないでしょ!」

「なにがだよ!」

「イルミナは気品もあって、それでいて強さも兼ね備えている淑女と護衛のハイブリッドよ。グレイは彼女に支えられるだけで、何も上げられないでしょう?」

 結構傷口を抉るようなこと言ってる。
 事実なんだけどな。
 でもグレシアはグレイの嫁が現れないように必死のように見える。

「そんなことないですよグレシア様。グレイ様はそれはもうすごい方です」

「えぇ!?イルミナまで・・・」

 味方に付いてくれると思ったのだろう。 
 しかしうちのイルミナは鈍感じゃない。
 グレシアの思いに気づかないわけないだろう。
 と言うか、グレシアを蔑ろにするアルバートと、幼馴染みとは言えグレシアを大事にするグレイ。
 比べるまでもなく後者に好意を寄せるのは、最早自明の理。
 これでアルバートに恋してるって言うならもうマゾか、皇子の婚約者という肩書きが欲しいだけかだろうよ。

「えぇ、だってそうでしょう?グレイ様はリアス様の友になれました。クラスメイトの奴らとは違います」

「え?」

 おい、甘酸っぱい話を展開すると思ってたら、雲行きが怪しくなってきたぞ。

「子爵以下の次期当主達はまだ良いです。ですが、他の奴らはリアス様をドブさらいだの、貴族のプライドがないだの!平民達に至っては、偽善だと罵ったのですよ!?リアス様の善意を!許せませ------」

「すとぉぉぉぷ!」

 イルミナに俺はチョップで話を遮る。
 なんか私怨による黒いオーラがイルミナから出てきた。
 俺やミラのこと慕ってくれるのは嬉しいけど、たまにこうやって靄が出るほど怒るときがあるのは困るんだよなぁ。
 なにせイルミナは、対人戦のエキスパート。
 止めるのにも一苦労だ。

「ご、ご、ごめんなさい!」

「何度も言ってるだろう?我を忘れるなって」

「はい・・・」

「イルミナはリアスの事が好きなのね」

「はい。慕っていますよ。リアス様はとてもすごい方です」

「そういうことじゃないんだけど・・・」

『鈍感ではないんですけど、リアスとミライに対してはかなり心酔してますからね。盲目的に見てしまうのでしょう』

 クレの言うとおり、多分グレシアが言ってるのはLikeじゃなくてLoveのことだと思う。
 イルミナは俺には恋愛感情は湧いてないはずだ。
 だって俺はミラしか眼中にないし、イルミナは俺のことを尊敬の眼差しで見てる。
 優先度はミラと同等レベルだけど、異性としての好感度はどう頑張ってもミラより上にはなれないしな。

「まぁいいだろグレシア。さて、そろそろ昼休みも終わる。先輩達も教室に戻った方がいいでしょう」

 俺は全員を浮遊魔法で浮かせて、下駄箱まで降り立つ。
 人が居れば、いきなり9人が空から降りてきて驚いてるだろう。
 まぁ居ないんだけどな。

「多分帰りの時間は違いますから、三人は明日の九時に領地前集合で」

「了解したぞ」

「俺寝坊するかも知れない!」

「大丈夫だバルドフェルド。お前が居なくても、大して交渉材の痛手にはならないからな」

「ひでぇイルシア」

「ふふっ、二人とも仲良しですわね」

「「どこが!?」」

 茶番を見せられてむず痒い。
 三人は笑いながら教室へと向かっていった。

「オレ達もああいう関係に慣れたらいいよな」

「その場合バルドフェルド先輩のポジションはお前になるだろうけどな」

「否定出来ない自分がいるよ」

「じゃあボクはミルム先輩ポジションだね」

「まぁミラはミルム先輩とは全然性格違うけどな」

 ミラは元気いっぱいな子だけど、ミルム先輩は物静かな先輩だし。
 どちらかというとイルミナに近いんじゃないか?

「兄貴達、早くしないと休み時間終わる」

「おっとそうだった。早く戻ろう」

「殿下のいる教室に戻るのは憂鬱だわ」

 いざ教室に戻ると、やはりというか、リリィを中心に攻略キャラ達が集まっている。
 俺達が教室に入るとざわついた。
 まぁグレシアという皇子の婚約者が別のグループにいればそういう反応してもおかしくないよな。

「やだ。グレシア様ってもしかして捨てられたんじゃないのかしら?」

「と言うことはわたしにもチャンスがある?」

「よしなさいって。リリィ様が一番皇子には相応しいわよ」

「そうですわね。ただの公爵令嬢よりも、聖女の方が相応しいですわね」

 そのグレシアも聖女だと言うことを知ったら、こいつら一体どうなるんだろう。
 命の逸脱は野生の特権。
 ヒロイン力ってすごいな。
 もうクラスのほとんどを掌握してやがる。
 でも今のところは、入学式以来問題は起こしてないんだしいいだろう。
 それよか明日に備えないと。
 学校も終わり、俺達は寮に戻って明日の準備をして寝た。
 そして次の日になると、集合場所に俺達以外の人物がいた。
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