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第3章 王座争奪戦
45話 杖の扱い
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「ちょ……糸くん、その杖、もしかして……」
「心乃さんからいただきました」
「まさか、あの弥生心乃から!? 糸くん、どうしてそんな大事なこと黙ってたのよ!」
そういえば菊音さんにも見せたことはなかったな。
「俺は能力者じゃないから分からないけど、その杖からはとてつもなく凄いものを感じるぞ」
五条先輩も驚いたように杖を見つめる。
「杖は持ち主のマナを増幅する道具であるとともに、マナ自体を閉じ込めることができる。杖に込められたマナの力と量が相当なものであれば、全くの無能力者でも能力者のように振舞うことができるという……だが、そんな貴重な杖はまず普通には手に入れられないぞ」
「トユーことは、イトサンはもはや能力者デース!」
「分かっていたけど、改めてこの杖は凄いものなんだな……」
「とりあえず、1年生の九重が杖を持っているということは、みんな持っているということだな。今日からはいつものメニューの後、杖を使った練習も行う。まずは素振りだ」
一ノ瀬先輩は綺麗なフォームで杖を突いて見せる。
シュッ
風を切る音が心地よい。
「これを100回、2セットだ。さ、横に並んで」
「行くぞ! 1ッ、2ッ、3ッ!……」
シュッ! シュッ!
ただのパンチのように、杖を突くだけ。
ランニングに比べたらよっぽど楽だと思った。
「55ッ!、56ッ!、57ッ!……」
シュッ、シュッ
「なんだ………だんだん手が重くなってきた……!」
「九重! 腕下がってきてるぞ!」
「す、すみません!」
しかし、だんだんと回数を重ねるたびに杖が重く感じて来る。休みなく連続で同じ腕で突き続けるのが思った以上にしんどいんだ。
「ラストォ、100ッ!!」
シュッ!!!
「お、終わった……」
腕をさする。
確実に明日、筋肉痛になりそうな予感。
「よし、ちょっと休憩しておいてくれ」
一ノ瀬先輩はどこかへ走って行った。
「お待たせ、次のメニューはこれだ!」
「これは……水風船?」
「そうだ。ワンディングでは正確で素早い突きが必要だ。この水風船を空中に放るから、杖で突いて割ってみろ」
「この水風船をですか!?」
普通のサイズより一回り小さい水風船。こんなのが空中でゆらゆら揺れたら、まず水風船に当てることすら至難の業だ。
「あ、七道と二宮は能力の使用はまだ禁止だ」
「分かりました」
「それじゃ、やるぞ!」
ひょいっ、ひょいっ
「おりゃああ!!」
スカッ、スカッ
「ぜ、全然当たらない…!!」
さっきの腕の疲労もあり、正確に命中させられない。
「次! ジョニー!!」
「オーイェス!!!」
スカッ、スカッ
「ジョニー、肩に力が入りすぎだ!」
「オーケイ!」
スカッ、スカッ
ジョニーも全然当たらない。
「次! 五条!!」
「はい!」
ひょいっ
ブニョん
「す、すごい! 五条先輩、当たった!」
「ほう、やるじゃないか。あとはスピードだな。プールにゆっくり入っても痛くないのに高台から飛び込むと痛いのと同じで、杖を突く速さが速いと中の水が変形できなくなり、水風船が割れるはずだ。五条は素早く突くことを意識してみろ!」
「はい!」
この特訓をしばらく続けたが、今日水風船が割れたのは小雲先輩だけだった。
「そろそろ日が落ち始めたな。よし、今日はここまでだ。みんな、お疲れ様!」
「「お疲れさまでした!」」
こんな感じで、毎日の猛特訓が続いた。
たまにジョニー先輩が謎の欠席をしたが、基本的に誰も休まなかった。
6月に入り、しばしば雨の日も増えてきた。そんな日は体育館で体幹トレーニングをした。練習の後には、青藍館や北区域の食事街や三橋さんのファミレスなどへよくご飯に行った。
俺は個人的に朝のランニングも始めた。たまにロードワーク中の一ノ瀬先輩や小雲先輩にもすれ違った。きっと、みんなも隠れて自主トレをしているのだろう。
これらを毎日繰り返していると、みんなランニングとダッシュの後にも倒れ込むことはなくなり、水風船も割れるようになっていた。
そんな充実した日々を送っているうちに、大会まで残り2週間となった。
チュンチュン
「フィアス、朝だぞー」
「んん……もうちょっと……」
相変わらず、俺のフィアス軍曹の朝支度任務は継続していた。しかし前と変わったのは、この前にランニングをしてシャワーを浴びるというルーティンが増えたこと。
朝ご飯を作り終え、テーブルへ運ぶ。
「最近糸と遊ぶ時間が減った。夜ご飯はどっかで食べて来るし、土日はいないし」
「ごめんごめん。でもフィアスだって、毎日王座戦の練習に勤しんでるんだろ?」
「そんなわけないじゃん。最初はチームの人達に誘われてたけど、『私はマナを使っちゃったらすぐダメになっちゃうから、大会で本気を出すには安静にしておかないといけないんだ♡』って言ったら特別にサボらせてくれるようになったよ」
「間違いじゃないけど……まあ、フィアスだけの特権だな」
「ねえ~大会終わったら今までの分絶対遊んでよ~?」
「はいはい。フィアスも本番は頑張れよ。フィアスが黄金世代の超能力者相手にどこまでやれるのか見て見たいし」
「え~、めんどくさい!」
相変わらずマイペースな軍曹だ。
◇◇◇
学校に登校。
Cクラスの教室にて。
「おはようでやんすー!」
「おはよう。尻口くん、最近ガッチリしてきたよね」
「毎日むさい男共と猛特訓してたら、マッチョまっしぐらでやんすよ。ま、その代わり王座を取って、女の子にモテモテになるでやんすけどね」
「なに言ってんのさぁ、優勝するのはボクだよぉ」
二人とも、毎日のチームでの特訓を乗り越えて、心身ともに自信がついているようだ。
ガラガラ
「席につけー」
担任の鬼島が入ってくる。
「えー、既に先輩から聞いている人は多いと思うが、これから大会までの2週間は、準備期間ということで学校は休みだ。大会に向けて練習と体調管理は徹底するように。では、今日の授業に入って行くぞー」
な、なんだってええ!?
全然先輩から聞いてなくて知らなかった。
「心乃さんからいただきました」
「まさか、あの弥生心乃から!? 糸くん、どうしてそんな大事なこと黙ってたのよ!」
そういえば菊音さんにも見せたことはなかったな。
「俺は能力者じゃないから分からないけど、その杖からはとてつもなく凄いものを感じるぞ」
五条先輩も驚いたように杖を見つめる。
「杖は持ち主のマナを増幅する道具であるとともに、マナ自体を閉じ込めることができる。杖に込められたマナの力と量が相当なものであれば、全くの無能力者でも能力者のように振舞うことができるという……だが、そんな貴重な杖はまず普通には手に入れられないぞ」
「トユーことは、イトサンはもはや能力者デース!」
「分かっていたけど、改めてこの杖は凄いものなんだな……」
「とりあえず、1年生の九重が杖を持っているということは、みんな持っているということだな。今日からはいつものメニューの後、杖を使った練習も行う。まずは素振りだ」
一ノ瀬先輩は綺麗なフォームで杖を突いて見せる。
シュッ
風を切る音が心地よい。
「これを100回、2セットだ。さ、横に並んで」
「行くぞ! 1ッ、2ッ、3ッ!……」
シュッ! シュッ!
ただのパンチのように、杖を突くだけ。
ランニングに比べたらよっぽど楽だと思った。
「55ッ!、56ッ!、57ッ!……」
シュッ、シュッ
「なんだ………だんだん手が重くなってきた……!」
「九重! 腕下がってきてるぞ!」
「す、すみません!」
しかし、だんだんと回数を重ねるたびに杖が重く感じて来る。休みなく連続で同じ腕で突き続けるのが思った以上にしんどいんだ。
「ラストォ、100ッ!!」
シュッ!!!
「お、終わった……」
腕をさする。
確実に明日、筋肉痛になりそうな予感。
「よし、ちょっと休憩しておいてくれ」
一ノ瀬先輩はどこかへ走って行った。
「お待たせ、次のメニューはこれだ!」
「これは……水風船?」
「そうだ。ワンディングでは正確で素早い突きが必要だ。この水風船を空中に放るから、杖で突いて割ってみろ」
「この水風船をですか!?」
普通のサイズより一回り小さい水風船。こんなのが空中でゆらゆら揺れたら、まず水風船に当てることすら至難の業だ。
「あ、七道と二宮は能力の使用はまだ禁止だ」
「分かりました」
「それじゃ、やるぞ!」
ひょいっ、ひょいっ
「おりゃああ!!」
スカッ、スカッ
「ぜ、全然当たらない…!!」
さっきの腕の疲労もあり、正確に命中させられない。
「次! ジョニー!!」
「オーイェス!!!」
スカッ、スカッ
「ジョニー、肩に力が入りすぎだ!」
「オーケイ!」
スカッ、スカッ
ジョニーも全然当たらない。
「次! 五条!!」
「はい!」
ひょいっ
ブニョん
「す、すごい! 五条先輩、当たった!」
「ほう、やるじゃないか。あとはスピードだな。プールにゆっくり入っても痛くないのに高台から飛び込むと痛いのと同じで、杖を突く速さが速いと中の水が変形できなくなり、水風船が割れるはずだ。五条は素早く突くことを意識してみろ!」
「はい!」
この特訓をしばらく続けたが、今日水風船が割れたのは小雲先輩だけだった。
「そろそろ日が落ち始めたな。よし、今日はここまでだ。みんな、お疲れ様!」
「「お疲れさまでした!」」
こんな感じで、毎日の猛特訓が続いた。
たまにジョニー先輩が謎の欠席をしたが、基本的に誰も休まなかった。
6月に入り、しばしば雨の日も増えてきた。そんな日は体育館で体幹トレーニングをした。練習の後には、青藍館や北区域の食事街や三橋さんのファミレスなどへよくご飯に行った。
俺は個人的に朝のランニングも始めた。たまにロードワーク中の一ノ瀬先輩や小雲先輩にもすれ違った。きっと、みんなも隠れて自主トレをしているのだろう。
これらを毎日繰り返していると、みんなランニングとダッシュの後にも倒れ込むことはなくなり、水風船も割れるようになっていた。
そんな充実した日々を送っているうちに、大会まで残り2週間となった。
チュンチュン
「フィアス、朝だぞー」
「んん……もうちょっと……」
相変わらず、俺のフィアス軍曹の朝支度任務は継続していた。しかし前と変わったのは、この前にランニングをしてシャワーを浴びるというルーティンが増えたこと。
朝ご飯を作り終え、テーブルへ運ぶ。
「最近糸と遊ぶ時間が減った。夜ご飯はどっかで食べて来るし、土日はいないし」
「ごめんごめん。でもフィアスだって、毎日王座戦の練習に勤しんでるんだろ?」
「そんなわけないじゃん。最初はチームの人達に誘われてたけど、『私はマナを使っちゃったらすぐダメになっちゃうから、大会で本気を出すには安静にしておかないといけないんだ♡』って言ったら特別にサボらせてくれるようになったよ」
「間違いじゃないけど……まあ、フィアスだけの特権だな」
「ねえ~大会終わったら今までの分絶対遊んでよ~?」
「はいはい。フィアスも本番は頑張れよ。フィアスが黄金世代の超能力者相手にどこまでやれるのか見て見たいし」
「え~、めんどくさい!」
相変わらずマイペースな軍曹だ。
◇◇◇
学校に登校。
Cクラスの教室にて。
「おはようでやんすー!」
「おはよう。尻口くん、最近ガッチリしてきたよね」
「毎日むさい男共と猛特訓してたら、マッチョまっしぐらでやんすよ。ま、その代わり王座を取って、女の子にモテモテになるでやんすけどね」
「なに言ってんのさぁ、優勝するのはボクだよぉ」
二人とも、毎日のチームでの特訓を乗り越えて、心身ともに自信がついているようだ。
ガラガラ
「席につけー」
担任の鬼島が入ってくる。
「えー、既に先輩から聞いている人は多いと思うが、これから大会までの2週間は、準備期間ということで学校は休みだ。大会に向けて練習と体調管理は徹底するように。では、今日の授業に入って行くぞー」
な、なんだってええ!?
全然先輩から聞いてなくて知らなかった。
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