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3章

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(ぐずぐず考えててもしゃーない。オレはオレのために生きるだけ。それ以外のこと、考える必要ない)

 雰囲気が気まずくなったとしても、自分の思い通りに動けば良い。自分勝手な振る舞いを咎められたとしたって、それはお互い様だ。助け合って生きるのが人間だ、なんて標語はきれいごと。自分の人生の責任を取れるのは自分だけ。自分のことを大切にできるのも、自分のために動けるのも、最終的には自分だけなのだから。

 心が揺らがないよう決心してリビングに足を踏み入れると、醤油の甘辛い香りが室内に広がっていた。体は正直なもので、腹はぐるると鳴き出す。食欲を刺激された状態で、箸やコップが既に用意されたテーブルに着いた。食器を重ねたときに鳴る、カチャカチャという軽やかな音がキッチンから鳴り響く。

 芦尾が食卓に並べるラインナップはほとんど決まっていて、たいていが茄子やピーマンなどの野菜と豚こま肉の炒め物に、白飯と味噌汁というような内容だ。味はしっかり付いているが濃すぎることはなく、いかにもレシピ通り作りましたという感じの無難なものだ。普通に美味しいので、文句をつけるところはない。芦尾は料理にさほどこだわりがあるわけではないようだが、日々勤めを終えてからきちんと自炊しているのだから立派なものだ。芦尾という人間のことが未だに分からない中で、誠が彼のことを唯一尊敬しているポイントだった。

 程なくして白飯やら味噌汁やら野菜炒めが並べられていくのを、誠は一家の大黒柱のような偉そうな顔で眺めていた。今の時代にはそぐわない、そもそも誠の居候という立場からしてもふさわしくない態度のように思われたが、だからといって、やってもらうことに対して萎縮するのは誠のプライドが許さない。

「……ごめん、なんか怒ってる? 何か、足りないものとかあった?」

 普段よりいっそうピリピリした空気を隠さない誠に、芦尾は気を遣いつつ声をかけてきた。その余所余所しい雰囲気にも誠はイラついてしまう。じゃあ、どういう態度で接してもらえれば自分は満足なのか。自問への明確な解答は得られないまま、誠はただ「別に」と素っ気なく返事をした。芦尾は困った表情で笑うだけだ。何か腹の底に隠しているのではないかと思わせるような、本当の感情を圧し殺したような振る舞いだ。そんなところも誠の気に食わない。

「あんたの考えてることが分かんないな、って思ってた」
「他人の頭の中は覗けないからね」
「そういうことじゃない。言いたいことがあるならはっきり言え」
「そんなこと言われてもな。特にない、好きにしてくれたら嬉しいよ。……って言ったら、怒る?」

 一週間同じ屋根の下にいて、何も言うことがないなんて嘘だ。誠は喉元まで言葉が出かかったが、内実はどうあれ、何も言わなかったのは自分も同じだったと気付き、息が詰まった。
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