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ゆめ2
四
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奥村さんが腕組みをしてため息をついた。
「そもそもだ。最初になんの確認もなく、話にのったお前が悪い。俺は、別に、お前でなくてもほかの女でも、教授に頼まれた通り記録していけばすんだんだ。教授は恋人の地位と引き換えにお前が承諾したと言ったが、あのドイツに派遣されるやつがお前の男か?」 わたしは頭を横に振った。
「だろうな……ことの経緯から導き出されるのは」
眼鏡の奥で、目が鋭くなった。
「お前、教授に惚れてるだろう」
息をのんだ。どう返せば誤魔化せる? 奥村さんは厳しい表情のまま続けた。
「もう一度言うが、俺は教授に言われたことをするだけだ。俺を恨むな。そして、今から断るというのはなしだ。もう、お前だけの問題ではない。俺の将来にまで関わるからな」
奥村さんの指導力不足ととられるのかもしれない。それでも一緒に暮らすなんて嫌だ。
「お前は何度か断る機会を与えられていた。自分で選択して今ここに来てるんだ。酷ではあるが、同情はしない」
冷たい声に、身震いした。
「指導内容についてだが、今夜から俺とお前は、見合いで結婚した夫婦という設定で、夜を過ごす。教授から渡された工程表によると、実技講習の最初の単元は新婚初夜だ」
首をかしげた。あたりを「?」が飛び交っている。
「俺は教授から、夫婦の夜の営みの全記録を預かった」
余計に混乱する。教授はなんのためにそんなデータを取ったのだろう。おまけに、奥村さんに渡して、恥ずかしくはないのだろうか。
「お前に、経験がないことを報告したら、教授は、喜んでいた」
奥村さんには、すぐにわかってしまったらしい。三十も間近に迫っているのに、処女なのがばれてしまった。とんでもなく恥ずかしい。わたしは、顔を両手で隠した。
「俺は、ここに書き込んであるとおりに、お前と……悪いがはっきりと言う。どう言い回しをかえても、お前が救われることはないからな。とにかくだ。教授と奥さんが、これまでしてきたセックスを、再現していく。当初はそんな予定はなかったが、奥さんは教授が初めてだったらしく……より、正確な成果を期待できるかもしれないと準備工程を思いついてな」
再現するということは、わたしが奥村さんに初めてをささげるという意味だろうか。
眩暈がした。
「一度承諾してしまったのだから、撤回は許されない」
悪夢だ。ここまでのことを要求されるとは思いつかなかった。
「とにかく、シャワーを浴びてこい。安心しろ。初日に、挿入はなかった」
初日になくてもいつかはあるはずだ。
「大丈夫だ。ここに書いてある以上のことはしない」
何も慰めにならない。
「明日早いから、とにかく済まそう。初日は25分と記録してある。すぐに終わる」
教授は、所要時間までつけていたらしい。そんなことをする人がいるなんて、信じられない。
「率直に言って、お前の年齢でもう守るもんでもない。重い」
そうだとしても、好きでもない相手とすることじゃない。
「もういい。教授には明日話しておく。俺は医学部に戻るだけだ。いい大人なんだから、一人で帰れるよな」
奥村さんが眉間にしわをよせて、顔をそむけた。逃げ場がないのはわかっている。
「すみませんでした」
奥村さんと違い、わたしは、教授に雇われて研究チームにいるのだ。教授に「使えない」と思われたくない。それに教授がそのうち世界に広めていく新技術確立のための研究に携わり続けたい。
「そもそもだ。最初になんの確認もなく、話にのったお前が悪い。俺は、別に、お前でなくてもほかの女でも、教授に頼まれた通り記録していけばすんだんだ。教授は恋人の地位と引き換えにお前が承諾したと言ったが、あのドイツに派遣されるやつがお前の男か?」 わたしは頭を横に振った。
「だろうな……ことの経緯から導き出されるのは」
眼鏡の奥で、目が鋭くなった。
「お前、教授に惚れてるだろう」
息をのんだ。どう返せば誤魔化せる? 奥村さんは厳しい表情のまま続けた。
「もう一度言うが、俺は教授に言われたことをするだけだ。俺を恨むな。そして、今から断るというのはなしだ。もう、お前だけの問題ではない。俺の将来にまで関わるからな」
奥村さんの指導力不足ととられるのかもしれない。それでも一緒に暮らすなんて嫌だ。
「お前は何度か断る機会を与えられていた。自分で選択して今ここに来てるんだ。酷ではあるが、同情はしない」
冷たい声に、身震いした。
「指導内容についてだが、今夜から俺とお前は、見合いで結婚した夫婦という設定で、夜を過ごす。教授から渡された工程表によると、実技講習の最初の単元は新婚初夜だ」
首をかしげた。あたりを「?」が飛び交っている。
「俺は教授から、夫婦の夜の営みの全記録を預かった」
余計に混乱する。教授はなんのためにそんなデータを取ったのだろう。おまけに、奥村さんに渡して、恥ずかしくはないのだろうか。
「お前に、経験がないことを報告したら、教授は、喜んでいた」
奥村さんには、すぐにわかってしまったらしい。三十も間近に迫っているのに、処女なのがばれてしまった。とんでもなく恥ずかしい。わたしは、顔を両手で隠した。
「俺は、ここに書き込んであるとおりに、お前と……悪いがはっきりと言う。どう言い回しをかえても、お前が救われることはないからな。とにかくだ。教授と奥さんが、これまでしてきたセックスを、再現していく。当初はそんな予定はなかったが、奥さんは教授が初めてだったらしく……より、正確な成果を期待できるかもしれないと準備工程を思いついてな」
再現するということは、わたしが奥村さんに初めてをささげるという意味だろうか。
眩暈がした。
「一度承諾してしまったのだから、撤回は許されない」
悪夢だ。ここまでのことを要求されるとは思いつかなかった。
「とにかく、シャワーを浴びてこい。安心しろ。初日に、挿入はなかった」
初日になくてもいつかはあるはずだ。
「大丈夫だ。ここに書いてある以上のことはしない」
何も慰めにならない。
「明日早いから、とにかく済まそう。初日は25分と記録してある。すぐに終わる」
教授は、所要時間までつけていたらしい。そんなことをする人がいるなんて、信じられない。
「率直に言って、お前の年齢でもう守るもんでもない。重い」
そうだとしても、好きでもない相手とすることじゃない。
「もういい。教授には明日話しておく。俺は医学部に戻るだけだ。いい大人なんだから、一人で帰れるよな」
奥村さんが眉間にしわをよせて、顔をそむけた。逃げ場がないのはわかっている。
「すみませんでした」
奥村さんと違い、わたしは、教授に雇われて研究チームにいるのだ。教授に「使えない」と思われたくない。それに教授がそのうち世界に広めていく新技術確立のための研究に携わり続けたい。
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