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序章

精霊と契約者の在り方の違い

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 メルセデスの料理を俺達はリビングで談笑しながら食べていた。
 彼も同席してもらい、俺とクレとミライとメルセデスの四人で食べている。
 もっとも彼自身の分は用意していなかったらしいから、彼の分は俺達三人から取り皿に分けてやった。
 毒味の意味も兼ねて。

「美味しい!すごいねお兄さん。ボクのお母さんの次くらいに料理が美味しいよ!」

「へへっ、ありがとよ。ところで嬢ちゃん。坊ちゃんのなんだ?これなのか?」

 小指を立ててくるメルセデスの顔がなんかイラッとする。
 まだ、婚約者どころか恋人ですらない。
 さすがに出会ってすぐにお付き合いとはなれないだろうよ。
 
『なんかイラッときました。服をすべて破って差し上げましょうか?』

「さすがは俺の相棒、同感だ。頼む」

「二人とも、やめてよー。お兄さんは美味しい料理を作れるんだから!世界の損失だよ!」

 当のメルセデスはさっきの俺を思い出して股間部分をチェックしてる。
 料理を持ってくる前に着替えているから、ズボンは湿っていない。

『まぁそうですね。そこそこ美味しいです』

「そこそこねぇ。たしかにこの付け合わせの漬物とか、庶民的ではあるけどちゃんと手間かかってるだろうし美味しいけどな」

『ですね。この鶏肉は香辛料が利いていて、そこそこに素晴らしいです』

「そこそこってあんたねぇ」

 クレはかなり辛口評価だが、こいつの作った漬物は生前の日本の漬物を思い出す様な味だ。
 それにこの鶏肉も、貴族に出すには盛り付けが少々汚いが、味はいつも食べている鳥料理にも負けない。

「あ、あのさ坊ちゃん。俺の間違いじゃなければ、あんた精霊と会話できてないか?」

「あぁ出来てるけど、そういや精霊と意思疎通できることはできないんだったけか」

『えぇ。彼の反応を見るに、次代が変わってもその常識は変わっては居ないようです』

「やっぱりか!すげぇ!なぁなぁ、じゃあこいつの言ってることはわかるか?来いフェリー」

 メルセデスがそう言うと、炎を纏った手のひらサイズ小人がむすっとした顔で現れた。

『火の妖精ですか、これまた珍しい精霊と契約していらっしゃる』

「火の妖精ってすごいのか?」

『すごいに決まってんだろ!さっきの様子見てたぞ!お前メルセデスをいじめてやがったな!俺がお前を痛い目にさせてやる!』

『坊や?それは我々風神と雷神の契約者に害を為すと言うことでよろしかったですかね?』

『ふ、風神!?しかも雷神って、あ、あなたはもしかしてクレセント様ですか!?』

『そうですよ。そして彼が私と契約して下さったリアスです。彼に喧嘩を売るとは、私に喧嘩を売るのと同意です。よろしいですね?』

『ひっ!ご、ごめんなさい!メルセデスのことは煮るなり焼くなり好きにして下さい!』

「ぷっ」

「怒って出てきたと思ったら、いきなり涙目になったり面白い火の妖精さんだね」

 最初強気な態度で俺に抗議の目を向けてきたのに、クレの威圧で一瞬で消極的な態度に変わった。
 ついでに涙目だ。
 コロコロと表情が変わって面白い。

「この妖精、あんたのことは煮るなり焼くなり好きにしてくれって言ってるよ」

「え?」

 顔を俯かせてしょんぼりとした顔になる。
 表情がコロコロ変わるのはこいつも同じだな。 
 ペットは飼い主に似るじゃないが、良いパートナーじゃないか。

「リアスくん、そこだけ話したらお兄さん勘違いしちゃうよ」

『そ、そうだぞ。こいつは俺が怪我をしてたとき、助けてくれたんだ!』

「へぇ、あんたこいつが怪我してたのに助けたのか」

「やっぱり言葉がわかるのか!一瞬ドキッとしたぜ。助けたときはすぐにこいつを解放するつもりだったんだ。この友達の証みたいなのをもらうまではな」

 そう言って服のボタンを第三ボタンまで外してから、契約紋を見せてきた。
 どうやらメルセデスの契約紋は胸の上にあるみたいだ。

「火の妖精の契約紋って、火みたいな形してんだな。これって精霊全員違うの?」

「ボクはお母さんがお父さんと契約したときの紋章を見せたもらったことがあるけど、リアスくんの手にある紋章とボクの紋章は違ったよ」

「へぇ、じゃあ個人で違うのか」

「え、嬢ちゃん精霊なのか?でも人の言葉を話せてるし、一体・・・」

 精霊と人間のハーフも絶対珍しいよな。
 でもこれって隠しておいた方が良いことなのか?
 俺はクレに目配せで、どうすればいいか問いかける。

『そのことをはなるべく口外しない方がいいと思いますよ。何が来ても負けない自信がありますが、面倒ごとは避けたいです』

「やっぱりこれは面倒のタネになるんだな。メルセデス、悪いけどミライが精霊だってことは誰にも言わないでくれ。俺もこんな場所で話したのは悪いけど、ミライも精霊だってことは黙っててな」

「はーい!」

『俺も黙ってるぜ!』

 フェリーの言葉はほとんどの人間にはわからんだろう。

「大丈夫だ。坊ちゃんに逆らおうと思うほど、俺は頭が悪くねぇ」

 だろうね。
 漏らすほど恐怖したのに、その恐怖した相手に喧嘩を売るはずないだろうねぇ。

『だったら、二人とも公の場では、私との会話はなるべく避けましょうか』

「え!?おじさん、ボクなんか悪いことした?」

「ミライ、これは俺達を思ってのことだろ。精霊と話せるってだけで何かに利用されかねないって意味で」

『その通りです。彼も言ったように、ヒューマンは醜い生き物です。それはミライも身にしみているでしょう?』

「うん・・・」

 この感じは、両親はヒューマンに殺されたってところか?
 まぁ本人の口から聞くまでは、何も聞かないでおくけど。
 トラウマなんて好き好んで掘り起こしたくもないだろう。

「話を聞いた感じわかるけど、そういうことだメルセデス」

「わかってる。嬢ちゃんが精霊のことは誰にも話すなってことだろ?」

「あぁ、それが例え皇族でもな」

 皇族達が、皇命とか言って強制的に話をされても適わないしな。

「任せとけ!口は堅い方だ」

「んー、拷問とかされても怖いから、俺がこの家から出るときお前も連れて行こうかな」

「え、坊ちゃんこの家出る気なのか!?」

「お前、この家の俺への扱いわかるだろ」

「でも坊ちゃんは強力な魔法を使えるじゃんか。俺なんて小さな火を起こすくらいしかできないんだぜ。しかもたまに失敗するしさ」

「へぇ、なぁフェリー。どうしてそんなことするんだ?」

 俺はフェリーの方を向いてどういうことか聞いてみる。
 魔法は精霊が全部扱ってるらしいしな。
 もしこの話が本当なら、フェリーが何かしてると思ってる。

『そりゃあこいつが唱える時が、大体料理場で、あのおっさん俺のことを観察するように見てくるからだよ』

 おっさんって誰だろう?
 俺の予想が正しければ、あの最高責任者さんだと思うけど、実際他にもいるかも知れない。
 俺は翻訳してメルセデスに話してみる。
 当事者の近くに一番いるこいつなら、誰か知ってるかも知れない。

「そりゃあ多分料理長だ。料理長も火の妖精と契約してるらしいんだけど、俺ほどの威力が出せないらしくってな。料理人に取って火は包丁や命と同等だ。どうすればいいか観察してたらしいぞ。でもそれが不快に思ったなら悪いなフェリー」

『なんだ。そんなの当たり前だ。自分でしたくも無いことを無理矢理すれば、自ずと威力が落ちる』

「へぇ、料理長の火の妖精にも色々居るんだな」

 無理矢理ってのはなんかあまり気分がよろしくないが、フェリー自身も考えて魔法を唱えてるみたいだし、精霊にも本当に色々あるんだろう。

「何て言ってんだ?」

「いやいややってると魔法の威力が落ちるらしくて、料理長の妖精は無理して魔法を行使してるらしいぞ」

「へ?料理長自身は魔法を使ってないのか?」

「あぁ。あ、そうか。精霊の言葉がなければわからないよな。魔法って言うのは精霊が契約者の声に合わせて魔法を展開して使用してるらしいぞ」

「なにぃ!?俺が自分で魔法を使えてると思ってた。ってことは今まで魔法を行使出来たのはフェリーのおかげだったのか。助かったぜありがとよ」

『どうって事無いぜ!』

「どうってことないってさ」

 鼻を掻きながら照れ隠しをしてる。
 リアスの記憶だと普段は敬語を使ってたら、なんか新鮮だな
 なんだかんだと四人で楽しい食事をしていたのだが、俺は楽しくて時間を忘れてしまった。
 だからドアの音がしたとき、一瞬だけドキッとした。
 入って来たのは、男爵夫人のグレコだ。

「あら?どうしてあなたがここで食事をなさっているのかしら?」

 声を張り上げない当たり、腐っても淑女か。
 こういうときはヒステリックな声を上げるのが相場なんだけどな。
 まぁこの場合はビビってごめんなさいっていうか、抗議で思いきり今までの不満をぶつけるのだが、ここは正論をぶつけてやろう。

「そりゃ腹が減ったからだ。食事ってなんのために取るか知ってるか?栄養を摂るためだ。つまり生きるためには必須なことなんだよ。なのに、あなたはいい歳を迎えるのにわからないと見える。本当に大人か?」

「なっ!?」

 俺が反論するとは夢にも思わなかったのだろう。
 だから今度こそヒステリ声を上げる。

「ちょっと料理長!早く出てきなさい!どういうことかしら!わたしはコレにご飯を出す許可は出してないわよ!」

 その声を聞きつけて、厨房から顔を出してくる最高責任者さん。
 やっぱ彼が料理長か。
 しかし俺をみた瞬間に顔を青くした。
 厨房を出る前に俺の言った言葉を思い出しているのだろう。
 俺に意見することを許さない。
 つまりここで俺が不利になるようなことを言えば、どうなるかは俺のことを刺し殺そうとした奴に起きた現象で十分理解してるはずだ。
 
「だ、男爵夫人様。これには深い事情がありまして」

「私に意見する気ですか!たかが使用人風情が!」

「で、ですが!」

「もういいです。あなたはクビです。誰か事情の知っている者はいますか。あぁいつも食事を運んでくるそこの青年。どういうことか説明してくれるかしら?」

 次に目を付けたのはメルセデスだ。
 俺のことを口外することはないだろうが、一体どんな答えを出すか気になる。

「応える義理はねぇな!俺はついさっき坊ちゃんの専属になったんだ!俺に意見できるのは坊ちゃんだけだぜ!」

 あ、さっきの話返事してないけど承諾してくれたんだ。
 専属ではなく、連れて行くかってだけの話だったんだが、まぁ俺としても料理を作れる奴が味方でいるならそれはありがたい話だ。
 毒殺って怖いからな。

「ま、まぁ!これはこれは、とんだ馬鹿を入れたものね元料理長!もういいです!ギニー、この料理をすぐに片付けなさい!」

「御意!」

 ギニーとはグレコの近衛だ。
 グレコの家格はアルジオと婚約した時点で男爵だが、その実家は伯爵だったけな。
 花そそではガヤだったから、細かな情報はわからないしリアスの記憶だけが頼りだ。

「失礼しますリアス様。奥方様の命令なので」

「俺は別に構わないけど、やめといた方が身のためだぜ」

「はて?それは一体・・・」

 料理が乗った皿をギニーが触れた瞬間に、もの凄い勢いで風が巻き上がり、彼はドアを突き破って吹っ飛んでいった。
 クレがやったんだろう。
 食の恨みは怖いからなぁ。

『私はまだ食べてる途中で、リアスが警告したと言うのに身の程を弁えないとは、彼も救えませんね』

「ふふっ」

「な、何をしたのですか貴様ぁ!」

「さぁね。応える義理もないでしょ。俺、食事中。あなたマナー違反。それだけよ。ドゥユーアンダースタンド?」

 多分英語はわかんないだろう。
 発音も余り良くないし、そもそもこの世界の言葉はリアスの記憶便りで話してるけど日本語ではない。
 そしてグレコに構わず食事を取り始めた。

「この!また躾が必要な様ですね!」

「え、いいの?俺、次暴力振られたら大義名分で、あんた殺しちゃうかも知れないよ?」

「えぇ、できるものならやってごらんなさい!」

 俺の腕を掴み罹るグレコ。
 しかしミライが更にその腕を掴んだ。
 ミライにはできるだけ魔法を使って欲しくないんだけどなぁ。
 なんかやる気満々なんだよな。

「なんですかこの娘は!」

「おばさん、その手を離して」

「この、誰に向かって口を聞いてるんですか!」

「ねぇ、リアスくん。やっちゃってもいい?」

「ミライさん、どうぞ」

「やった!ショックボルト!」

 ショックボルトは下級魔法だ。
 花そそでは、主人公のデフォで覚えてる魔法だ。
 魔法の威力は全くなく相手をスタンさせるもの。
 多分現実で使えばかなり痺れるんじゃねぇの?
 スタンだから気絶はしないだろうけど。

「アババババババ」

「お、奥様!」

「最高責任者さんはクビになったのにお優しい。多分気絶しないと思うから抱えてあげて」

 倒れ込むグレコを最高責任者さんが両腕で抱え上げる。
 あら、泡吹いて気絶してる。
 俺は席から立ち上がり、何度もビンタを喰らわせる。
 これは俺なりの制裁だ。
 パンパンに腹割いたところで痛みで目を覚ますグレコ。

「ひ、ひはい!ひはいへふぅぅ!」

「あら、泣き出しちゃった。ヒール」

 クレに目配せで合図し、やれやれと言った顔で治癒魔法を発動させる。
 
「こ、これは治癒魔法・・・あなたは精霊契約の儀に連れて行っていないはずです!勝手に行きましたね!それにさっきの風魔法といい、電気の魔法といい、あなたは一体どんな精霊と契約したんです!?」

 あ、ショックボルトも俺の所為にされた。
 一応ミライがやったんだけどな。
 まぁミライも俺と契約したから俺の責任か。
 風魔法はクレだし、治癒魔法もクレが使ったしな。
 俺、なんもしてない。
 なんか虎の威を借りてる狐みたいで嫌だな。
 絶対自分で魔法を覚えてみせる!

「ってまてよ。精霊契約の儀ってなんだ?」

「何を白々しい!精霊を捕まえて契約するための儀式です!あなたは入学するまでは行かせるつもりなかったというのに!ムキィィ!」

 地団駄を踏んで駄々をこねる。
 本当にこいつ大人かよ。
 いや、子供に暴力を振るう時点で大人ではないか。
 
「なんでもいいけど、どうするわけ?まだ食事の邪魔をするなら容赦しないぞ」

「この生意気ですよ!ファイアボール!!」

 これも下級魔法だ。
 ショックボルト同様にデフォで搭載されてた魔法だ。
 そして三つあるデフォで唯一ダメージがある魔法だ。
 もう一つはスローウィンドと言って、相手を吹き飛ばしてパリーさせる魔法だったな。
 そう考えていると、何度もファイアーボールと言ってるグレコがいた。
 
「何故、何故ですの!どうして魔法が打ち消されるんです!」

『ヒューマン!やはり許せません!精霊を馬鹿にしてる!殺してもよろしいですか!』

「どうしてそんなに怒ってるんだ?」

『精霊契約の儀と言いましたか。おそらくそれは無理矢理精霊と契約を行う儀式なのでしょう。現に彼女の懐に入る精霊からは覇気を感じられません』

 あ、そういうことか。
 メルセデスの話を思い出す。
 料理長は無理矢理精霊と契約したから威力が少なかったんだ。
 精霊契約の儀について少し調べる必要があるな。

「あの精霊とグレコ、突き放せるか?」

『契約の紋章が首筋に見えます。正式な契約方法ではありませんが、ちゃんと契約は成立しているようです。契約はヒューマンのみが解消が可能なのです。彼女から精霊の真名のあとに契約を破棄するって言わなければ、契約は解けないでしょう』

「なるほど、つまり力業で無理矢理言わせれば良いって訳だ」

「坊ちゃん悪い顔してるぜ」

「うん、リアスくんの悪い顔は、ちょっと・・・」

「仕方ないだろ。俺のじゃないとはいえ、長年の恨みを晴らせるんだ。笑みを出てしまうというもんだ」

『軽く身体強化魔法を使います。その恨みは自分で晴らしたいでしょう?』

 さすがクレは俺のことをよくわかってる。
 出会いは半日くらい前なのに、もう長年居るパートナーみたいだ。
 俺が単純無し公もあるからだろうけど。

「さてさて、母上には頼みたいことがあるんです。聞いて下されば、手荒なまねはしませんよ?」

「この愚息が!育てた恩を忘れたのですか!あなたから聞くことは何もありません!」

「そうですかそうですか。さっきのビンタだけじゃ足りないですか」

 俺はワンツーワンツーの容量で、グレコの顔面にスパーリングを繰り返す。
 多分歯が折れた音がするけど、まぁそんなことはどうでもいいよな。
 ワンツーワンツー、一定の速度で繰り返し繰り返し拳を顔面に入れていく。

「ひゃ、ひゃめて・・・」

「え、どうしたんですか母上?まさか頼みを一方的に断った相手に頼み事出来るなんて思ったんですか?ワンツーワンツー」

 ちょっとやり過ぎかな?
 顔がヤバイくらい腫れてる。
 多分歯が折れて、口内に突き刺さったとかだろうけど。
 何故か止める気にはならなかった。

「リアスくんめっちゃ生き生きしてる」

『彼なりにストレスが溜まっていたのでしょう。前世も含めたらとんでもないくらい親に虐げられていますからね』

 そういうことかー。
 俺は前世であのクソジジィとクソババァの所為で溜まったストレスもこいつにぶつけてるのか。
 だったらまぁ死なない程度にボコしまくろう。
 ていうか最初からあいつらにもこうしていればよかった。
 何が手を出したら負けだ。
 結局逆に手を出されて殺されたんじゃ世話ない。
 次第に文句を言う声が小さくなっていき、終いには聞こえなくなってしまった。

「ワンツーワンツー。あれ、声がしなくなってきたけど、気絶しちゃった?」

「・・・ひ・・ひへはへん」

「あ、よかった起きてた。じゃあ第二ラウンド行くよ。あ、でも一応あなたがどうするか聞かないとね。頼み聞いてくれます?ヒール」

 グレコの顔を元に戻して聞いてみる。
 歯をガチガチさせて今にも漏らしそうな勢いだが、そこは貴族の矜恃がそれを許さなかったのだろう。

「な、なにを頼むのですか?」

「んー?」

 俺は拳を少しだけ自分の胸の位置に持ってく。
 いつでも殴るぞと言う意思表示だ。

「ひっ、何でも聞きます。許して下さい!」

「堕ちるの早。まぁいいよ。そこの精霊の名前のあとに、契約を破棄するって言うだけで良いんだ。あ、あとこの家にはしばらく居るつもりだからさ、俺に意見するのやめてくれる?」

「そ、それは余りにも・・・」

「余りにも?え、殴られるのがご所望?まぁあんたは俺に今のじゃ聞かないほどの暴力を振るったから自業自得だよな。いいよ、俺はずっと殴り続けてはちゃんと治療してあげる」

 それがどれほど怖いことかわかったのだろう。
 もの凄い勢いで首を縦に振るグレコは、すぐに精霊の真名のあとに契約を破棄すると唱えて、精霊が解放された。
 すると、精霊の死んだような目から光が灯り、こちらに飛んできた。

『助けてくれて、ありがとうございます!』

「あ、ごめんちょっとだけポケットに入っててくれる。後で聞きたいことがあるから」

『わかりました。失礼して』

 俺のポケットに入っていく精霊。
 名前が聞こえなかったんだけど、まぁいいか。
 話を聞いたら逃がしてあげるつもりだし。
 もう会うこともないだろう。

「さて、言うことを聞いたから、今は手を出すのはやめておいてや------」

「こ、これはなんですの!?」

 扉を勢いよく開ける音と、その声で俺の声はかき消されてしまった。
 その声の正体はアルナ。
 俺の義理の妹だった。
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