同居人は料理が美味いけど、俺は料理を食べるのが上手い

篠崎汐音

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オレは同居人と先へ進みたい

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「なあ。健は、オレのこと好きか? 資格とか自信とか関係なく、素直に答えてほしい」
「……うん。好きだよ」
「それが聞けて良かった。オレもお前が好きだ。恋人にとって必要なものなんて、それで十分だと思う。痛いことが耐えられなくても良い。オレのことを好きでいてくれれば良いんだ。ずっとオレのこと、好きでい続けてほしい」

 濡れた目尻に口づけて慰めると、健の腕が遠慮がちに賢太郎の背に絡まった。健は照れ臭そうに目線を合わせてくる。白いベッドに横たわった恋人は、先程より柔らかい表情になっていた。

「お前から、そこまで情熱的な言葉を聞くことになるなんて思わなかった。賢太郎も、俺のことを好きでい続けてくれるのか?」
「当然だろ」
「恋人だからできること、全部はできないかもしれないよ、俺とは」
「それでも良い。今できなくても、いつかできるようになるかもしれないし。もし仮にずっとできなかったとしても、お前のことを嫌いにはならない。二人で触れ合えるような、他のことをすればいい」
「……今はそう言ってくれてるけど、いつか賢太郎が嫌になっちゃうんじゃないかって、ずっと不安だった」

 健は寂しそうに目を伏せたが、賢太郎の言ったことを口先だけの嘘だと思っているという訳ではないようだ。健は、存在するかもわからない、遠い未来のことを危惧しているのだろう。肉体的に繋がれないからと理由を付けて健に別れを告げるような、想像上の未来の賢太郎のことを考えている。

「そんな悪い想像の中のオレなんて信じないでほしいな。そいつ、今のところ架空の存在だろ」
「……確かに」
「いつかはそうなるかもしれないって不安に思ってるなら、お前に出来る範囲でいいから、今のオレのことを大切にしてくれよ。今日まで結構、傷付いたんだから」
「う、ごめん。そうだよな。目の前の賢太郎のことを一番に考えなきゃいけなかった」

 健は、拗ねる賢太郎を宥めるように身体を引き寄せる。二人を隔てる空間がなくなって、心臓の鼓動が重なって、息が混じり合う。頭を撫でると、健は息を漏らしながら唇を離した。蕩けきった、切ない瞳をしている。

「あんなに、お前と顔を合わせるのが怖かったのにな。今はすごく、あの時間が勿体なかったって思える。もっと、一緒に居られたはずなのに……」
「今から埋め合わせしよう。今日はまだ時間がある。明日もずっと一緒だろ?」
「……うん。車の中でできなかった分、たくさん触ってよ」

 健は、悪戯っぽく挑発するように微笑む。初めて見る表情に、賢太郎は胸が高鳴った。お言葉に甘えて、裾から入れた手を腹に乗せる。健は擽ったそうに笑いながら受け入れてくれたが、手が上に行くにつれて渋い顔になっていった。

「どうした? やっぱり怖い?」
「大丈夫。……シャワーを先に浴びたい」
「オレは気にしないけど」
「俺が気になるんだよ。お前だって、初めてキスする前にめちゃめちゃ歯磨きしてたじゃん」
「……じゃあ、二人で入ればいい」

 片時も離れたくなくて、何とか一緒にいられる方法を提案する。健は視線を彷徨わせていたが、微動だにしない賢太郎を見て観念したように頷いた。
 健は服を脱ぎ捨てると、所在なさげに視線をうろつかせ、足早に浴室に入る。追って後ろから抱きしめると、あの夜と違って、健は温かかった。流れ出るお湯を二人の肌が分け合う。

「一緒に入るって言ったのに、酷いな」
「恥ずかしいんだよ。どこ見て良いんだか分からないし、見られるのも変な感じがする」
「裸見るのも見られるのも、二回目だろ」
「そうだけど、あの時は怖くてそれどころじゃなかったから。記憶が無いの」
「……お前、修学旅行の大浴場とかどうしてたんだ」
「何とも思ったことない。まじまじ見ることもないし、好きな奴がいるわけでもなかったからさ」

 シャワーヘッドを握り締めながら文句を付ける恋人を黙らせるため、賢太郎は健の耳を舐め上げた。予想通り掠れた甘い声がして、抵抗が止む。舌で耳を愛撫しながら健を壁に押し付けて、握りしめていたものを取り上げ、シャワーフックに立てかけた。

「んっ……ああっ」
「あのな、いい加減諦めてくれ。最初は恥ずかしいかもしれないけど、これから先、何回でも見ることになるんだぞ」
「そ、そうだけどさ……んっ」

 大人しくなった健を正面から抱え直して、キスで唇を塞ぎながら尻に手を伸ばす。初めて触ったそこは、思ったよりも肉付きが良くてハリがあった。……あれだけ賢太郎の料理を食べているのだから当然だ。オレが育てたようなものだと誇りに思いながら、賢太郎は遠慮なく両手で尻を揉みしだく。塞いだ口から抗議の唸りが響いていたことに気付いたのは、健から背中をばしばしと叩かれてからだった。
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