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同居人は料理が美味いけど、俺は料理を食べるのが上手い

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「……何か、違う」

 話は現在に戻る。
 じゃがいもを噛み締めていた細川が突然唸りだした。
 一体全体何が違うというのか、盛山には分からなかった。ポトフの味が想像と違ったのだろうか。いや、半分以上食べ進めておいてそれはないだろう。

「どうした細川」
「何か違うんだよ……そうじゃねえんだよな」
「……コショウが足りないとか?」
「味付けの話じゃねえ。お前がそう言うなら今度から足すけど」
「いや、今食べてるのが好きだから足さなくていいよ」

 眉間に皺を寄せていた細川が、目を丸くした。かと思えば、盛山の皿をじーっと見つめている。細川は普段、ころころと顔色を変える奴ではない。新鮮である。

「俺の料理の褒め方、雑? 表現方法が違うってこと?」
「確かに、盛山の褒め方って表現も語彙も足りないよな。でもそういうことじゃない」
「じゃあ、何が違うんだよ。さっきから皿見つめてるけど、何か分かったのか?」
「いや……お前、綺麗に食べるよなあと思って」
「そうか? 意識したことは無いけど、残すのもったいないし」
「……そういうところ、良いよな。好きだわ」
「……そりゃ、どうも。ごちそうさまでした」

 細川は無自覚に何かを期待したような目をしている。盛山はその視線を「料理をもっと詳細に褒めてほしい」という意味だと受け取ったが、違った。
 盛山に好意的な評価を下しているところに、ヒントが隠されているのは分かる。

 もしかして、と思う気持ちはある。
 細川の「好きだ」という言葉が、評価でも褒め言葉でもない可能性。
 それは自惚れであろうな、とも思う。だから言えない。

 もしかすると、細川もそう思っているのかもしれない。その場合、盛山はかなり思わせぶりな言葉を細川にかけてしまっていることになる。
 少し申し訳ない気持ちになるが、「間違っていたとき」のことを考えると踏み込むことが出来ない。

「そうだ、言うの忘れてたんだけど」

 ポトフを食べ終わった細川が、話題をすり替えるように切り出した。

「オレ、明日と明後日は泊まり込みの集中講義が入ったから帰って来れないんだわ」
「二泊三日ってことか。連休なのにご苦労様。……え、晩ご飯は?」
「自分で調達しろ。と言いたいところだけど、明日カレーを作っておいてやる。それ食べな」

 細川は柔らかく微笑む。カレーなら、多めに作っておけば二日間美味しく頂くことができる。
 盛山は二回ほど、細川の作るカレーを食べたことがあった。さしもの細川もスパイスからカレーを作りはしなかったが、隠し味にすりおろしリンゴを使っているらしい。盛山の母の作るカレーとは、味も香りも違った。

「カレーってそもそも美味しいけど、細川の作るカレーは何か新鮮で好きだな。楽しみだよ」
「……もし二日目に酸っぱい臭いがしたら、食わずに捨てるんだぞ」
「分かってるよ。もったいないとか言って食べたりしないし」
「だったら良いけど。連休を返上して講義を終わらせた後に、倒れ伏したお前の世話なんてしたくないからさ」

 細川はからかうように話すが、貴重な休みを食中毒に潰されるのは盛山もまっぴらごめんだった。

 細川が家に居ないとなると、連休中は一人きりということになる。
 こちらにもバイトの予定や課題などのやるべきことはあるが、夜は家に帰ってこられるようにしている。晩ご飯を細川と食べるために。
 盛山と細川は同居を始めてから、晩ご飯はできるだけ一緒に食べようと心掛けていた。付き合いなどで外食する場合は、前日までにお互いに知らせておくように決めていた。確かに今回も、前日までには情報を共有できたと言える。

 しかし、数か月前に同居を始めてから現在に至るまで、二人が二日以上顔を合わせなかったのは一回しかない。その一回も盛山が帰省した時だけで、一人で待つのは細川の方だった。今回は盛山が待つ側ということになる。

 同居を始める前は一人で暮らしていたのだから、不安に思うことは無いはずだ。それなのに、盛山はどこか心許なく、少し居心地が悪かった。
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