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第2章 劣等生
37話(終) 全知全能
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「それでは、高次元物理学の試験を開始してください」
…………
「九重くん、物理はね、まだ完成していないんだよ」
課外活動施設で俺が物理の問題を考えているとき、愛さんはペン回しをしながら呟いた。
「え、どういう意味ですか?」
「そのまんまの意味だよ。一回は完成したんだけどね。ニュートンさんが作ってくれた力学と、マクスウェルさんが作ってくれた電磁気学。この美しい2つの理論で、世の中の全ての現象は記述できるって、みんな思った。でも、残念ながらこの2つの学問に決定的な矛盾が見つかったんだよ」
「矛盾、ですか?」
「そうそう。それはね、光の速さの問題。ニュートンさんの理論では、光は無限の速さで進む。一方でマクスウェルさんの理論では、光は有限の速さで進む。そして、光は有限の速さで進むことが実験的に証明された。ニュートンさんの理論は間違いなく完璧だったのに、どうしてこんな矛盾が生じてしまったのかが分からなくて、何百年も議論が行われたんだよ」
「そ、そうなんですか」
「この謎をマクロな視点から解こうとしたのが相対性理論。ミクロな視点から解こうとしたのが量子力学。相対性理論はアインシュタインさんが1人で作っちゃったけど、量子力学はたくさんの物理学者が知恵を振り絞って形作ってきたんだ」
「あ、アインシュタインさんって聞いたことあります!」
「ふふ。で、今度はその相対性理論と量子力学を統一しないといけなくなったの。その統一理論の一つとして提唱されているのが超ひも理論だよ。そうやって物理は少しずつ発展して、ようやく次元の謎が少しずつ分かってきたところなんだ。それまでの過程を全部まとめた学問が高次元物理学。でも、私達は、物理はまだ未完成であることを忘れてはいけないと思うんだ」
…………
「……はっ!」
テスト中。
5分くらい気を失っていたようだ。
「どうして今、愛さんが教えてくれたときの夢を見たんだろう」
物理は未完成。
それに対して、今回の範囲は完成されたニュートンさんの力学。つまり、このテストの中だけは、全ての現象が全て物理で記述できる完成されたフィールドなんだ。
そう意識した瞬間、まるでテストの中に引きずり込まれるかのように集中力が増していった。
視界が研ぎ澄まされていく。
ニュートンが確立した完璧な物理のフィールドの真ん中に立つ。
このフィールドでは、球が投げられた瞬間にどこまで飛ぶかが決定される。
球同士がぶつかった時点で、どの方角にどれだけの速さで弾き飛ばされるかが決まる。
球をビルから落とした時の落下速度から地球を脱出するのに必要な速度まで、全てが完璧に決まるんだ。
全知全能、過去から完璧な未来を予測できる…………そんな、かつての人類が夢見た世界に意識が沈んでいく。
◇◇◇
心が休まれない土日を挟み、月曜日。
「……フィアス起きて……学校行くよ……」ガクガク
「ん~……、あれ、どうして震えてるの?」
「今日、中間の点数が貼り出されるんだって……」ガクガク
「ああ、この前のテストか~」
「どうしよ……色々失敗しちゃったし、やっぱり退学かなぁ……」ブルブル
「よしよし、大丈夫だよ。退学になったら私が理事長をタコ殴りにしてあげるからね」
「そ、それはちょっと」
フィアスは優しく俺を慰めてくれた。
きっと、フィアスも勉強苦手だし、心の中は不安だろうに。
ざわ……ざわ……
学校に到着。
廊下にはたくさんの学生がいる。
そして皆が注目する掲示板には、学年全員の全科目の合計点がバーンと張り出されている。
俺はフィアスと一緒に、恐る恐る掲示板を見た。
[順位][氏名][クラス][点数/500点満点]
1位 松蔭 雪夜 (Aクラス) 467点
2位 成瀬 信長 (Aクラス) 402点
3位 秋川 進太郎(Aクラス) 371点
………………………………………
………………………………………
7位 千陽 苺 (Cクラス) 315点
………………………………………
………………………………………
12位 沖田 桜 (Bクラス) 269点
………………………………………
………………………………………
………………………………………
………………………………………
29位 ……………………… 161点
======平均点(160点)の境界======
………………………………………
………………………………………
39位 篠宮 彩葉(Bクラス) 132点
………………………………………
………………………………………
45位 氷上 つぐみ(Bクラス)96点
………………………………………
………………………………………
61位 九重 糸 (Cクラス) 64点
======合格点(64点)の境界======
62位 幸坂 呪 (Cクラス) 45点
63位 尻口 治虫(Cクラス) 37点
64位 フィアス (Aクラス) 0点
「ご…………ご…………合格点だあああ!!!!」
「糸、合格点取れたんだね! 良かった~!」
フィアスがハイタッチをしてくる。
「ありがとう! ……って、じゃないよ!!! フィアス、0点じゃん!!!」
「うん。この方が平均点下がるでしょ? それに、糸が不合格だった時に能力最強の私がそれ以下の点数だと、学校側も退学にしにくいかなって」
確かに、フィアスが点数を取っていたら平均点が上がって、俺は不合格になっていたかもれない。
「でも素直に喜べないよ!! どうすんの!」
「九重!! やったな!!!」
「糸、おめでとうございますわ」
「アンタ、やるじゃない!」
俺の大声に反応して、成瀬と雪夜と苺が駆け寄ってきて、祝福の言葉を送ってくれる。
「ううん、合格点をとれたのは間違いなくみんなのおかげだよ! 本当にありがとう。……でも雪夜、フィアスが…!」
「その心配はないよ」
「え? ……あ、あなたは!!」
そこには、受験の時の面接官が立っていた。
「鹿島理事長、おはようございます」
「おはよう、成瀬くん」
成瀬は普通に挨拶をしていたが、雪夜は俺の腕をギュッと掴み、目を見開いて怯えていた。
「ゆ、雪夜、どうしたの? 大丈夫?」
「こ……この人ですわ……。入学前に糸とぬいぐるみを買った後に出会った人は……!」
「な、なんだって!?」
「久しぶりだね、松蔭さん」
理事長は表面上は笑顔だったが、その恐ろしさは次元を感じない俺にも伝わってくる。雪夜は俺の腕を握りしめ、ガタガタと震えている。
「あの時、雪夜に一体何をしたんですか……!? あの後、雪夜がどんな目にあったか……俺だって……!!」
「知っているよ。君たちが大きな困難を乗り越えたことは、良く知っている。そして、今回も君は立派に壁を乗り越えた」
理事長は手を叩いて称賛する。
「だが、すまないね。退学というのはブラフだ。だから、不合格だったフィアスさんも退学はしなくていい。でも、勉強はしないといけないよ」
理事長はフィアスに向けて笑顔を見せる。
「……」
フィアスは俺達に寄り添い、空気を呼んで理事長を睨みつけてくれた。
そして、理事長は去っていった。
「……雪夜、大丈夫?」
「え、ええ……。……思い出しましたわ。あの日、理事長は私の前で闇が果てしなく詰まった箱のようなものを開け、私に闇を吸収させてきたんです……。そして、私の精神が崩壊しそうになって、一晩苦しみに悶えながらぬいぐるみを抱き続けて、翌日にはあんなことに……」
雪夜は息を荒げ目に涙を浮かべながら、辛かった過去を教えてくれた。
「もう大丈夫だよ。あの出来事で悲劇は起こっていないから……」
背中をさすり、雪夜が落ち着くまで傍にいた。
◇◇◇
その後、Cクラスの教室であるちゃぶだいの森にて。
不合格者が退学しなくていいことは、俺と苺以外はまだ知らない。
つまり、不合格者のドクロ2人は、これが最後の別れだと思っている。
「九重くん……これ、あげる……」
「なにこれ?」
「ボクの一番大事にしてたマミィだよぉ……ボクだと思って大事にしてねぇ……」
マミィという名の、ウサギのぬいぐるみをトイレットペーパーでぐるぐる巻きにしたミイラだ。目のボタンも一つ取れている。
「おいらからも宝物をあげるでやんす……。これを見ておいらのこと、忘れないで欲しいでやんす……」
尻口くんはエロ本をくれた。
「やったー! ありがとう、二人とも!」
「ちょっと糸くぅん……なんか軽いよぉ!!」
「もうちょっと惜しんで欲しいでやんす……!」
ガラガラ
「えー、みんな、中間テストお疲れ様。だが、この中に2名、不合格者がおる」
「うぅ……」
「こっち見んなでやんす……」
「……本来は不合格者は退学……と言われていたが、その話は撤回された」
「え!? 退学しなくて良いでやんすか!?」
「本当ぉ!?」
「その代わり、お前ら二人は俺直々の鬼の補習!!! きっちりしごいてやるから覚悟しとけ!!」
「うわぁぁん!!」
「退学の方がマシでやんす!!!」
「んだとォ!?!?」
ギャーギャー
何はともあれ、退学は理事長が俺達に勉強の意欲を上げるためのブラフだったらしい。
でも一体どうしてそんなことを。菊音さんは、こんなこと過去には無かったって言ってたし。
「あ、九重くん、これは返してもらうでやんす」
「マミィも返してもらうねぇ」
「ダメだよ。これはもう貰ったもん」
「あっ! まさか九重くん、すでに撤回の話を知ってたからさっき軽かったでやんすか!?」
「そういうことかぁ! 九重くん酷いよぉ!!」
ギャーギャー
ま、でも良かった。
フィアスも尻口くんも幸坂くんも、明日からも一緒に登校できるんだ。
◇◇◇
「糸くん、見事に合格点を取りましたね。理事長が直々にBクラスの点数を底上げしたのに」
「ああ。期待通りだね」
「仮に彼が不合格を取っても、退学なんてさせる気なかったでしょう?」
「さあ、どうだろう。彼が私達を失望させる結果を出してきたら、特別な教育を施していたかもしれないよ」
「あら、怖い怖い。でも、ここまでして勉強させる必要性があったのでしょうか。苦手なことを努力させるより、彼の才能を磨く方が良さそうな気がしましたけど」
「勉強はね、知識をつけるためにやるものではないんだよ。徹夜で覚えた内容なんて、一カ月もすれば忘れるさ。でも、それでいい。重要なのは、めいっぱい考えて、頭を耕すことなんだ。たとえ勉強したことを全て忘れてしまっても、成績がすこぶる悪くても、しっかり努力して頭が耕された人間は必ず広い心の持ち主になる。だから、時間の許す限り、一生懸命勉強しなければならないんだ。彼はその生い立ち上、そういった機会が少なかったようだからね」
「なるほど。ですが、技術的に成長することも大切でしょう?」
「もちろん。だから、夏に開催されるあの大会をきっかけに、彼には覚醒してもらう」
「ふふ、大会が楽しみですね」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【あとがき】
第2章も完走していただきありがとうございます!
お気に入り登録を下さった方、本当にありがとうございます。大変励みになります。
バトル要素が少なかった第2章に比べて、第3章はバトルまみれです。特に、超能力者同士の対決は書いていてとても楽しかったです。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします!
…………
「九重くん、物理はね、まだ完成していないんだよ」
課外活動施設で俺が物理の問題を考えているとき、愛さんはペン回しをしながら呟いた。
「え、どういう意味ですか?」
「そのまんまの意味だよ。一回は完成したんだけどね。ニュートンさんが作ってくれた力学と、マクスウェルさんが作ってくれた電磁気学。この美しい2つの理論で、世の中の全ての現象は記述できるって、みんな思った。でも、残念ながらこの2つの学問に決定的な矛盾が見つかったんだよ」
「矛盾、ですか?」
「そうそう。それはね、光の速さの問題。ニュートンさんの理論では、光は無限の速さで進む。一方でマクスウェルさんの理論では、光は有限の速さで進む。そして、光は有限の速さで進むことが実験的に証明された。ニュートンさんの理論は間違いなく完璧だったのに、どうしてこんな矛盾が生じてしまったのかが分からなくて、何百年も議論が行われたんだよ」
「そ、そうなんですか」
「この謎をマクロな視点から解こうとしたのが相対性理論。ミクロな視点から解こうとしたのが量子力学。相対性理論はアインシュタインさんが1人で作っちゃったけど、量子力学はたくさんの物理学者が知恵を振り絞って形作ってきたんだ」
「あ、アインシュタインさんって聞いたことあります!」
「ふふ。で、今度はその相対性理論と量子力学を統一しないといけなくなったの。その統一理論の一つとして提唱されているのが超ひも理論だよ。そうやって物理は少しずつ発展して、ようやく次元の謎が少しずつ分かってきたところなんだ。それまでの過程を全部まとめた学問が高次元物理学。でも、私達は、物理はまだ未完成であることを忘れてはいけないと思うんだ」
…………
「……はっ!」
テスト中。
5分くらい気を失っていたようだ。
「どうして今、愛さんが教えてくれたときの夢を見たんだろう」
物理は未完成。
それに対して、今回の範囲は完成されたニュートンさんの力学。つまり、このテストの中だけは、全ての現象が全て物理で記述できる完成されたフィールドなんだ。
そう意識した瞬間、まるでテストの中に引きずり込まれるかのように集中力が増していった。
視界が研ぎ澄まされていく。
ニュートンが確立した完璧な物理のフィールドの真ん中に立つ。
このフィールドでは、球が投げられた瞬間にどこまで飛ぶかが決定される。
球同士がぶつかった時点で、どの方角にどれだけの速さで弾き飛ばされるかが決まる。
球をビルから落とした時の落下速度から地球を脱出するのに必要な速度まで、全てが完璧に決まるんだ。
全知全能、過去から完璧な未来を予測できる…………そんな、かつての人類が夢見た世界に意識が沈んでいく。
◇◇◇
心が休まれない土日を挟み、月曜日。
「……フィアス起きて……学校行くよ……」ガクガク
「ん~……、あれ、どうして震えてるの?」
「今日、中間の点数が貼り出されるんだって……」ガクガク
「ああ、この前のテストか~」
「どうしよ……色々失敗しちゃったし、やっぱり退学かなぁ……」ブルブル
「よしよし、大丈夫だよ。退学になったら私が理事長をタコ殴りにしてあげるからね」
「そ、それはちょっと」
フィアスは優しく俺を慰めてくれた。
きっと、フィアスも勉強苦手だし、心の中は不安だろうに。
ざわ……ざわ……
学校に到着。
廊下にはたくさんの学生がいる。
そして皆が注目する掲示板には、学年全員の全科目の合計点がバーンと張り出されている。
俺はフィアスと一緒に、恐る恐る掲示板を見た。
[順位][氏名][クラス][点数/500点満点]
1位 松蔭 雪夜 (Aクラス) 467点
2位 成瀬 信長 (Aクラス) 402点
3位 秋川 進太郎(Aクラス) 371点
………………………………………
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7位 千陽 苺 (Cクラス) 315点
………………………………………
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12位 沖田 桜 (Bクラス) 269点
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29位 ……………………… 161点
======平均点(160点)の境界======
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39位 篠宮 彩葉(Bクラス) 132点
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45位 氷上 つぐみ(Bクラス)96点
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61位 九重 糸 (Cクラス) 64点
======合格点(64点)の境界======
62位 幸坂 呪 (Cクラス) 45点
63位 尻口 治虫(Cクラス) 37点
64位 フィアス (Aクラス) 0点
「ご…………ご…………合格点だあああ!!!!」
「糸、合格点取れたんだね! 良かった~!」
フィアスがハイタッチをしてくる。
「ありがとう! ……って、じゃないよ!!! フィアス、0点じゃん!!!」
「うん。この方が平均点下がるでしょ? それに、糸が不合格だった時に能力最強の私がそれ以下の点数だと、学校側も退学にしにくいかなって」
確かに、フィアスが点数を取っていたら平均点が上がって、俺は不合格になっていたかもれない。
「でも素直に喜べないよ!! どうすんの!」
「九重!! やったな!!!」
「糸、おめでとうございますわ」
「アンタ、やるじゃない!」
俺の大声に反応して、成瀬と雪夜と苺が駆け寄ってきて、祝福の言葉を送ってくれる。
「ううん、合格点をとれたのは間違いなくみんなのおかげだよ! 本当にありがとう。……でも雪夜、フィアスが…!」
「その心配はないよ」
「え? ……あ、あなたは!!」
そこには、受験の時の面接官が立っていた。
「鹿島理事長、おはようございます」
「おはよう、成瀬くん」
成瀬は普通に挨拶をしていたが、雪夜は俺の腕をギュッと掴み、目を見開いて怯えていた。
「ゆ、雪夜、どうしたの? 大丈夫?」
「こ……この人ですわ……。入学前に糸とぬいぐるみを買った後に出会った人は……!」
「な、なんだって!?」
「久しぶりだね、松蔭さん」
理事長は表面上は笑顔だったが、その恐ろしさは次元を感じない俺にも伝わってくる。雪夜は俺の腕を握りしめ、ガタガタと震えている。
「あの時、雪夜に一体何をしたんですか……!? あの後、雪夜がどんな目にあったか……俺だって……!!」
「知っているよ。君たちが大きな困難を乗り越えたことは、良く知っている。そして、今回も君は立派に壁を乗り越えた」
理事長は手を叩いて称賛する。
「だが、すまないね。退学というのはブラフだ。だから、不合格だったフィアスさんも退学はしなくていい。でも、勉強はしないといけないよ」
理事長はフィアスに向けて笑顔を見せる。
「……」
フィアスは俺達に寄り添い、空気を呼んで理事長を睨みつけてくれた。
そして、理事長は去っていった。
「……雪夜、大丈夫?」
「え、ええ……。……思い出しましたわ。あの日、理事長は私の前で闇が果てしなく詰まった箱のようなものを開け、私に闇を吸収させてきたんです……。そして、私の精神が崩壊しそうになって、一晩苦しみに悶えながらぬいぐるみを抱き続けて、翌日にはあんなことに……」
雪夜は息を荒げ目に涙を浮かべながら、辛かった過去を教えてくれた。
「もう大丈夫だよ。あの出来事で悲劇は起こっていないから……」
背中をさすり、雪夜が落ち着くまで傍にいた。
◇◇◇
その後、Cクラスの教室であるちゃぶだいの森にて。
不合格者が退学しなくていいことは、俺と苺以外はまだ知らない。
つまり、不合格者のドクロ2人は、これが最後の別れだと思っている。
「九重くん……これ、あげる……」
「なにこれ?」
「ボクの一番大事にしてたマミィだよぉ……ボクだと思って大事にしてねぇ……」
マミィという名の、ウサギのぬいぐるみをトイレットペーパーでぐるぐる巻きにしたミイラだ。目のボタンも一つ取れている。
「おいらからも宝物をあげるでやんす……。これを見ておいらのこと、忘れないで欲しいでやんす……」
尻口くんはエロ本をくれた。
「やったー! ありがとう、二人とも!」
「ちょっと糸くぅん……なんか軽いよぉ!!」
「もうちょっと惜しんで欲しいでやんす……!」
ガラガラ
「えー、みんな、中間テストお疲れ様。だが、この中に2名、不合格者がおる」
「うぅ……」
「こっち見んなでやんす……」
「……本来は不合格者は退学……と言われていたが、その話は撤回された」
「え!? 退学しなくて良いでやんすか!?」
「本当ぉ!?」
「その代わり、お前ら二人は俺直々の鬼の補習!!! きっちりしごいてやるから覚悟しとけ!!」
「うわぁぁん!!」
「退学の方がマシでやんす!!!」
「んだとォ!?!?」
ギャーギャー
何はともあれ、退学は理事長が俺達に勉強の意欲を上げるためのブラフだったらしい。
でも一体どうしてそんなことを。菊音さんは、こんなこと過去には無かったって言ってたし。
「あ、九重くん、これは返してもらうでやんす」
「マミィも返してもらうねぇ」
「ダメだよ。これはもう貰ったもん」
「あっ! まさか九重くん、すでに撤回の話を知ってたからさっき軽かったでやんすか!?」
「そういうことかぁ! 九重くん酷いよぉ!!」
ギャーギャー
ま、でも良かった。
フィアスも尻口くんも幸坂くんも、明日からも一緒に登校できるんだ。
◇◇◇
「糸くん、見事に合格点を取りましたね。理事長が直々にBクラスの点数を底上げしたのに」
「ああ。期待通りだね」
「仮に彼が不合格を取っても、退学なんてさせる気なかったでしょう?」
「さあ、どうだろう。彼が私達を失望させる結果を出してきたら、特別な教育を施していたかもしれないよ」
「あら、怖い怖い。でも、ここまでして勉強させる必要性があったのでしょうか。苦手なことを努力させるより、彼の才能を磨く方が良さそうな気がしましたけど」
「勉強はね、知識をつけるためにやるものではないんだよ。徹夜で覚えた内容なんて、一カ月もすれば忘れるさ。でも、それでいい。重要なのは、めいっぱい考えて、頭を耕すことなんだ。たとえ勉強したことを全て忘れてしまっても、成績がすこぶる悪くても、しっかり努力して頭が耕された人間は必ず広い心の持ち主になる。だから、時間の許す限り、一生懸命勉強しなければならないんだ。彼はその生い立ち上、そういった機会が少なかったようだからね」
「なるほど。ですが、技術的に成長することも大切でしょう?」
「もちろん。だから、夏に開催されるあの大会をきっかけに、彼には覚醒してもらう」
「ふふ、大会が楽しみですね」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【あとがき】
第2章も完走していただきありがとうございます!
お気に入り登録を下さった方、本当にありがとうございます。大変励みになります。
バトル要素が少なかった第2章に比べて、第3章はバトルまみれです。特に、超能力者同士の対決は書いていてとても楽しかったです。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします!
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