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3~悪女
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「気分は悪くない。しかし、何かがしっくりこない……母さんといい、さっきの寿司屋の大将といい、結果的に僕に殺されているけど……アレは一体何なんだ?人を殺す事が、そんなに大変な出来事なのだろうか?良く分からないな。今のところ僕は自害した真犯人という定義だけれど。あのトリックを警察連中が見抜くには相当な時間を要するだろう。もしかしたらこれ以上僕が事件を起こさなければ、何の問題もなく僕は逃げ切れるかもしれないな。それはそれでつまらないんだけれども……」
午後八時五十分。
逃走用の資金は、まだ充分残っている。母さんも強したたかだったんだな。へそくりだけで百万円以上も貯めていたのか……
「そう言えば……父さんは今頃何をしているのだろう?」
僕は、ほぼ毎日深夜に帰宅していた父親の事をさり気なく回想してみた。仕事一筋のつまらない男だったけど、稼ぎだけはそれなりにあったようだ。母さんへ渡す生活費や僕を大学まで進学させるだけの養育費も一家の大黒柱?として一応父親としての最低限の役目だけは果たしてくれていた。
「母さんが、あんな死に方をしても父さんは大して哀しみやしない。二人の間に確かな愛情なんて無かった。僕に対してもそうだ。僕が真犯人で自害したって聞いたら、父さんは内心ほくそ笑むだろうよ……大学まで行かせたのに平々凡々な地元の中小企業の安月給のサラリーマンになった僕を父さんは侮蔑していた」
午後九時三十七分。
少しだけ気掛かりがあった僕は、トリックを仕掛けた僕の自害現場に赴いた。
「凄い人だかりだな……」
中にはマスコミ関係と思われる連中も沢山いたし、警察や野次馬だらけで現場付近は青いシートみたいなもので隠されていて人が出たり入ったりを馬鹿みたいに繰り返していた。
「アイツ。僕のダミー。きっとDNA鑑定で……」
僕は、野次馬に混じって涼しい表情を浮かべながら軽く口笛を吹いていた。
「あれっ?」
青いシートの中から白いハンカチを口に当てた見覚えのある男がスーツ姿で出てきた。
「父さん……」
この日、同時に妻と息子を亡くした悲劇の父親を、彼はそれなりに上手く演じている様に見えた。
「涙なんて浮かべちゃって……迫真の演技ですね。お・と・う・さ・ま!」
僕は心の中でそんな事を呟きながら、ふと、野次馬の中に居た一人の美しい女性の存在に目を奪われてしまった。
「麻衣子?」
僕の視界に入り込んだその若い女性。白石麻衣子。幼い頃から全男子生徒の憧れの的だった僕の同窓のマドンナだ。
「麻衣子が、こんな時間に野次馬達に紛れ込んで……」
僕が素早く観察したところ、白石麻衣子は相変わらずの超絶的な美貌から放たれる圧倒的な存在感を周囲にまき散らしながら、時折踵を上げて青いシートの方へ何かを探すかのように視線を送り続けていた。
中学生の頃、男子生徒達から絶大な人気を誇っていた白石麻衣子はその美しすぎる容姿だけではなく、勉強もスポーツも万能な「完璧なるマドンナ」ではあった。
僕が彼女に対して抱いていた感情は、確かに美人なんだけれど「同性には嫌われやすいタイプ」という一定の評価と、中学生にしては香水の匂いがキツくて、それでも女性フェロモン撒き散らしたい系の「大の男好き」だろうという結構冷めたものだった。
「木島くん、一緒に帰ろうよ!」
白石麻衣子が僕にそう言ってきた事があった。
「えっ!二人で?」
僕は複雑な心境を表情に出さぬよう綺麗な微笑みを切り返した。
「……前から、カッコいいと思ってたの。木島くんの事。ねっ、いいでしょ?」
中学を卒業する頃、僕は白石麻衣子と「ある約束」を交わした。それはとても残酷で無慈悲な恐ろしい計画でもあった。彼女は、その美貌とは裏腹の「悪」の化身のような性格の持ち主で所謂「裏バン」つまり影の女番長を張っていた。白石麻衣子に狙われた女子生徒たちは学校内外で容赦なく彼女の「下僕」の身分として雇われた男子生徒たちによって、リンチやレイプ、果ては……とにかく白石麻衣子とは、そういう女だった。その麻衣子が、今頃何故ここに居るのだろう?僕は敢えて彼女に事の真相を教えてやろうと、野次馬が引いたら巧妙に麻衣子に接触する計画を頭の中で時間にして約三十秒間。案を練った。
午後八時五十分。
逃走用の資金は、まだ充分残っている。母さんも強したたかだったんだな。へそくりだけで百万円以上も貯めていたのか……
「そう言えば……父さんは今頃何をしているのだろう?」
僕は、ほぼ毎日深夜に帰宅していた父親の事をさり気なく回想してみた。仕事一筋のつまらない男だったけど、稼ぎだけはそれなりにあったようだ。母さんへ渡す生活費や僕を大学まで進学させるだけの養育費も一家の大黒柱?として一応父親としての最低限の役目だけは果たしてくれていた。
「母さんが、あんな死に方をしても父さんは大して哀しみやしない。二人の間に確かな愛情なんて無かった。僕に対してもそうだ。僕が真犯人で自害したって聞いたら、父さんは内心ほくそ笑むだろうよ……大学まで行かせたのに平々凡々な地元の中小企業の安月給のサラリーマンになった僕を父さんは侮蔑していた」
午後九時三十七分。
少しだけ気掛かりがあった僕は、トリックを仕掛けた僕の自害現場に赴いた。
「凄い人だかりだな……」
中にはマスコミ関係と思われる連中も沢山いたし、警察や野次馬だらけで現場付近は青いシートみたいなもので隠されていて人が出たり入ったりを馬鹿みたいに繰り返していた。
「アイツ。僕のダミー。きっとDNA鑑定で……」
僕は、野次馬に混じって涼しい表情を浮かべながら軽く口笛を吹いていた。
「あれっ?」
青いシートの中から白いハンカチを口に当てた見覚えのある男がスーツ姿で出てきた。
「父さん……」
この日、同時に妻と息子を亡くした悲劇の父親を、彼はそれなりに上手く演じている様に見えた。
「涙なんて浮かべちゃって……迫真の演技ですね。お・と・う・さ・ま!」
僕は心の中でそんな事を呟きながら、ふと、野次馬の中に居た一人の美しい女性の存在に目を奪われてしまった。
「麻衣子?」
僕の視界に入り込んだその若い女性。白石麻衣子。幼い頃から全男子生徒の憧れの的だった僕の同窓のマドンナだ。
「麻衣子が、こんな時間に野次馬達に紛れ込んで……」
僕が素早く観察したところ、白石麻衣子は相変わらずの超絶的な美貌から放たれる圧倒的な存在感を周囲にまき散らしながら、時折踵を上げて青いシートの方へ何かを探すかのように視線を送り続けていた。
中学生の頃、男子生徒達から絶大な人気を誇っていた白石麻衣子はその美しすぎる容姿だけではなく、勉強もスポーツも万能な「完璧なるマドンナ」ではあった。
僕が彼女に対して抱いていた感情は、確かに美人なんだけれど「同性には嫌われやすいタイプ」という一定の評価と、中学生にしては香水の匂いがキツくて、それでも女性フェロモン撒き散らしたい系の「大の男好き」だろうという結構冷めたものだった。
「木島くん、一緒に帰ろうよ!」
白石麻衣子が僕にそう言ってきた事があった。
「えっ!二人で?」
僕は複雑な心境を表情に出さぬよう綺麗な微笑みを切り返した。
「……前から、カッコいいと思ってたの。木島くんの事。ねっ、いいでしょ?」
中学を卒業する頃、僕は白石麻衣子と「ある約束」を交わした。それはとても残酷で無慈悲な恐ろしい計画でもあった。彼女は、その美貌とは裏腹の「悪」の化身のような性格の持ち主で所謂「裏バン」つまり影の女番長を張っていた。白石麻衣子に狙われた女子生徒たちは学校内外で容赦なく彼女の「下僕」の身分として雇われた男子生徒たちによって、リンチやレイプ、果ては……とにかく白石麻衣子とは、そういう女だった。その麻衣子が、今頃何故ここに居るのだろう?僕は敢えて彼女に事の真相を教えてやろうと、野次馬が引いたら巧妙に麻衣子に接触する計画を頭の中で時間にして約三十秒間。案を練った。
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