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1章
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(そりゃあ、俺だって愛してもらえた方が良かったし、自分を選んでもらいたかった。でも駄目だったんだから仕方がないだろ。そんなこと、かっこ悪くて言えないけど)
元恋人と一緒にいるとき、愛されたいとか見返りが欲しいとか、いちいち考えもしなかったように思う。ただ何かしてあげるのが楽しくて、笑顔を見られるのが嬉しかった、はずだ。それじゃあ、初めから彼女の愛が望めないと分かっていたとしたら? それでも、元恋人に愛を注げていたのだろうか。今となっては分からなかった。
「さっき、見返りなんて求めても無駄って言ったけどさー。報われたいとか、愛されたいとか……叶うかどうかは別として、そう望むのは当たり前なんだよ。みっともないことではないんだからね」
厳しく言い過ぎたと感じたのか、るりは申し訳なさそうに付け加えた。るりの言葉は空っぽの心を埋めてくれるわけではなかったが、芦尾の体に少しずつ染み渡っていった。目には見えないけれど、気配や重みが確かに感じられる、透明な言葉だ。
その後どんなやり取りを交わしたのか、芦尾の記憶にはほとんど残っていない。打ち合わせの末、るりの判断で動画配信の話は無しになったことと、その後に貰った言葉は確かに覚えている。
「お雪ちゃんは一人で抱え込みすぎ! 他人に何かを頼んだり弱みを見せたりしても死ぬわけじゃないんだから、プライド捨てて誰かに頼ってみなよ。そしたら、お雪ちゃんが尽くした分、愛してくれる人が絶対見つかる。るりが保証するよ」
るりに対しては、意外と優しい子なんだなという印象が残った。厳しい言い方から始まった会話だったのに、終わってみれば後味がすっきりしているのは不思議な感覚だった。しかし、彼女の言葉の全てに納得したわけではない。
(愛してくれる人が「絶対」見つかる、ねえ。返報性の法則は存在しないんじゃなかったのかよ。俺のことを選んでくれる人なんて、本当にいるのか?)
るりは「保証する」とまで言い切った。もちろん、適切に他人に頼るという条件付きではあるものの、よほどの自信がなければ断言は出来ないはずだ。何人もの悩みを聞いてきた経験故か、それとも本人に似たような経験があるのか、芦尾には類推することしかできない。
その日の夜は、るりの言葉を反芻しながら寝床にもぐり込み、瞳を閉じた。婚約がご破算になって、休職してからはまともに寝ることも出来ないでいたのだが、その日は不思議と数時間は眠ることが出来た。朝、起きたときの気分も悪くなかった。今まで誰にも話したことのない胸の内をさらけ出したからだろうか。
好転の兆しだ、と芦尾は確信した。るりの言葉に賭けてみよう、と思えた。天啓が舞い降りたようだった。
元恋人と一緒にいるとき、愛されたいとか見返りが欲しいとか、いちいち考えもしなかったように思う。ただ何かしてあげるのが楽しくて、笑顔を見られるのが嬉しかった、はずだ。それじゃあ、初めから彼女の愛が望めないと分かっていたとしたら? それでも、元恋人に愛を注げていたのだろうか。今となっては分からなかった。
「さっき、見返りなんて求めても無駄って言ったけどさー。報われたいとか、愛されたいとか……叶うかどうかは別として、そう望むのは当たり前なんだよ。みっともないことではないんだからね」
厳しく言い過ぎたと感じたのか、るりは申し訳なさそうに付け加えた。るりの言葉は空っぽの心を埋めてくれるわけではなかったが、芦尾の体に少しずつ染み渡っていった。目には見えないけれど、気配や重みが確かに感じられる、透明な言葉だ。
その後どんなやり取りを交わしたのか、芦尾の記憶にはほとんど残っていない。打ち合わせの末、るりの判断で動画配信の話は無しになったことと、その後に貰った言葉は確かに覚えている。
「お雪ちゃんは一人で抱え込みすぎ! 他人に何かを頼んだり弱みを見せたりしても死ぬわけじゃないんだから、プライド捨てて誰かに頼ってみなよ。そしたら、お雪ちゃんが尽くした分、愛してくれる人が絶対見つかる。るりが保証するよ」
るりに対しては、意外と優しい子なんだなという印象が残った。厳しい言い方から始まった会話だったのに、終わってみれば後味がすっきりしているのは不思議な感覚だった。しかし、彼女の言葉の全てに納得したわけではない。
(愛してくれる人が「絶対」見つかる、ねえ。返報性の法則は存在しないんじゃなかったのかよ。俺のことを選んでくれる人なんて、本当にいるのか?)
るりは「保証する」とまで言い切った。もちろん、適切に他人に頼るという条件付きではあるものの、よほどの自信がなければ断言は出来ないはずだ。何人もの悩みを聞いてきた経験故か、それとも本人に似たような経験があるのか、芦尾には類推することしかできない。
その日の夜は、るりの言葉を反芻しながら寝床にもぐり込み、瞳を閉じた。婚約がご破算になって、休職してからはまともに寝ることも出来ないでいたのだが、その日は不思議と数時間は眠ることが出来た。朝、起きたときの気分も悪くなかった。今まで誰にも話したことのない胸の内をさらけ出したからだろうか。
好転の兆しだ、と芦尾は確信した。るりの言葉に賭けてみよう、と思えた。天啓が舞い降りたようだった。
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