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同居人は料理が美味いけど、俺は料理を食べるのが上手い
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翌日、盛山は起きてからメッセージを確認したが、返信はなかった。
泊まり込みの集中講義なので、細川はメッセージなど見ている暇もないのかもしれない。細川が最終日に何時に帰ってくるのかも分からなかった。
ただ、いくら細川と同居しているとはいえ、盛山の交友関係がそこで閉じているわけではない。
この日は学部の友人と集まってボーリングに行く予定があった。細川のいない寂しさが少しだけでも埋まるかもしれない。
盛山は朝ご飯のミートパイを味わってから、炊飯器のタイマーをセットして家を出た。
ボーリングは楽しかった。スコアは振るわなかったが、友人とハイタッチしたり存分に動いたりしたので、高揚感と達成感に満ちていた。帰り道も幸せに包まれていた。
けれど、帰宅するとどうしても、この楽しさを共有したい「誰か」のことを考えてしまう。友人とはメッセージアプリで繋がっているし、写真だって送られてくる。嬉しいけれど、細川がいないことに変わりはないと思い知らされた。先程まで楽しかった分、落差が激しい。寂しさが倍加している。
動いて疲れて腹が減ったから、気が弱っているのかもしれない。盛山は昨日の残りのカレーを冷蔵庫から出して、火にかけた。念のために混ぜて火を全体に行きわたらせる。あのスパイシーな香りが部屋の中を包み込んだ。
皿に盛って食べ進めると、やはり深みと苦味が絶妙にマッチしている。食べるのは二回目なのに、色あせない美味しさだ。皿の中身はすぐに空になった。
……物足りない。口寂しい。腹の中じゃなくて、量の話じゃなくて。食べ物の話じゃ、なくて。
このカレー、リンゴの代わりに何が入ってるんだ?
これ好きだ。
美味しい。
また食べたい。
次々浮かんでくる素朴な感想を細川に伝えたい。細川に、少しぎこちないけれど嬉しそうな笑みを浮かべてほしい。その顔を目の前で見たい。そういう気持ちがあったから、細川の料理を褒めていたのに。
細川が作ったものとはいえ、料理だけでは意味がないのだ。
心の中に芋づる式に浮かんでくるのは、二日前、細川とポトフを食べたときのことだった。
細川の言う「好き」という言葉に特別な意味を想像していたこと。「間違っている」といけないから踏み込めなかったこと。
細川の気持ちは分からない。けれど盛山は、自分の気持ちだけは確実に理解してしまった。
細川にずっと一緒にいてほしい。
好きという言葉に意地悪な意味だけでなく、真っ直ぐな意味も込めたい。
細川も同じ気持ちであってほしい。
細川が帰ってくるのが待ちきれない。早く全て伝えたい。……食事は待てるのに。
その夜、盛山は深夜まで寝付けなかった。あまり遅くまで起きていると次の日に響く。細川が帰ってくる以外の予定がないとはいえ、できるだけ身なりを整えておきたい気持ちも盛山にはあった。
願わくば快い返事が欲しい。もし苦い顔をされたら立ち直れない。けれど、その時は受け止めなくてはならないことも分かっている。好きな人の大切な気持ちなのだから。
泊まり込みの集中講義なので、細川はメッセージなど見ている暇もないのかもしれない。細川が最終日に何時に帰ってくるのかも分からなかった。
ただ、いくら細川と同居しているとはいえ、盛山の交友関係がそこで閉じているわけではない。
この日は学部の友人と集まってボーリングに行く予定があった。細川のいない寂しさが少しだけでも埋まるかもしれない。
盛山は朝ご飯のミートパイを味わってから、炊飯器のタイマーをセットして家を出た。
ボーリングは楽しかった。スコアは振るわなかったが、友人とハイタッチしたり存分に動いたりしたので、高揚感と達成感に満ちていた。帰り道も幸せに包まれていた。
けれど、帰宅するとどうしても、この楽しさを共有したい「誰か」のことを考えてしまう。友人とはメッセージアプリで繋がっているし、写真だって送られてくる。嬉しいけれど、細川がいないことに変わりはないと思い知らされた。先程まで楽しかった分、落差が激しい。寂しさが倍加している。
動いて疲れて腹が減ったから、気が弱っているのかもしれない。盛山は昨日の残りのカレーを冷蔵庫から出して、火にかけた。念のために混ぜて火を全体に行きわたらせる。あのスパイシーな香りが部屋の中を包み込んだ。
皿に盛って食べ進めると、やはり深みと苦味が絶妙にマッチしている。食べるのは二回目なのに、色あせない美味しさだ。皿の中身はすぐに空になった。
……物足りない。口寂しい。腹の中じゃなくて、量の話じゃなくて。食べ物の話じゃ、なくて。
このカレー、リンゴの代わりに何が入ってるんだ?
これ好きだ。
美味しい。
また食べたい。
次々浮かんでくる素朴な感想を細川に伝えたい。細川に、少しぎこちないけれど嬉しそうな笑みを浮かべてほしい。その顔を目の前で見たい。そういう気持ちがあったから、細川の料理を褒めていたのに。
細川が作ったものとはいえ、料理だけでは意味がないのだ。
心の中に芋づる式に浮かんでくるのは、二日前、細川とポトフを食べたときのことだった。
細川の言う「好き」という言葉に特別な意味を想像していたこと。「間違っている」といけないから踏み込めなかったこと。
細川の気持ちは分からない。けれど盛山は、自分の気持ちだけは確実に理解してしまった。
細川にずっと一緒にいてほしい。
好きという言葉に意地悪な意味だけでなく、真っ直ぐな意味も込めたい。
細川も同じ気持ちであってほしい。
細川が帰ってくるのが待ちきれない。早く全て伝えたい。……食事は待てるのに。
その夜、盛山は深夜まで寝付けなかった。あまり遅くまで起きていると次の日に響く。細川が帰ってくる以外の予定がないとはいえ、できるだけ身なりを整えておきたい気持ちも盛山にはあった。
願わくば快い返事が欲しい。もし苦い顔をされたら立ち直れない。けれど、その時は受け止めなくてはならないことも分かっている。好きな人の大切な気持ちなのだから。
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