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うつつ5
九
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亮が立ち上がって、こちらへ来た。
「ありがとうございます」
「いや、出張じゃなかったら、もっとちゃんとした歓迎会をしたかったんだが、せめてと思ってね。店主に地酒もすすめられて……」
「お気遣いいただいて」
和明が、カーディガンを取りに行っている間に、ひかりは準備をすすめる。夫婦には晩酌をする習慣はないので、徳利などはなかった。食器棚の前で考えていると亮が来た。事情を話すと「湯飲みでいいんじゃない」と言われた。亮がいれば、こういう機会も増えそうなので、一通りそろえておく必要を感じた。
ソファは三人で座ると窮屈そうな上に、前のテーブルは低くなっている。食卓に並べる。まだ、食卓の定位置も決まっていないことに気づく。和明と二人なら向かい合えばいい。亮はどちかの隣に、もしくは、ひかりが和明の隣にかわって、どちらかと向かい合ってもらうことになる。前回は、和明の隣に亮が座った。それでいいのだろうか。ひとまず同じようにして並べる。
和明が出てきた。
「先生、熱燗にしますか?」
「いいね」
「ひかりは?」
それほど飲むつもりもなく断った。それより、やり方を知らないので、困ってしまう。亮がどうにかしてくれるようだ。瓶と湯飲みを持って、キッチンへ入っていった。
和明がひかりの前に立った。カーディガンを受け取る気で待つ。
ただ、見つめられていた。目をそらすわけにもいかず、和明の顔を見ていた。
和明は微笑んで、私の胸の膨らみの先を軽く指先ではじいた。
わかるほど、表にひびいていると思っていなかった。亮は気づいていたんだろうか。両腕で胸元を隠す。顔が熱くなった。
和明が、ひかりの肩にカーディガンをかけた。慌てて腕を通す。
ひかりがいつも座る場所の椅子をひいて、座るように促している。着けにいくのは許されないらしい。
座ろうとしているときに、亮から呼ばれた。
「トレーはある?」
「トレーならシンクの」
場所を説明しようしていると和明から「取ってあげたら?」と言われた。
仕方なくキッチンへ向かう。カーディガン一枚羽織っただけでわからなくなるのか不安だ。襟の下辺りを、手で掴んで少し浮かせておく。
「湯のみを熱くしたからさ」
トレーを亮に渡した。
「ありがとう」
こんなことくらいで、お礼を言われると思っていなかった。
食卓へ戻ると、和明が、亮の席をひかりの正面で用意していた。
「君は、食べきれないだろうから、少しもらおうと思って」
さっき、座るように促された席の隣に座っている。
亮は特に気にしていないようで、運んできた熱燗をそれぞれの前に置いた。
「お醤油の小皿を取ってきます」
ひかりは、一人キッチンへ戻った。胸元が目立っていないかみてみる。カーディガンがあればわからない気がした。
小皿と和明の分の箸を持って戻る。
二人は、ひかりにはよくわからない話をしていた。今日の出張先での講演内容らしい。
席に着いた。
亮はおなかが空いていたのか、小皿に醤油をあけるとすぐに手を合わせて食べ始めた。
「ありがとうございます」
「いや、出張じゃなかったら、もっとちゃんとした歓迎会をしたかったんだが、せめてと思ってね。店主に地酒もすすめられて……」
「お気遣いいただいて」
和明が、カーディガンを取りに行っている間に、ひかりは準備をすすめる。夫婦には晩酌をする習慣はないので、徳利などはなかった。食器棚の前で考えていると亮が来た。事情を話すと「湯飲みでいいんじゃない」と言われた。亮がいれば、こういう機会も増えそうなので、一通りそろえておく必要を感じた。
ソファは三人で座ると窮屈そうな上に、前のテーブルは低くなっている。食卓に並べる。まだ、食卓の定位置も決まっていないことに気づく。和明と二人なら向かい合えばいい。亮はどちかの隣に、もしくは、ひかりが和明の隣にかわって、どちらかと向かい合ってもらうことになる。前回は、和明の隣に亮が座った。それでいいのだろうか。ひとまず同じようにして並べる。
和明が出てきた。
「先生、熱燗にしますか?」
「いいね」
「ひかりは?」
それほど飲むつもりもなく断った。それより、やり方を知らないので、困ってしまう。亮がどうにかしてくれるようだ。瓶と湯飲みを持って、キッチンへ入っていった。
和明がひかりの前に立った。カーディガンを受け取る気で待つ。
ただ、見つめられていた。目をそらすわけにもいかず、和明の顔を見ていた。
和明は微笑んで、私の胸の膨らみの先を軽く指先ではじいた。
わかるほど、表にひびいていると思っていなかった。亮は気づいていたんだろうか。両腕で胸元を隠す。顔が熱くなった。
和明が、ひかりの肩にカーディガンをかけた。慌てて腕を通す。
ひかりがいつも座る場所の椅子をひいて、座るように促している。着けにいくのは許されないらしい。
座ろうとしているときに、亮から呼ばれた。
「トレーはある?」
「トレーならシンクの」
場所を説明しようしていると和明から「取ってあげたら?」と言われた。
仕方なくキッチンへ向かう。カーディガン一枚羽織っただけでわからなくなるのか不安だ。襟の下辺りを、手で掴んで少し浮かせておく。
「湯のみを熱くしたからさ」
トレーを亮に渡した。
「ありがとう」
こんなことくらいで、お礼を言われると思っていなかった。
食卓へ戻ると、和明が、亮の席をひかりの正面で用意していた。
「君は、食べきれないだろうから、少しもらおうと思って」
さっき、座るように促された席の隣に座っている。
亮は特に気にしていないようで、運んできた熱燗をそれぞれの前に置いた。
「お醤油の小皿を取ってきます」
ひかりは、一人キッチンへ戻った。胸元が目立っていないかみてみる。カーディガンがあればわからない気がした。
小皿と和明の分の箸を持って戻る。
二人は、ひかりにはよくわからない話をしていた。今日の出張先での講演内容らしい。
席に着いた。
亮はおなかが空いていたのか、小皿に醤油をあけるとすぐに手を合わせて食べ始めた。
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