感じさせて……。

紫倉 紫

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うつつ5

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  バスルームの脱衣スペースに入って、やはりおかしいと思った。
 亮にかぎって、大丈夫だとは思う。そうは言っても、ひかりと亮は兄妹ではない。赤の他人の男女なのだ。和明の留守中に同じ家にいて、こんな頼りないドアに隔てられただけの場所で、衣服を脱ぐ。ひかりが意識しすぎているのだろうか。
 実際に生活していくうちに、いくらでも困惑する場面に出会いそうだ。
 こんな事態を招き寄せているのは、和明だ。
 何か思惑があるのか。
 何も気にしていないだけなのか。
 どちらにしても、ひかりにはどうすることもできない。今は、湯船につかって、疲れを取ることにした。
 これから、本格的に三人での生活が始まる。亮も、四月からは大学へ出勤するようになる。二人を送り出し……。
 亮が、毎日何時頃に帰ってくるのかもわからない。
 お湯の温度がちょうど良い。このまま眠ってしまいそうだと思った。
 あがって、体を拭き、ナイトウェアを着てと、これからしなければいけないことを考える。まだ、このまま浸かっておきたい。
 つい、目を閉じてしまう。
 今日見た水族館の魚たちがひかりのまわりを泳いで通り過ぎていく。
 亮ときたつもりでいたのに、いつの間にか隣には和明がいた。
 頭上を泳ぐ大きなサメを見上げている。
 和明の頭の中で、魚はどんな変化をとげるのだろう。私にはわからないアルファベットと記号の羅列になるかもしれない。
 群れをなして泳ぐ魚たちが、次々と数字に変わっていく。
 二人の周りを螺旋を描きながら泳ぐ。
 ひかりは、和明と同じものを見ていることが嬉しくて、話しかけようとした。
  扉の開く音で目を覚ます。湯船につかったまま眠っていたようだ。
 ひかりは扉をみた。実際は開いていない。叩かれているだけだ。磨りガラス加工の扉の向こうに人影が見える。
「ひかり、大丈夫か?」
 亮の声だった。
「少し、眠ってしまっただけだから、もうあがるわ」
 そんなに長かっただろうか。お湯は冷めていない。給湯器のリモコンに目をやる。もうすぐ23時だった。現在時刻がわかっても、入った時間を知らなかった。
「先生から、念のため様子をみるように言われて」
「帰ってきたの?」
 亮に頼む意味がかわからないと思ったが、亮の話では、京都駅に着いたと連絡をもらったらしい。
「タクシーを拾うと言ってた」
 30分ほどで帰ってくる。
 亮が、出て行った。
 さっき、夢の中とはいえ、幸せな気分を味っていた。もう少し、眠っていたかった。
 ひかりには、帰る時間の目安を連絡してくれたことはない。
 自分の中で渦巻くわだかまりのような感情の正体が、嫉妬だと気づいた。
 亮に、嫉妬をするのはおかしい。
 疲れているせいかもしれない。もう少しで和明も帰宅する。出迎えたら先に寝かせてもらおうと思った。
 バスルームから出て、最初に自分の下着が目に入った。
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