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螺旋階段は同じ所を通らない
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向かった先は、野菜を中心とした創作料理が推しの居酒屋だった。菜食志向の女性から密かな人気を集めているらしく、客層は二十代から三十代の女性が半分を占めている。カップルは殆ど見当たらず、友人同士で訪れる客が多いようだ。テーブルと椅子は木目調の柄が入った茶色で統一されており、ディスプレイのガラスケースの中には、パプリカや人参などの色とりどりの野菜達が綺麗に並べられている。
「宮下さん、こういうところよく知ってますね」
「会社の忘年会の二次会で来たことがあるんですよ。料理が美味しかったので、また来ようと思ってたんです」
「へえ、楽しみだなあ。お勧めを教えて下さいよ」
「勿論。この野菜たっぷりアヒージョとレンコンのピザはお勧めですよ」
「レンコンの、ピザ……?」
「ピザにレンコンが敷き詰められてるんです。あの、本当に美味いので、俺のこと信じて頼んでみて下さい」
眉間に皺を寄せた真壁に、宮下は自信ありげな視線を寄越した。
宮下は、「僕のこと信じてやってみてください」という台詞を最後の一押しに使うきらいがある。自分に自信のない真壁にとって、その言葉をトドメに使おうとする精神状態は理解できなかった。
それでも、宮下がそう言うと、少し信じてみようかという気持ちになるのだから恐ろしい話だ。宮下は平時から自信満々の振る舞いをしているかというとそうではなく、普段は腰が低く、謙虚で誠実で穏やかな性格だ。そんな男に信じてくれと言われたら、多少の力になってあげたいと思うのは人の性ではないだろうか。そして、大抵彼を信じて動いてみると、上手くいくことが多いのだ。
なるほど、彼が職場のおば様方に好かれるわけだ。真壁は一人で勝手に納得していた。
レンコンのピザは、宮下の言うとおり本当に美味しかった。海苔とチーズの上に、レンコンが所狭しと敷き詰められているものだったのだが、レンコンはシャキシャキした歯ごたえで味もあっさりしており、塩味の効いたチーズと良く合う。
「美味いな」と真壁が一言零すと、宮下はしたり顔になった。会社でやり取りするとき、謙虚さから離れた表情を宮下が見せたことはなかったので意外だったが、今はプライベートなので気を緩めているのだろう。そんな宮下の姿がいじらしくて、真壁の口角は自然に上がっていた。
オーダーしたものを粗方食べ尽くし、後はデザートを待つのみとなったとき、宮下は細長い紙切れを差し出してきた。
「真壁さん。これ、今度一緒にどうでしょう」
それは、カラオケの室料十パーセント割引券だった。期限は今月末だ。
真壁は歌うことが好きだった。大学時代にはアカペラサークルに入っていたけれど、最近めっきり歌っていない。
「真壁さんってカラオケ大丈夫な人ですか?」
「歌うのめっちゃ好きですし、ぜひご一緒したいです。でも、俺と宮下さんって休みが合わないじゃないですか。今日みたいな金曜日の夜なら、宮下さんの負担にもならないですか?」
「そうですね、そうしていただけると助かります。来週なんてどうですか? 真壁さんもお休みでしたよね?」
「そうっすね。予定もないですし、その日にしましょう」
休みの日に予定はないです、なんて自分で言ってて悲しくなってくるが、事実なので仕方がない。でも、それで宮下との交友を深められるなら、それも良いと思えた。
「宮下さん、こういうところよく知ってますね」
「会社の忘年会の二次会で来たことがあるんですよ。料理が美味しかったので、また来ようと思ってたんです」
「へえ、楽しみだなあ。お勧めを教えて下さいよ」
「勿論。この野菜たっぷりアヒージョとレンコンのピザはお勧めですよ」
「レンコンの、ピザ……?」
「ピザにレンコンが敷き詰められてるんです。あの、本当に美味いので、俺のこと信じて頼んでみて下さい」
眉間に皺を寄せた真壁に、宮下は自信ありげな視線を寄越した。
宮下は、「僕のこと信じてやってみてください」という台詞を最後の一押しに使うきらいがある。自分に自信のない真壁にとって、その言葉をトドメに使おうとする精神状態は理解できなかった。
それでも、宮下がそう言うと、少し信じてみようかという気持ちになるのだから恐ろしい話だ。宮下は平時から自信満々の振る舞いをしているかというとそうではなく、普段は腰が低く、謙虚で誠実で穏やかな性格だ。そんな男に信じてくれと言われたら、多少の力になってあげたいと思うのは人の性ではないだろうか。そして、大抵彼を信じて動いてみると、上手くいくことが多いのだ。
なるほど、彼が職場のおば様方に好かれるわけだ。真壁は一人で勝手に納得していた。
レンコンのピザは、宮下の言うとおり本当に美味しかった。海苔とチーズの上に、レンコンが所狭しと敷き詰められているものだったのだが、レンコンはシャキシャキした歯ごたえで味もあっさりしており、塩味の効いたチーズと良く合う。
「美味いな」と真壁が一言零すと、宮下はしたり顔になった。会社でやり取りするとき、謙虚さから離れた表情を宮下が見せたことはなかったので意外だったが、今はプライベートなので気を緩めているのだろう。そんな宮下の姿がいじらしくて、真壁の口角は自然に上がっていた。
オーダーしたものを粗方食べ尽くし、後はデザートを待つのみとなったとき、宮下は細長い紙切れを差し出してきた。
「真壁さん。これ、今度一緒にどうでしょう」
それは、カラオケの室料十パーセント割引券だった。期限は今月末だ。
真壁は歌うことが好きだった。大学時代にはアカペラサークルに入っていたけれど、最近めっきり歌っていない。
「真壁さんってカラオケ大丈夫な人ですか?」
「歌うのめっちゃ好きですし、ぜひご一緒したいです。でも、俺と宮下さんって休みが合わないじゃないですか。今日みたいな金曜日の夜なら、宮下さんの負担にもならないですか?」
「そうですね、そうしていただけると助かります。来週なんてどうですか? 真壁さんもお休みでしたよね?」
「そうっすね。予定もないですし、その日にしましょう」
休みの日に予定はないです、なんて自分で言ってて悲しくなってくるが、事実なので仕方がない。でも、それで宮下との交友を深められるなら、それも良いと思えた。
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