感じさせて……。

紫倉 紫

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うつつ3

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 ひかりは亮の前に、コーヒーを置いた。
「へえ、新鮮なコーヒーにこだわってるんだ」
 ひかりはいきなり言われて驚いた。
「なかなか酸化前のコーヒー豆を扱ってる店はないからな」
 香りで気づいたんだろうか。和明は、コーヒー豆をかえたことにも気づかなかった。ただ、美味しいとは思ってくれているようで、ステンレスボトルに数杯分のコーヒーを持って大学へでかける。
 亮と向かいあってコーヒーを飲むのは初めてかもしれないと、ひかりは思った。亮が家に来ていた頃はまだ学生で、麦茶やジュースを出していたはずだ。
「久しぶりすぎて、何を話したらいいかわかんないな」
 亮が、笑った。そして、すぐに真顔になった。
「先生に今日、いつ越してこらるか訊かれた」
 和明は何を思ってそんな質問をしたのだろう。
「軽く、荷物もないから明日にでもって返したら、じゃあそうしてって言われた」
 ひかりは、驚きすぎてコーヒーカップを落としそうになった。
「さすがに、断った。少しは準備がしたいって」
 ほっとする。それにしても、なぜそこまで亮を家に呼びたいのか、わからない。
「遅くとも、来週末には越してきてほしいって頼まれて、できるだけ期待にそえるように努力すると伝えておいた」
 十日もしたら、越してくるということだ。
「先生は、何を考えてるんだ?」
 ひかりはわからないと返した。亮も戸惑っているようだ。
「亮から、一緒に暮らすのを断ってくれないかしら?」
 ひかりは切り出す。
「ひかりは嫌なんだ。俺と暮らすの」
 亮から見つめられる。ひかりは嫌であるという以前の問題だと思っていた。
「あの人の意図は全くわからないが、俺はこの話にのるよ」
 亮から真剣な目をされて、ひかりは思わず目をそらした。
「講師での採用だから、そんなに給料も高くないからな。そういや、家賃なんかは、ひかりと相談するように先生に言われた」
 大学のお給料についてはよく知らない。
 和明もひかりも、贅沢をしない。生活に困ったことはないが、年収が高いとは言えない気がする。この家は、和明が父親から相続したお金を使って買った。
「和明さんは、もらわなくて良いって言っていたし、私も別にいいわ」
「それは、いくらなんでもダメだろ」
「だけど、よくわからないし」
 亮が、このあたりのアパートの相場を調べると言った。
 もともと、ひかりも、お金を取ろうと思っていたわけではない。同居自体をいいのか聞きたかっただけだ。
「和明さんには、もらわないことにしたって言っておく」
 ひかりは話を終わらせた。
「わかった。体で払うことにする」
 ひかりはとっさにどう返せばいいのかわからなかった。
「風呂そうじと……ほかに何がある?」
 労働で返すという意味らしい。ただ、手伝ってもらうほどの家事はない。
「和明さんが、亮と話したいって言ってたし、そうしてあげて、私とは話題がほとんど合わないから」
 ひかりは気づいてしまった。
 亮がこの家に来たら、もっと、和明と話す機会が減ってしまう。
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