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一章

皇帝と報奨

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 この女帝はアルナに目をそらしているが、ゴードンという男、近衛だろうがあいつから殺気が消えない。
 だから俺も警戒心を解くことはない。
 奴のナイフの投擲は予備動作が全くなく、油断していたら殺されこそしなくても、負傷は免れない。

「ゴードン、良い加減警戒を解け」

「お言葉ですが陛下、彼は貴女を慕う目では見ていない。警戒を解くことはできませぬ」

 目だけで俺の感情を読み解いたか。
 このゴードンという男も、俺同様にガヤポジションなはずなのに、先ほどのナイフの投擲といい、警戒して牽制に痛みが乗ってる殺気を込めたり、今まで対峙した人間中では抜きん出た能力の持ち主だ。
 花そそでは顔どころか名前すら出てないはずだ。
 だってこんな強キャラいたら忘れないだろ。

『あの男の精霊、上位精霊ですね。それも強力な雷属性の妖精です』

「なるほど。だから予備動作も無しで攻撃してきたってわけか。電磁浮遊の容量でナイフを遠隔操作したんだろうな。だが上位精霊がお前に怯えてないってことは------」

『彼の精霊は、精霊契約の儀で契約した精霊でしょう』

「だったら勝つことは可能か。まぁしねぇけど」

『えぇ、脅威ではありませんが、ここで暴れるのは得策ではないことは貴方もわかるでしょう。ただでさえ避ける動作だけであれだけ警戒されているのです。それに------』

 そのとおりだな。
 皇帝エルーザの目がかなり血走った目でこちらを見ている。
 今気づいたが、足下には猫がこっちを怯えるように見ているな。
 あれは精霊か?
 しかしそんな思考が一気に頭からはじけ飛ぶ言葉をあの女帝は言い放つ。

「お主、アルジオに似ているな。そういえばアルジオは7年ほど前に養子を取ったらしいが、一度も社交界には出ていないと聞く・・・」

 バレた。
 どんな発想してるんだ。
 養子と言えば普通、血の繋がりがない孤児を想像するだろう。
 
『なんでわかったか疑問に思ってますね。アルゴノート領は皇帝に目をかけられるほど注目されています。レイアーノ魔術学園は爵位を継ぐための項目の一つですからね。アルナが入学することになったのは遅くとも今月以内。7年前から入学が決定している貴方を次期当主とみられていて、そうなれば血の繋がりがあることも容易に想像つくのでは?』

 言われてみればアルナは一人っ子で、その中に俺が長男として養子として引き入れるなら、血縁者と思うのが普通だ。
 いや、もしかしたら血縁者と国に報告していた可能性まである。
 何はともかく、皇帝が知っていることはあり得ないことではないことはわかった。
 しかしこうなると、招待されてもいないのに勝手に使用人と偽って侵入したことを問題にされるかもしれない。
 
「力で支配するなんて簡単だが、この国全員グレコみたいに接してくるのはごめん被る」

『じゃあ大人しくしていましょう。命の危機が迫れば、貴方が何と言おうとここから離脱しますので安心してください』

「わかった」

「さて君達と話がしたい。こちらへ」
 
 皇帝エルーザに促されて俺達は皇帝とあの男に追従する。
 案内された場所は驚いたことに玉座の間かと思ってたら普通の部屋だった。
 普通と言っても、貴族であるうちよりかなり豪華な部屋とはなっているが。
 見るからに真っ白なシルクのベッドに、かなりの光沢の机。
 毎日手入れされているのだろう。
 
「ふふっ、アタシが部屋に招き入れることは滅多にないんだよ」

「オッホン!」

「ゴードン、堅いことを言うな。アタシは元々アルゴノート嬢はここに招く予定だったんだよ。まさか使用人に扮した長男が来るとは思っていなかったけどね」

 たしかにこんなことなら、ちゃんと兄として茶会に参加させてもらうべきだったな。
 手続きの面倒さを考えて、使用人なら大丈夫だろうという安易な考えでここに乗り込んだが、下手をすれば不敬罪に当たる。

「申し訳ございません」

「よいよい。今回は無礼講と言ったであろう?主等の功績は皇帝として感嘆の意を称すぞ。アルゴノート領は近々子爵に位上げも考えている」

「陛下にそう言って頂けるのは、大変名誉なこと。謹んでお礼申し上げます。しかし自分が陛下を謀ったのは紛れもない事実。我々の力を及ぶ範囲であれば、何なりとお申し付けください」

 ここは誠心誠意謝ることにする。
 俺は皇帝は血も涙もない女性と言うことを疑っていたが、どうやら勘違いのようだ。
 だとすれば、悪役令嬢をイジメで処刑するなんて過激行動を取るかが疑問に思える。
 たしかにイジメは良くないことだが、ここは日本とは違って貴族階級が生きている場所。
 嫌み程度で精神ダメージを負うなら、そもそも貴族には向いていない。
 貴族で生きていく以上、手を出さない限りはある程度黙認するのが常識的なはずだ。

「何なりと・・・か。では単刀直入に聞くわ。その肩に乗る精霊は一体なんだい?」

 驚いた。
 まさかクレについて聞いてくるとは思わなかった。
 クレは見た目はイタチで、獣の精霊は基本的にそこまで良い感情を保たれない。
 それでも契約しているのは、愛玩目的と勘違いされることも多い。
 だが、彼女はそんなことを聞いているんじゃ無いだろう。
 何故なら笑顔が消えている。
 面白半分で聞いているなら、口角がつり上がって居なければおかしい。

『どうやら、あの精霊が怯えている事が問題のようですね』

『ふ、風神様・・・その、俺・・・』

『私も安易に貴方に牽制したことは謝ります。だから怯えないでください。リアス、これは私の落ち度です。今の貴方の功績と、彼女の人柄を考えるなら我々を害すことはおそらくないでしょう。嘘は見抜かれる可能性があります。貴方は顔に出るタイプではないですが、あのゴードンと言う男が嘘か本当かくらいは見抜いてしまいそうです。ただ私達と対話できることは隠しておくことを推奨します』

 俺は黙って息を吐きながら頷いた。
 ここでクレに話しかけていると思われれば、それまでバレる。

「このことは他言無用にお願いできますか?」

「貴様!皇帝に対して無礼だ------」

「良い。この場にいる四人だけの約束としようかい。アルゴノート嬢はあの精霊について知っているのか?」

「いえ、兄からは何も聞かされてはおりませんわ」

「なら、口外することは禁ずる。これは命令だ」

「承りました」

 そういやアルナにも言ってなかったな。
 こいつを信用して良いかは謎だが、風神と雷神、クレとミラと契約していることを知っているのは、今のところメルセデスとイルミナだけだ。
 ミラのことは絶対に口外できない。
 俺が精霊と言葉を交わせる事を隠すのは利用されないためで、ミラも俺とは違うが精霊なのに人の言葉を話せると言うことは状況は同じだからな。

「こいつは、クレは風神にございます」

「え、兄貴の精霊って神話級の風神だったの!?」

 口を押さえる妹に構ってる暇なんてなかった。
 俺の胸ぐらを掴んでくる男がいたからだ。
 どうせ嘘を着くなと言ってくるんだろうな。

「おい貴様、また陛下を謀る気か。神話級の精霊を貴様のような男爵の餓鬼が使役できるとで------」

 気がついたら俺は怒り任せにゴードンという男の足を払い、そのまま大外刈りを彼に決めていた。
 皇帝の護衛になんてことをと思うモノか。
 俺は絶対に許せない言葉がある。

「なっ!?」

「使役って言ったか?お前、死にたいのか?」

 それはクレとミラ、そしてナスタを使役していると言われることだ。
 もし陛下がそれを言ったら、心の中で暴言を吐くだけで済ませただろう。
 しかし護衛は別だ。
 あの陛下の性格的に、傷さえ付けなければ何も文句は言わないだろう。
 クレが神話級、神の名を持つ精霊と認めてもらうためにも、彼を張り倒したことは決して間違いではないと言える。
 何故ならここで俺は彼の衣服を完全に斬り刻み、あられもない姿を披露させたのだから。

「ほほぉ、これほど細かい魔法を使えるとはやるもんじゃない」

「貴様!陛下の前でよくも恥を」

「なんだ?俺は陛下には頭を垂れるが、お前に垂れる理由がないんだよ」

「くっ、この!エレキリベレーション!」

 どこからナイフを飛ばしてきたみたいだけど、索敵魔法を使っているんだよ。
 同じ手が通じるはずないだろう。
 俺は後ろから迫り来る二つのナイフを受けとめる。
 陛下の私室じゃなければ、そのまま顔の近くにナイフを突き刺していたところだ。

「すごいな。目はたしかにゴードンの方を向いているはずなのに、視線が全くゴードンを向いていない」

「貴様・・・」

「弱いな。もし俺が陛下を害する刺客だったとしたら、俺は陛下の首を飛ばせて居るぞ」

「どこまで俺を愚弄する気だ!」

「先に愚弄したのはてめぇだろ。お前が精霊をどこかに隠しているかは知らないが、精霊契約の儀で無理矢理に精霊と契約することでしか、出来ない奴が軽々しく使役しているとか言ってんじゃねぇよ」

「このっ!」

「やめておけゴードン。彼に取って精霊は使役する下位のモノではなく、対等のモノと認識しているようだ」

「で、ですが・・・」

「これ以上アタシに恥をかかせないでくれよ」

 こいつがナイフを使って俺を狙ってたのはまずかったな。
 私室で、護衛が主の意思とは別に行動し、あまたさえ手加減して貰えた事は主として恥でしかない。
 命を奪いにきた以上殺す道理はあるのだし、魔法が存在するこの世界で命を狙われた正当防衛は相手に何をしても構わないことに法律上はなっている。

「・・・すみませんでした陛下」

「謝る相手が違うわよ。お前は命を狙ったのに、彼は一度もお前を殺そうとはしていなかったんだからね」

「すまなかった。精霊を使役したと言ったこと、頭に血が上っていた」

「反省してくれたならいいです。陛下の護衛であるゴードン様に無礼を働いたことをお詫び申し上げます」

 同じガヤポジ同士仲良く出来ると思ったけど無理だな。
 目は俺のことを恨めしいと訴えている。
 多生腕利きなだけで頭は悪いタイプか。

「ゴードン!」

「はい、陛下」

「心から反省してないねぇ!このことを妹に報告してもいいってことだね!ジルもさぞ悲しむだろうね!なにせジルも自分の契約する精霊を友達と言って大事にしているからねぇ!」

 顔が見る見るうちに青くなっていくゴードン。
 こいつシスコンか?
 見た目はかなり厳ついのに意外だ。

「へ、陛下、それは・・・」

「だったら完全に今のことは水に流せ。それともアタシが招いた客人に対して、その無礼な態度を続けるのか?それじゃあ護衛を代えなきゃいけなくなるわよ」

「も、申し訳ございません!頭が熱くなっていました。アルゴノート殿、この度は大変な非礼を心よりお詫び申し上げます」

『いっそ清々しいと言いますか、さっきまでの敵意が嘘みたいですね。威厳もクソもあったもんじゃないです』

 クレですら、ここまで目を細めてモノを言うことも珍しい。
 生理的に受け付けないモノを見るとき、クレは目を細める癖があることはこの6年で知った。
 それにしてもここに居る全員をドン引きするほど潔い土下座。
 アルナもかなり引いてるぞ。

「引くわ」

「誠心誠意を込めて謝罪したんだ。そう言ってやんさんな」

「申し訳ございません」

「謝るのはこちらの方だ。それにしても神話級の精霊使いか。これはめでたいな。しかも精霊契約の儀で契約した精霊ではないとはすごいことだぞ」

「お褒めにあずかり光栄です」

「しかし困った。神話級ともなると、子爵にさせておくのが勿体ないねぇ。公爵としてアルゴノート家とは別で爵位を授けようかい?」

「こ、公爵!?」

 公爵は、爵位の中でもトップに君臨する家格だ。
 つまり、実質国のトップと言うことになる。
 それは俺にとっては望まないところ。
 天寿を全うしたいのに、命を狙われる立場になるなんて。
 爵位は上がるだけこの国で偉くなるが、同時に命を狙われる危険性も増えていく。

『ふむ、それだけ私を評価してくれていると認識しましょう。もらってもいいのではないですか?別に帝国が滅んでしまう状況になれば、国を捨てて逃げれば良いだけです』

 お前、結構酷いこと言ってるって知ってる?
 それに多分これは俺が絶対に受けないことを知っているからだろう。
 クレ、お前の思い通りに行くと思うなよ。

「ありがたいお言葉です。承りたいと思いますが、それについて条件を二つほど付けてもよろしいでしょうか?」

「ふむ、これだけじゃ満足がいかないか。いいよ、何でも言ってごらん」

「一つ目は、自分には将来を誓った婚約者が居ます。政略結婚と言った者で陛下から紹介されても引き受けることはできないです。もしそれダメと言うなら、自分は公爵どころか、男爵家からも出ていきます。貴族という肩書きが邪魔にしか感じられないので」

「ふむ。それは問題ない。むしろそれだけ言うと言うことは恋愛の末の婚約なのだろう。羨ましいし、婚約者について考えてるのは、あいつらにも見習って欲しい」

 あいつら?
 まぁミラを蔑ろにしてまで得たい地位は一つもない。
 寧ろ邪魔でしかない。

「爵位を授与するのは、学園卒業後で間違いないですか?」

「あぁ。だが、公表はすぐにでもするぞ」

「そこです。自分はできれば目立ちたくありません。平穏に学園生活を送りたいのです。ありがたい申し出なことはたしかですが、公表すること自体を卒業後にして戴きたく存じます」

 学園生活が終わると言うことは、花そそのシナリオが終わると言うこと。
 つまり帝国がなくなったとしても、俺は罪悪感に駆られない。
 万が一残った場合は、公爵として暮らしていくことができるという算段だ。

「意外と庶民的なのね。いいわ。公表自体を先延ばしにしましょう」

「じゃあこちらからも一つだけ条件を加えて良いかしら?」

「なんでしょう?」

 別の条件?
 皇族のために力を使えとか言われたらどうしようか。
 国のために何かをすると言うより、民のために何かをしたいんだよな。
 こんなダメ貴族の常識に囚われている奴らは、絶対庶民にひもじい思いをさせているだろうから。
 全員とは言わないが、苦しんでいる数のが、普通以上の生活水準で暮らしているより多いだろう。
 だからそうだとしたら進言しようか。

「もし、在学中に有事の出来事があったら、すぐに公表してもらいたい」

「有事ですか。宣戦布告等があったら、敵国の抑止力になれと?」

「その通りだ。現在、帝国以外の大国と呼ばれる国はすべてに神話級の精霊を抱え込んでいる」

 驚いた。
 帝国には俺達を害する人はいないってことかよ。
 いや、まだ悪役令嬢が残っているな。
 油断は禁物だ。

「そのくらいなら構いません。できれば有事にならないようにしてくださいね。こちらか宣戦布告なんて真似は絶対にしないでください」

「あぁわかってる。そもそも今は使われてない土地のが多い。これ以上広げても建設費用がかさむだけだ。そこは安心してくれ」

 こちらか宣戦布告なんかしたら、俺を旗印に闘うに決まってる。
 それはごめんだからな。

「それでは三年後喜んで爵位を表明致します」

「苦しゅうない。そうじゃなくても、アタシはあんたらの後ろ盾になるよ」

「ありがたきお言葉痛み入ります」

『まさか本当に引き受けるとは思いませんでした。まぁ爵位を授与されるのは三年後の卒業した後だと言うことですし、花そそのバッドエンドルートを回避できれば、名誉は手に入っていいじゃないですか』

 名誉は手に入るけど、それ以上に命の危険性が増えるのがデメリットなんだよな。
 でもミラに楽をさせることが出来るこの選択は正しいと思いたい。
 将来の妻に苦労させたい男がどこに居ようか。
 うん、俺は正しい。
 そう思った方が気が楽だ!
 
「さて、話は以上ね。んー、疲れた。個人的にここに呼びつけたのは、アルゴノートの令嬢の人柄を知りたかっただけだったのに、まさか国家に安寧をもたらす宝を抱えているとは思ってもみなかったよ」

 たしかにクレやミラは国にとっては宝に等しいだろうな。
 一つだけ分かっていることがある。
 神話級の精霊は精霊契約の儀の効果が無い。
 つまりどれだけ頑張っても、神の真名を持つ精霊とは、気に入られない限り契約をすることはできないのだ。

「さて、そろそろ茶会に戻るとしよう。バカ息子がまた婚約者を蔑ろにするから、アタシが帳尻を合わせないといけないんだよ」

「婚約者ですか?」

 花そそで、中盤に断罪される婚約破棄イベントまで悪役令嬢は誰の婚約者かはわからない。
 そして中盤以降、攻略対象との好感度が一定値を超えることで発生するイベントで、攻略対象が一本に絞られる時に、その攻略キャラの婚約者が悪役令嬢だった事を知るのだ。
 婚約破棄までして、主人公のためを思う攻略キャラに主人公は惚れるんだが、あれほど胸くそなこともなかった。
 だって冤罪で婚約破棄して斬首刑まで持ってくんだ。
 とても少女にして良い仕打ちじゃない。
 まぁここは現実だ。
 今からでも婚約者の名を知ることは可能だろう。
 設定上は皇太子である第一皇子には、公爵令嬢の婚約者がいるのだから。

「差し支えなければお名前をお尋ねしてもよろしいですか?」

「ん?別に構わないよ。むしろ公表しているのに知らなかったのか」

「申し訳ございません。領地改革で忙しかったため」

 これは半分本当だ。
 領地改革と精霊契約の儀に関する資料を集めることに精一杯で、この6年は花そそのシナリオについては大して考えて動いていなかった。
 それでも最低限の知識は頭に入れているし、皇子達の名前は花そその登場人物のため覚えていた。
 第一皇子の名前はアルバート。
 彼は攻略キャラの一人であり、超仕事人間。
 皇太子で仕事量が少ないと言っても、それなりにサインをしたりとすることは多い。
 婚約者との時間を割けるはずもなく、政略結婚だったため婚約者を蔑ろにしていた。
 そして攻略キャラになったときに、そのことを棚に上げて真実の愛を知ったとかなんとか言って、悪役令嬢を貶めるんだ。
 第二皇子の名前はガラン。
 一周目で攻略対象にアルバートが選んだ場合に、中盤から登場する。
 主人公にアルバートの良いところを語り始める残念なキャラの一人だ。
 アルバートに心酔しており、アルバードのやることはすべて正しいとする狂気に満ちた性格は、腐女子に密かな人気があったらしい。
 第三皇子の名前はジノア。
 こちらも一周目で攻略対象にアルバートを選んだ場合に、二周目から登場する。
 二周目でアルバートと聖女である主人公をくっつけるために画策するキャラの一人だ。
 超ドが着くほどの浮気性で、それが理由で婚約破棄されて廃嫡し再び皇位に戻るために、アルバートとくっつけるのに必死だ。
 一周目で攻略対象にアルバートを選んだ時点で、二周目から攻略対象から外れているので、何をしてもくっつくことはない。
 靡かない主人公にイライラして襲おうとすることが度々あって、純潔を奪われるとバッドエンドになる凄くめんどくさいキャラだ。
 うん、あのゲーム人気なかったのって、一周目とか二周目とかじゃなくて、主要キャラがクズだらけだったかな?

「さすがに皇子の名前は知ってるかね?」

「えぇ。自国の皇子ですから」

「それを聞いて安心したよ。アルバートの婚約者はグレシア・フォン・ターニャ公爵令嬢、ガランの婚約者はディアナ・フォン・ブルリベ伯爵令嬢、ジノアはつい先日婚約破棄されたが、アルターニア・フォン・シャルネ公爵令嬢だ。ジノアについては破棄された理由が酷かったから廃嫡として、現在は皇太子ではないよ」

『グレシア。どうやらリアス、貴方が上手く動けば帝国破滅は回避できそうですね』

 クレの言うとおりだ。
 悪役令嬢の名前もグレシア・フォン・ターニャ。
 アルバートの婚約者と名前と一致した。
 つまりアルバートが主人公に攻略されなければ、帝国は滅びないと言うことになるのではないか?
 学園に行ったら、アルバートには正しい道を行かせるようにしなければいけないな。

「ありがとうございます」

「こんなの知ってどうするんだ。別にお前はもう公爵になることが決定してるのだから、無理な付き合いをする必要も無かろうに」

「殿下達の婚約者は将来の妃、または陛下のように皇帝になる御方かも知れないので、名前を知っておきたかったのですよ」

「ふむ。たしかにそうだな。まぁあいつら全員に共通するが、婚約者を見向きもしない。今回のお茶会も元々は婚約者の怒りを鎮めるために開催したのだ。お茶会だってタダじゃないのに、たまったもんじゃないよ」

「心中お察しいたします。苦労されているのですね」

 だから見習って欲しいか。
 たしかに婚約者を蔑ろにするのは、色々ともってダメだ。
 
「全くだよ。さぁそろそろ戻ろう。今日は三人とも来ているから、気になったら話してみると良い」

「いえ、本日は陛下の顔を拝見したく参上しました。こうして言葉も交わすことが出来たので、会場に戻り次第退出させて戴きます」

「なるほど、お茶会自体には興味なしか」

「えぇ全く」

「そ、そうか」

 キッパリ断る俺に彼女はかなり困惑しているがしょうがない。
 早く終わればミラとデートできるんだ。
 それより優先することなんてないだろう。

『人柄を見るに、彼女が少女を斬首刑に持ち込むような人には見えませんね』

 それは思った。
 もしかしたら皇太子の誰かが、強行して斬首刑に持っていったのかも知れない。
 俺達は会場に戻ると、どうして男爵とその使用人が何故陛下と対話が出来たのと、視線が釘付けにされたが俺は知るかよと出ていった。
 ついでに俺無しでこの場に居るのは辛いとのことで、アルナも会場を後にした。
 つまり、帝都でのミラとの二人きりのデートは無くなったのだ。』
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