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第3章 王座争奪戦

61話 勝ちたい

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 全ての準決勝が終了し、明日の決勝に進出する4チームが決定。その1つである俺達チーム27は、最後のミーティングを行っていた。 

「今日見たように、決勝の相手はどれも強敵だ。特に、大将戦では3人の超能力者が出てくる。だが、ここまで来たんだ。何が何でも絶対勝つぞ!」

「「はい!!」」

「よし、じゃあ明日に疲れを残さないために、今日は解散だ。明日の9時半に控室でな!」

 みんなはそれぞれの寮に帰る。しかし、小雲先輩は会場から動こうとしなかった。

「おい七道、突っ立ってどうしたんだ?」

「あ……いえ。ちょっと忘れ物を……」

「お前、もしや……」

 ぎくっ!

「明日俺達の試合がこの会場で映し出されるとこを想像してただろ!」

「えっ? あ、あははは!! バレちゃいましたか! ちょっと自分が活躍して大歓声が沸くとこを妄想しちゃいました!」

「ははは。まあ、ほどほどにな。じゃあまた明日!」

 一ノ瀬先輩も帰って行った。

「……一ノ瀬先輩、もう行ったよな」

「はい」

「……ごめん、糸くん……肩貸してくれん……?」

「小雲先輩……やっぱり足が……」

「うん……。実はな、病院には行ってないんや。きっとドクターストップされてまうけん」

 小雲先輩は皆の前では顔に出さなかったが、足の怪我は相当悪く、痛いらしい。

「俺は小雲先輩が時谷未来を倒すためにとても頑張っていたのはよく知っています。どうしても勝ちたい理由があることも知っています。……でも、その状態で試合に出場するのは流石に……」

 小雲先輩は俺の口に手を添えた。

「糸くん、それ以上言わんといて。私は絶対に出る……例えもう二度と歩けなくなっても……絶対に」

「小雲先輩……」

「明日の決勝で時谷を倒して王座を取ることが、これまで私がチューベローズにいたことの全てなんや。……ドクロのバッジをつけてこの学校に入学した私なんかが、偉大な先輩に大きな夢を託されて、そんな重すぎる夢のために生活を捧げるほど努力してきた……。でもやっぱり、くる年もくる年も負け続けて……とうとう明日がそれを叶える最後のチャンスになってもた……。……勝ちたい……勝ちたいよぉ……糸くん……!」

 小雲先輩はもたれかかるように俺を抱きしめ、溜めていたものを全てさらけ出すように涙を流した。
 ここで、「俺に任せてください」なんて言えたらどれだけ恰好いいだろうか。

「小雲先輩、絶対に勝ちましょう。時谷未来に勝って、一緒に王座を掴みましょう……」

「うわあああん!!」

 今の俺からはこんな言葉しか出てこなかった。

 小雲先輩は感情と足の痛みが限界になり動けなくなってしまったので、俺は小雲先輩をおんぶしてセトル・ブルーオーシャンまで送り届けた。

 小雲先輩が王座を取りたい気持ちは分かっていたつもりだったけど、きっと俺の思っている以上に王座に懸けていたんだ。普段は先輩として取り繕っていて、奥底にある本心は抑えていたのだろう。

 でも、足を怪我している小雲先輩には無理をさせられない。

 「俺が……時谷未来を倒すんだ……!」

 そう口にはするものの、本当に倒せると思っているのだろうか。あの雪夜と、練習でほとんど勝てなかった小雲先輩が負け続けた相手に、俺なんかが……。

 赤砂寮への帰り道。
 俺の中の強気と弱気がひっきりなしに戦っていた。

 ピロリン!
 
 そんな時、ケータイが鳴る。

「フィアスからメッセージだ。『準決勝勝ったから、今日もお祝いのご馳走食べよ~!』……。はは、なんか悩みがある時って、マイペースなやつに救われるな」

 俺は返信し、食事街で買い物をしてフィアスの部屋へ向かった。


 ◇◇◇


 ピンポーン

「はい、今開けますわ」

 ガチャ

「おまたせ、フィアス……って雪夜!?」

「こんばんは。私もさっきフィアスに誘われましたの」

 ちょっと気まずい。なぜかというと、準決勝に勝った俺とフィアスに対して、雪夜は準決勝を敗退しているから。

「おい、フィアス。お前準決勝の結果見てないのか?」コソコソ

「え? 見てないけどどうせみんな勝ったんでしょ?」

 やっぱりだ。フィアス軍曹は試合も見ていなければ、結果も知らない。

「あのな……」コソコソ

「ええっ!? 雪夜負けちゃったの!? あの雪夜が!?」

「声がでかい!!」

 パシッ!!

「痛い~!」

「糸、お気になさらないでください。昨日散々泣きましたから、もう大丈夫ですわ。それに、私は貴方たちに勝ってほしいんです。私にも夢を託させてください」

「雪夜……」

「ねえ雪夜、雪夜は誰に負けたの? 未だに信じられないんだけど」

「能力者ランキング1位の時谷未来ですわ。……糸、以前、彼女には謎の力があるって仰ってましたよね?」

「うん。先輩が言うには、瞬間移動した感じって……」

「はい。その力を私も体感しました。そして、私は時空を闇で支配していたため、何が起こったかを見破りました。彼女は、時を止めています」

「時を……止めているだって……?」

「その通りですわ。彼女は不連続に時空を移動しました。空間転移でないのであれば、もうそう考えるほかありません」

「そんなの……勝てるわけないじゃないか……」

「難しいと思います。しかし、彼女は止まった時の中では私のバッジを壊しませんでした。止まった時の中で壊せばいいのに、ちゃんと時が動きだしてから壊しています。ここに、何か突破口があるかもしれません」
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