感じさせて……。

紫倉 紫

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うつつ5

二十一

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  ビーフシチューをお皿につぎ、仕上げに生クリームで円を描いた。
 亮が二人分を運んでくれたので、残りを持った。
 スプーンやフォークは、すでにセッティングされていた。
「呼んでくるよ」
 亮が書斎へ入っていった。
 勢いよく、教授が出てきたので驚く。
「これは、実に美味しそうだ。私の席はどこかな?」
 和明が、いつもは誰も使わない椅子を引き出した。亮に、教授の隣に座るよう声をかけた。
 和明は、教授の正面に座る。席が遠いので少し安心した。
「ワインはいかがですか?」
 授に訊ねている。
「いただこうか」
 ひかりが立ち上がるまえに、亮が、動いていた。グラスを配ってくれる。和明は「僕はいい」と断った。タクシーで帰らすわけにはいかないのだろう。
 グラスを受け取る。
「君は控えめにした方がいい」
 耳打ちされた。
 亮は実に手際よく、ワインを開けた。
「喜多川君は、そういえば、ホテルでアルバイトをしていたね」
 和明に言われるまで、忘れていた。亮がまだ、和明の生徒だった頃の話だ。
 教授は、亮の選んだワインも、ひかりの作った料理も気に入ってくれたようだ。ひかりには全く理解できないことを饒舌に語った。
 亮の言うように、ひかりにはほとんど興味を示さない。和明が、言っていたことの意味はまだわからなかった。
 ひかりは一度食器をさげ、チーズやクラッカーを用意するためにキッチンへ立った。
「奥さん」
 後ろから声をかけられた。教授の声だった。振り返ると、すぐそばまで来ていた。
「水をいただきたい」
「はい、いますぐに」
 食器棚からグラスを取り出そうとしたとき、教授がひかりの手首を掴んだ。袖口から少し手を差し入れ、もむようにして腕に触る。
 食器棚と、シンクとの間はそう広くない。入り口の方へ目をむけたけれど、誰もいなかった。
 怖くて、声も出ない。
「体脂肪は、20%を切るくらいかな?」
 うつむいて、「わかりません」と返すのが精一杯だった。
「体重は、40キロ台半ばくらいだね」
 教授は、ひかりの体の向きをかえさせた。真正面に立ち、距離を詰めてきた。
「身長差は、まずまず……後で、お相手願おうか」
 一体、何を考えているのか全く予想もできない。
 教授は、ひかりへの興味を失ったのか、自分でグラスを取り出し、水を注いで、振り返りもせずキッチンから出て行った。
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