同居人は料理が美味いけど、俺は料理を食べるのが上手い

篠崎汐音

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オレは同居人と先へ進みたい

◎11

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「今日、試してみないか?」

 容器を握りしめる健の両手を上から包み込む。ローションを受け取って、徐に床に置いた。

「……それは、今からじゃなくて?」
「風呂入った後で。指入れるのも、不安かもしれないけどオレにやらせてほしい。痛みは肩代わりできないけど、一緒にいることはできる。一人で辛い思いしないでくれ」

 健は視線を彷徨わせた後、目を閉じて考え込んでいた。ぱちぱちと瞬きをしてから、確固とした意志を持って賢太郎を見据える。真剣な顔も可愛いな、と思った。恋人の贔屓目かもしれない。

「分かった。やってみる。やってみよう」
「ありがとう」
「ううん。だって、上手くいかなくても好きでいてくれるんだよな?」
「当然だろ」

 健は真剣な顔を崩して、甘えた声で笑いかけてくる。胸に抱き留めて頭をわしわしと撫でると、濡れた毛が纏わり付いてくる。

「今日は、何だか大丈夫な気がする。また落ち込んだときは、慰めて、好きだって言ってくれよ」
「ああ。好きだよ」
「……まだ落ち込んでないんですけど」

 照れ臭そうな顔の健には先に湯船に浸かってもらい、賢太郎は頭や身体を一通り洗った。
 浴槽に身を沈め、健を足の間に収めて後ろから抱き、その肩に頭を乗せる。お湯の中で肌と肌が触れあう。歓喜の溜息が漏れた。ずっとこうしたかった。家だと浴槽に湯を張ることもほとんどなかったし、もし張ったとしても湯船の中で足を折り曲げることしかできなかった。今も足を伸ばしきることはできないけれど、開放感があってリラックスできる。もう少し密着したくて健を引き寄せると、気の抜けた叫びが上がった。

「そんなに驚かなくてもいいだろ」
「……何とは言わないけど当たったから」
「それは生理現象だから仕方ない。恋人と裸で密着してるんだから」

 首筋に頬を寄せると、健も首を仰向けてくる。微睡みの中に居るような、蕩けた焦点の合わない瞳が賢太郎を映した。少し冷めた唇を合わせると、いつもよりぬるぬるしていて心地好い。舌が抵抗なく健の口内に導かれる。くぐもった声が反響して、ますます身体の中心が反応した。後ろから健の胸を探ると、艶のある声が賢太郎の耳を浸食した。次第に呼吸が浅くなってきて、合わせた唇が息継ぎの度に離れていく。
 健が切羽詰まった顔で振り向いて、賢太郎の腰に足を絡ませて太腿に乗り上げ、昂ぶった自身を恋人のものに合わせた。二人の手を重ねて上下に動かすが、お湯の抵抗で思った刺激が与えられず、腰が揺れる。健の背中を片手で支えると、首に腕が回ってきた。浴槽の湯が跳ねて、二人分の喘ぎ声が黒いタイルに染みこんでいく。

「賢太郎、出したい。だめ?」

 掠れた声と潤んだ瞳が胸を射貫く。ここで出したら後まで興奮が続かないかもしれない。けれど手は止められず、二人で上り詰めて達した。

 風呂から上がって身体を拭き、備え付けの白いバスローブに着替える。荷物をまとめたり歯を磨いたり爪を切ったりする間にも、賢太郎の思考はこの後のことでいっぱいになっていた。一回出すものを出したので煩悩は消え失せたかと思いきや、無くなったのは懸念や不安といった悪感情だけだった。我ながら楽観的だと思う。
 ここから先は未知の領域だけれど、健と二人なら乗り越えられるような気がした。乗り越えられなくても、今から向かうところがどんなところか、確かめることができれば問題ない。
 健はベッドの真ん中でタオルを敷いて座っていた。固まっている表情を解すように頬を撫でる。健からキスを仕掛けてきたので、ベッドに押し倒した。バスローブのボタンを外して気付いたのは、健が下着を履いていないことだった。どうせ脱ぐんだから同じことだと抜かす恋人は恥ずかしそうで、こちらは既に正気を失いそうだった。
 胸の頂を舐めながら内腿を擦る。肌触りと肉付きが良くて、ずっと触っていたくなる。

「んん……あっ、は」
「健、胸も弱いよな」
「うう、うるさいな」

 健に頭を掴まれながら内腿の付け根に手を伸ばす。会陰、尻と触れていったが、仰向けでは秘所を慣らすのは難しいと判断し、健にはうつ伏せになってもらうことにした。
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