5 / 102
ゆめ1
二
しおりを挟む
数日後、また先生に呼び出された。
「ああ、まず、誓約書にサインをしてもらおう」
先生から、クリップボードとペンを渡される。
一切の他言は許されないなど、印字されていた。
「期間は、内藤君がこちらに戻るまででよいかな? 君もいない間寂しいだろうし、ちょうどよいと思うがどうだろう」
「一年ほどですか」
先生が頷いた。
「長くても三年だろう」
承諾した。その間で先生に振り向いてもらえるかもしれない。
「誓約書の内容を破った場合、君と内藤君の、研究者としての道は断たれる。わかってるね」
内藤さんがどうなろうと知らないが、わたしは研究を続けたい。先生の側で。先生は誓約書をしまうといって、わたしから見えない場所へいった。
鍵をあけたのが音でわかった。金属のすれる耳障りな音が聞こえる。
先生はすぐに戻ってきた。
「まだ、奥村君が来ていない」
何が始まるか全然わからない。
奥村さんとは、研究所内でわたしが一番苦手な奥村さんだろうか。
滅多に会わないが、会う度にわたしを睨む。
背が高くてやせてて、眼鏡をかけてて、病人みたいに色が白い。
「奥村君には記録係を頼んである。まず、彼の検査を受けてもらうよ」
――検査って……一体どんな?
不安が増す。
ノックがきこえた。奥村さんが来てしまったらしい。
「お待たせしました」
低い声を聞いて、気分まで暗くなる。
先生は「早速始めてください」と、奥村さんに声をかけた。
「わかりました」
教授に言われ、いつも先生が座っている場所より奥へすすんだ。
本棚で見えない位置に、シングルベッドがあった。てっきり、そこにも本棚が立っているのかと思っていた。
「仮眠につかっているんだが、実験にちょうど良かった」
ベッドに、あがるように言われた。奥村さんがベッドに近づいてくる。
「後で、奥村君から報告をお願いする」
教授は、奥村さんとわたしをその場に残して去って行った。
――そんな……。先生とたくさん過ごせると思って、引き受けたのに……。
奥村さんに名前を呼ばれた。顔をあげると、見下すような視線と目が合う。
「引き受けるとは思わなかった」
口の端を片方だけひねりあげて、奥村さんが笑う。
「まあ、あの人を待たすとやっかいだから、さっさと下着を脱いで」
ここで、下着を脱ぐなんて、できるわけがない。頭の中でぐるぐると疑問符が回る。
わたしは微塵も動けずいた。
奥村さんの舌打ちが聞こえた。
「お前、出世のために引き受けたんだろう。今さらもたもたすると機嫌を損ねるぞ」
わたしは頭を横にふった。
「先生のお役にたちたかっただけで……」
本当は近づきたかっただけ。
「まさか、内容を知らないのか?」
ほとんど知らないから、頷いた。
奥村さんは、ため息をついた後、しばらく黙っていた。
「内容を知らない方が、純粋な結果が得られるかもな」
鋭い目で見据えられる。
「研究者としての将来は何より大事だよな?」
何よりもと言われるとわからない。だけど、先生から嫌われるのは困る。
「ここでされることに、一切抵抗しないこと。俺からできるアドバイスはそれだけだ」
頷けない。
「まあいい。俺は俺の役目を果たす。さっさと脱げ」
「それはできません」
「そんなこともできないなら、実験からおりろ。俺から伝えとく」
それは困る。
「わかりました」
先生は一体、なんの実験をするつもり?
「向こうを向いてください」
奥村さんはだめだという。
「俺は記録係だ。計測器だと思うようにしろ」
そんな風に、思えるはずがない。
「ああ、まず、誓約書にサインをしてもらおう」
先生から、クリップボードとペンを渡される。
一切の他言は許されないなど、印字されていた。
「期間は、内藤君がこちらに戻るまででよいかな? 君もいない間寂しいだろうし、ちょうどよいと思うがどうだろう」
「一年ほどですか」
先生が頷いた。
「長くても三年だろう」
承諾した。その間で先生に振り向いてもらえるかもしれない。
「誓約書の内容を破った場合、君と内藤君の、研究者としての道は断たれる。わかってるね」
内藤さんがどうなろうと知らないが、わたしは研究を続けたい。先生の側で。先生は誓約書をしまうといって、わたしから見えない場所へいった。
鍵をあけたのが音でわかった。金属のすれる耳障りな音が聞こえる。
先生はすぐに戻ってきた。
「まだ、奥村君が来ていない」
何が始まるか全然わからない。
奥村さんとは、研究所内でわたしが一番苦手な奥村さんだろうか。
滅多に会わないが、会う度にわたしを睨む。
背が高くてやせてて、眼鏡をかけてて、病人みたいに色が白い。
「奥村君には記録係を頼んである。まず、彼の検査を受けてもらうよ」
――検査って……一体どんな?
不安が増す。
ノックがきこえた。奥村さんが来てしまったらしい。
「お待たせしました」
低い声を聞いて、気分まで暗くなる。
先生は「早速始めてください」と、奥村さんに声をかけた。
「わかりました」
教授に言われ、いつも先生が座っている場所より奥へすすんだ。
本棚で見えない位置に、シングルベッドがあった。てっきり、そこにも本棚が立っているのかと思っていた。
「仮眠につかっているんだが、実験にちょうど良かった」
ベッドに、あがるように言われた。奥村さんがベッドに近づいてくる。
「後で、奥村君から報告をお願いする」
教授は、奥村さんとわたしをその場に残して去って行った。
――そんな……。先生とたくさん過ごせると思って、引き受けたのに……。
奥村さんに名前を呼ばれた。顔をあげると、見下すような視線と目が合う。
「引き受けるとは思わなかった」
口の端を片方だけひねりあげて、奥村さんが笑う。
「まあ、あの人を待たすとやっかいだから、さっさと下着を脱いで」
ここで、下着を脱ぐなんて、できるわけがない。頭の中でぐるぐると疑問符が回る。
わたしは微塵も動けずいた。
奥村さんの舌打ちが聞こえた。
「お前、出世のために引き受けたんだろう。今さらもたもたすると機嫌を損ねるぞ」
わたしは頭を横にふった。
「先生のお役にたちたかっただけで……」
本当は近づきたかっただけ。
「まさか、内容を知らないのか?」
ほとんど知らないから、頷いた。
奥村さんは、ため息をついた後、しばらく黙っていた。
「内容を知らない方が、純粋な結果が得られるかもな」
鋭い目で見据えられる。
「研究者としての将来は何より大事だよな?」
何よりもと言われるとわからない。だけど、先生から嫌われるのは困る。
「ここでされることに、一切抵抗しないこと。俺からできるアドバイスはそれだけだ」
頷けない。
「まあいい。俺は俺の役目を果たす。さっさと脱げ」
「それはできません」
「そんなこともできないなら、実験からおりろ。俺から伝えとく」
それは困る。
「わかりました」
先生は一体、なんの実験をするつもり?
「向こうを向いてください」
奥村さんはだめだという。
「俺は記録係だ。計測器だと思うようにしろ」
そんな風に、思えるはずがない。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる