感じさせて……。

紫倉 紫

文字の大きさ
上 下
60 / 102
うつつ5

十二

しおりを挟む
和明が帰ってきたので、まずは昼食をとった。
 二人の食事はいつも静かだ。夫婦として過ごしてきた七年間でそうなったわけではなく、最初のうちからかわらない。
 ひかりは、この雰囲気が結構好きだった。
 食事が終われば、和明は書斎にこもるかもしれない。
 できるだけ、ゆっくりと食べるのがくせになっている。
「少し、昨日の話をきかせて」
 食べ終わった後、言われた。軽く片付けをし、コーヒーをいれた。
 和明はソファで待っていた。
 ソファの前のローテーブルに、コーヒーカップを並べる。京都へ来たばかりの頃購入した清水焼だった。濃褐色の液体がわずかに揺れている。
 昨日の話とは、亮といた間のことだろう。
 和明の隣に、少しだけ距離をとって腰掛けた。
 特別なことでもないのに、緊張していた。
 和明が、ひかりにぴったりと体を寄せて座り直した。
「喜多川君が、こちらへ着いてからのことを、順に話して」
 腕を、腰に回された。指先が骨盤の端にかかるようにして落ち着いた。
 思わず肩をすくめ、目を閉じる。
「喜多川君は、昼過ぎに着いたよね。それから?」
 和明が行くようにすすめたはずなのに、どうして訊いてくるのだろう。
「車で、大阪へ向かいました」 
「昼食は?」
「高速道路の途中で、サービスエリアに寄って軽く済ませました」
 夫の手が、セーターの中に入ってきた。鳩尾のあたりでとどまる。
「後は?」
 水族館へ行った。やましいことは何もないのに、言いよどんでしまう。
「どうした?」
 責められている気がしてきた。
「喜多川君から水族館に行ったときいているよ。どうして隠そうとしたのかな?」
「隠そうとは……」
 セータの中で、和明の手が動く。ブラを上にずらして、指で弄び始めた。
「楽しかったかい?」
 ひかりはどうにか頷いた。
「だけど……」
 和明の指がどう動いてるのかわからない。声が出るほどではないけれど、会話に集中できない。
「だけど?」
 ひかりは一度深く息を吐いた。
「疲れてしまって」
 和明が一度強く摘まんだ。
「そんなことじゃこれから体がもたないよ」
 一人、一緒に生活する相手が増えるだけで、そうかわるとは思えなかった。亮は自立しているだけでなく手伝ってくれる。
 和明はひかりから手を離すと、テーブルを押しのけた。
 コーヒーカップが軽く音を立てた。ソーサーに少し零れている。
 和明はソファーからおりて、ひかりの前に跪いた。
「セーターをまくり上げるんだ」
 和明はひかりを見上げながら言った。眼鏡の奥の目が冷たい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

10 sweet wedding

国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...