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第3章 王座争奪戦
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土曜日の朝。
俺は高学年のBクラスが住む、セトル・イエローレモンシフォンの前でウロウロしていた。
「五条先輩を尋ねたいけど何号室か分からない……。連絡先も知らないし、どうしよう」
「九重。困ってるようだな」
そこにはタオルを首にかけた一ノ瀬先輩がいた。
「い、一ノ瀬先輩!? どうしてここに!?」
「朝のランニングの帰りさ。ここは俺の寮でもあるからな。それよりも九重、ありがとう」
「え、何のことでしょうか」
「みんなのことだよ。俺は監督という指導者として、公平に、時には冷酷に、そして厳しくみんなに接さなくてはならない。でも、チームとして強くなるには、それだけじゃダメなんだ。チームメイトがお互いの心を理解し合って、悩みや喜びを分かち合い壁を乗り越えることで、チームワークは生まれていく。九重がみんなや五条に今してやろうとしていることは、まさにそういうことだ。ほら、中に入りたいんだろ」
ウィーン
一ノ瀬先輩がカードキーでオートロックを解除する。
「俺はみんなの壁となる。お前たちは団結して、乗り越えてこい。五条の部屋番号は510だ。じゃあ、午後にまた会おうな」
一ノ瀬先輩は部屋へと戻っていった。
「チームワークか……。五条先輩の部屋番号も分かったし、とりあえず行ってみよう」
510号室に到着。
セトル・イエローレモンシフォンの中は、豪華すぎることもボロすぎるということもなく、至って普通な印象だった。
ピンポーン
「九重です! 五条先輩、いらっしゃいますか?」
シーン
ピンポーン、ピンポーン
応答がないので、インターホンを連打してみた。
ガチャ
扉が少し開き、真っ暗の部屋の中、布団を被った五条先輩が応答した。
「……君、チームの人? 練習に誘いに来たのかもしれないけど、俺練習する気ないんだよね。監督も自由参加って言ってたでしょ」
「それは去年、努力の末に敗北したのにチームに軽蔑されたからですか?」
「!? お前何でそれを知って……。ちょっと来いっ!!」
バタン
夢で見た通り、部屋は真っ暗でかなり散らかっていた。
「お前、俺を練習に誘うためにそんなことまで調べたのか……?」
「いえ、夢で見たんです。俺の夢は過去か未来の現実を見せてくれることがあるんですよ」
「夢……? ふざけてるのかな。……まあいいや。で、そんな過去があったから何?」
「明らかに五条先輩のチームメイトが悪いと思います」
「は?」
「五条先輩は負けたのは、桐山楓という能力者の【生命の次元】による能力で混乱したため。それなのに、味方のチームはそもそも桐山楓の能力を知らず、五条先輩の失態だと思って責めたんですよね。これは、対戦相手の能力分析もしていない監督、チームの責任です。それなのに、五条先輩に責任を押し付けるなんて、酷いと思います!」
「……」
「もしも、それだけが原因でチーム練習をするのが嫌なら、安心してください。俺達のチームはそんなバカどもと一緒じゃないです! だって、小雲先輩は桐山楓の能力を知っていましたし、一ノ瀬先輩だって他のチームの分析を細かく行ってくれていますから」
「……でも、結局負けたら何も意味ないじゃん。チームが責めようが責めまいが、残るのは虚しさと悔しさだけじゃん」
「一度悔しい思いをしたら、また来年勝てるように頑張ればいいんです! トーナメント表、見ましたか? 桐山楓、二回戦の対戦相手ですよ」
「……なんだって」
「過去の悔しさを晴らすため、そして俺達と王座を取るために練習、参加してください! お願いします!」
「……君、後輩のくせに生意気だね」
「……」
「……いいよ……その生意気さに免じて、付き合ってあげる」
「本当ですか!!」
シャー――ッ
カーテンを開けて部屋に日差しが差し込むと、五条先輩の目に精気が宿ったように感じた。
◇◇◇
13時。
第四運動場にて。
一ノ瀬先輩、小雲先輩、ジョニー先輩、三橋さん、菊音さんは既に揃っている。
「時間になったし、今日も特訓始めよう。……ん? あれは」
五条先輩が小走りでやってきた。
「遅れてすみません」
「透くん! 来てくれたんやね!」
「五条、よく来たな。よし、全員揃ったことだし、始めよう!」
「「はい!」」
準備運動、ランニング、ダッシュ。
これまでと同じトレーニングを終わらせる。
「ぜえ……ぜえ……」
「はあ……はあ……」
いつも通り虫の息だが、なんとかみんなやり切った。
「みんな、集まってくれ」
日陰で座って円を組む。
「自由参加で全員揃ったということは、全員、やる気があると見ていいんだな。これで次のステップへ進める」
「足りないって言ってたのは、メンバーのことだったんですか」
「その通りだ、七道。最初のステップは、全員がやる気になることだ。気持ちがあってはじめて技術的な段階へ進むことができるんだ。さて、みんなは自分の杖を持っているか? 上級性は去年出場したものがあると思うから、問題は1年生の九重だな」
「あ、杖なら持ってますよ」
俺はカバンから緑色に輝く杖を取り出す。
その瞬間、チームのみんなは驚き、目を見開いた。
俺は高学年のBクラスが住む、セトル・イエローレモンシフォンの前でウロウロしていた。
「五条先輩を尋ねたいけど何号室か分からない……。連絡先も知らないし、どうしよう」
「九重。困ってるようだな」
そこにはタオルを首にかけた一ノ瀬先輩がいた。
「い、一ノ瀬先輩!? どうしてここに!?」
「朝のランニングの帰りさ。ここは俺の寮でもあるからな。それよりも九重、ありがとう」
「え、何のことでしょうか」
「みんなのことだよ。俺は監督という指導者として、公平に、時には冷酷に、そして厳しくみんなに接さなくてはならない。でも、チームとして強くなるには、それだけじゃダメなんだ。チームメイトがお互いの心を理解し合って、悩みや喜びを分かち合い壁を乗り越えることで、チームワークは生まれていく。九重がみんなや五条に今してやろうとしていることは、まさにそういうことだ。ほら、中に入りたいんだろ」
ウィーン
一ノ瀬先輩がカードキーでオートロックを解除する。
「俺はみんなの壁となる。お前たちは団結して、乗り越えてこい。五条の部屋番号は510だ。じゃあ、午後にまた会おうな」
一ノ瀬先輩は部屋へと戻っていった。
「チームワークか……。五条先輩の部屋番号も分かったし、とりあえず行ってみよう」
510号室に到着。
セトル・イエローレモンシフォンの中は、豪華すぎることもボロすぎるということもなく、至って普通な印象だった。
ピンポーン
「九重です! 五条先輩、いらっしゃいますか?」
シーン
ピンポーン、ピンポーン
応答がないので、インターホンを連打してみた。
ガチャ
扉が少し開き、真っ暗の部屋の中、布団を被った五条先輩が応答した。
「……君、チームの人? 練習に誘いに来たのかもしれないけど、俺練習する気ないんだよね。監督も自由参加って言ってたでしょ」
「それは去年、努力の末に敗北したのにチームに軽蔑されたからですか?」
「!? お前何でそれを知って……。ちょっと来いっ!!」
バタン
夢で見た通り、部屋は真っ暗でかなり散らかっていた。
「お前、俺を練習に誘うためにそんなことまで調べたのか……?」
「いえ、夢で見たんです。俺の夢は過去か未来の現実を見せてくれることがあるんですよ」
「夢……? ふざけてるのかな。……まあいいや。で、そんな過去があったから何?」
「明らかに五条先輩のチームメイトが悪いと思います」
「は?」
「五条先輩は負けたのは、桐山楓という能力者の【生命の次元】による能力で混乱したため。それなのに、味方のチームはそもそも桐山楓の能力を知らず、五条先輩の失態だと思って責めたんですよね。これは、対戦相手の能力分析もしていない監督、チームの責任です。それなのに、五条先輩に責任を押し付けるなんて、酷いと思います!」
「……」
「もしも、それだけが原因でチーム練習をするのが嫌なら、安心してください。俺達のチームはそんなバカどもと一緒じゃないです! だって、小雲先輩は桐山楓の能力を知っていましたし、一ノ瀬先輩だって他のチームの分析を細かく行ってくれていますから」
「……でも、結局負けたら何も意味ないじゃん。チームが責めようが責めまいが、残るのは虚しさと悔しさだけじゃん」
「一度悔しい思いをしたら、また来年勝てるように頑張ればいいんです! トーナメント表、見ましたか? 桐山楓、二回戦の対戦相手ですよ」
「……なんだって」
「過去の悔しさを晴らすため、そして俺達と王座を取るために練習、参加してください! お願いします!」
「……君、後輩のくせに生意気だね」
「……」
「……いいよ……その生意気さに免じて、付き合ってあげる」
「本当ですか!!」
シャー――ッ
カーテンを開けて部屋に日差しが差し込むと、五条先輩の目に精気が宿ったように感じた。
◇◇◇
13時。
第四運動場にて。
一ノ瀬先輩、小雲先輩、ジョニー先輩、三橋さん、菊音さんは既に揃っている。
「時間になったし、今日も特訓始めよう。……ん? あれは」
五条先輩が小走りでやってきた。
「遅れてすみません」
「透くん! 来てくれたんやね!」
「五条、よく来たな。よし、全員揃ったことだし、始めよう!」
「「はい!」」
準備運動、ランニング、ダッシュ。
これまでと同じトレーニングを終わらせる。
「ぜえ……ぜえ……」
「はあ……はあ……」
いつも通り虫の息だが、なんとかみんなやり切った。
「みんな、集まってくれ」
日陰で座って円を組む。
「自由参加で全員揃ったということは、全員、やる気があると見ていいんだな。これで次のステップへ進める」
「足りないって言ってたのは、メンバーのことだったんですか」
「その通りだ、七道。最初のステップは、全員がやる気になることだ。気持ちがあってはじめて技術的な段階へ進むことができるんだ。さて、みんなは自分の杖を持っているか? 上級性は去年出場したものがあると思うから、問題は1年生の九重だな」
「あ、杖なら持ってますよ」
俺はカバンから緑色に輝く杖を取り出す。
その瞬間、チームのみんなは驚き、目を見開いた。
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