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うつつ2
三
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「僕よりは早く帰れると思うしね」
いくら幼なじみでも一応は歳の近い男女だ。
「あなたは、それでいいんですか?」
思わず聞いてしまった。
「それでとは?」
「いえ、何でもありません」
ひかりは、和明に表情をうかがわれていることに耐えられず、下を向いた。
「ああ、家賃や食費かあ……僕は、構わないと思っていたけど、家計を守っているのは君だしね。悪いがその辺りは二人の間で取り決めてもらえるかな」
和明の用事はすんだらしく、それ以上は何も話さなくなった。
和明が、亮をこの家に住まわす理由についてあれこれ思案したが、研究のためではないかという結論にいたった。でなければ、意味がわからない。
和明は浮世離れしているが、一応は、ひかりと男女の関係になれたのだ。まさか、世の男性が等しく自分のように淡白であると思い込んではいないだろう。亮とは、幼馴染でしかない。しかし、幼い頃ならまだしも、大人になってからは一つ屋根の下で寝泊まりしたことはない。
男性の衝動が、女性の比ではないことは、知識としてある。何も起きないとは言いきれない。
和明は食事を終えたあと、書斎にこもった。
翌日、和明はいつも通り大学へでかけた。ひかりは家事を終え、WEB小説を読み進むことにした。集中力にかけ、頭に入ってこない。
先がわかりやすい展開でも、一応は気になる。しかし、主人公の女性研究員がバカにしか思えない。
研究のしすぎで、ああいう人たちは感覚がおかしくなっているのだろうか。
和明も似たようなものだ。意外にそれがリアルなのかもしれない。
やはり、部屋を貸すのをないことにしてほしい。今夜にでも和明に頼んでみることにした。理由を問われたらなんと返そう。一緒に暮らすのはおかしいと、思ったままを伝えてもいいだろうか。
名案は思いつかないまま、夕方になった。珍しく和明から電話が入った。何事かと思いながら出る。
――喜多川君が来てるんだ。僕はまだ帰れないから迎えに来てやってくれないか。
昨日の今日でなぜ京都にいるのか。
「家に呼ぶんですか?」
――早くなれてもらった方がいいだろう?
良いわけがない。
「突然すぎます。寝具も用意できてません」
――寝具は僕のを使ってもらえばいい。彼の話がもっと聞きたいんだ。
何を言っても変更は無理だと諦めた。
「食事は家でとりますか?」
和明はできるだけ早く切り上げて帰ると言った。
亮と会うこと自体が久しぶりで、いきなり、家に泊めることになるとは思わなかった。
途端に、苦痛になってくる。
ひかりは引きこもりがちなせいで、変化に対する耐性が弱くなっている。
大学に着いたら電話をいれるように言われた。
服を、着替えなければならない。和明の上司や同僚に会うかもしれない。気合が入っていると思われない程度に、きちんとした服装を選ぼうと決めた。クローゼットをあけて、中をみた。これだと思える服がない。
家からは五分ほどしか離れていない。あまり待たせると、変に思われる。
ひかりは大人しめのワンピースに着替えた。どうせロングコートに隠れると気づいた。
正門前につき、電話をかけた。
いくら幼なじみでも一応は歳の近い男女だ。
「あなたは、それでいいんですか?」
思わず聞いてしまった。
「それでとは?」
「いえ、何でもありません」
ひかりは、和明に表情をうかがわれていることに耐えられず、下を向いた。
「ああ、家賃や食費かあ……僕は、構わないと思っていたけど、家計を守っているのは君だしね。悪いがその辺りは二人の間で取り決めてもらえるかな」
和明の用事はすんだらしく、それ以上は何も話さなくなった。
和明が、亮をこの家に住まわす理由についてあれこれ思案したが、研究のためではないかという結論にいたった。でなければ、意味がわからない。
和明は浮世離れしているが、一応は、ひかりと男女の関係になれたのだ。まさか、世の男性が等しく自分のように淡白であると思い込んではいないだろう。亮とは、幼馴染でしかない。しかし、幼い頃ならまだしも、大人になってからは一つ屋根の下で寝泊まりしたことはない。
男性の衝動が、女性の比ではないことは、知識としてある。何も起きないとは言いきれない。
和明は食事を終えたあと、書斎にこもった。
翌日、和明はいつも通り大学へでかけた。ひかりは家事を終え、WEB小説を読み進むことにした。集中力にかけ、頭に入ってこない。
先がわかりやすい展開でも、一応は気になる。しかし、主人公の女性研究員がバカにしか思えない。
研究のしすぎで、ああいう人たちは感覚がおかしくなっているのだろうか。
和明も似たようなものだ。意外にそれがリアルなのかもしれない。
やはり、部屋を貸すのをないことにしてほしい。今夜にでも和明に頼んでみることにした。理由を問われたらなんと返そう。一緒に暮らすのはおかしいと、思ったままを伝えてもいいだろうか。
名案は思いつかないまま、夕方になった。珍しく和明から電話が入った。何事かと思いながら出る。
――喜多川君が来てるんだ。僕はまだ帰れないから迎えに来てやってくれないか。
昨日の今日でなぜ京都にいるのか。
「家に呼ぶんですか?」
――早くなれてもらった方がいいだろう?
良いわけがない。
「突然すぎます。寝具も用意できてません」
――寝具は僕のを使ってもらえばいい。彼の話がもっと聞きたいんだ。
何を言っても変更は無理だと諦めた。
「食事は家でとりますか?」
和明はできるだけ早く切り上げて帰ると言った。
亮と会うこと自体が久しぶりで、いきなり、家に泊めることになるとは思わなかった。
途端に、苦痛になってくる。
ひかりは引きこもりがちなせいで、変化に対する耐性が弱くなっている。
大学に着いたら電話をいれるように言われた。
服を、着替えなければならない。和明の上司や同僚に会うかもしれない。気合が入っていると思われない程度に、きちんとした服装を選ぼうと決めた。クローゼットをあけて、中をみた。これだと思える服がない。
家からは五分ほどしか離れていない。あまり待たせると、変に思われる。
ひかりは大人しめのワンピースに着替えた。どうせロングコートに隠れると気づいた。
正門前につき、電話をかけた。
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