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第3章 王座争奪戦

44話 次のステップへ

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 土曜日の朝。
 俺は高学年のBクラスが住む、セトル・イエローレモンシフォンの前でウロウロしていた。

「五条先輩を尋ねたいけど何号室か分からない……。連絡先も知らないし、どうしよう」

「九重。困ってるようだな」

 そこにはタオルを首にかけた一ノ瀬先輩がいた。

「い、一ノ瀬先輩!? どうしてここに!?」

「朝のランニングの帰りさ。ここは俺の寮でもあるからな。それよりも九重、ありがとう」

「え、何のことでしょうか」

「みんなのことだよ。俺は監督という指導者として、公平に、時には冷酷に、そして厳しくみんなに接さなくてはならない。でも、チームとして強くなるには、それだけじゃダメなんだ。チームメイトがお互いの心を理解し合って、悩みや喜びを分かち合い壁を乗り越えることで、チームワークは生まれていく。九重がみんなや五条に今してやろうとしていることは、まさにそういうことだ。ほら、中に入りたいんだろ」

 ウィーン

 一ノ瀬先輩がカードキーでオートロックを解除する。

「俺はみんなの壁となる。お前たちは団結して、乗り越えてこい。五条の部屋番号は510だ。じゃあ、午後にまた会おうな」

 一ノ瀬先輩は部屋へと戻っていった。

「チームワークか……。五条先輩の部屋番号も分かったし、とりあえず行ってみよう」



 510号室に到着。
 セトル・イエローレモンシフォンの中は、豪華すぎることもボロすぎるということもなく、至って普通な印象だった。

 ピンポーン

「九重です! 五条先輩、いらっしゃいますか?」

 シーン

 ピンポーン、ピンポーン

 応答がないので、インターホンを連打してみた。

 ガチャ

 扉が少し開き、真っ暗の部屋の中、布団を被った五条先輩が応答した。

「……君、チームの人? 練習に誘いに来たのかもしれないけど、俺練習する気ないんだよね。監督も自由参加って言ってたでしょ」

「それは去年、努力の末に敗北したのにチームに軽蔑されたからですか?」

「!? お前何でそれを知って……。ちょっと来いっ!!」

 バタン

 夢で見た通り、部屋は真っ暗でかなり散らかっていた。

「お前、俺を練習に誘うためにそんなことまで調べたのか……?」

「いえ、夢で見たんです。俺の夢は過去か未来の現実を見せてくれることがあるんですよ」

「夢……? ふざけてるのかな。……まあいいや。で、そんな過去があったから何?」

「明らかに五条先輩のチームメイトが悪いと思います」

「は?」

「五条先輩は負けたのは、桐山楓という能力者の【生命の次元】による能力で混乱したため。それなのに、味方のチームはそもそも桐山楓の能力を知らず、五条先輩の失態だと思って責めたんですよね。これは、対戦相手の能力分析もしていない監督、チームの責任です。それなのに、五条先輩に責任を押し付けるなんて、酷いと思います!」

「……」

「もしも、それだけが原因でチーム練習をするのが嫌なら、安心してください。俺達のチームはそんなバカどもと一緒じゃないです! だって、小雲先輩は桐山楓の能力を知っていましたし、一ノ瀬先輩だって他のチームの分析を細かく行ってくれていますから」

「……でも、結局負けたら何も意味ないじゃん。チームが責めようが責めまいが、残るのは虚しさと悔しさだけじゃん」

「一度悔しい思いをしたら、また来年勝てるように頑張ればいいんです! トーナメント表、見ましたか? 桐山楓、二回戦の対戦相手ですよ」

「……なんだって」

「過去の悔しさを晴らすため、そして俺達と王座を取るために練習、参加してください! お願いします!」

「……君、後輩のくせに生意気だね」

「……」

「……いいよ……その生意気さに免じて、付き合ってあげる」

「本当ですか!!」

 シャー――ッ

 カーテンを開けて部屋に日差しが差し込むと、五条先輩の目に精気が宿ったように感じた。


 ◇◇◇


 13時。
 第四運動場にて。

 一ノ瀬先輩、小雲先輩、ジョニー先輩、三橋さん、菊音さんは既に揃っている。

「時間になったし、今日も特訓始めよう。……ん? あれは」

 五条先輩が小走りでやってきた。

「遅れてすみません」

「透くん! 来てくれたんやね!」

「五条、よく来たな。よし、全員揃ったことだし、始めよう!」

「「はい!」」

 準備運動、ランニング、ダッシュ。
 これまでと同じトレーニングを終わらせる。

「ぜえ……ぜえ……」

「はあ……はあ……」

 いつも通り虫の息だが、なんとかみんなやり切った。

「みんな、集まってくれ」

 日陰で座って円を組む。

「自由参加で全員揃ったということは、全員、やる気があると見ていいんだな。これで次のステップへ進める」

「足りないって言ってたのは、メンバーのことだったんですか」

「その通りだ、七道。最初のステップは、全員がやる気になることだ。気持ちがあってはじめて技術的な段階へ進むことができるんだ。さて、みんなは自分の杖を持っているか? 上級性は去年出場したものがあると思うから、問題は1年生の九重だな」

「あ、杖なら持ってますよ」

 俺はカバンから緑色に輝く杖を取り出す。
 その瞬間、チームのみんなは驚き、目を見開いた。
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