上 下
2 / 6
プロローグ

2

しおりを挟む
 だが、予定は案外早い段階で狂った。北澤宅に上がり込んだ相田は、パソコンのデスクトップに目を留め、「この【ゲーム】ってフォルダ何?」と尋ねてきたのだ。北澤は是が非でも話を逸らそうとしたが、相田のしつこい追及に根負けしてしまい、こうしてパソコンの前に相田を座らせてしまう羽目になった。

 ゲームだから笑い話で済んでいたものの、これがエロ画像だったりいかがわしい動画だったりしたらどうなっていたのだろうか、と北澤は空恐ろしくなった。いや、そんなもんをデスクトップに配置したりはしないし、ダウンロードしてもいないけど。北澤は、誰に向けるわけでもない弁解を脳内で行った。
 仮にそんなやましい物を見られたとして、相田だったら拳骨百発で済む。だが、岡庭に見られでもしたらと思うと背筋が凍った。……まあ、そんな事態にはなりようもないので、取り越し苦労だが。
 ともかく、今度から誰かが来るときはパソコンの電源を落としておこう、と北澤は心に誓った。

 画面に視線を戻すと、岡庭が微笑みながら相田を鼓舞している。

「相田、良い線行ってるねえ」

「へへ、そうだろ。どっちに動いたら止まるかも分かってきたわ。上下がダメなんだ。左右移動なら止まらない。遠距離攻撃で仕留めてやる」

「上に進んだら止まるって……上スクロールゲームなのに致命的だね。貴ちゃん、テストプレイもしてないの?」

「したけど、直し方が分かんなかったんだよ。しかも最後まで進めねーしな、それ」
 
 そう、このゲームには更なる欠陥があった。三ステージ目――このゲームは習作なので、最終ステージに当たる――のボスを倒した瞬間、画面が暗転してしまうのだ。そして、ピーピーガーと異音を発した後、ゲームのウインドウは独りでに閉じた。

「おい北澤、これで終わりかよ?!」

「ああ。本当はエンドロールまで作ったんだけど、バグかなんかでそこまで進まねーんだ。ま、大したもんじゃねーけどな」

「あの北澤が作ったとは思えねえ粗末な出来だな。でも謎の達成感があるわ。……ほーん、北澤の習作黒歴史ゲーム、他にもあるじゃねーか。もう一個やってやろ」

 パソコンにひっついたままにやりと笑う相田に対し、北澤は両の拳を握り締めた。

「おい相田、いい加減にしろよ。現実でボコボコにされたいのか?」

「貴ちゃん、リアルファイトはやめなさい。相田もその辺でやめとけよ、俺達が手持ち無沙汰になっちゃうじゃん。素直に格ゲーしよう」

 岡庭は睨みあう二人を仲裁して、相田をパソコンから引きはがした。北澤はすかさずパソコンをシャットダウンし、ゲーム機の電源を点けた。
 
 相田も岡庭も格ゲーはかなり上手い方だが、本気を出した北澤には敵わない。そのため、北澤は普段使わないキャラを使うことで、二人と互角以上の戦いを演じていた。けれど、相田相手に手加減する気の無かった北澤は、この日だけは使い慣れた持ちキャラを選んだ。その結果、相田が全敗したことは言うまでもない。
 相田は捨て台詞を吐きながら逃げ帰り、北澤は清々した気持ちで玄関の鍵を閉めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

学園の天使は今日も嘘を吐く

まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」 家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。

処理中です...