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第六章
第五十五話 カサンドラ
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「ああ…アアアアア…嬉シい…マタ会えタ…ふふ、フヒヒヒひ」
見るからにまともな状態ではないカサンドラは、首を左右に揺らしながらウォルフだけを見つめている。
ゾッと背筋が凍るような寒気がして、ウォルフは身震いしながら、彼女を睨み返した。
「ウォルフ様ァ…ウォルフぅ…どうして私を置いてイナくなッてしまったのでスか…?ワタシはこんなニも貴方を、ああああアイシテいるのにぃ…どウしてっ!どうしてだッッ!?」
「カサンドラ…」
ロードリックから聞いていたとはいえ、予想をはるかに上回る状態だ。
恐怖すら覚えた美しさは完全に消え去り、ただただ恐怖と狂気だけが、今の彼女を成り立たせている。
もはや説得どころか、会話すら成立しなさそうである。
追放されてから、彼女を恨む気持ちが無かったとは言わないが、ここまで壊れた姿を見るとやるせない思いが後を絶たない。
幼い頃から面倒を看てくれたこと、それ自体は感謝している相手だったのだから。
複雑な思いに気圧されているウォルフの前に、アイテールが立ち、カサンドラの視線を遮った。
そこでようやく、カサンドラはウォルフ以外の人間に気付いたらしい。
般若の如き形相で、アイテールを睨みつけた。
「おおおおお、お前はナンだ?じじじじゃ、邪魔をするなッ!わタしと彼の邪魔を…!!」
「ふん、いい具合に煮立っておるわ。貴様がカサンドラか。聞いておるぞ、貴様ずいぶんと我らのヌシ様にやりたい放題やってくれたそうではないか。…このイカレが、ただで済むと思うなよ?」
アイテールが啖呵を切ると、カサンドラは苛つき始め、血走った目で頭をバリバリと掻きむしっている。
ぐーっ!ぐーっ!と声にならない音を発しているのが余計に恐ろしい。
長い髪を伝って血が滴り落ちてくると、何かを思い出したのか、鎧の隙間から何かを取り出し、口に含んで嚙み砕いた。
「おい、カサンドラ…それは、なんだ?何をやってる?」
あまりの光景に思わずウォルフが声をかけると、何かを飲み込んだカサンドラは穏やかな表情に変わり、ウォルフに向かって明るい笑顔をみせた。
「こ、これはシャルロッテ様が私の為に用意して下さったお薬ですよ、ウォルフ様…これがあれば、私は穏やかで女らしい私になれるのです…ふふ、フヒヒ!」
シャルロッテが用意したというだけあって明らかにマズイ薬だ。…どうやらカサンドラは取り返しのつかない所まで来ているらしい。
ウォルフはその変化にたじろいで、一歩後ずさってしまった。すると、それを見たカサンドラはまたも苦悶の表情を浮かべ頭を抱えて苦しみ始めた。
「どうして!?どうして私から逃げようトする…!今まデの私ガ間違っていたカラ、女ラしい私に生まれ変わろうとしたノニっ!」
「愚かな…救いようのない女だ、反吐が出るわ」
アイテールがそう吐き捨てると、カサンドラは再びアイテールの方を睨んで、殺意に満ちた圧を放った。
アイテールは涼しい顔だが、ウォルフは過去を思い出すのか、わずかに指先が震え、恐怖の色が見える。
「ふん、ヌシ様はその様子じゃ使いものにならんな。おいダンテ、さっさとヌシ様を連れて先に行け!このイカレ女は儂が相手をしてやるわ。どの道、ただで済ませる気も無いからな」
「アイテール…かたじけない!」
アイテールの言葉を聞き、ダンテはあっという間にウォルフを抱えてカサンドラを抜き去った。
ウォルフですら、おい…と声を発する間もない、まさに電光石火の勢いだ。
「ま、待てェッ?!ウォルフぅっ!!」
薬と怒りによって平静を失っているカサンドラは、その動きにはついて行けず、走り去る二人の背中を遅れて追いかけようとした。そこへアイテールが割って入り、彼女の追走を防いだ。
「き、きさまぁ…邪魔を、するなァッッ!!1」
「言ったはずだぞ?ただでは済まさんと。貴様の為に、どれだけヌシ様が要らぬ苦労を背負う羽目になったか…絶対に許さぬわ!」
カサンドラに負けず劣らず、アイテールは怒りの気迫を叩きつける。
ウォルフは誰から見ても見目麗しく器量もいい、本来であれば、異性を恐れ怯えて涙を流す必要などない人間だったはずだ。
それをカサンドラが私欲の為に恐怖を植え付け、理不尽に彼を縛ろうとした。
アイテールは、それが何よりも許せなかった。
「ど、泥棒猫…っ!殺すッ!!」
「ふんっ!竜に向かって猫呼ばわりとは、しゃらくさい!そのそっ首、叩き落としてくれる!」
アイテールとカサンドラは、共に突風のような勢いで正面からぶつかり合う。
上段から振りかぶったカサンドラの一撃を、アイテールが魔力で強化した爪で受け止めると、間髪入れずに、その口から強烈な熱光線を放った。
その威力は、いくつもの城の壁を爆音をあげながら破壊して貫通し、雲へと届くほどだ。
以前、ナヴ・グロワに向けて放った時は、ウォルフが傍にいたので加減したが、今はそうではない。
アイテールは、本当にカサンドラを殺すつもりでいる。
「ほう、今のを避けるか。…イカレにしては、身のこなしがよいではないか」
自慢の一撃を躱されてもなお、アイテールは余裕の表情を崩さない。
いつまでも避けられるわけがない、そんな顔をしている。
一方、カサンドラはアイテールの熱光線を見て、不敵に、歪に笑った。
そして構えを解き、小さな声で何やら呪文のようなものを唱え始めている。
「…時の揺らぎよ、揺らげ、揺らげ…響け、響け、永劫の木霊…」
「ぬ?なんだ?」
「巡れ、時の自鳴琴よ!」
カサンドラは詠唱を終えると、だらりと腕を下げたまま、アイテールに向かって突進してきた。
アイテールはそれを迎え撃とうとしたが、カサンドラの唱えた呪文が気になって、咄嗟に身を躱した。
「なっ!?」
鋭い一撃が、アイテールの右肩を切り裂く。
身を躱そうとした瞬間だった為か、傷は浅く済み、そのままアイテールは距離を取って後方へ飛んだ。
「なんだ今のは?まだあのイカレがこちらへ届く前に攻撃されただと…?!」
「ククク…クヒヒヒ!!」
カサンドラはアイテールの立っていた場所に剣を振り、その場に立った。
そしてアイテールの動揺に気分を良くしたのか、カサンドラは不気味な笑い声で笑い続けている。
(ただ速い一撃というわけではないな…あの瞬間、奴は剣を振るってすらいなかった。あの呪文、何かの魔法か?)
そこまでは見抜けたものの、魔法の正体は解らない。
これが、カサンドラをヴァージリア王国屈指の騎士として押し上げた一因なのだろう。
カサンドラがまともな状態であれば、もしかすると、今の一撃で終わっていたかもしれない。
或いは畳み掛けるように追撃をして、勝利をもぎ取っていただろう。
だが、今の彼女はあまりにも正気ではなかった。
それでは、完璧に勝つ事など出来はしないのである。
「なるほど…この国随一の剣士というのは伊達ではなかったようだな。惜しいものだ…まっとうに生きていればヌシ様とて、悪く思わんかっただろうに」
アイテールの同情めいた言葉に、それまで笑うだけだったカサンドラが激昂し、再び向かってきた。
呪文の詠唱はないが、アイテールは様子を伺うべくその場を飛び退けた。
「ぐうっ!!バカな?!」
二撃、再び遠間で攻撃を喰らった。翼と腹に、深くはないが、斬撃が走っていた。
今のは呪文の詠唱すら無かったというのに、何故こうも易々と攻撃が当るのか、アイテールは考えながらさらに距離を取る。
(今のは詠唱が無かったにも関わらず攻撃を受けた。つまり、魔法の効果がまだ生きているということか)
幸い、まだ致命傷には程遠い。
アイテールは覚悟を決めて、カサンドラの攻撃、その謎を解く事を最優先と決めた。
何回、それを繰り返しただろう。
既にアイテールの身体は傷だらけになっており、息も荒く、段々と動きも鈍り始めていた。
勝利が近い事を確信してか、カサンドラは少しずつ、アイテールを甚振るような攻撃に切り替えている。
剣に着いた血を払い、ニヤニヤと笑みを浮かべて、何度目かの攻撃の為に飛び掛かってきた。
「くっ!?」
首の様に致命傷になる場所だけはどうにか防いでいるが、もはやアイテールの左腕は上がらず、翼もいくつも穴が開いてしまっている。
それでもカサンドラの攻撃を躱そうと距離を取り、またその一撃を喰らった時、アイテールはついに見た。
何もない場所、攻撃を躱そうと移動したアイテールのいた所で、カサンドラが剣を振るった瞬間、カサンドラの剣に、アイテールの血が付着したのを。
「なんだ?何故あそこで儂の血が…まさか」
何かを閃いたアイテールは、右腕でガードをするようにその場で構えた。
左腕は上がらないので、左半身はがら空きだ。
心臓を狙ってくれと言わんばかりのその態勢に、カサンドラは醜悪に顔を歪めて笑う。
そして…それを狙って、向かってきた。
「今までの攻防で間合いは掴めた。…ここだ!」
アイテールはそう叫んだ瞬間に、ミニドラゴンの姿へと変身した。
カサンドラは何が起こったのか解らずに、驚きの顔を見せつつ、それでも向かってくるのを止めずにいる。
「そうだろう。貴様は、攻撃を止められないはずだ。貴様の魔法は、ほんのわずかな時間だけ結果を先取りしている…故に、例え攻撃が失敗しようとも後の動きを変える事ができん。それが貴様の弱点よ!」
再び人間体へと変身し、アイテールは向かってきたカサンドラの胸に爪を突き立てた。
魔力がたっぷり込められたその爪で、カサンドラは逆に心臓を貫かれ、成す術もなく崩れ落ちた。
「う…ウォル、フ…っ…………」
そう呟くカサンドラに向かい、アイテールは目を瞑り、静かな声で哀悼する。
「愚かだが、哀れな女よな…ヌシ様が欲しかったなら、別のやり方もあったろうに」
そうして事切れたカサンドラの瞳からは、涙が零れ落ちていった。
見るからにまともな状態ではないカサンドラは、首を左右に揺らしながらウォルフだけを見つめている。
ゾッと背筋が凍るような寒気がして、ウォルフは身震いしながら、彼女を睨み返した。
「ウォルフ様ァ…ウォルフぅ…どうして私を置いてイナくなッてしまったのでスか…?ワタシはこんなニも貴方を、ああああアイシテいるのにぃ…どウしてっ!どうしてだッッ!?」
「カサンドラ…」
ロードリックから聞いていたとはいえ、予想をはるかに上回る状態だ。
恐怖すら覚えた美しさは完全に消え去り、ただただ恐怖と狂気だけが、今の彼女を成り立たせている。
もはや説得どころか、会話すら成立しなさそうである。
追放されてから、彼女を恨む気持ちが無かったとは言わないが、ここまで壊れた姿を見るとやるせない思いが後を絶たない。
幼い頃から面倒を看てくれたこと、それ自体は感謝している相手だったのだから。
複雑な思いに気圧されているウォルフの前に、アイテールが立ち、カサンドラの視線を遮った。
そこでようやく、カサンドラはウォルフ以外の人間に気付いたらしい。
般若の如き形相で、アイテールを睨みつけた。
「おおおおお、お前はナンだ?じじじじゃ、邪魔をするなッ!わタしと彼の邪魔を…!!」
「ふん、いい具合に煮立っておるわ。貴様がカサンドラか。聞いておるぞ、貴様ずいぶんと我らのヌシ様にやりたい放題やってくれたそうではないか。…このイカレが、ただで済むと思うなよ?」
アイテールが啖呵を切ると、カサンドラは苛つき始め、血走った目で頭をバリバリと掻きむしっている。
ぐーっ!ぐーっ!と声にならない音を発しているのが余計に恐ろしい。
長い髪を伝って血が滴り落ちてくると、何かを思い出したのか、鎧の隙間から何かを取り出し、口に含んで嚙み砕いた。
「おい、カサンドラ…それは、なんだ?何をやってる?」
あまりの光景に思わずウォルフが声をかけると、何かを飲み込んだカサンドラは穏やかな表情に変わり、ウォルフに向かって明るい笑顔をみせた。
「こ、これはシャルロッテ様が私の為に用意して下さったお薬ですよ、ウォルフ様…これがあれば、私は穏やかで女らしい私になれるのです…ふふ、フヒヒ!」
シャルロッテが用意したというだけあって明らかにマズイ薬だ。…どうやらカサンドラは取り返しのつかない所まで来ているらしい。
ウォルフはその変化にたじろいで、一歩後ずさってしまった。すると、それを見たカサンドラはまたも苦悶の表情を浮かべ頭を抱えて苦しみ始めた。
「どうして!?どうして私から逃げようトする…!今まデの私ガ間違っていたカラ、女ラしい私に生まれ変わろうとしたノニっ!」
「愚かな…救いようのない女だ、反吐が出るわ」
アイテールがそう吐き捨てると、カサンドラは再びアイテールの方を睨んで、殺意に満ちた圧を放った。
アイテールは涼しい顔だが、ウォルフは過去を思い出すのか、わずかに指先が震え、恐怖の色が見える。
「ふん、ヌシ様はその様子じゃ使いものにならんな。おいダンテ、さっさとヌシ様を連れて先に行け!このイカレ女は儂が相手をしてやるわ。どの道、ただで済ませる気も無いからな」
「アイテール…かたじけない!」
アイテールの言葉を聞き、ダンテはあっという間にウォルフを抱えてカサンドラを抜き去った。
ウォルフですら、おい…と声を発する間もない、まさに電光石火の勢いだ。
「ま、待てェッ?!ウォルフぅっ!!」
薬と怒りによって平静を失っているカサンドラは、その動きにはついて行けず、走り去る二人の背中を遅れて追いかけようとした。そこへアイテールが割って入り、彼女の追走を防いだ。
「き、きさまぁ…邪魔を、するなァッッ!!1」
「言ったはずだぞ?ただでは済まさんと。貴様の為に、どれだけヌシ様が要らぬ苦労を背負う羽目になったか…絶対に許さぬわ!」
カサンドラに負けず劣らず、アイテールは怒りの気迫を叩きつける。
ウォルフは誰から見ても見目麗しく器量もいい、本来であれば、異性を恐れ怯えて涙を流す必要などない人間だったはずだ。
それをカサンドラが私欲の為に恐怖を植え付け、理不尽に彼を縛ろうとした。
アイテールは、それが何よりも許せなかった。
「ど、泥棒猫…っ!殺すッ!!」
「ふんっ!竜に向かって猫呼ばわりとは、しゃらくさい!そのそっ首、叩き落としてくれる!」
アイテールとカサンドラは、共に突風のような勢いで正面からぶつかり合う。
上段から振りかぶったカサンドラの一撃を、アイテールが魔力で強化した爪で受け止めると、間髪入れずに、その口から強烈な熱光線を放った。
その威力は、いくつもの城の壁を爆音をあげながら破壊して貫通し、雲へと届くほどだ。
以前、ナヴ・グロワに向けて放った時は、ウォルフが傍にいたので加減したが、今はそうではない。
アイテールは、本当にカサンドラを殺すつもりでいる。
「ほう、今のを避けるか。…イカレにしては、身のこなしがよいではないか」
自慢の一撃を躱されてもなお、アイテールは余裕の表情を崩さない。
いつまでも避けられるわけがない、そんな顔をしている。
一方、カサンドラはアイテールの熱光線を見て、不敵に、歪に笑った。
そして構えを解き、小さな声で何やら呪文のようなものを唱え始めている。
「…時の揺らぎよ、揺らげ、揺らげ…響け、響け、永劫の木霊…」
「ぬ?なんだ?」
「巡れ、時の自鳴琴よ!」
カサンドラは詠唱を終えると、だらりと腕を下げたまま、アイテールに向かって突進してきた。
アイテールはそれを迎え撃とうとしたが、カサンドラの唱えた呪文が気になって、咄嗟に身を躱した。
「なっ!?」
鋭い一撃が、アイテールの右肩を切り裂く。
身を躱そうとした瞬間だった為か、傷は浅く済み、そのままアイテールは距離を取って後方へ飛んだ。
「なんだ今のは?まだあのイカレがこちらへ届く前に攻撃されただと…?!」
「ククク…クヒヒヒ!!」
カサンドラはアイテールの立っていた場所に剣を振り、その場に立った。
そしてアイテールの動揺に気分を良くしたのか、カサンドラは不気味な笑い声で笑い続けている。
(ただ速い一撃というわけではないな…あの瞬間、奴は剣を振るってすらいなかった。あの呪文、何かの魔法か?)
そこまでは見抜けたものの、魔法の正体は解らない。
これが、カサンドラをヴァージリア王国屈指の騎士として押し上げた一因なのだろう。
カサンドラがまともな状態であれば、もしかすると、今の一撃で終わっていたかもしれない。
或いは畳み掛けるように追撃をして、勝利をもぎ取っていただろう。
だが、今の彼女はあまりにも正気ではなかった。
それでは、完璧に勝つ事など出来はしないのである。
「なるほど…この国随一の剣士というのは伊達ではなかったようだな。惜しいものだ…まっとうに生きていればヌシ様とて、悪く思わんかっただろうに」
アイテールの同情めいた言葉に、それまで笑うだけだったカサンドラが激昂し、再び向かってきた。
呪文の詠唱はないが、アイテールは様子を伺うべくその場を飛び退けた。
「ぐうっ!!バカな?!」
二撃、再び遠間で攻撃を喰らった。翼と腹に、深くはないが、斬撃が走っていた。
今のは呪文の詠唱すら無かったというのに、何故こうも易々と攻撃が当るのか、アイテールは考えながらさらに距離を取る。
(今のは詠唱が無かったにも関わらず攻撃を受けた。つまり、魔法の効果がまだ生きているということか)
幸い、まだ致命傷には程遠い。
アイテールは覚悟を決めて、カサンドラの攻撃、その謎を解く事を最優先と決めた。
何回、それを繰り返しただろう。
既にアイテールの身体は傷だらけになっており、息も荒く、段々と動きも鈍り始めていた。
勝利が近い事を確信してか、カサンドラは少しずつ、アイテールを甚振るような攻撃に切り替えている。
剣に着いた血を払い、ニヤニヤと笑みを浮かべて、何度目かの攻撃の為に飛び掛かってきた。
「くっ!?」
首の様に致命傷になる場所だけはどうにか防いでいるが、もはやアイテールの左腕は上がらず、翼もいくつも穴が開いてしまっている。
それでもカサンドラの攻撃を躱そうと距離を取り、またその一撃を喰らった時、アイテールはついに見た。
何もない場所、攻撃を躱そうと移動したアイテールのいた所で、カサンドラが剣を振るった瞬間、カサンドラの剣に、アイテールの血が付着したのを。
「なんだ?何故あそこで儂の血が…まさか」
何かを閃いたアイテールは、右腕でガードをするようにその場で構えた。
左腕は上がらないので、左半身はがら空きだ。
心臓を狙ってくれと言わんばかりのその態勢に、カサンドラは醜悪に顔を歪めて笑う。
そして…それを狙って、向かってきた。
「今までの攻防で間合いは掴めた。…ここだ!」
アイテールはそう叫んだ瞬間に、ミニドラゴンの姿へと変身した。
カサンドラは何が起こったのか解らずに、驚きの顔を見せつつ、それでも向かってくるのを止めずにいる。
「そうだろう。貴様は、攻撃を止められないはずだ。貴様の魔法は、ほんのわずかな時間だけ結果を先取りしている…故に、例え攻撃が失敗しようとも後の動きを変える事ができん。それが貴様の弱点よ!」
再び人間体へと変身し、アイテールは向かってきたカサンドラの胸に爪を突き立てた。
魔力がたっぷり込められたその爪で、カサンドラは逆に心臓を貫かれ、成す術もなく崩れ落ちた。
「う…ウォル、フ…っ…………」
そう呟くカサンドラに向かい、アイテールは目を瞑り、静かな声で哀悼する。
「愚かだが、哀れな女よな…ヌシ様が欲しかったなら、別のやり方もあったろうに」
そうして事切れたカサンドラの瞳からは、涙が零れ落ちていった。
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