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第3章 王座争奪戦

38話 全校生徒による大会

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「九重くんを覚醒させるためには、それなりのシチュエーションが必要だろう。弥生くん、6年生の中で王座争奪戦に最も優勝したいと願っている生徒は誰かな?」

「そうですね。心を読んだところ、Aクラスの小雲ちゃんは、人一倍王座での勝利に執着しています」

「【七道しちどう 小雲こぐも】くんといえば、【時間の次元】の能力者で、去年時谷くんに対して善戦していた生徒だね。弥生くん、君の能力で九重くんと彼女を同じチームにすることはできるだろうか」

「ええ。チームを決めるくじ引きの時間帯が、1年Cクラスと6年Aクラスでずれているのならば可能です」

「了解。くじ引きの日時はこちらで調整しよう。よろしく頼むよ」

「はい。そういえば、空原くん、今年は出場するんですか? 最近全く学校に来ていませんが」

「いや、しないそうだ。最後だから出て欲しいと頼んではみたが、無駄だった。能力検査だけは受けてくれたがね。彼は今、一体何をしているのだろうか。まあ、これまでの実績と功績に免じて、これくらいの自由は許さざるを得まい」

「そうですか。でしたらやはり、未来ちゃんに彼の壁となってもらわないといけませんね。私では力不足ですし、千陽くんは恐ろしすぎます」

「空原くんや時谷くんも大概だが、千陽くんは特に裏で何を考えているか分からないからね。私達の計画でさえ壊してしまいそうな危うさがある。トーナメント表についても検討が必要そうだ」


 ◇◇◇


 5月後半。中間テストが終わり、前期も後半へ突入。
 そんなある日、鬼島先生から学校行事について知らされた。

「中間テストは学術試験だったが、期末テストは実技試験だ。すなわち、今年も学期末に王座争奪戦が開催される」

 ざわざわ……

「王座争奪戦?」

「ああ。王座争奪戦とは年に一度行われる、チューベローズ全校生徒によるワンディングのトーナメント大会のことだ。ワンディングとは、簡単に説明すると杖を使って相手の胸についたバッチを壊す競技だな。今日は、お前たちに王座争奪戦でのチームを決めてもらう」

「チームって、適当に決めていいでやんすか?」

「違う。くじを引きだ」

 1~7年生の生徒1人ずつからなるチームを作るために、全学年の生徒がくじ引きをするらしい。ちなみに7年生はチームの監督であり、選手は1~6年生。

「各学年1人ずつのチームってことは、黄金世代の超能力者と同じチームになれるかもってことでやんすか?」

「そうだな」

「へぇ、黄金世代の超能力者かぁ。一回お話してみたいなぁ」

「おいら弥生心乃さんと組みたいでやんす! 美人で巨乳で……色々教えて欲しいでやんす……ムフフ」

 尻口くんは尻をくねくねしている。

「尻口、汚い欲求は家で処理しろ」

「はいでやんす」

「あ、そうそう。能力検査もしなきゃいけないんだ。毎年この時期に全校生徒の能力を測定し、順位をつける。ま、お前たちは全員圏外だと思うがな! がっはっは」

 王座争奪戦は観戦客を増やす為に、競馬のような賭けの制度を導入している。賭ける際の目安のために、最新のマナを読み取る機械を用いて能力の強さを数値化するようだ。

「ま、とりあえず、中間テストの順位順にくじを引いていけー」

「げ、おいら一番最後でやんす……」


 ◇◇◇


 放課後、課外活動施設。

 ガラガラ

「あっ、糸くん! 王座戦のくじ引いた?」

「お疲れ様です、愛さん。もちろん引きましたよ」

「ねえねえ! 何番だった!? もしかしたら私達同じチームかも、でしょ!」

 くじは1~64番まであり、くじ引きの結果は明日発表される予定だ。

「27番でした」

「えっ! 糸くん、私も27番よ」

 横で聞いていた菊音さんが驚いたように声を上げる。

「はあ、私は11番だったよ。いいなあ、二人とも。知り合いがチームにいるってだけで絶対楽しいじゃん」

 愛さんはガクッと肩を落とす。

「元気出して、愛。もしかしたら黄金世代の超能力者と同じチームになれるかもしれないのよ。もし時谷未来と一緒のチームになって仲良くなれたら、異世界へのワープに力を貸してくれるかもしれないでしょ」

「そうだね!!」

 愛さんの元気は復活した。

「それに、もし優勝できたら『王座の間』に入れるしね!」

「王座の間?」

「そうよ。大会で優勝したチーム7人と、観戦者が選んだMVP1人、学校が選んだMVP1人は『王座の間』と呼ばれる、この学校が隠している場所に行けるようになるって噂されているわ」

「私たち異探サークルにとって、こんなに好奇心がくすぶられることはないよ!」

「去年はどうだったんですか?」

「私は全然。菊音は準決勝まで行ったよね」

「ええ。でも千陽朝日に負けたわ。やっぱり超能力者って化け物ね」

「やっぱり朝日さんのチームが優勝したんですか?」

「いいえ、優勝は時谷未来のチームよ。ワンディングという競技の性質上、やっぱり時谷の能力は群を抜いているわ」

「簡単に相手のバッジを破壊していくんだもん。相手の動きの未来を見てるって言われてるけど、あんなのズルいよね~」

【時間の次元】と【逆時間の次元】の超能力者、時谷未来。まだ会ったことはないけど、話を聞く限りとんでもない人だな……。

「ま、というわけで、今後の活動はこれまで通り次元計の調査。そして、『王座争奪戦で王座を取る!』を、新しい目標にします!」


 ◇◇◇


 夕暮れの赤砂寮。

 コンコン

 ガチャ

「おーい、今から晩ご飯作るけど、今日も食べる? ……あれ、苺、今日は勉強してないのか?」

「できないわよ! 今日引いたくじで、明日王座争奪戦のチームが決まるのよ!? 緊張と不安と期待で勉強どころじゃないわ!」

「苺も王座を取りたいの?」

「当り前よ!! あれで今後の学園生活が一変するのよ!? もし王座なんて取ってしまえば瞬く間に有名人! 何よりの誇りだわ」

「誇りか……なんか難しいな。まあ俺みたいな無能力者が勝てるわけ……」

「アンタね!! これはチーム競技なのよ!? 今年が最後だっていう先輩もいるのに、ハナからそんな弱腰だったら失礼だわ!!」 

 確かに6年生は選手として競技に出られるのが最後だし、今年卒業する7年生にとっては最後の大会。見たことも経験したこともないから分からないけど、周りの熱がかなり高いことを考えると、それなりに大事な大会なのだろう。

「ごめん。考えを改めるよ」

「フン! アタシはアンタが相手でも容赦はしないけどね」

 苺の、どんな物事に対しても一生懸命に取り組む姿勢は見習うべきかもしれない。


 ◇◇◇


 翌日、一時限目は休校。
 その代わりに樫木講堂で全校集会が行われた。

「皆の衆よく集まってくれた。今年の夏も王座争奪戦を開幕する」

 元岡校長が話始める。

「上級生は良く知っていると思うが、1年生のために改めて王座争奪戦について説明しよう。王座争奪戦はワンディングと呼ばれるスポーツの大会じゃ。ワンディングは杖を使う競技で、対戦相手の胸についているガラスのバッチを破壊すれば勝利となる。使用できる道具は杖のみで、能力・超能力の使用も認められておる」

 スクリーンにその様子が映し出されている。
 特徴的な防具を身にまとい、その左胸についているガラスのバッジをフェンシングのように杖で狙い、物理的に破壊している。

「王座争奪戦は7人1チームで、1戦につき4チーム同士で争い、その勝者1チームのみが次へ進めるトーナメント形式じゃ」

 スクリーンにはトーナメント表が映し出され、王座について詳しく説明している。

 〈王座争奪戦・ルール〉
 ・1チームは、監督1人(7年生)と選手6人(1~6年生)からなる。
 ・1戦につき、4チームで争われる。
 ・1戦では、先鋒2名、中堅2名、大将2名に分かれ、3ゲーム行われる。
 ・チーム内での先鋒、中堅、大将の分かれ方は自由。(例:先鋒2年4年、中堅3年6年、大将1年5年など)
 ・1ゲームでは、1チーム2名ずつの計8人で争われる。
 ・使用できる道具は杖のみ。胸のバッジが破壊されるか、もしくは30分間相手のバッジを1つも破壊できなければリタイア。能力は使用可。
 ・フィールドは仮想空間で行われ、リタイアした時点でフィールド外へ転移される。
 ・サバイバル形式で、各ゲームにつき最後まで生き残った者のチームに3ポイント、2番目に生き残った者のチームに2ポイント、3番目に生き残った者のチームに1ポイント与えられる。
 ・大将戦に限り、最後まで生き残った者のチームに4ポイント与えられる。2位と3位でもらえる点数は先鋒戦や中堅戦と同じ。
 ・合計のポイント数が最も高いチームがトーナメントを進める。同じ点数だった場合、大将戦で好成績だった者のチームを勝ちとする。

「説明は以上じゃ。それでは、皆の衆に引いてもらったくじ引きにより決定されたチームの集合場所を発表する。これじゃ!」

 ジャン!
 スクリーンに数字と場所が並べられている。
 例えば、
 1:西地区1号館105号室
 2:東地区2号館211号室
 3:……
 といった具合だ。

「ここで名前を発表して、ごちゃごちゃやられても大変なことになるから、ワシが適当に待ち合わせの場所を決めておいた。今からそれぞれの番号の生徒は、指定された場所へ向かってくれたまえ」

 27番の俺は西地区3号館の212号室で待ち合わせ、ということか。
 会ったことのない人と待ち合わせ。
 おお、なんかめちゃくちゃ緊張する。

 集会が終わり、カマキリの卵が羽化するように、全生徒が一斉に指定の場所へ向かう。

「あ、いたいた。糸くん!」

 声のする方を振り向くと、菊音さんの姿があった。

「私達同じチームだから、一緒に行きましょう。低学年だし、ちょっと緊張しちゃって」

「もちろんです!」

 俺達はドキドキしながら、待ち合わせの場所へ向かった。
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