ゲームの世界に召喚されたせいで告白の返事が聞けねえ

篠崎汐音

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本編

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 見渡す限り均一な、果てのない水色の空。
 深淵のごとく暗い、漆黒の床。
 疎らに点在する、正方形の草地。
 そして、過去の自分の写し身。
 北澤の視界にある情報は、ただそれだけだった。

 今北澤がいるのは、自作ゲームの世界らしい。幾らゲーマーの北澤であっても、そんな突飛なことを言われて素直に頷くことはできなかった。しかし、頬を抓ると痛みがあったので、これは夢ではないと思い知る。

「冗談じゃない。どうやったら出られるんだ、ここ」

「義務を果たしたら帰してやるよ。お前のせいで、世界がぶっ壊れたんだからな」

「……俺のせいで?」
 
 この世界がRPGの方の自作ゲームであることは、北澤にも辛うじて思い出せた。だが、地面はこんなに黒くなかったし、ダンジョンも一つは作ったし、ダンジョンの中継地点となる街も三つは作った、はずだ。……最初の街以外は、手を抜きすぎて宿屋しかないという始末だったが。
 ただ、このゲームを作ったのは三年くらい前のことだ。ただでさえ葬り去りたい黒歴史なのに、年数も手伝って、北澤の記憶は曖昧にぼやけている。

「端的に言えば、この世界をまともな状態に修復してほしい。……いや、お前には、この世界を直す義務がある。この世界は、お前が三年間放置したバグのせいで、正常な機能を失くしてしまったんだからな」

 写し身曰く、北澤がを放置したがために、地面に設置されていたあらゆる物体オブジェクト――草然り、街然り、ダンジョン然り――が、全てバグの影響下に置かれてしまった。その結果、設置されていたはずの街やダンジョンが、全て画面外に放り出され、無くなってしまったのだ。薬草が採取できる床だけは、被害を免れたようだ。

 そのバグについては、北澤にも心当たりがあった。と言うのも、北澤がゲーム制作を放り投げた、直接の原因であったからだ。

 当時の北澤は、ダンジョンに移動床を設置しようとした。オレンジ色の正方形に、赤色の矢印が描かれたもので、操作キャラがその上に乗ると、矢印の方向へキャラが一マス分運ばれる。
 しかし、何の設定を間違えてしまったのか。移動床によるキャラの移動範囲は、ゲーム内全範囲に及んでしまった。その上に乗った操作キャラは、ダンジョンの壁に激突するまで止まることが出来なくなってしまったのだ。
 設置してある宝箱が取れないばかりか、ダンジョン最奥のボスにすら辿り着けないという始末で、北澤は頭を悩ませた。最終的に、ダンジョン内の移動床を完全撤去することで、事態は解決したかに見えた。

 ……しかし、移動床の撤去後から、ゲームの挙動が益々おかしくなった。キャラやカーソルが指示通り動かなくなったり、街の内装が意図せず穴ぼこになったりした。試行錯誤の末、北澤はバグの修正を諦め、黒歴史を思い出の奥底深くに沈めたのだった。

「俺が修正を諦めて三年間放置したから、バグが進行してゲームがぶっ壊れたってことか?」

「そういうことだ。お前がやったことなんだから、お前が直すのが道理だろ」

「つっても、元の世界に戻らないと、修正なんてできない。ここにはパソコンがないんだから。修復方法を調べることも、そもそも修正することだって不可能じゃないか」

 北澤は正論をぶつけたつもりだったが、写し身は動じない。それどころか、彼の瞳に滲む怒りの色が、ますます濃くなっていく。

「元の世界に戻ったら、こんなゲームのことなんか忘れるに決まってる。ただでさえ、大好きな岡西君のことで頭がいっぱいだもんな」

 岡西の名を写し身が呼んだことで、北澤の頭は真っ白になった。
 こいつ、どうして岡西のことを知っている?

 ……よく考えたら、目の前のこいつは、一体何なのだ。この世界がゲームの世界であることは分かったが、目の前のこいつの正体は何一つわかっちゃいなかった。
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