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1章

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 るりの特徴を述べただけでは欠点をあげつらっているようにしか聞こえないかもしれないが、彼女が一定の支持を得ている理由もきちんとある。芦尾が彼女を一生推すことに決めた理由は別のところにあるのだが、それはまあ良いとして、大多数のファンが感じているような内容を挙げると――彼女にもある程度の、そしてプライドの高い彼女からしか見いだすことのできない可愛げがあるということだ。

 るりは週二回、ゲームプレイ動画をリアルタイム配信しているのだが、取り組んでいたのは専ら「死にゲー」と恐れられる高難易度ゲームばかりだった。彼女のゲームの腕前はかなり良かったので善戦することが多かったものの、やはり相手も一筋縄では行かない高名な死にゲーなので、るりは何度もゲームオーバーになっていた。
 負ける度に彼女は、「んもお~、あとちょっとだったのに! 次こそ勝つ! アイテムの出し惜しみはしない!」と叫びをあげながらリプレイしていた。彼女の悔しがりようは想像以上に素直で、応援したくなるようなひた向きさを持っており、また先の反省を活かしながらゲームクリアへと邁進する彼女の姿はヒロイックで、多くの視聴者を虜にしていた。

 ただ、ここも一筋縄ではいかないところが、るりがるりたる所以であった。ゲーム配信時のコメント欄は『るりちゃん頑張れ』『やればできる』という好意的なコメントが多く、るりもそれらを力に変えて突き進むことが多いのだが、彼女はある種のコメントには酷く手厳しかった。安易なアドバイスである。『るりは操作遅いんだから軽い武器使えば良いのに』という嫌みっぽいコメントは当然ながらアウトだが、『るりちゃんのためを思って言ってるんだよ』というような、言葉尻は優しいが押し付けがましいコメントには更に容赦がなかった。「るりのためって何? 善人ぶって気持ち良くなるために、るりを道具にすんな。るりはアンタの操作キャラじゃないんだよ!?」と怒り出し、発言者を一時的に動画から締め出すことすらあった。

 芦尾には、るりの怒りが理不尽なものだとは思えなかった。実際、頼んでもいないのに親切の押し付けをする者や、罪悪感を植え付けながら他人の行動をコントロールしようとする人間というのは少なくない。芦尾も勤め出すようになってから、そのような者が存在しているという実例を目の当たりにすることが増えていった。あなたのためを思っているのに、とは言うが、本当に相手のことを考えているのだろうか? 思い通りに他人を動かすために、そのような言い回しをしているだけではないのか? 親や友人、職場の同僚にそういうタイプの人間がいると、自分の人生を生きられずに苦痛を覚えることもある。視聴者の中にはそういう経験をしてきた者もいるためか、配信のコメント欄が反論で燃え上がったとしても鎮火は早く、るりの怒りが必要以上に咎められることは存外少なかった。「るりの言い方は悪いけど、内容は一理あるよね」という方向にコメント欄の意見が収束していくのだ。


 扱い難い印象の西園寺るりだが、プライドの高さはポジティブに捉えると負けず嫌いとも言えるし、課題を明確にしながら配信を進めるクレバーな面もある。他人にばかり怒るわけではなく、その矛先が自分自身にも向くことがあるのがるりの特徴で、ある意味分け隔てなく、自他ともに厳しいのは美点とも言える。るりはただ悪口を言いたいだけの捻くれた性格ではなく、自分の意見を素直に表現する正直さを持っていた。それが例え世間に認められないようなことでも、自分の好ましいことはそう口にし、認められないことははっきりと拒絶する。動画配信者にとって視聴者は客も同然のはずだが、彼女はその客に媚びることなく、「気に入らないなら帰っていただいて結構!」という姿勢を崩さなかったし、一見さんお断りの雰囲気を作ってしまう視聴者同士の馴れ合いや暴言、一人語りなどの勝手を許さなかった。

 本音を隠して社会人や学生として生きる市井の視聴者にとって、屈託ない意見を述べてくれる彼女の言葉は救いだった。日々意見を抑え込みながら暮らしている自分たちの本音を、彼女が代弁してくれているような気がした。彼女の自由奔放な姿は、自分に正直に生きても良いのだと信じさせてくれるような力強さを持っていた。
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