70 / 102
うつつ5
二十二
しおりを挟む
大皿にならべたクラッカーの穴をぼんやり眺めていた。
「ひかり、どうした?」
亮が、キッチンの入り口に立っている。
「飲み過ぎた? 顔色悪い」
ひかりは、大皿を手に持った。
「大丈夫、考えごとしてただけ」
教授が腕を掴んで来たとは、言い出せなかった。
ダイニングに戻ると、和明と教授は、何か話していた。
つい、和明の横顔をじっとみてしまう。
和明が、ひかりに顔を向け、微笑んだ。
「これからだよ」
何かされるのか……。
「桐野くんは、飲まないのに付き合わせて悪いがね。今夜は実に気分がいい」
いつのまにか、白ワインもあけていた。
「白も、一杯くらいは飲むといい」
和明に言われる。
そう強くはない。やめておいた方がいいかもしれない。
「実に、飲みやすいワインですよ」
教授にすすめられてしまった。
「少しだけ……」
亮が別のワイングラスを出して、注いでくれた。
ひかりの母親が、「和明さんはいずれ教授になるのだから」と用意してくれた食器の数々だったが、今までほんとんど使うことはなかった。
確かに飲みやすいワインだ。
ひかりは、意識して少しずつ飲んだ。
教授の話は、何も理解できないが、和明は、楽しそうにみえる。亮は遠慮をしているのか、話に入らない。それでも関心のあることらしく、時々、深く頷く。
和明にコーヒーを、頼まれ席を立った。亮もほしいと言っている。教授が「おかまいなく」と、右手をあげた。
「君たちが、コーヒーを飲んでいる間に、細君を借りるよ」
教授が和明に話しかけた。
さっき言っていた『お相手』かもしれない。
「彼女は、ご希望にはかなわないと思われますが……」
和明は、わかった上で、庇おうとしてくれているのだろう。
「やってみる前に決めつけるのは、実に良くない」
和明は、それ以上何も言わなかった。亮が、和明の方をみている。常識の範囲内ではあるはずだ。それでも、不安は拭えない。
ひとまず、コーヒーを入れにたつ。
また、教授が来そうで、背後が気になってしまう。
二人分の湯を沸かすのに時間はかからない。すぐに入れ終わり、ダイニングへ戻った。
三人が、リビングスペースに移っていた。ソファとテーブルが端の方に寄せられ、中央に引いてあったラグも剥がして丸めてある。
ひかりが立ち尽くしていると、和明が「ダイニングテーブルに置いてくれたらいいよ」と声をかけて来た。
ひとまず、コーヒーを置く。
教授はリビングスペースの中央に立ち、ひかりに手招きをした。
和明に視線を向けると、微笑みながら頷いた。
「奥さん、ハイヒールはお持ちかな?」
突然の質問に戸惑う。
「7センチほどが理想だが、それ以下でも構いませんよ」
滅多に履きはしないが、持っている。
教授は、和明に取ってくるように指示をした。
ソファにかけるよう、言われる。
和明が、白いハイヒールを持って戻って来た。結婚式で履いただけの靴だ。
教授は、ひかりの正面に跪き、足首を持った。軽く持ち上げられる。思わず、膝のあたりでスカートを押さえる。教授は、ひかりにハイヒールを履かそうとしている。
「厚手のタイツでは、サイズが合わないね。脱いでもらおう」
ひかりは、和明に助けを求めて視線を送った。
「少しきついだけで、はいるでしょう」
和明が一応は助け舟を出してくれた。
「ひかり、どうした?」
亮が、キッチンの入り口に立っている。
「飲み過ぎた? 顔色悪い」
ひかりは、大皿を手に持った。
「大丈夫、考えごとしてただけ」
教授が腕を掴んで来たとは、言い出せなかった。
ダイニングに戻ると、和明と教授は、何か話していた。
つい、和明の横顔をじっとみてしまう。
和明が、ひかりに顔を向け、微笑んだ。
「これからだよ」
何かされるのか……。
「桐野くんは、飲まないのに付き合わせて悪いがね。今夜は実に気分がいい」
いつのまにか、白ワインもあけていた。
「白も、一杯くらいは飲むといい」
和明に言われる。
そう強くはない。やめておいた方がいいかもしれない。
「実に、飲みやすいワインですよ」
教授にすすめられてしまった。
「少しだけ……」
亮が別のワイングラスを出して、注いでくれた。
ひかりの母親が、「和明さんはいずれ教授になるのだから」と用意してくれた食器の数々だったが、今までほんとんど使うことはなかった。
確かに飲みやすいワインだ。
ひかりは、意識して少しずつ飲んだ。
教授の話は、何も理解できないが、和明は、楽しそうにみえる。亮は遠慮をしているのか、話に入らない。それでも関心のあることらしく、時々、深く頷く。
和明にコーヒーを、頼まれ席を立った。亮もほしいと言っている。教授が「おかまいなく」と、右手をあげた。
「君たちが、コーヒーを飲んでいる間に、細君を借りるよ」
教授が和明に話しかけた。
さっき言っていた『お相手』かもしれない。
「彼女は、ご希望にはかなわないと思われますが……」
和明は、わかった上で、庇おうとしてくれているのだろう。
「やってみる前に決めつけるのは、実に良くない」
和明は、それ以上何も言わなかった。亮が、和明の方をみている。常識の範囲内ではあるはずだ。それでも、不安は拭えない。
ひとまず、コーヒーを入れにたつ。
また、教授が来そうで、背後が気になってしまう。
二人分の湯を沸かすのに時間はかからない。すぐに入れ終わり、ダイニングへ戻った。
三人が、リビングスペースに移っていた。ソファとテーブルが端の方に寄せられ、中央に引いてあったラグも剥がして丸めてある。
ひかりが立ち尽くしていると、和明が「ダイニングテーブルに置いてくれたらいいよ」と声をかけて来た。
ひとまず、コーヒーを置く。
教授はリビングスペースの中央に立ち、ひかりに手招きをした。
和明に視線を向けると、微笑みながら頷いた。
「奥さん、ハイヒールはお持ちかな?」
突然の質問に戸惑う。
「7センチほどが理想だが、それ以下でも構いませんよ」
滅多に履きはしないが、持っている。
教授は、和明に取ってくるように指示をした。
ソファにかけるよう、言われる。
和明が、白いハイヒールを持って戻って来た。結婚式で履いただけの靴だ。
教授は、ひかりの正面に跪き、足首を持った。軽く持ち上げられる。思わず、膝のあたりでスカートを押さえる。教授は、ひかりにハイヒールを履かそうとしている。
「厚手のタイツでは、サイズが合わないね。脱いでもらおう」
ひかりは、和明に助けを求めて視線を送った。
「少しきついだけで、はいるでしょう」
和明が一応は助け舟を出してくれた。
1
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる