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第3章 王座争奪戦

48話 それぞれの課題

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 5泊6日の合宿の4日目、俺達は先鋒、中堅、大将の2人組でそれぞれ別の特訓をすることになった。

 山の中。
 一ノ瀬先輩が先鋒を務める菊音さんとジョニー先輩に指導している。

「二宮、去年の準決勝の先鋒戦、ビデオで見せてもらったぞ」

 去年、1年生だった菊音さんは先鋒戦を務め準決勝に進出したが、同じく先鋒だった朝日さんの圧倒的な力の前に敗れた。

「超能力者の千陽朝日に敗れたのは仕方がない。おそらく二宮のチームも千陽が大将だと読んで能力者の二宮を先鋒に置いたのだろう」

「はい。それに、先鋒は試合の流れを作るのにとても重要だと言われて……」

「うん、間違っていないし、千陽との対戦についてはいい。問題は、千陽以外との戦闘だ」

「え?」

 準決勝では、菊音さんは朝日さんと戦う前に、2人を倒している。しかし、その倒し方にはスムーズさがなく、せわしなかった。

「二宮、お前は【逆空間の次元】をどうやって活かしている?」

「私にも分かりません……。でも、なんとなく相手が向かってくることが分かるんです」

「なんとなく、か。確かに【逆空間の次元】は、ワンディングにおいて、他の次元と比較して直接的な役割は担えないと言われている。だから、ランキングも低く見積もられてしまう。だが、11つの次元は全て繋がっているから、【逆空間の次元】でも現実の出来事を正確に把握できるはずだ。そこで、これを使ってみてほしい」

「これは……アイマスクとタオル、そしてひも?」

「ああ。特訓内容はこうだ。二宮とジョニーがお互い、胸のあたりにひもを使ってタオルを掛け、タオルの取り合いをしてもらう。ようは『しっぽとり』の前バージョンだな。ただし、二宮はアイマスクをするんだ」

「そんなの、絶対に負けますけど……」

「はは、勝つのはかなり難しいだろうな。だが、逆空間と実空間は表裏の存在。逆空間をはっきりと認識できれば、ちゃんと実空間の相手も正確に感知できるはずだ。特訓だと思ってやってみろ!」

「はい!」



 次は、中堅を担当する五条先輩と三橋さん。
 場所はなんと海。水着に着替えさせられた二人は、一ノ瀬先輩のアドバイスを聞いていた。

「能力者は基本、大将や先鋒に配置される。そう考えると、一番能力者が集まりにくいのが中堅だ。つまり、能力に頼らない、正真正銘の実力勝負になる。だが、その実力とは必ずしもワンディングの腕だけではない。フィールドへの対応、頭を使った戦略、相手を理解した立ち回り。お前たちはチームの中でも賢明に行動できるし、自分達で考えて、自由に練習してくれ」

「分かりました。でも、どうして海なんですか?」

「海はできる特訓の幅が広いんだよ。走りにくい浜辺もあるし、良いトレーニングとされる水中での運動もできる。それに、二人の仲を深めるには楽しい場所がいいだろ?」

「そ、そうですね」

「じゃ、また夕方迎えにくるから、またな!!」

 一ノ瀬先輩は車に乗って去っていった。

「……一ノ瀬先輩、行っちゃいましたね」

「行っちゃったな。……とりあえず海、入るか」

 チャポン



 最後は大将を務める俺と小雲先輩。

「お前らの任務は一つ。超能力者に勝て!」

「ちょ、超能力者に……?」

 雪夜やフィアス、朝日さんの力を思い出した俺は、戦うことを想像すると少し怯えた。

「そうだ。正直、能力者ランキング7位の七道がいるから、超能力者がいない相手には苦戦しないと思っている。だが、優勝するためには6位以内の超能力者に勝たなくてはならない。中でも1位の……」

「……時谷」

 小雲さんが因縁の相手の名前を口にする。

「そうだ。【時間の次元】と【逆時間の次元】の超能力者である絶対王者、時谷未来に勝たないと優勝はない。そこで、これからお前たちには次元をフルに活用して、ひたすら2人で戦いまくってもらう」

 一ノ瀬先輩から練習用のワンディングの防具を受け取る。
 軽くて丈夫な皮でできていて、左胸には直径10 cmほどの円形のゴムがついている。おそらく、本番はここがガラスになっているのだろう。

「七道は【時間の次元】、九重は杖で【生命の次元】を駆使して、お互い本気で戦え!」

「「はい!」」



 それぞれの特訓が始まった。

 菊音さんは目隠しをしながら、ジョニー先輩と胸につけたタオルで『しっぽとりモドキ』をしている。
 ジョニー先輩の歪みねぇ激しい猛攻に、菊音さんのタオルは何度も取られた。さらに目隠ししている菊音さんは、何度も木にぶつかりそうになったり石につまずいて転びそうになったが、そのたびにジョニー先輩の歪みねぇヘルプが菊音さんを救った。

 五条先輩と三橋さんは海デート……ではなく、海で特訓。
 海の中で追いかけっこしたり、浜辺でストレッチしたり、海の家で焼きそばを食べながらお話したり。……やっぱりただのデートでは。

 そして、俺と小雲先輩は、防具をつけ、何十回、何百回もずっと二人で杖を交えて模擬戦をしていた。
 俺は必死に杖を使って小雲先輩の精神を読み取っていた。そのため、小雲先輩の気配や行動は大体読めていたはずなのに、小雲先輩はそれを上回る何かで、俺の杖を回避し、何度も俺の胸に杖を命中させた。
 
 そしてとうとう、この日一度も小雲先輩の胸に俺の杖が届くことはなかった。


 ◇◇◇


 カポーン

「ああ……生き返る……」

 特訓が終わり、俺達は温泉に来ていた。
 一ノ瀬先輩はおらず、ジョニー先輩は身体を洗っている。そして、俺と五条先輩が露天風呂に浸かっているというシチュエーション。

「おい、九重。あそこの塀の向こうがどうなっているか、知っているか?」

「ま……まさか……!!」

「そう!! 女風呂だ!!」

 ドドンッ!!

「なにー!」

「そして、今。小雲先輩をはじめ、女子全員がお風呂に入っている!!」

「な、なんだってー!!」

「厳しい一ノ瀬先輩も、歪みねぇジョニー先輩もここにはいない。つまり、どういうことか、分かるか?」

「今なら、誰にも見つからないっ!! ……ですが、この塀、4 mくらいありますよ。 肩車ではとても……」

「フフ……耳を貸せ……」

 五条先輩は俺に素晴らしい作戦を教えてくれた。



「……ふう。ここの温泉、何回入っても飽きへんな……」

 露天風呂の岩に腕をかけ、星空を見上げながら小雲先輩が口にした。そんな小雲先輩の一部位を、三橋さんと菊音さんがジッと見つめている。

「七道先輩……胸大きい……」

「ん? ああ。そら、私が一番年上やけん。澪ちゃんも菊音ちゃんも大きくなるよ」

「ということは、小雲先輩も私達の年齢の時は、もっと小さかったんですか?」

「……ごめん。もっと大きかったわ」

 パチャパチャッ!!

「……あれ……?」

「どうしたん? 菊音ちゃん」

「今日いっぱい特訓したからか、【逆空間の次元】を伝って人の気配を敏感に感じます……」

「でも、今この温泉には私達しかいないよ?」

「ですが、あの塀の向こうから感じるんです」

 菊音さんは男湯の方の塀を指さす。

「まあ、あの塀の向こうは男湯やし、そら人おるやろ」

「それが、めちゃくちゃ近いんです」

 カコン

「……あれ? ……今何か声が聞こえませんか?」

「ちょっと、聞いてみよっか」

 3人は塀に耳を澄ませた。



「九重! あと1つ!」

「はい! お持ちしました!」

「よーし、これで桶のピラミッドが完成だ! あとは登って覗くだけだぜ!」

「いやっほーーい!!!」

「おや? 五条サンと九重サン、楽しそうなことしてますネ!! ワタシも混ぜてくだサーイ!」

 タッタッタッ!!

 ジョニー先輩が歪みねぇ走りで向かってくる。

「ちょっ!! 風呂場でそんなに走ったら……っ!!」

 ツルッ

 ドンガラガッシャーーン!!!

「ああああ!!! アガルタへ導くピラミッドがああああ!!!」

「Oh……ソーリー……」



「……なにやってんねん、あいつら」

「……もう出ましょうか」

「……そうですね」

 結局、アガルタの景色は拝められなかった。
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