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オレは同居人と先へ進みたい

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 アウトレットモールは健の言うとおり広くて、しかも二階建てだった。回るのにくたびれそうなほど店があり、総数は二百五十だそうだ。ただ、その中でもメンズ用品専門店は十店舗ほどであり、かなり絞り込まれる。話し合った結果、方々に散らばったメンズ専門店を起点に、他の店舗で良さそうなところがあったら入ってみる、という方針が定まった。

「普通のショッピングモールに入ってるような店もあるんだな。だいたいレディースだけど」
「人も多いな。健、見たいところあったら言えよ」

 アウトレットモールの客は、若いカップルや家族連れが多い。ただ、同性の友人と訪れているらしい若人もちらほら見受けられる。男二人で訪れた賢太郎と健は、特段目立っている様子がない。他の客も、連れや商品にしか目が行っていないのだろう。とはいえ、流石にこんな中で手は繋げない。賢太郎が上の空でいると、右手が温もりに包まれた。え、と思わず間抜けな声を出すと、健が申し訳なさそうに賢太郎の手を掴んでいる。

「悪い。この時計、興味があるから見てみたいんだけど」

 どうやら賢太郎を引き止めたかっただけのようだ。すぐに離された手は所在なく宙に浮いた。
 健が見ていたのは、有名ブランドのスケルトンの腕時計だった。内部機構が見えるようになっている時計で、お値段は二百万円らしい。値札に二人して恐れ戦いていると、近くに居たカップルが店内スタッフに捕まっていた。漏れ聞こえる説明によると、この時計は特殊な外殻構造をしており、限られたメーカーでしか生産されていないらしい。二人で気配を殺しながら店内を回ったが、やはり例の時計が一番値段が高かった。
 店舗を出ると、二人は同時に息を吐いた。それがおかしくて、お互いくすくすと笑う。

「まさかあんなに高いなんて思わなかった。アウトレットモールって怖いな」
「お前の見てたあのブランド、有名だしな。構造も特殊なら、そりゃ高いわ……」

 何年後になるかは分からないが、ああいう時計を健にプレゼントしてやりたい、と思ったことも確かだ。けれど、あれが買えるようになる頃には、また新しい時計が発売されているだろう。携帯で例の腕時計を調べて、画像を保存しておいた。
 他にも、服や鞄を見て回ったり、遅めの昼ご飯を食べたりと、二人はそれなりにアウトレットモールを満喫していた。寝具メーカーや調理器具メーカーまで並んでいたのは驚きだった。鍋やフライパンは買い替えなくても大丈夫だし、電気ケトルも別メーカーのものがある。圧力鍋には少し惹かれたけれど。
 名前も知らない服屋のマネキンが目に付く。薄いグレーのVネックセーターに紺色のカーディガンが羽織られている。ボトムスはベージュのチノパンだ。メンズとレディースの取り扱いが半々くらいの店だった。

「賢太郎、気になる?」
「ああ。シンプルだけど、ああいうの好きなんだよな」
「一回着てみれば?」

 健の言葉に頷いて、同じ服を探して試着室に入る。着替えて鏡を見ると、概ね予想通りの姿が映っていた。

「賢太郎、どうだ?」
「うん。結構好みだ」
「そりゃ良かったな。なんか、スマートに見えるね。似合ってるよ」

 健は試着室のカーテンを開けて覗き込むと、満足そうに微笑んだ。多少でも格好いいと思ってくれたなら嬉しいのだが、それは恥ずかしくて聞けなかった。案外ショッピングも良いものだ。賢太郎は、とっととホテルに向かいたいと思っていた数時間前の自分を恥じた。思わぬ出費だったが、値段がお手ごろだったので、テーマパークに行かなかった分が浮いたと考えれば帳尻が合う。
 ベイクドチーズケーキとバウムクーヘンが合体したお菓子を健が買って、他の店も見て回る。時間が良い頃合いになってきたので、二人でホテルへ向かうことにした。
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