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螺旋階段は同じ所を通らない

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「止めてほしくなかったんです。でも、我儘を言って真壁さんを困らせたくなかった。俺こそ、怪しまれないかと思って内心ヒヤヒヤしてたんですよ」

 腕を引かれて、顔が近づく。先程と違って身長差があるから、近づかないと手が届かない。それ以上の意味はないということくらい分かっている。それでも、近くで見上げた宮下は柔和な笑みを浮かべていて、その頬は赤く色づいていた。そんなものを見せられたら、否が応でもときめいてしまう。

「恥を忍んでここまで言ったんだから、信じてくれますよね?」

 髪に触れた真壁の手は、宮下の手に覆われたまま、小刻みに頭を撫でている。というより、撫でさせられている。
 友人って、こんなに近づいて触れ合って良いものなんだろうか。宮下も自分のことを想ってくれているのかもしれないと勘違いしそうなほど、彼との距離は近くて温かくて優しかった。戸惑いと恐れは溶かされて、微睡みの中にいるような安心感に包まれている。

「……うん」
「良かった。あと俺、真壁さんが弱ってるからって優しくしてあげてるわけでもないからね。……えっと、さっきの真壁さんと似たようなことばかり言ってますけど、本心ですから。信じてください」

 宮下は苦笑しながらも手を止めない。低い声で紡がれる彼の言葉が、体温と共に少しずつ体内に染みわたってくるようだった。彼の髪が鳴らすさらさらという軽い音も、心を落ち着かせてくれる。
 彼のことを信じようという気になっている自分に、真壁は呆れた。これがイケメンの顔面の力か、と下らないことを考えられるくらいに、余裕が生まれている。
 実際はきちんと分かっている。宮下が丁寧に寄り添って言葉をかけてくれたから、心が安らいでいるのだ。ただ相手の顔が良いだけなら、こんなに安心できていない。

「そこまで言われちゃあ、信じるしかないな。……安心した。ありがとう」
「うん。引き留めてごめんね。言いたいことはそれだけだから」
「こっちこそ、今日は変なことばかり言って悪かったよ。気にしないでくれよな」

 今度こそ靴を履いて外に出た。宮下も付いてきて、見送りをしてくれる。

「今日はありがとな」
「こちらこそ。色々あったけど、今日は真壁さんが来てくれて良かった。今度は真壁さんの家にお邪魔しようかな」
「うわあ……俺の家めちゃめちゃ汚いから掃除しなきゃなあ」
「俺も頑張って掃除したよ。片づけきれなかったものは寝室に突っ込んで隠したりしましたし」
「そうなのか。寝室の中覗いてやれば良かった」
「勘弁して下さいよ」

 結局駅まで付いてきた宮下は、改札口に入る真壁に手を振って帰って行った。
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