感じさせて……。

紫倉 紫

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ゆめ5

十五

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「歯を当てるなよ」
 そんなのは、無理だ。見た目よりも、触った感じよりも、ずっと、大きい。
「お前、口ですんの初めてだよな?」
 当たり前だ。口も、顔さえも動かせないから、答えられない。
「やっぱり、おかしいよなあ……」
 何が?
「まず、お前が思うようにしてみてくれ」
 思うようになんてない。
 私は、歯だけでなく、出来るだけ、舌も何もかもが当たらないように、必死で口を開けていた。それでも、どうしても当たってしまう。
 唾液がたまっていくけれど、飲み込むこともできない。
「普通は、わからないよな……」
 奥村さんが、私の頭を撫でた。
「まずは、手でしたことを、口でやってみろ」
 上下に動かせというのか……
 たしかに、まだ、先の方しか口の中には入っていない。
 それでも、これ以上奥は、無理に思える。
「焦らせれるのは、性に合わない」
 こんなことまでさせられて、不機嫌にもなられて……
 仕方なく、少し頭を動かした。すぐに、喉の奥に、えずきそうな気配を感じる。
 これは、苦行だ。
「んっ」
 頭上から奥村さんの声が聞こえた。気をつけたつもりだけど、歯が当たったのかもしれない。慌てて、口を離した。
「ごめんなさい。痛かったですか?」
 様子を伺うために、顔を上げて目を開けた。
 目が合った途端に、そらされた。
「なんでもいいから、続けてくれ」
 続けろと、言われても、口を離してしまったから、元に戻れない。
 困って、奥村さんの顔をみていた。
「なんだ?」
 不機嫌な顔になった。
 私は、目を閉じて、さっきのあたりまで、顔を近づけた。鼻先に当たった。
 口を開ける。
 奥村さんが、私の頭を手で押さえた。
 また、口の中がいっぱいになった。
 この行為に、意味はあるのだろうか。少なくとも私には、なんのメリットも感じられない。相手に、愛情を持っていれば違ってくるのだろうか……。
 相手が教授なら?
 教授が結婚した時はショックだった。
 早く、別れないかなと思っていた。
 一番近い存在に、なりたいとも思っていた。
 だけど、こういうことをしたいと、具体的に考えたことはなかった。
 教授は、大学から帰った後、家で、奥さんこんなことをさせて……
「もっと、奥までできないか?」
 奥村さんの言葉に驚いて、動きを止めた。
「根元まで」
 今、半分くらいのところで、苦しくなりかけているのに、不可能だ。
 くわえたまま、頭を横に振った。
 奥村さんがため息をついた。
「教授の奥さんは、やったみたいだぞ」
 引き合いに出されてもできないものはできない。
「どこが限界か……試そう」
 奥村さんが私の後頭部を手の平で押さえた。
 抵抗を試みたけれど、びくともしなかった。先が、上顎の壁をこすりながら奥へと徐々に進んでいく。
 私はただ、息を止めて、目をきつく閉じ、こみ上げる吐き気にたえた。
 とうとう嘔吐えずいた。奥村さんの太ももを軽く手の平で叩いて、やめて欲しいと訴える。
「ここが限界か……どちらにも個人差があるだろうしな」
 奥村さんが手を放してくれた。一旦外して、呼吸を整える。苦しすぎて、涙までにじんだ。
 
「初めてするんなら、こんなもんだよな。普通……」
 
 奥村さんは、私のあごを手の甲でなでた。
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