感じさせて……。

紫倉 紫

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ゆめ5

二十

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「まず、俺の頬を両手で挟む」
 こんなことでいいのかと思った。奥村さんの痩せた頬に触れる。
「次は、瞼に口づける」
 腰を下ろしたままでは届かない。
「教授と俺とでは随分身長に差があるからな。少し腰を上げれば届くだろ?」
 届く位置まで、腰を上げた。奥村さんに余計に近くなって胸を押し付けてしまった。
「目を閉じてください」
「ああ、そうだな」
 目を閉じた奥村さんの顔が目の前にある。急に、緊張してきた。
 瞼にキスをするだけなのに……。
 とにかく軽く、瞼に唇で触れた。
「次は鼻の頭」
 こうしてみると、鼻筋が通っている。奥村さんは怖い印象が強すぎて気づかなかったが、意外に整った顔をしている。
 一度深く息を吸って、止めた。鼻先に口づける。
「右頬から、耳たぶ」
 単に、軽く唇を押し付けていくだけなのに、ますます緊張してしまう。
「耳元で名前を囁く」
「奥村さん……」
「こういう時は、下の名前だろう」
 下の、名前……
「まさか、知らないとか?」
 奥村さんが不機嫌な声を出した。
「知ってますけど……」
 なぜだか、恥ずかしすぎて言葉にできない。
 ついため息が溢れる。
 奥村さんがいきなり頭を遠ざけた。
「こら、耳に息を吹きかけるとは書いてない」
 ため息をついただけで怒られるんだから、たまらない。
「お前さっきから息が荒いな」
 奥村さんが私の首筋に指をあてた。脈を測られている。
「動悸も激しい。興奮してんのか?」
「緊張してるだけです」
 つい大きな声を、出してしまった。
 奥村さんに鼻で笑われた。息が首筋にかかる。一瞬、感じてしまった。
「このくらい省略しても構わないだろう。次は、バスタオルをとって胸を顔におしつける」
 そんなことは、したくない。
 今回、私が何かをさせられてばかりだ。
「目を、閉じておいてくださいよ」
「仕方のないやつだなあ」
 バスタオルを外す。丸めて奥村さんの横に置いた。
 ちゃんと目をつぶってくれている。
 ひとまず、奥村さんの頭を正面から抱きしめた。すぐに押しのけられた。
「殺す気か!」
 息ができなかったようだ。
「もう少し、こう、あれだ。男を誘うつもりで」
 そんなことを言われても、誘い方なんか知らない。
「胸は軽く押し付ける程度にして、腰をくねらせとけ」
 腰をくねらす?
「さっぱり、どうすればいいのかわかりません……」
「時間もないしな。お前は、俺の首の後ろに腕を回して、じっとしとけばいい」
 言われた通りにする。
 奥村さんが、私の背中を手のひらで撫で下ろした。腰を軽く押さえられただけで、力が入らなくなって、奥村さんにしがみつく。
 手は、そのまま、お尻から太ももの裏側までおりて行った。
 付け根を揉まれているだけなのに、足の間がヒリヒリと熱くなり始めた。
「これだけ濡れていれば、大丈夫だろう」
 何がどう、大丈夫なのか……
「次は『あなた、抱いてください』だ」
「言えって意味ですか?」
「ほかにどんな解釈ができる?」
 何も思いつかない。
「あなた……だ…ぃ……」
「聞こえない」
 触られたりするよりも、言葉にする方が、かえって難しい。言うまで許してもらえそうにない。
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